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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション

 巨大機晶姫を待ち受ける形で集まっているのは、イルミンスール魔法学校の和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)である。
「あれって一応機晶姫なんだよな……体はほとんど無機物でできてるっていってもやっぱりちょっと気が引けるかも。けど、あの巨体がこのままツァンダに突っ込んじゃったら大変だからなぁ。街中歩かれるだけで被害が……」
「確かに、あんなものが都市に入ってしまっては被害は甚大だ。本人に破壊活動をする気がなくとも、あの巨体だからな……」
 樹の言葉にフォルクスが応えると、クロセルも言う。
「機晶姫は少女型からかけ離れれば離れるほど暴走しやすくなるといいます。10階建てのビルと同等のサイズともなれば、暴走しない方がオカシイのかもしれません。機晶姫を小さくリサイズするなら外のほうが都合が良いでしょう」
「めずらしく普通のこと言ってるね」
「……失礼な。目立ちたいのは山々ですが、何も目立つばかりがヒーローではありません。あらゆる事態を想定し、人員が不足しそうな所に回る縁の下の力持ち的なポジションとて、立派にヒーローの役処です」
「人員不足……本当にそうだな。まさか、外から足止めしようというのは我等だけなのか?」
 これだけの大きさの機晶姫を3人で止めるというのは、いくら何でも無理がある。
「いえ、まだ居ますよ、強力なのがね」
 クロセルの視線の先には、巨大機晶姫に近付く2頭のパラミタ虎と小型飛空艇の姿があった。

「いくら巨大な建造物のごとき機晶姫とは言え、破壊するには心が痛みます。しかし、ツァンダへ進行する以上は止めざるを得ません。心を鬼にせねばならないというのなら、俺は眼鏡を外しましょう」
 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は眼鏡を外すと、破壊への喜びを秘めた笑みを浮かべ、ラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)に叫ぶ。
「ラキ! お願いします!」
「オッケー!」
 ラキシスは大和と、もう1頭のパラミタ虎、伽藍に乗っているシーラ・カンス(しーら・かんす)にパワーブレスをかけた。そして、自分は虎から飛び降りて後方に下がる。小型飛空艇に乗った志位 大地(しい・だいち)が、博識で脚の構造を把握して財産管理の素早い計算能力を使ってもっとも脆い場所を分析する。ちなみに、こちらも眼鏡を外しているせいか微妙に目つきがコワい。
 トラッパーで弱点に罠を仕掛けると、それを目印として大和に言う。
「大和さん、そこです!」
「シーラさん、行きますよ! 貴方のタイミングに合わせます!」
 伽藍に乗ったシーラがパイルバンカーの紅爛を構える。
「紅爛、伽藍ちゃん、行こっか〜」
 轟雷閃と共に発射される杭が、巨大機晶姫の脛に打ち出される。殺気看破でその瞬間を正確に見極めて、大和もパイルバンカーの天地から轟雷閃を放った。
 派手な音と共に飛び散る破片。
 えぐられた脛。
 ぶっとい機晶姫の脚はこれでもまだ倒れないが、それでも僅かにぐらつくのが分かった。
「いい感じですわ〜。次はどこかしら〜、どんどん打ちますよ〜!」
 実に楽しそうである。

 その様子を眺めていたフォルクスは、少し脱力した顔で言った。
「……訂正だ。我等は必要ないのではないか? あの4人に任せておけば……」
「……いや、それは流石に難しいよ……。でも、なんかもう必殺技とかあってもおかしくない勢いだね……」
「何はともあれ、まずは進行を阻止するのが第一でしょう。足を壊して体勢を崩せば進入もしやすいでしょうし」
 クロセルは空を仰ぎ、巨大機晶姫の上体に近付いていく生徒達の数を確認する。霧雨 透乃(きりさめ・とうの)霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が口に向かい、他にも9名、計、11人。
 上部では、爆音が轟き始めた。巨大機晶姫の腕が1本落ちる。
「……………………」
 地響きと共に落ちた腕と肩口にいる人影を見比べ――3人は何か納得したような顔をして話を再開する。
「とりあえず、俺も足を攻撃するとかしか思いつかないけど……」
「対話重視の人も多いようなので、暫くは様子を見たいと思いますが、不明瞭なSOSサインからみても、とても正常な状態ではないでしょう。目に見えた暴走が始まったら、他の場所への攻撃を考えましょう。……まあ、今、中に入ろうとしているみなさんがぼこぼこ穴を開けてますが、腕も落ちましたが、それ以上の損傷は避けるということで」
「……うん。頑張ろう」
 方針が固まったところで、3人は散会する。
 樹とフォルクスは、パイルバンカーをぶちこまれていない方の脚を狙う。空飛ぶ箒で位置取りしたフォルクスが、一点に向けて連続で火術をぶつけた。そこに、氷術を同じく連発して、急激な温度差によって劣化させる。樹はパワーブレスを自身にかけ、フェイスフルメイスで劣化した部分を攻撃した。破壊しなくとも足止めなら出来るのではないかと考え、狙いは稼動箇所である。
 だが、砕けた膝から覗いたのは、やけに分厚そうな金属の塊だった。
「やっぱり、足は特別強化してるみたいだね。腕の2倍くらい太いし、これは、一筋縄ではいかないかも……」
「樹、SPの回復を頼む」
「えっ、もう? じゃあ、一回離れようか」
「それじゃあ、手に……」
「殴られたいか!?」
 脚から離れ、樹はフォルクスの首にアリスキッスをした。血を吸うのと同じだと思えば、首の方が手よりもやりやすい。
(身長差もあるしな……)
 手は、主従の誓いみたいで嫌だった。
(ふむ。実にいいスキルだ……。今日は、存分に使ってもらおうか)
 アリスキッスを受けながら、フォルクスはそんな事を考えていた。
 一方、クロセルはサンタのトナカイを駆って宙を飛んでいた。運転をトナカイに任せ、ソリという足場を確保する。歩くために体重が移動している時を狙い、ドラゴンアーツの怪力を使って攻撃する。
 膝関節を狙おうと思っていたが金属に素手はさすがにまずい匂いがする。そちらはフォルクスのアシッドミストでの腐食を待ち、それまでに軸足と見られる右足を重点的に攻めることにした。

 脚への集中攻撃が始まる少し前の話。
 神野 永太(じんの・えいた)は、心配そうに燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)を見遣った。巨大機晶姫を救いたいという希望を受けてここまで来た。とはいえ、同じ機晶姫を壊すということは彼女にとって辛いことではないだろうか。
「私を恨んでも構わない。……でも少しだけ、頑張って、我慢して、待っていて。……必ず貴女を助け出すから」
 決意を秘めた瞳で、ザイエンデは加速ブースター二基を全開にした。軽身功を用い、全速力で巨大機晶姫の体を駆け上がる。
 肩と腕の間の繋ぎ目が、頑丈に固定されていた。そこに、近距離から六連ミサイルポッドを全弾発射する。
 衝撃に、巨大機晶姫全体が揺れた。続けて、ザイエンデはパイルバンカーの一撃を叩き込み、爆炎波を併用して穿ち入れた杭をダイナマイトのように爆発させた。
 熱気に襲われ、距離を取る。
 この連続攻撃には流石に耐えられず、腕は外れて落ちていく。
 肩口からは無数の電気コードが垂れていて、爆発によって切断されたコードが未だに火花を散らしていた。
 ザイエンデはコードをどかしながら先に侵入し、小型飛空艇で上がってきた永太を迎える。中に入った永太は、内部のあまりの熱さに驚いた。コードの内部を通っている動力である熱気がまとめて噴出した結果である。
「ザイン、大丈夫か!?」
 慌ててザイエンデの身体を点検する。
「問題ありません。エンデュアと心頭滅却を使いましたから……」
「でも、腕が熱く……オーバーヒートしたら大変だ……」
 氷術を使って冷やしてやると、ザイエンデは若干柔らかい口調で彼に言った。
「……ありがとうございます、永太様」
「あんまり無茶しないでくださいね……。このコードは危険ですね。特に気をつけて進みましょう」

 赤羽 美央(あかばね・みお)は、小型飛空艇に乗って巨大機晶姫の背中に破壊工作を施していた。落ちていく腕を見て、ぽかんと口を開ける。後ろに乗っていたカーラ・シルバ(かーら・しるば)や、横に箒で浮かんでいる鳥羽 寛太(とば・かんた)もびっくりしていた。
「はわー、すごいです……あ、いけないです。早く離れないと」
 離れると同時、仕掛けた爆弾が爆発する。粉塵を撒き散らしながら、土壁が崩れた。
 侵入を果たすと、そこは小さな部屋だった。壊れた石造りの机めいたものや椅子が散乱している。
「うーん機晶石どこだろう? ここは、機晶姫カーラに期待大だね。きっと何か感じ取ってくれるに違いない!」
 寛太は、結構張り切った調子で言ってみたが、美央とカーラはそれをガン無視して部屋を調べている。そのうち、美央が白い、棒のような物を見つけた。
「何でしょうこれは……」
「むぅ、骨、みたいに見えますね」
 カーラの結論に、寛太はぎょっとして振り返った。
「ほ、骨っ!? この遺跡――機晶姫って一体なんなんだろう?」
「よし、次、行きますよー。カーラさん、どうですかー? 波動とか感じますー?」
 カーラは、両の人差し指を頭に当ててうなりだした。
「むむむ……」
 カッと目を見開き、指をある方角へと伸ばす。
「……キマシタ。こっちで間違いありません。ホントです」
 彼女の示した方向には壁が立ちはだかり、先には進めそうになかった。
「仕方ない、遠回りしようか……って、ええっ!?」
 寛太が驚くのも無理はない。美央は、当たり前のように壁に爆弾を設置していた。美央がファイアプロテクトをするのと同じタイミングで、壁が爆発する。
「な、ななな……」
「むぅ……規格外の機晶姫など許せません。破壊します」
 こう言って、カーラは新たに出来た通路に入っていく。美央も、ライトブレードを光らせながら後に続いた。
「さ、さすが武術部……」

 そして、ここにも破壊に勤しむ影が2つ。霧雨 透乃(きりさめ・とうの)霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)だ。
「携帯が使えないと不便だよねー。早くなんとかしなくちゃ!」
 後から入ってくる人のことを考えて少し奥に進んだ上で、透乃は盛夏の骨気を使ってがしがしと内部を破壊していた。見るからに危なそうなコードとかは泰宏に任せ、機械の箱とか、起き上がってきそうな骨とか、ゴーレムとして復活しそうな土煉瓦などを壊していく。
「よ〜し、やっちゃうよ〜!」
 コードを辿って、動力が途切れそうな所を狙ってハルバードで切断している泰宏は、熱気が出る度に「うぉっ!」とか叫んでいた。が、実際のところファイアプロテクトを使っているため、大したダメージはない。
「やっちゃん、切るのはいいけど、もうちょっと遠くのコードにしない? こっちまで熱いよー」
「おっ、分かった。んじゃあっちを……」
 そうして、巨大機晶姫の動力は確実に下がっていった。