葦原明倫館

リアクション

今日は楽しいクリスマス♪

「メリークリスマス☆　小次郎！」
　部屋の扉を開けた途端、自分のパートナーに、ミニスカサンタ姿で出迎えられ、佐々木　小次郎（ささき・こじろう）は面食らった。
「……いったい何事ですか、翔太さん」
「だから、メリークリスマス♪」
　ぴょんぴょんっと跳ねるように、元気に小林　翔太（こばやし・しょうた）がかけよってくる。
　セパレートタイプのミニスカサンタ服は、ヘソチラで、ニーソを履いた足元はミニスカがひらひらして、ちょっと中が見えそうで危ないのに、翔太はまったく気にした様子もなく、元気にぴょんぴょんしていた。
　落ちそうな赤い猫耳帽子を、手で軽く戻してあげながら、小次郎は相棒にその真意を聞いた。
「クリスマスは分かりました。それで、その格好は……？」
「小次郎と一緒にクリスマスパーティに行こうと思って！」
「……クリスマスパーティ？」
「そうそう、蒼空学園でパーティがあるんだって。だから一緒に行こう！　カッツェも行くって！」
　ニコニコと翔太が笑顔を見せるが、小次郎がカッツェ・オージェ（かっつぇ・おーじぇ）に視線を向けると、カッツェはぶすーっとしていた。
「あまり乗り気じゃないようですが……」
「……違うもん！」
　乗り気じゃないという小次郎の言葉に、カッツェは心外そうな表情を見せた。
　カッツェは別にクリスマスパーティに行きたくないわけではない。
（むかつく、むかつく、超☆むかつくー！　翔太様と２人っきりのクリスマスだと思ったのにーー！！）
　と、拗ねているのだ。
（小次郎なんか来なきゃいいのに……）
　イライラを募らせて、カッツェが小次郎を睨むが、小次郎は全然気づいてない。
「そうですか。それでは、せっかくのお誘いなのでパーティに参加を……」
「うん！」
「ところで、翔太さんの犬は？」
　小次郎が質問すると翔太が答える前に、カッツェが目を三角にした。
「あんなの連れて行ったら、クリスマスパーティで変態行為して、引かれちゃうかもしれないじゃない。連れて行くの反対！」
「……って、いうわけみたい」
　翔太がちょっと困ったように笑いながら、小次郎に説明する。
　かくして、３人でクリスマスパーティに参加することとなった。

「いよぉ、メリークリスマスだぜー！！」
　赤と緑の見事なクリスマスツートンカラーのサンタピエロ・ナガン　ウェルロッド（ながん・うぇるろっど）に迎えられ、小次郎は額を押さえた。
「パーティ会場に怪しい人がいないかチェックしようと思ってたのですが……会場に入る前からすでにそんな人が」
「ナガンが怪しいだって！　ハハン、女装ショタっ子を連れたやつに言われたくないね！」
　びしっとナガンが翔太を指差す。
「女装……？」
　小次郎が翔太の方に目線を向ける。
「……女装だったのですか？」
　あまりに似合いすぎていたせいか、小次郎は翔太のミニスカサンタが女装とは思わなかったらしい。
「あ、ええと……」
「女装だろ？　どっから見ても女装。なんだー？　クリスマスに恋人もいないパートナーのために、自分が女の子の代わりをしてやろうとでも言うのかよ。涙ぐましい努力だねえ」
　ナガンがけたけたと笑うと、小次郎はじっと翔太を見つめた。
「そうなのですか……？」
「あ、んと……」
　あまり嘘をつけない性分なのか、翔太は迷いながら頷いた。
「小次郎、僕の面倒ばかり見ていて、なかなか女の子と出会う機会がないでしょ？　本当は女の子と過ごしたいのだと思うけど、それができないからせめて……」
「翔太さん……」　
　健気な翔太の言葉に、小次郎がうれしそうにほほ笑む。
　言わずにいるつもりだったのに、バレてしまった翔太は困ったが、小次郎の「そのお気持ちだけでうれしいですよ、ありがとうございます」という言葉に救われた。
　２人の様子を見て、カッツェは（小次郎の奴、翔太様のお気持ちに気付かなかったくせにー！）と嫉妬の視線を向け、ボソッと呟いた。
「いつか、絶〜ッ対☆暗殺してやるんだから！！　今日はどんなイタズラしてやろうかしら……]
　大きな瞳で小次郎を睨むカッツェを見て、ナガンはポンとその肩を叩いた。
「やめとけやめとけ、パーティの日にイタズラなんて」
「なんでよ」
「まったく意外性がないだろ？　それじゃ、効果がねえよ。そういうものは何でもない平日にやってこそ、だぜ」
「そ、そうかしら」
　ナガンに言われ、カッツェが悩み始める。
「ほらよ、そんなことよりこれでもつけてろ」
「……リボン？」
　瞳の色と同じ真っ赤なリボンを手渡され、カッツェは戸惑う。
「おう、洒落っ気持つのもいいことだぜ。せっかくのクリスマスパーティだしな！」
　ナガンは笑顔を見せ、くるっと反転した。
　反転した視線の先には轟　雷蔵（とどろき・らいぞう）の姿があった。
「よう、でかい図体した奴がボケーっとして、どうしたよ」
「いや、ケーキ作りに参加しようと思ったんだけどよ。なーんか２人連れとかが多くてな」
　普段は能天気な雷蔵だが、クリスマスということもあってか、少し気が引けたらしい。
　その雷蔵の背をナガンはドーンと叩いた。
「べっつに、クリスマスはカップルのためにあんじゃねーよ。蒼空の生徒なんだろ。気兼ねせずに行けよ。ナガンなんてパラ実でも何一つ気兼ねせずに、蒼空学園の校舎に入るぜ！」
　ナガンの言葉に、雷蔵はいつもの陽気さを取り戻して笑った。
「そりゃそうだよな。今じゃスイーツ男子とか言って、男の甘党も増えてる時代だ。ツィーザに持って帰ってやるためにも、頑張りに行くか」
「おう、行こうぜ、行こうぜ」
　元気になった雷蔵の背中を押し、ナガンも一緒に家庭科室へと向かった。