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約束のクリスマス

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約束のクリスマス
約束のクリスマス 約束のクリスマス

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 朝から動いておなかいっぱいになった子供たちは、疲れたのか、寝室にひきつめられた布団の上で昼寝をしている。
 サッカーに興じた大人二人も子供たちに混じって大の字で寝ていた。

 寝付けない子供たちは、風天と共に針と糸をもち、小物入れを作っている。
 地球の刺繍針のような大き目の針で、ざっくざっくと布を縫う。
「俺はサッカーボールの袋を縫う!」
 ハルは、小さな布をザックザックと縫いつけて、あちこちぼこぼこだが円形の袋を作っている。
「面白いですね」
 風天は糸止めと布端の始末を手伝っている。
「こうすると、せっかく作った袋が丈夫になります。いつまでも壊さずに使うためには、こういった細かい作業も必要です」
 布がほつれないよう、ボールの出し入れ口を袋縫いにする風天。
 孤児の一人で、器用なエナロがじっとみてる。
「すぐに覚える必要はありません。こういったことは見ていればいいのです」
 頷くエナロ。
「ボクはまた来ます、みんなまだ小さな子どもです。ゆっくり覚えてゆきましょう」
 傍らを見ると布を持ったまま、ハルが寝ている。
 そっとハルの手から布を外すと、自分が着ていたコートをかける風天。

 今宵は農作業や森歩き、サッカーで汚れた子供たちの服を洗っている。てきぱきとした動きに無駄はない。
「まだ日が高いです。洗濯物を外に干しましょうか」
 かごに洗った洗濯物を入れて、外に出る今宵。レッテが付いてくる。
「お昼寝はしないのですか」
「ああ、もうガキじゃねえ」
 生意気なレッテに微笑む今宵。
「洗濯の干し方を知っていますか、レッテ」
「ああ、当然だろ」
 レッテは濡れた服を木の枝に放る。
「出来た」
「駄目です」
「洞窟ではシーがやってたんだよ」
 少しむくれるレッテ。
「これからは自分でですよ」
 今宵は、丈夫な紐を二つの木の枝と枝に結びつけると、その紐に洗濯物を干してゆく。
「今日は見ていてもいいですが、覚えてくださいね」
 にこっと微笑むと、てきぱき服のしわを伸ばして干してゆく。


8.遊具を作ろう

 子供たちが眠る寝室、窓からは高くなった太陽からの日差しが差し込んでいる。早朝から動いているため、まだお昼を回った程度の時間だ。
 外からは軽やかで規則的な木を叩く音が聞こえてくる。
 眠りが浅かった鈴子が、その音に目を覚ます。
 窓辺による鈴子、窓の外では数人の男女がいる。
「あっ・・」
 みなを起こさないようにそっと外に出る鈴子。

 建物南側の空き地では、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がタイヤと廃材を使って遊具を作っている。
 タイヤは、小型飛行艇を持つ飛鳥 桜(あすか・さくら)が運んできたものだ。
「みんなで孤児院に遊び場を作らないか」
 みなに提案したのは、クロセルだ。パートナーのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)に、クロセルの意見に賛同した桜、プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)メルティナ・伊達(めるてぃな・だて)屍枕 椿姫(しまくら・つばき)の6名で、さまざまな遊具を作ろうと孤児院に来る前から計画してきた。
 勿論、イー・シーにも話してある。

 皆がまず着手したのは、大作、ブランコだ。
 きちんと遊べるものを作るためには、支柱を深く埋め込まないといけない。
 お茶の間のヒーローを自称する仮面の男・クロセルは空き地にある大木に目を留める。
 仮面の下の素顔が微笑んだ。
「この木にブランコを作りましょう、やっ!」
 ヒーローポーズをとると、木によじ登るクロセル。
「鎖をお願いします」
 プレナが脚立を抱えてやってくる。
「クロセルさん、身軽ですねぇ」
 脚立を木にかけ、数段上って、鎖をクロセルに渡すプレナ。
 クロセルは、器用に2本の鎖を太い枝を選んで括り付ける。落ちないよう、力が一点に集中しないよう配慮しながら。
 大き目のタイヤに鎖を巻きつけるプレナ。
「バランスが難しいですねぇ」
 かなり苦労して、平行にタイヤをくくりつけた。
 再び、鎖を木に通して、ブランコの出来上がりだ。

 先ほど外に出てきた鈴子は、じっとその作業を見ている。
 ブランコは、もともと小柄で5歳前後の鈴子が乗ってもびくともしないように見える。
 が、
「乗せてあげたいですけど、最初はぁ・・」
 プレナがマナを見る。
 ドラゴニュートのマナは成長が遅く、体重も10キロに満たない。
「ちびっ子、私の乗り方をよく見ておくのだぞ」
 状況を理解したマナがブランコに飛び乗る、威勢よく回るブランコ。
「なんだっ、これは」
 マナの叫び声が響く。
 その声にわらわらと孤児院から子供たちが飛び出してくる。


 桜は木や竹を使ったジャングルジムを作っている。
 鋸で木を切っていた桜だが、なかなか進まない。
「何やってんだぁ?」
 別民家で休息を取っていた大鋸が血煙爪(チェーンソー)片手に出てくる。
「大鋸、いいところに来たよ、血煙爪、貸してくれないか?」
 大鋸は、鋸を使って、ひとつひとつ丁寧に切りそろえられた木材をみやる。
「貸すのは無理だ。けどよぉ、手伝ってやるぜっ!」
 切りかけの木を血煙爪を使ってあっとゆうまに二つに分ける大鋸。
「俺は切るからよぉ、お前は組み立てろっ」
「ありがと」
 桜は鑿を使って、木材に凹凸を作っている。
 四隅に柱を立てて、穴のあいた木材を組み立てて行く。
 後は縄で十字に縛り付けて足場を作る。
 同じ作業を黙々と繰りかえす桜。
 普段は男言葉で明るく元気な桜だが、作業に没頭して無口になっている。
 話さないほうが美少女ぶりが際立ってくる。
 大きくはないが、子供が遊べるジャングルジムが出来た。
「なんかあったら呼べよっ!ハラ減った・・・」
 大鋸はそのまま孤児院へ向かう。
 孤児院から出てきた子供たちは、大鋸に飛び掛ったりモヒカンをひっぱたりしながら、挨拶を交わしている。

 メルティナは滑り台を作っている。銀色のロングヘアをポニーテールにくくったメルティナは長身だがそう力があるわけではない。時々よろけながら作業をこなしている。
 彼女が頑張っているのは、わけがある。
 自らも不幸な境遇で子供時代を過ごした。
 運よく悪の手先から逃れた、この孤児院のこどもたちに少しでも幸せになってほしいのだ。
 大木の低く垂れ下がった自らの胴回りはありそうな枝に板を乗せる。板を固定する支柱を深く掘っている。
「手伝いに来ました」
 ブランコを作り終えたクロセルとプレナがやってくる。
 メルティナが支柱を支え、クロセルが上から叩きつけている。
 プレナは紐で板を木に結んだり、細かな作業をもくもくとこなしている。
 いつのまにか、作業するメルティナたちを子供たちが遠巻きに見ている。

「みんな、手伝ってください」
 クロセルの一言で、それまで静観していた子供たちが一斉に走りよってきた。
「何を手伝うの」
「何を作っているの」
「何で遊ぶの」
「これは何」
「なんだかわかんねー」
 みんなが口々に叫ぶ。

 とりあえず、メルティナとプレナが子供たちを廃タイヤの山に案内する。
「いいかい、ボクのいうことを聞くんだよ、まずこのタイヤを地面に埋める、埋め方は自由だよ」
 メルティナの言葉が終わらないうちに、タイヤに突進するこどもたち。
 そっとプレナは、子供たちから離れる。
「完成した遊具にはペンキで色を付けて行きますねぇ♪」
 プレナは子どもの皆の体に害がなく、防水になりそうなペンキを選んで用意していた。
「一緒にぬりましょ」
 プレナは椿姫に声をかける。
 二人とも原色は避けて、色やピンクなどのふんわりとした色調のペンキを選んで几帳面に隅々までムラが無いよう頑張って塗っている。
 滑り台に色をつけていた椿姫の眉間にしわがよっている。
 背が高く細身の吸血鬼、椿姫が醸し出す妖艶なムードに、思わずプレナが歩み寄る。
「どうしましたのですかぁ?」
「うっ!」
「・・・ヒトデ?」
「ヒ…ヒトデではありません…お星様です!」
 水色に塗られた滑り台には、ピンクの不思議な模様が描かれている。
「ヒトデ?」
「お星様ですっ・・・」
 だんだん小さくなる椿姫の声。

 先に完成したブランコには子供たちが鈴なりになっている。
「なぜ並ばない、飛び降りのような危険な事はやってはいけないといっているだろう」
 マナはブランコの前で叫んでいる。
 一人しか乗れないブランコには、既に4,5人が乗っている。
「なぜ、私のいうことを聞かない!私が少々身長が低くいからか」
 遊びに夢中の子供たちの笑い声でマナの声は消されている。
 作業の一段落したクロセルがマナを探す。
「おや?チビッコ達に言う事を聞いてもらえず、マナさんが困っているような?」
「助けに行かなきゃ」
 はやり作業が終わった桜が「走り出そうとするのを止めるクロセル。
「ふっ、マナさんにも良い刺激となるでしょう。いよいよ収拾がつかなくなる直前までは放っておくとしましょう」
「えぇーーー?大丈夫なの?」
 マナを心配する桜だったが、自身も無事には終わらない。
「大変っ!」
 労作ジャングルジムのてっぺんから飛び降りている男の子がいる。
「違う、そういう遊び方じゃないっ!」
 ジムに向かって走ってゆく桜。

 ペンキが乾くころには、遊具を作ったメンバーの努力もあって子供たちは遊び方をマスターしたようだった・・・。

 そして夕食までの短い間、遊びつかれた子供たちはまた昼寝(夕寝?)をしてしまう。
 ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)がいつの間にか来ていた。
 子どもたちの寝顔を見ている。
 普段はその美貌と妖艶な身のこなしが目立つヴェルチェだが、夕闇の室内の佇んでいると美貌や色香を抑えて、意思の強さが際立って見える。
「女の子には上手なおねだりの仕方とか、お洒落の仕方を教える。男の子には優しさと強さをもった素敵な男性になるよう語りかける。子どもたちと話しをする時は、屈んだりして高さを合わせ、対等な目線で話をする。そんなところよ、私に出来るのは」
「なんだぁ、気づいてたのか」
「ワンちゃん、足音消してくるような器用さないでしょ」
「菊に聞いてよォ」
「管理人探してるんだって」
「おぅ」
「あたしじゃだめかな?」
「明日まで待ってくれねぇか、俺が決める」
 頷くヴェルチェ。