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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

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魂の欠片の行方1~電波ジャック機晶姫~

リアクション

「面倒臭いが、ツァンダに突っ込まれたら大きさだけで街に被害が出るからな、しょうがない、やりますか」
 小型飛空艇に乗った閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、隣で浮いているレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)に顔を向けた。ヴァルキリーであるレイナは、光の翼を使って自らの力で飛んでいる。
 レイナが頷くと同時に、2人はスピードを上げた。静麻は飛空艇で直接口に、レイナは途中からバーストダッシュを使って身体を駆け上がって内部に侵入する。
 喉を降りると、その先には想像以上の光景が広がっていた。既に、壁は殆ど残っていない。あるのは何十体というゴーレムと、崩れた土の山。そこから次々に復活するやはりゴーレム。それは、もう白血球という役割を超えていた。ゴーレム達は破壊するものを求め彷徨い、時には同士討ちまでしている。
 だが、倒れても倒れてもゴーレムは復活し――
 まるで、土の地獄だった。
「これは……道に迷うことはなさそうだな。時間が無い。ゴーレムとの戦闘は極力避けて、足の付け根に行くぞ、面倒くさいからな」
「……はい、わかりました」
 正しい判断である筈なのに、面倒くさいという言葉を聞くとげんなりしてしまうのは何故だろうか。
 そう思いながら、レイナはソニックブレードを持ち直した。

 四条 輪廻(しじょう・りんね)は狸の耳を生やし、もふもふした尻尾を振りながら言った。
「いいな、俺達は機晶姫の倒れるタイミングを狙い、口から内部へ進入、アリスは禁猟区で回りへの警戒を怠らないように……ポン」
 誤解無きよう言っておくが、別にふざけているわけではない。超感覚で狸化すると、この「ポン」がどうしても語尾についてしまうのだ。
「ぷっ……ぷぷっ……あはは、了解、です。それじゃあ僕は大神さんの背中に乗って周囲に警戒……あははははっ」
 爆笑するアリス・ミゼル(ありす・みぜる)
「笑うな……ポン」
「だって、四条さん面白っ……あはははっ、いえ、とっても可愛いと思いますよー」
「俺とて、好きでポンポン言っているわけでは……」
 口を噤み、必死でこらえる輪廻。しかし。
「……ポン」
「あ、あははははははっ、もうだめーーーっ」
「仕方ないだろう、内部へ侵入したらそのまま一気に中心部を目指さなければならんのだ……身体能力を高めておくにこしたことは……ポン」
「あはははははっ!」
 腹を抱えながらも、周囲への警戒はきちんとやるアリス。一方、白狼化し、その彼女を背中に乗せている獣人の大神 白矢(おおかみ・びゃくや)は冷静な口調で言う。
「理解はいたしましたが、目指す場所はどこに?」
「目指すは心臓部……末端部分が侵入が容易であることと、人型であることを考えれば、中心は心臓部の可能性が高い……ポン」
「了解でござる。それならば口から入って一気に体を駆け下りるのでござるな……ぷぷっ……いえ、失礼、なかなか似合っているでござるよ」
「可愛い、可愛いよーー」
「かわいいとか言うな……ポン」

「ルイ、僕の機晶石の反応が、変化してきているのだ」
 リア・リム(りあ・りむ)は、心持ち不安そうにルイ・フリード(るい・ふりーど)を見上げた。声の主に何やら危機が迫っている感じがしてここまで来たが、その感覚に更なる切迫感が加えられていた。ファーシーはまだ「まもの」には成りきっていない。とにかく早く彼女の元に向かい接触を試み、「彼女」を救わなければいけない気がするのだ。
 救う方法は必ずある。きっと、必ず。
「もう少し待ちましょう。中の機晶石はともかく、器である巨大機晶姫はもう少しで止まりそうです。倒れる前に入るとなると倒れた時の衝撃も含めて危険ですよ。それから入りましょう。大丈夫ですよ。間に合います」
 ルイは得意のスマイルを浮かべる。リアは、少しだけ表情を和らげた。
(それにしても、なんとまぁ……巨大なお人ですこと。リアを一人では行かせません、ワタシも一緒です。何か――良いものを見られそうな気がするのですよ)

 巨大機晶姫中枢部。
 衝撃波に襲われた生徒達が起き上がる。機晶石の発した波動は言葉通り「衝撃」でありかまいたちとかではない為、とりあえず外傷を負ったものはいなかった。ファーシーの暴走が生み出したゴーレムも衝撃で全滅している。
 溜まっていた力を一度開放したファーシーは、少し落ち着きを取り戻していた。
「……無事……?」
 ファーシーが聞くと、皆それぞれ答えを返す。
「大丈夫です」
「こちらも」
「問題ないな」
「「イエス・マイロード」」
「…………」
「びっくりしたっすよ〜」
「うー、でも痛かったよ〜」
「このコードを解いてくれ……」
「これが、ロボの力か……!」
「今のはロボじゃなくて魔物の力だよー」
「そろそろ離れてください」
「あ、ごめん」
 何人いるんだか。
「……早く、わたしを壊して逃げて……また同じことが起こる前に……」
「それは出来ません」
 ザカコが言うと、イーオンも同意して機晶石に目を向けた。
「俺が思うに……おまえに巻きついているそのコードを切れば巨大機晶姫の暴走は止まるのではないか? 切り離されたおまえが完全に魔物化した時にどうなるかはわからん。しかし、銅板とやらが見つかるまでの時間は稼げる」
「そうですね。探す組と切断する組に分かれて……」
 永太が提案すると、電話をしていたサイアスが報告してきた。
「いえ、銅板らしきものは見つかったそうです。今、御神楽校長がこちらに向かっているということで……何ですか? クエス。はい……はい……」
 サイアスが電話に集中する。そこに、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が走ってきた。
「おい! 方向をかえろ! このままじゃ街につっこむぜ!」
 ここに来る途中で、ラルクは胴体に開いた穴から現在位置を確認していた。森に突入するのはもう時間の問題で、森を通過してしまえばそこはもうツァンダである。
「その前にみなさん、どこかに掴まってください。これから巨大機晶姫にひざカックンを仕掛けるそうです」
 やけに穏やかな口調で、サイアスが言った。

「遠慮するなと言われても、そういう訳にもいかないですよねえ」
「もっとも避けるべきは、彼らが内部に侵入したままツァンダに着くことだ。全員が脱出するまで俺たちはあれを抑えきり、それから壊すべきだろう」
「壊してしまえばいいんですよ。中に居るのは皆、契約者……死ぬことはないでしょう」
 クロセルと司が意見を交し合っていると、パラミタ虎の大河に乗ったままの譲葉 大和(ゆずりは・やまと)がさらりと言った。
そこで、後からやってきた生徒達の1人、楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)が手を上げた。
「すみません、巨大機晶姫を転ばすというのはどうでしょうか? そうすれば、動きを止められますし、胴体は壊しませんから中の人達も安全です。転ばす時だけ連絡を取って、待機してもらえれば……。そして僕は、中に入ります。機晶石が魔物になるなど聞いたことがありません。魔に犯される際に何らかの兆候があった筈。それを対話して聞くことが出来れば、彼女を助けることも可能かもしれません」
「フロンちゃん、その話のった! そうよねぇ、まだまだ聞いてことも、たくさんあるわよねぇ」
 うんうん、と頷いたのはヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)だった。転ばせて中に入るという
提案は、ヴェルチェにとって願ってもないことだった。実を言えば、この巨大機晶姫は以前から狙っていた遺跡で、ヴェルチェは元の場所も知っている。今日こそは探索しようと準備してきたのに、まさか機晶姫で立ち上がるなんて予想外で、飛行手段が無くて困っていたのだ。
 ファーシーに聞いて、どこかにお宝があるようならぜひ持って帰りたい。
「そうね、人手が欲しいってサイアスも言ってたわ。他に中に入れる人がいれば……」
 クエスティーナも同意して周囲を見回す。すると、次々と生徒達から手が上がった。
「プレナ達も行きますー。対話で解決できる問題かもしれませんし……! ファーシーさんが助かれば、お友達にだってなれるはずです。出来るだけ体を傷つけないよう、プレナ達は頑張ってみます。ね、ソーニョ君」
 プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)が、肩に乗ったソーニョ・ゾニャンド(そーにょ・ぞにゃんど)に笑顔を向けた。
「僕も、力で解決するのは望む所じゃないです。機晶姫さんの気持ちを考えると……。箒は体に合わない大きさだけれど、プレナさんを乗せて頑張って運転します」
「自分も行こう。機晶石と話をしてみたい」
 鬼崎 朔(きざき・さく)に続いて、浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)も言う。
「電波の台詞を聞く限りじゃ本人は望んでこんな事をしてる訳じゃ無さそうなので、出来れば助けたいです。身体はともかく、機晶石は今、落ち着いているんですよね?」
「ええ、一時的なものみたいだけど」
 クエスティーナが答える。
「では、蘭華と一緒に行きます。……それでいいですね?」
 最後は蘭華・ラートレア(らんか・らーとれあ)に向けて言うと、蘭華は頷いた。
「もちろんです。マスター。ボクも……気になります」
「私も行きます。助けを求める者を、放っては置けませんから。中はゴーレムで溢れているようですし、人手が要るということならお手伝いします。連絡がつくように、蒼はこちらで待機していてください」
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)片倉 蒼(かたくら・そう)に頼むと、燕尾服を着た蒼は、少しだけ心配そうにして言った。
「わかりました。くれぐれも無茶はしないでくださいね。禁猟区をかけて、反応があったらすぐに電話しますから」
 エメが苦笑すると、プレゼントボックスに入った猫型機晶姫のアレクス・イクス(あれくす・いくす)を抱えたバスティアン・ブランシュ(ばすてぃあん・ぶらんしゅ)が言う。
「エメ様、私もお供いたしましょう。私は幸運を呼ぶのですよ。本当ですとも」
「知っていますよ。ありがとうございます」
「巨大機晶姫……こうして改めてみると大きいな」
 虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)が巨大機晶姫を見上げながら言う。
「俺も、是非接触を試みてみたいと思っていたのだが、大きすぎてこのままだと内部に侵入する事が出来ないと思っていたんだ。それに、俺は銃型HCを持っている。マッピングしていけば、戻る時に役に立つだろう」
「それは助かるわ。私もお尻からのルートの地図は作ったけど、口からのルートは記録していないから」
 どこから入ったんだ……と複数名が心中で突っ込む。
「じゃあ、俺が踵を狙ってやる。アキレウスの踵じゃねぇけど、どんなものにだって弱点はある。それに大きいからこそ、足の損傷は移動に支障がでるんじゃねぇかな。無闇やたらに攻撃して傷ばかり広げるわけにはいかねぇ」
 轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)が踵を受け持つと、アルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)が口を開く。
「私は膝裏を集中攻撃……膝を壊されれば、まともに立てまい」
 膝裏を壊される巨大機晶姫を想像して、一同は思った。
 それは……ひざカックンというやつじゃないのか?
 だが、名称はともかく、確かに効果のありそうな攻撃ではある。
「そういえば……俺達、膝裏は攻撃しませんでしたね。なぜでしょう?」
 思い出したようにクロセルが言う。無意識的に、間抜けになりそうなひざカックンを避けていたのだろうか。
「小型飛空艇を使う。操縦と攻撃を同時に行うのは難しい……操縦はテオに任せる。しっかり……支えていてくれよ」
 アルフレートはぼそっと呟きつつ、テオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)の肩を軽く叩いた。
「ああ、任せておけ」
「その前に、オレが巨大機晶姫の眼前で情報攪乱をしてみるよ。視力があるかは知らないけど、まっすぐにツァンダに向かっているんだ。あると考えるのが自然だろ? 目眩を起こさせることが出来れば、転ばせやすくなるんじゃないかな」
「情報撹乱か……なるほど、そいつはいいな。よろしくな!」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)に雷蔵は言うと、巨大機晶姫の方に走り出した。一度振り返り、ルミーナに向けて言う。
「ルミーナ! あー……あのでかい機晶姫、もし無事に止めることができれば……修復とかできないかな? 修復が無理なら、新しい体とかさ。ビジネスにならないことは嫌いかもしれねぇけど……考えてみてくれないかな? それじゃ、行って来ます!」
「僕達も行きましょう」
 フロンティーガーの言葉で、中に入る面々――【対話する者】も移動する。
 クエスティーナはサイアスに連絡を入れ、強盗 ヘル(ごうとう・へる)がこれまでに確認できただけの内部侵入組の名前を一同に教える。残った生徒達は、連絡できる相手に電話を始めた。
「転ばせるのかー。早めに降りておいてよかったなー」
 腕を落とした終夏が、のんびりとした口調で言った。