波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

リアクション公開中!

空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第2回/全3回)

リアクション


chapter.1 in,in,in 


 キャプテン・ヨサーク(きゃぷてん・よさーく)の招集を受けた生徒たちは、一旦蜜楽酒家へと集まった後、戦艦島に向かうべくヨサークの船に乗り込んだ。
 乗船口の近くで、並んでいる生徒たちを見ながらヨサークが呟く。
「前回もそうだったが、今回も半分くらい女が乗ってこようとしてやがるな。勝手に俺の船内で女性フェロモン撒き散らしやがって……ったく、年中生理中かっつうんだ」
「まあまあ頭領、たまにはこんなのも賑やかでいいじゃないっすか」
 船員のひとりがヨサークをなだめると、ヨサークは軽く船員を小突いた後不敵な笑みを浮かべた。
「はっ、どうせこいつらはカカシだからな。俺がユーフォリアを手に入れるための」
 もちろん、生徒たちのところまでその声は届いていない。
「頭領、なんだかここ最近やけにユーフォリアに熱心ですね。前からでしたっけ?」
 船員が何気ない疑問をヨサークに投げかける。
「あぁ? 何言ってんだおめえ。タシガンの空賊だったら、ユーフォリアを狙って当然だろ」
「ですよね! さすが頭領、半端ねえ野心っす!」
 ヨサークのそんな力強い言葉に納得した船員から、それ以上の疑問は出なかった。
「ん……? なんだ? アレは」
 船員と話をしていたヨサークの目が、生徒たちの作っている列の一部分に向いた。そこには、様々な食料品を持ち込み船に乗ろうとしている生徒たちがいた。
 荒巻 さけ(あらまき・さけ)がかぼちゃなどの野菜とシジミを大きなバスケットに入れているその後ろでは、彼女の知人である譲葉 大和(ゆずりは・やまと)がマスクメロンを抱えていた。旬の果物ではないため、結構な出費をした上での持ち込み品である。
「あら、今の時期には珍しいものをお持ちですのね」
 珍しそうに大和のメロンを眺めるさけに、大和は微笑んで返事をした。
「ええ、お陰で財布が淋しいことに。しかし、これはなくてはならない、大事なものですから」
 さけはそんな大和の言葉を聞き、「そんな立派なメロンでしたら、あのヨサークも喜ぶと思いますわ」と微笑み返した。
 そのふたりの傍では、ジャガイモやニンジンなどの野菜を手に乗船しようとしていた椿 薫(つばき・かおる)が、自分と同じ食べ物を持っている生徒を見つけて声をかけていた。
「おっ、それはジャガイモでござるな? 拙者もジャガイモを持ってきたんでござるよ」
 薫に声をかけられた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、どこかぼんやりとした表情で答えた。
「あ、私のはねえ、種芋だよ」
 言って、持っていたものをすっと薫に見せる終夏。彼女の言葉通り、その手にあったのは少しばかり芽が出ているジャガイモだった。
「なんと! これは失礼したでござる。しかし、なぜ種芋を……?」
 薫のごく自然な問いかけに、終夏はあっけらかんと答えた。
「いやほら、この船の船長、なんかやたら人に向かって耕す耕す言うみたいだから。もし私がそれ言われて耕されそうになったら、植えようかなって」
「う、植える……でござるか?」
「うん、梅干しとかメロンの種食べたらへそから芽が出るって言うし、なんかそんな要領で。ジャガイモ生えてきたら、面白くない?」
「そ、そうでござるな……」
 あ、なんかこの人やばいでござる。
 瞬時にそう判断した薫は、適当な相槌で会話を終わらせ、距離を置いた。人体からジャガイモが生えるというその状況は、もはや面白い面白くないの問題ではない。グロいグロくないの話になってくる。
 ついでに言うと、彼女、終夏はヨサークの発言を少しばかり誤解していた。彼の言う「耕す」は、本当に人体を耕すわけではないのだ。そんなことなど露知らず、終夏は「面白いもの見れるかなぁ」とつぶやきながら種芋を手で転がしていた。
 その様子を見ていた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は、持っていたクーラーボックスの中身を思い返し、不安を覚えていた。
「もしかして俺が持ってきたものって、結構かぶってる……のか?」
 佑也のクーラーボックスには、サケやサツマイモなどが入っていた。まさかのイモかぶりである。
「ま、まああの人たちのはジャガイモ、俺のはサツマイモだからな……アウトかセーフかで言ったら、セーフだろ」
 彼が何を基準にそう判断したかは不明だが、とりあえず納得することは出来たらしい。
 彼らのようにきちっとした食料品を持ち込む者もいれば、一方で他の人とは一味違ったものを持ち込んでいる者もいた。
 一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は大量の天ぷら粉を抱え、機嫌良く鼻歌を口ずさんでいる。
「月実、バカンス楽しみだね! ところで、それ何ー?」
 パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)が不思議そうに尋ねると、月実は胸を張って答えた。
「天ぷら粉よ。このためにわざわざ準備してきたの」
 彼女の中でバカンスと天ぷら粉がどう繋がっているのかはよく分からない。リズリットも分からない。が、月実の料理が好きなリズリットは、「月実が食べ物つくってくれるんなら、何でもいいや」と深くは考えないことにした。
 そんなふたりの後ろを歩いていた緋山 政敏(ひやま・まさとし)は、パックの牛乳を大事そうに持っていた。どう見ても1〜2人分しかないので、皆に振る舞うために持ってきたわけではなさそうだ。パートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)は政敏のそんな様子を怪訝そうに見つめていた。
「政敏……そんなに牛乳が大好きでしたっけ?」
「ん? ああ、これか……まあ、ちょっと色々思うところがあってな」
 怪しい。カチェアはそう思ったが、現時点で何か問題を起こしているわけではない。なので、カチェアはこれ以上触れないことにした。
 思い思いの持ち物を手に乗船を続ける生徒たちの中で、一際目立っている生徒がいた。紐でくくられた大量の大根を背負い、肉などが詰め込まれた大きめの袋を両手に提げているのは早川 呼雪(はやかわ・こゆき)だった。
「さすがに……重いな……」
 呼雪の背負っている大根の量は、尋常じゃなかった。とても15の少年が抱えきれる量ではない。しかし彼はドラゴンアーツを使用することで、どうにか大根の束を担ぎながら歩くことが出来ていた。
「待っていろよ、ヨサーク……」
 一歩歩く度に、彼の背中で大根が揺れる。見かねた呼雪のパートナー、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が声をかける。
「ね、ねえコユキ、なんでそんなにいっぱい大根背負ってるの? ボクたち、お宝探しのお手伝いに行くんだよね?」
「ああ……だが、宝探しの前にやらなければならないことがあるんだ」
 汗を流しながらそう言った呼雪を、ファルが心配そうに見つめる。
「これじゃ、冒険に行くっていうより、お買い物に行った帰りみたいだよ〜……」
 ファルはそう言いながらも呼雪の荷物を少し持とうとするが、呼雪に「大丈夫だ」とやんわり断られ、しょんぼりと大根の束を見上げた。
 彼らを見ていたヨサーク、そして船員は「差し入れとは気が利く子供たちだ」と満足そうにその様子を眺めていた。
「頭領、こんなに差し入れを持ってきてくれる生徒たちがいるなんて、俺らも有名になってきたんじゃないですか?」
「ようしおめえら、今夜は野菜祭りすっぞ! 女義賊になんか負けねえよう、しっかり食物繊維取れよこらあ!」
 同じく島に向かっているであろう一匹狼の女義賊、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)を敵視しながらヨサークと船員はテンションを上げ、生徒たちが乗船を終えた後船に乗った。
 現在時刻、14時11分。



 戦艦島。無人島であるその島を誰がそう名付けたかは不明である。その島は小さいながらも古い時代の遺跡が密集して立ち並んでおり、それはまるで複雑に入り組んだ迷宮のようだ。遺跡はほとんどがある程度の高さを持っていて、島内から見上げる空が広くないであろうことは容易に想像出来た。

 17時02分。
 ヨサークの船がその戦艦島へと到着した。次々と島へ降り立つ生徒たちの中で、乗船口ではなくヨサークのところに向かった生徒がいた。
「ヨサークさん!」
 名前を呼ばれ振り向くヨサーク。そこに立っていたのは、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)だった。ヨサークはケイラの姿を見ると、不機嫌そうに舌打ちをした。
「おい女、勝手に俺の名前を馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえ」
 見た目が思いっきり女性なので、ケイラはヨサークになじられた。その声の荒さに一瞬怯むケイラだったが、何とか自分の意思を伝えようと会話を試みる。
「ヨサークさん、お願いがあるんです。自分も団員にしてくれませんか?」
 が、ヨサークがこの願いを聞き入れるはずがなかった。彼の女嫌いは相当なものなのだ。
「馴れ馴れしく呼ぶなっつってんだろうが! 中耳炎か、あぁ!?」
 さっきよりも一段と激しい罵声に、ケイラは思わず一歩あとずさった。と、その怒号を聞きつけ、ケイラの前にひとりの男がやって来た。
「わわ、頭領、待って、ちょっと待ってー」
 それはケイラの知り合いであり、ヨサーク空賊団の団員でもある佐伯 梓(さえき・あずさ)だった。言葉とは裏腹にそこまで大慌てで駆けつけてはいない梓だったが、それでもヨサークが次の怒りをぶつける前には、ケイラとの間に入っていた。
「ん? おめえ、こないだ団員になったヤツじゃねえか。女を庇うとは、団員の風上にも置けねえ野郎だな」
「あー、えーと、頭領の言いたいことも分かるんだけど、俺の知り合いなんだー。だから、勘弁してやってほしいなーって思って」
 口調はこんな調子だが、梓なりに頼み込んでいるつもりらしい。
「佐伯さん……」
 そんな梓を見て、自分を助けようとしてくれている、とケイラは喜んだ。しかしその喜びも束の間、ケイラは梓共々ヨサークのお叱りを受けた。
「おいこら、何顔を綻ばせてんだおめえ! そしておめえはおめえで女の味方してんじゃねえっ!」
「……うう、すごく怒ってる……こんな格好だから無理もないなあ」
 ケイラが小さく呟いたその言葉を聞いた梓は、ふとケイラを見た。女性用の制服にロングスカートをはいているその姿は、どこからどう見ても女性である……が。
 あれ、もしかしてケイラって、男?
 だったら、話が通るかもしれない。そう思った梓は、ヨサークに顔を近付け、そっと耳打ちをした。
「お、おいなんだおめえ」
「頭領、もしかしたらさー……」
「あぁ!? そんなわけあるか! どっからどう見ても女だろうが!」
「俺の言うことだけじゃ信じられないよなー、やっぱり。あ、じゃあさ、ケイラに……」
 梓とヨサークがこそこそとやり取りを続ける。ケイラはそんなふたりを見て、ある決意をした。
「……ヨサークさん、ちょっと、いいかな?」
 そう言うとケイラは半ば強引にヨサークを柱の陰へと連れて行き、その手を取った。
「おい女、勝手に触るんじゃねえっ!」
「すぐ終わる、すぐ終わるから」
 ヨサークの手を掴んだケイラは、そのままその手を自分の股間に持っていった。
「おい、何しようと……あ?」
 ヨサークの手に、何かが当たった。ヨサーク・ミーツ・サツマイモである。
「どう? 自分も団員になれるかな?」
 にっこりと笑顔を向けたケイラに対し、ヨサークはもう憤りを感じていなかった。
「……今まで、ひでえこと言ってすまなかったな」
 ケイラと固い握手を交わすヨサーク。柱の陰から出てきたヨサークとケイラは、肩を組んでいた。それを見た梓は、ケイラがヨサークに受け入れられたことを察し安堵の表情を浮かべたのだった。
「おめえにも、ひでえこと言っちまったな」
「大丈夫ー、気にしてないよ頭領。それより良かったなー、ケイラ。頭領に認められて」
「うん、佐伯さんが手伝ってくれたお陰だよ」
 さっきまでとは打って変わって、和気藹々とした空気が流れる。念のため言っておくが、ヨサークはそっちの人ではない。その証拠に、ヨサークは男らしくケイラに告げた。
「おめえも今日からヨサーク空賊団の一員だ! Yosark working on kill!」
「へい、へい、ほー!」
「もっと腹から声出しな、そして発音はネイティブにだ!」
「Hey,Hey,Ho!」
 慣例となった掛け声が済むと、ケイラと梓は楽しそうにふたりで船から降りていった。

 ふたりが去った後ほどなくして、ヨサークのところへやって来たのは小尾田 真奈(おびた・まな)だ。普段温和な彼女だが、その体から放たれているのはそんな彼女に似つかわしくない怒気だった。
「……あなたが、ヨサーク様ですね」
「あ? いきなり何だ、おめえ」
 ついさっきまでの上機嫌っぷりはどこへやら、思いっきり機嫌悪そうに返事をするヨサーク。真奈は、そんなヨサークにどうしても言いたいことがあったのだ。
「ご主人様から、先日の件について色々お話を聞かせていただきました。校長先生を助けるお手伝いをしてくださったことは感謝しています……しかし」
 真奈は、重々しい口調で言葉を続けた。
「ヨサーク様はその時、『女なんて子供を産む機晶姫』と発言してらっしゃいますね?」
「あぁ? いちいち憶えてねえよそんなこと」
「いいえ、確かに発言しておりました。ご主人様からそう聞いておりますし、『空賊よ、風と踊れ−ヨサークサイド−(第1回/全3回)の4ページ目にもしっかりと書かれております」
 まるで不適切な発言をした政治家を糾弾するマスコミのように、証拠を次々と提示し問い詰める真奈。これにはさすがのヨサークも沈黙せざるを得なかった。
「これは明らかに女性、そして機晶姫差別です。子を成せない者の苦しみが、分かっていないのですね」
 ヨサークにとっては何気ない一言でも、機晶姫である真奈にとっては聞き流せない、心を痛める一言だったのだ。
「いいですか、そんなことだから……」
「あーっ、真奈! ストップ、ストップ!」
 さらなる文句を並べようとしていた真奈を、契約者である七枷 陣(ななかせ・じん)が慌てて止めに入った。
「ご主人様、止めないでください。私はまだ全てを言い終えていません」
「こんなとこで変ないざこざ起こさんくていいから! ほら、他の皆も降りてるから! じゃ、ヨサークさん、そういうことで!」
 そう言うと半ば無理矢理に、真奈を引っ張り一緒に船を降りる陣。ヨサークから見えないところまで来ると、陣は周りをきょろきょろ見てから真奈に告げた。
「今回はあんまり目立たん方が後々動きやすいって、あれだけ言ったのに」
「すみませんご主人様。ついカッとなって」
「その怒り、今はとっておこうな、真奈」
 陣の意味深な言葉に、真奈はこくりと頷いた。
 そんな真奈に責められていたヨサークの様子をこっそりと窺っていたのは、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)とパートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)だった。
「やっぱり話に聞いてた通り、女嫌いっていうのは本当みたいだね、ジュレ」
「……」
「こんなこともあろうかと、変装してきて正解だったね! どこからどう見てもボク、男に見えるよね?」
「……」
「……ジュレ?」
 カレンに再度名前を呼ばれるジュレール。彼女はむすっとした様子で、カレンを横目で睨んでいた。
「カレン、我らのこの格好はなんだ」
 ジュレールは、はんてんを羽織り手袋とニット帽を装着という一見それほどおかしい外見ではない……はずなのだが、よく見ると、はんてんの胸のところに「ざしきわらし」と刺繍がされていた。
「いやほらっ、メカっぽい部分は出来るだけ隠した方がいいかなって思って」
「それは分かる。我が聞いているのはこの刺繍だ。そして、カレンのその格好だ」
 ジュレールがカレンを指差す。当のカレンは、白い布を頭に被りもんぺをはいていた。完全なる農民スタイルである。
「これなら、農作業帰りに立ち寄った少年っぽい感じになるかなーって。少年と座敷わらしのコンビなら、この空賊団にもきっと入れると思うんだ!」
「……本当に入団するつもりなのだな、カレン」
「だってボク、ユーフォリアってお宝がどんなものか、見てみたいんだ! そのためには入団するのが手っ取り早そうだし。さあさあ、細かいことは置いといて、行くよ、ジュレ! ちゃんと打ち合わせ通りにね!」
「……バレても我は知らぬぞ」
 ジュレの心配をよそに、カレンはヨサークの前にバッと姿を現した。そして、入団を志願する。
「オラ、この空賊団に入りたいと思ってんだけんど、男なら誰でも入れるんだべか?」
 なんとなくそれっぽい方言を喋るカレンをヨサークはじっと見つめ、少し怪しそうな目を向けた。
「男は基本拒まねえが……おめえ、男か?」
「おっ、男だべよ! 最近まで雪国にいたから肌白いけんど、オラ立派に男だべよ!」
「……そっちのはんてん着てるヤツは?」
「この子は、座敷わらしだべ。座敷わらしは神様だから、男とか女とか関係ねえっぺよ。それに、座敷わらしは富をもたらす神だから、きっとこの船にもお宝を運んでくれるはずだっぺ」
「……そうなのか?」
「そうッス。自分、座敷わらしッス」
 なんだこの体育会系みたいな口調の座敷わらしは。カレンの佇まいも含め疑問に思ったヨサークだったが、顔や体を見た感じでは一応男に見えなくもない。農民キャラということで親近感も湧いたのか、ヨサークはカレンたちの入団を許可した。
「よし、おめえらも今日から団員だ。立派に耕せよ? Yosark working on kill!」
「Hey,Hey,Ho!」
 無事入団を果たしたカレンとジュレは、掛け声に答えてから船を降りた。
「やったねジュレ! 胸がちっちゃくて助かったよ……自分で言っててちょっと悲しくなったけど」
「我は悲しみより怒りを感じるぞ、カレン」
 この後、無理矢理変なキャラを演じさせられたジュレールの愚痴が続いたのは言うまでもない。



 全員が船から降り終え、集合が完了した頃、辺りは既にうっすら暗くなっていた。
 集まった生徒たちに、ヨサークが告げる。
「今日はもう暗くなってきちまったから、本格的な捜索は明日からする。今夜はここで野営すんぞ」
 野営。キャンプ。皆でわいわい共同作業。生まれる一体感。青春。
 そんな連想からか生徒たちはテンションが上がり、我先にと野営の準備を始める。薪を集め始めたヨサークは、そんな様子を見て微かに口元を緩ませた。