波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

リアクション公開中!

【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回) 【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

リアクション

「どいて!」
 テティスが隆を押しのけ、コーラルリーフで牙竜の治療に当たる。結局牙竜は何があっても倒れず、立ったまま気を失っていた。
「なぜそこまで意固地になる」
 牙竜を横目に苛立った様子でそう言う隆に、背後からクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が声をかけた。
「……それは俺がお前に尋ねたいところだな……。お前のリフル……いや、ゲイルスリッターに対する執着心はもはや異常とも言える……。何か特別な事情でもあるのか……?」
「貴様には関係のないことだ」
「そうか……そちらにいかなる事情があろうと、俺もみすみすリフルを倒させるつもりはない……。その意味では確かに関係ないかもしれんな……」
 隆とクルード、そしてクルードのパートナーユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が戦闘態勢に入る。
「隆! だって隆がむきになるのは……!」
「リニカ、黙っていろ」
 リニカは何か言おうとしたが、隆の強い口調に黙り込む。隆とクルードとを交互におろおろ見つめるリニカは、いつもの彼女らしくなかった。

「いいか、イーディ。俺はミルザム様を守るためにリフルと戦う事にした」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)がパートナーのイーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)に言う。
「え」
「けど、イーディがその横で『何をしようと』お前の自由だ。分かったな」
(ヴァンガードとしてリフルは止めないといけないが、イーディの手助けもしてやりたい……。イーディがリフルの説得をする間、俺がリフルを引きつけるしかないな。なんとか時間が稼げればいいんだが)
「……ダーリン……ありがとう!」
 イーディは翔の目を見て彼の意図を解すると、リフルのところへと急いだ。
翔は隆の隣へと踏みだし、ヴァンガードエンブレムを見せながらリフルを手
招きする。
「さぁ、来いよリフル。お前の大好きなヴァンガードエンブレムだぜ」
 だが、リフルは以前のようにエンブレムに過剰な反応を見せない。
「駄目か……。ち、もたもたしてるうちにまた厄介そうなのが来たぜ」
 クルードの後ろを見る翔の視線の先には、こちらへと向かってくる
アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)の姿があった。
「クルード、遅くなってすまない……」
「……来てくれたか」
アシャンテは今回の式典には参加していなかったが、クルードからの援護要
請を受けてこの場に急行した。
「……私はこの一件に深く関わるつもりはないが……友の思いは果たさせる。
悪いが、邪魔をさせてもらうぞ……」
 リフルを元に戻すというクルードの意思に従い、彼女も翔や隆と交戦する姿
勢を見せる。
「よし……ユニ、アシャンテ、行くぞ……!」
「はい!」
「うむ」
 クルードのかけ声で、ユニとアシャンテが動く。ユニはまず翔たちがリフル
に近づけないようファイアストームで炎の壁を作ると、次いでサンダーブラストを雷術で操り、翔たちの周りに正面だけ空いた檻を作った。
「アシャンテさん、今です! お願いします!」
「よしお前たち……大怪我をさせない程度に暴れていいぞ……。ただし、あいつら以外にはてを出すなよ……」
 ユニの作ったチャンスに、アシャンテは野生の蹂躙のスキルを使用する。呼び出された魔獣の群れが、翔立ちに向かって一斉に走り出した。
「ち、派手にやりやがって……。リニカ! お前はそこでじっとしていろ。――おい貴様、状況が状況だ。手を組むぞ」
「まったく、とげとげしいやつだねえ」
 隆と翔は互いに庇護者のスキルを使用する。
「獣なら火を怖がるはずだ」
 更に翔は、魔獣の群れに向かって爆炎波を放った。
 野生の蹂躙の威力は強力だったが、防御スキルと翔の機転のおかげで、二人はなんとか持ちこたえる。立ち上がってくる彼らを見て、アシャンテは少し驚いたように言った。
「ほう、なかなかやるな……どうするクルード? あちらもそう簡単には諦めそうにないぞ……」
「……動きを止めるしかあるまい……。峰打ちで気絶させる……。あまり傷つけるわけにもいかないからな……」
「小細工なしというわけか……。おもしろい、その方が接近戦主体の私の性に合っている……」
「なに悠長に話してやがる!」
 作戦を相談する二人に、翔が破邪の刃のスキルで攻撃を加える。その時翔の目にイーディの後ろ姿が映り、彼は思わずリフルに向かって叫んだ。
「お前のことを心配して、こんな危険な場所まで来てるやつらも居るんだぞ! 
いい加減目を覚ませよ!」

「オレに君を助ける義理はないんだが、まあその扇情的な衣装をまとった姿が見られなくなるのも少しもったいないからな」
 各勢力がぶつかる中、国頭 武尊(くにがみ・たける)はミルザムの護衛に当たっていた。
「武尊さん、ゲイルスリッターが!」
 その武尊に、パートナーのシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)がリフルの接近を伝える。
「ち、やっぱり来たか」
 武尊はリフルを迎え撃とうと二丁の拳銃に手をかける。が、武尊が銃を抜くよりも早く天城 一輝(あまぎ・いっき)が銃撃を行った。
「任せろ」
 一輝がシャープシューターを用いて硬質ゴム弾で狙ったのは、リフルの軸足足首。リフルの素早さは守りを犠牲にしているからであり、さらに武器を持つ上半身に意識が集中しているのなら、無防備な足首を撃つことで比較的たやすく戦闘不能に出来る筈だと考えての行動だ。
 ゴム弾は壁や障害物に跳ね返り、リフルの足首を直撃する。予期せぬ跳弾での強烈な攻撃に、リフルはバランスを崩した。
「今のうちに!」
 一輝のパートナーローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)は、ミルザムにブラックコートを渡してディフェンスシフトを使用する。
「すまねえ!」
 武尊たちは渋井 誠治(しぶい・せいじ)アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)といった蒼空学園生を先頭に、ミルザムを連れて校舎へと向かっていく。しかし、そこにある意味リフルよりも厄介な二人組が現れた。神代 正義(かみしろ・まさよし)とそのパートナーフィルテシア・フレズベルク(ふぃるてしあ・ふれずべるく)である。
「先日は何者かの邪魔が入りすんでのところで捕り逃がしてしまったが、今回こそ襲撃事件の犯人を捕まえるぞ!」
「人がいっぱいねぇ。今日はお祭りでもあるのかしら。私りんご飴が食べたいわぁ♪」
 正義はリフルを見つけると、早速彼女に話しかける。
「おぉ、そこの少女! ここら辺で不良を見かけなかったか?」
 リフルは返答代わりに鎌を振るった。
「おわっ! いきなり何をする! まさか貴様も不良グループの一人だったとは……!」
「……へぇ、あの子が真犯人なのねぇ」
 反撃しようとする正義の横で、フィルテシアが漏らす。彼女は笑顔のままリフルを警戒する体勢に入るが、このままの方が面白いので正義に真相を伝える気はない。その代わり、校舎内に消えようとする武尊の背を指さして言った。
「正義ちゃん、あれ」
「なんだフィル、今それどころじゃ……ってあれは! 見つけたぞぉぉぉ!!大人しくお縄につけぇぇぇ!」
 正義は武尊の姿を認めると、リフルなど眼中にないかのように彼を追いかけ始める。
「あなたのことはよく知らないけどぉ……心配してくれてる人がたくさんいて、しあわせものねぇ」
 フィルテシアもリフルにだけ聞こえるようそう呟くと、正義に続いた。

 いくつか邪魔が入って足止めを食っていたが、リフルもミルザム追跡を再開しようとする。一輝が再びアーミーショットガンを構えると、久世 沙幸(くぜ・さゆき)がリフルの前に飛び出して叫んだ。
「リフル、止めて!」
 それと同時に沙幸のパートナー藍玉 美海(あいだま・みうみ)がリフルの鎌を押さえる。だが、決して攻撃をしようとはしなかった。
「私にリフルさんを傷つける気はありませんわ。どうか沙幸さんの話を聞いてあげてください」
 沙幸はリフルに抱きついて声を絞り出す。
「駄目だよリフル、こんなことしちゃ。私がリフルに傷つけられるのは我慢できるけど、リフルが誰かを傷つける姿なんてゼッタイに見たくない!」
 沙幸の声もむなしく、リフルは美海を振り払うと沙幸に斬りかかる。
「邪魔だ」
「美海ねーさま! きゃっ」
「危ねえ!」
 頭を押さえる沙幸を間一髪救ったのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だった。
「無茶しやがって。死にてえのか」
「だって、私にはどうすればいいか分からないんだもん! でも、どうしてもリフルを止めたくて……気がついたら、体が勝手に動いてた。ごめんなさい……」
「そうか」
 ラルクは鋭い眼差しで真っ直ぐリフルを見つめ、呼びかける。
「おい、リフル! こいつらはお前に好意をもってたんじゃねぇのか!? お前はそんなやつらすら襲うのか!? この馬鹿が!!」
「理解に苦しむことを言うやつばかりだ」
 リフルは表情一つ変えずに答える。
「……簡単に話し合いができたんじゃ苦労はねぇか。この際、多少の無茶は仕方ねぇな」
 抱え込んだ沙幸を降ろすと、ラルクはリフルに向かって突進していった。
「リフル、これ以上暴れんのはやめろ! 洗脳なんて気合いでぶっ飛ばせ!」
 リフルに話しかけながら、ドラゴンアーツを使用しナックル型の光条兵器で攻撃を繰り出すラルク。リフルは鎌のリーチを利用してラルクの攻撃を捌き、懐に潜り込まれないよう立ち回った。
 一旦両者が互いに距離を取る。すると、その中間点に突如スプレーショットが放たれた。
 皆が弾丸の飛んできた方向に注目する。その先にいたのはシャミア・ラビアータ(しゃみあ・らびあーた)だった。彼女は高所でブラックコートを靡かせ、両腕を組みながら太陽に背を向け仁王立ちしている。トレードマークのシニヨンも、今日は解いてあった。
「随分と調子良さそうね。リフルとその他の皆々様!」
 シャミアはそう叫んで眼鏡を投げ捨てると、ラルクの近くに飛び降りる。
「噂のミルザム女王候補を一目見みようと思って来てみたら……何やら厄介なことになっているみたいね」
 シャミアが負のオーラをまとったリフルを見て言う。
「ああ。リフルのやつ、すっかり洗脳されちまってやがる」
「噂は本当だったのね。今日こそ私の本領を発揮するとき。なんとしてもこの場を収めてみせる!」
「だが、このままじゃ話し合いどころじゃねぇ。他にリフルを説得するつもりのやつらとも協力して、なんとしてでもあいつの戦闘力を削いでやる必要があるだろうな」
「そうね……みんな、行くわよ!」
 シャミアのかけ声で、ラルクや他の仲間たちは一丸となってリフルの洗脳解除へと動き出す。
「く……なんとか犠牲者が出る前にリフルの動きを止めないと」
 大勢の生徒がリフルに近づいていくのを見て、一輝がリフルの足首に狙いを定める。すると、今度は日比谷 皐月(ひびや・さつき)が彼の前に立ちはだかった。
「なぜ邪魔をする」
「オレは、女王候補を護る為にヴァンガードになったわけじゃねーよ。誰かの大切なモノを護りたかっただけだ」
 皐月はいつになく真剣な表情で語る。
「だからリフルには手を出させないと?」
「傷付けるだけで誰かが救えるなら……オレは此処に立っちゃいねーんだよッ!!」
「皐月のお人好し加減には呆れたものですね……ですが私も、何もせずに引き下がるのは矜恃が許しません。全力でかかります。悪く思わないでくださいね」
 皐月のパートナー雨宮 七日(あめみや・なのか)はそう口にすると、最後に「皐月、背中を預けます……頼みましたよ」と付け足す。いつも皐月に毒ばかり吐いている七日がこんなことを言うのは初めてだった。
「俺もミルザム様の護衛を放棄するわけにはいかない。衝突は避けられないということか」
 一輝が引き金に手をかける。自ら攻撃は仕掛けず防御に専念するつもりの皐月は、ディフェンスシフトで物理攻撃に備えた。七日は先の先のスキルを用いて防御を犠牲に素早さを引き上げるも、一輝までは距離があって間に合いそうにない。
 だが、皐月のもう一人のパートナー如月 夜空(きさらぎ・よぞら)がこの危機を救った。
夜空もシャープシューターを使って屋上から一輝の銃を狙撃したのだ。
「よーし、ナイスショット! ったく、遠距離から攻撃されたら手も足も出ないじゃん。それに襲撃者を守るって……背後からざっくりやられたらどうすんの。しょーがない、二人がどっちからも攻撃されないようにあたしが一肌脱いでやりますか」
 七日は一輝の銃が弾かれているうちに距離を詰め、一輝の目の前で目くらましの光術を放つ。次いで足払いをかけ、雷術で追い打ちをしようとしたところにローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)がタワーシールドを構えて割って入った。
「すまん、ローザ」
「いえ。それよりお二人とも、これ以上私たちが争う必要はないようですわ」
「どういうことだ?」
 ローザの言葉に、一輝が怪訝な顔をする。
「ミルザム様たちは無事校舎内に避難されたようですし、さすがのリフルさんもあれだけの人数に対応されてはその後を追う余裕はないようです」
「……とりあえずミルザム様を守るという使命は果たせたということか」
「そういうことですわ。まだ油断はできませんが」
 一輝が銃を降ろす。それを見て皐月たちも戦闘態勢を解いた。
「わーん、オヤブーン!」
 その瞬間、一人の幼い少女が一直線に一輝の元へと駆け寄ってくる。それは一輝のパートナー、アリスのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)だった。
「大丈夫? 怪我してない?」
 コレットは潤んだ瞳で一輝を見上げる。今回コレットの役目は護衛ではなく回復。戦闘が始まったら無理せず隠れているよう一輝からきつく言われていて彼女は、戦いが終わるや否や、怖さも忘れて飛び出してきたのだ。
「ああ、大丈夫だ。怪我はない」
 一輝がぽんぽんとコレットの頭を撫でる。その様子を見て皐月が言った。
「おやおや、こんな小さな子までいたのか。こりゃ心配させちまって悪かったな。……でもまあ、大した戦闘にならなくてよかった。痛いのとか苦しいのとかは誰だって嫌だからな」
 皐月は後ろを振り返ると、遠くのリフルを見つめながら誰にとはなく語り出す。
「いつもは無表情なリフルが、友達と話している間だけは楽しそうに見えたんだ。放っておけない、最初にそう思ったね。それに、リフルが傷ついたらきっと泣くやつが大勢いる。だから守ろうと決めたんだ」
「リフルが元に戻ればミルザマ様への危険も減る……それは俺にとっても望ましいことだ」
 一輝もリフルを見つめて静かに言った。

「えー、あたしの出番もう終わりぃ?」
 皐月たちが戦いを止めたのを見て、夜空がつまらなそうな声を上げる。
「はーあ。ま、後は説得組の活躍でも見せてもらおうかね」