波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション公開中!

魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション

「やっと着いたのぉ!」
 シルヴェスターは、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と共に機晶石に歩み寄った。巨大機晶姫が転んだ為、少女型の機体はコードに繋がったまま横倒しになって浮いていた。堂々とした態度のシルヴェスターを、ファーシーは警戒する。
「……誰……?」
「ん? われの中に入るときに名乗ったじゃろ? シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)じゃ」
「…………」
 覚えがないように黙るファーシーに対し、シルヴェスターは豪快に笑った。
「やっぱり聞こえてんかったか。まあ、期待はしてんかったし、気にすな!」
「……えと……」
「わしも機晶姫じゃ。機晶姫は皆兄弟、ファーシー、助けちゃる! 助けちゃるから舎弟になれ」
「は……?」
 機晶石は間の抜けた声を上げた。そして、笑い出す。
「ふふ……舎弟になるのはあなたの方でしょ? わたしの方が古いもの……」
「なんじゃと!?」
「それも面白かった……かもね……あなたを……こきつかうのも……」
「だから、それは逆じゃろに! 恩あるもんをこきつかうっちゃ、どういう――」
「全部……夢物語……だけどね……」
 そこに、ティエリーティアがスヴェンとフリードリヒにがっちりと護衛されてやってきた。ゴーレムから守ってというよりは、お互いにどつきあい続けたせいでパートナー達はぼろぼろだ。
(守ってくれるのは嬉しいんだけど、僕も騎士なんだよなー)
 とか思わないこともない。
 機晶石に近付く彼を、シルヴェスターとガートルード、そしてコードを慎重に切断していた先発組が手を止めて見守る。どうにも、コードを切るのを協力しろとは言い難い雰囲気だったからだ。
「……あなたは……?」
「はじめましてファーシーさん。僕はティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)。みんなはティエルって呼んでる。ねえ……どうしてあなたは魔物になってしまったの? 魔物になった時、何かおかしなことがあった? きっかけがあったはずだよ。それが分かれば……」
 そう言うと、ティエリーティアは俯いた。
「お願い話して、助けてあげたいよ。壊す以外の方法で……」
「……きっ……かけ……」
 ファーシーは、心持ち何か考えるように沈黙した。
「僕は僕ができる範囲で、最大限君を救うために努力する、この騎士の剣にかけて」
 光条兵器のエストックを出して、顔の前に掲げる。
「自分自身を壊すなんて……言っちゃだめだよ。作られた命なのかもしれない。だけど……そんな悲しいこと、出来れば、したくないよ。データを、他の機晶石へ移植することはできないのかな……無事に助かったら、僕のパートナーになって一緒に生きようよ。あ、でも、女の子だから学舎には入れないかな……それはあとで考えるとして……」
「ティティ、大丈夫ですよ。助かったら、彼女にはマスターがいます。はっきりとは言っていませんでしたが、マスターのルヴィさんが契約者なんですよね?」
「……そう……でも……」
「ファーシー!」
 そこに、環菜とラスが飛び込んできた。走ってきて、手に持った銅板の半片をファーシーに見せる。
「これ……これを探していたのね? これをマスターに届ければいいのね?」
 突然、機晶石が激しく光った。喜びの表現だったのか、驚きだったのか。
「そう……それ、それを渡して! ルヴィさまに……!」
「ファーシー、その彼は、何処に居るの? 何故、別れてしまったの? 居場所を知らないと、いくらなんでも渡すのは難しいわ」
「……それは……だって、今は……戦争中でしょう……?」
 美央と寛太、カーラ以外の、内部にいた生徒が続々と集まってくる。話が核心に触れつつあるのに気付いたエメは蒼に電話を入れた。一言二言話してからファーシーの近くまで行き、電話を近付けた。
「この電話を通して聞こえた声を、パートナーが外のみなさんに伝えてくれます」
「その前に、ごめんなさい。プレナ達、いっぱい身体を傷つけてしまいましたー」
 プレナが前に出て、ぺこりと頭を下げる。
「あ……ううん……ありがとう……」
「え?」
「わたしの身体は……あくまでもこの……少女型の機体だから……壊してくれて、ありがとう……」
「では、ファーシー、この巨大な身体は……何なんだ?」
 朔が訊く。
「大きな身体は……わたしが魔物化しはじめた時に魔の部分が取り込んだ……鎧……その銅板を守りたいという気持ちが……具現化して、再構成してしまったの……ごめんなさい……」
「ファーシーちゃん、この遺跡が何か知ってるのよね? 何に使われていた建物なの? お宝とか、あるの?」
「宝は……ないわ……ここはただの、工場だから……」
「工場……?」
「はい、ここは……機晶姫の製造所です……」
「機晶姫の製造所だって!?」
 エヴァルトが、驚いて身を乗り出す。
「機晶姫は、シャンバラ古王国が滅びた時点で製造法がわからなくなっている。今、かろうじて残っているのはヒラニブラにいる機晶石の技師……彼等だって、メンテナンスしかできないんだ。機晶姫は作れない。まさかここは、5000年前の……!?」
「ほろびた……?」
 機晶石が強く光った。
「どういうこと……? ほろびたって……古王国って……『古』って……なに……?」
 石が瞬きを繰り返す。
「シャンバラ王国は、鏖殺寺院との戦いで滅びたのよ。それが5000年前で、今は西暦2020年。私達は、シャンバラ王国を復活させるために地球から来たの」
「そんな……じゃあ……マスターはもう、壊れて……」
 壊れて、という表現に引っ掛かりを覚えつつ、環菜は言う。
「待って、あなたのマスターは機晶姫じゃないんでしょ? 人間なら……」
「シャンバラ以外は……コンロンは? ……他の国は……?」
「滅びたのはシャンバラだけよ……多分。シャンバラが滅びたことでパラミタ大陸は地中上から姿を消したけど、消しただけでどこかに存在はしていたわ。もしかしたら見えないだけで、ずっと地球上にいたのかもしれない」
「よかった……それなら……他の国に逃げ延びているかもしれない……」
「どうして? 言ったでしょ、5000年……」
「待てよ、環菜」
 5000年経てば、生きている訳がない。そう言おうとした環菜を止めたのは、ラスだった。
「ファーシーは機晶姫……彼女は、死という概念を理解してないんだ。どんな種族もみんな、壊れるか壊れないか……そう思っているんだ」
「確かに、多くの機晶姫が……生まれた時には、そうなのだ」
 リアが言う。ザイエンデやジュレール、そしてシルヴェスターも頷く。
「し、て……なに……?」
「壊れること、だよ。言い方が違うだけだ」
「……そう……」
 あんたは知らなくて良い。
 ラスは、内心でそう呟いた。これから壊れてしまうあんたは、その方が幸せだ。
「なぜ、お前は壊れてしまったんだ? この体内にはいくつか、人が壊れた跡があった。製造所で、何かあったのか?」
「…………」
 涼の問いに、ファーシーは暫く沈黙していた。そして、暗い声で言う。
「この製造所は……鏖殺寺院に襲われたの……特別なことじゃないわ……戦争中だったから、いつ襲われてもおかしくなかった……マスターも、徴兵されて……見送る時に、銅板をもらったの……俺が帰ってくるまで……失くさないでって言ってた……それからずっと……ここに預けられて……でもわたしは……」
「にしても、機体は壊れたかもしれないけど、石は見たところ無傷ですよね? その時、新しい身体を造っていれば…………そうか」
 翡翠は、言ったことを後悔したようだ。
「造る人が、いなかったのね……」
 環菜が呟く。
「だが、おかしくないか? 機晶石はメンテナンスをしなければ、30年しか保たない筈だ。メンテナンスをしても……いや」
 エヴァルトはその後を濁し、改めて言う。
「とにかく、計算が合わないだろう」
「……わたしの意識も同時に、壊れたの……めざめたのは……もうずいぶん前だけど……5000年ということは無いわ……そう、あの時、ものすごいエネルギーを感じた……大陸全体が、喜んでいるような……」
「まさか……2009年!? パラミタが地球に現れた、あの時なの!?」
「2009年……さっきのあなたたちの話だと、10年くらい前ね……? そう……………………そうかもしれない……それからわたしは、ずっとこの事務所に転がっていたの。この機体と一緒に……」
 それは10年もの間、たった1人で過ごしていたということを現していた。
 誰も訪れない事務所で、ひたすらに――
「……ずっと……マスターを待っていたわ……帰ってきて、わたしを探しにきてくれるんじゃないかって……でも、最近になって、意識が途切れることが多くなって……壊れないように一生懸命頑張ってたら……だんだんと魔に犯されてきたの……もう、わたしはわたしでいられない……あなた達を攻撃したくはないわ……早く、逃げて……」
「助けることはできないのか? 石を取り出して持ち帰り、今の、俺達の知識を使えば……」
「無理ね。エヴァちゃんが言ったでしょ? 今のシャンバラには、メンテナンスをする技士しかいないの。それに、聞いた限りだと魔物はこの子自身だわ。助けるには、壊すしかない」
 ヴェルチェが光条兵器の鎖を構えた。ラスが言う。
「せめて、意識が残っているうちに……か」
「汚れ役はあたしがやってあげる♪」
「待ってください!」
 制止の声を上げたのは、フロンティーガーだった。
「貴公を止め、ツァンダを守るために、外では多くの人々が命を賭けて戦っています。でも、それだけじゃありません。ここに集まったみなさんは……、貴公自身を助けたいと思ったからこそ危険を賭して鎧の体内に入ったのです。貴公を壊すためじゃない! 誰も、こんな結末望んではいません! この暴走が貴公の本意ではないとすれば、今度は貴公が彼らの想いに応える番なのではないでしょうか」
「だから、無理って言ってるでしょ!」
「残された貴公の『心』をもってして、今こそもう一度、貴公を『魔物』へと変えようとする何かに、精一杯抗ってみせて下さい。壊れた時、あなたの『心』は……生き残っているかもしれない」
 フロンティーガーはそれだけ言うと、後ろに下がった。
「……お願いします」
 ヴェルチェが鎖を投げて、先端を機晶石に突き刺した。雷術を最大出力で流す。
 瞬間。

 機晶石が、壊れた。

 コードが外れ、少女型の機体が床に落ちる。
「ジュレ?」
 ヒールで意識の戻っていたカレンが、パートナーの変化に気がついた。ジュレールが、涙を流している。リアやザイエンデ、猫型機晶姫のアレクス、シルヴェスターや蘭華にも同じ現象が起きていた。
 例外なのは、小型大首領様だけである。
 巨大機晶姫が震動を始める。ファーシーという動力を失った鎧は、その形を失おうとしていた。
「みんな、逃げなさい! 他に近い道を記録している人は別れて先導して! 大勢で同じルートを通るのは危険だわ。腹部の穴はこっちよ!」
 環菜は、銃型HCに記録された道に生徒を先導しはじめた。場数を踏んでいるからか、誰もパニックに陥るようなことはない。
 ラスはその中で、床に落ちた少女型の機体に向かっていた。これを持ち出せば儲かる――とかでは勿論無く、このまま潰されるのは忍びなかったからだ。コードの山からなんとか引っ張り出したところで、エメが手を出してきて機体を背負った。代わりに割れた機晶石を差し出す。
「あなたは怪我をしているようです。私が運びましょう、体力には自信があります。しんがりを務めますから、先に行ってください」
「ああ……悪いな」
 ――エメが脱出したのとほぼ同時に、巨大機晶姫は瓦礫の山へと姿を変えた。

 土塊の前に、巨大機晶姫に関わった生徒が集まっていた。顔ぶれの中には道に迷っていた赤羽 美央(あかばね・みお)鳥羽 寛太(とば・かんた)カーラ・シルバ(かーら・しるば)の姿もある。瀬島 壮太(せじま・そうた)も、フリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)が何かを感じたのを受け、巨大機晶姫が崩れたのを確認しにここまで来ていた。機晶姫は森に入りかけていたので、大した距離でもない。
 また、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は持ち出してきた未使用機晶石をポケットで転がしていた。
「この銅板は、校長室で預かっておくわね。ルヴィ・ラドレクトさんの……いえ、ラドレクト家の足跡が分かるまでは、ルミーナの手元に置いておきたいの。わがままを言ってごめんなさい」
 環菜が頭を下げた。その予想外の行動に、生徒達がざわつく。
「……私って、普段どう思われてるのかしら」
 仏頂面になった環菜に、ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)が近付く。
「助けてあげられなかったですね……」
「そうね……でも、気のせいかこの銅板、少し暖かいのよね。彼女の魂が宿ってたりして……まさかね」
『まさかじゃなかったら、どうするの?』
「どうするって……それは、うれしいけど…………え?」
 環菜が手元に視線を落とす。
『ティエルさん、フロンティーガーさん、シルヴェスター、それにみんなも、ありがとう。わたし、なんか……乗り移れちゃったみたい』
「え……」
『マスターに会えるまで、よろしくね』
「「「「「「「「「「えええええええええええええええっ!?」」」」」」」」」」
 そして、彼女の言葉に不満を覚える者がここに1人。
「……どうしてわしだけ、呼び捨てなんじゃ?」




(第2回に続く――)
 

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

マスターの沢樹一海です。ご参加&拝読、ありがとうございます!
この度は遅れてしまって、申し訳ありませんでした。

いろいろと私自身、先が見えない展開になりました。それもこれも、機晶姫を助けたい、と思ってくださった方が多かった結果です。いろいろフラグだけ立ててみましたが、さて回収できるのでしょうか。

そして、掲示板にてGA相談をしていただいた皆様、ありがとうございます。
予想以上に内部組の数が多く、分割した結果、転ばせてからの侵入が後半になってしまいました。その為、ファーシーへの質問内容が大幅に変わっております。ネタバレシーンでは質問者のメインチームとして描写いたしましたが、結構突っ込んだ内容だったのでどこまでオリジナル発言をさせて良いのか迷い、台詞数は少ないです>< すみません。

称号ですが、ご参加いただいた機晶姫には【進化する機晶姫】or【○○機晶姫】を発行いたしました。万が一、来てないよー! という方がおりましたらサポートよりご連絡ください。

――――――
で、今回も予告をさせていただきます。5日にバレンタインシナ「ホレグスリ2」のガイドを公開予定です。「魂の欠片の行方」は1回お休みさせていただきます。

また、リアクションの裏話や今後の予定等はブログ「とりノベdiary!」でぼちぼち公開しております。言い訳とか、まあろくなこと書いてませんが、よろしければのぞいてやってください。

では、またお会いできる日を楽しみにしております。