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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回) 【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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「ふう……」
 誠治たちがちょうどそれぞれの作戦を確認し終えたところで、ようやく質問攻めから解放されたミルザムが前の方にやって来た。
「お疲れさま。一息吐きたいところだろうけど、ちょっといい?」
 明子はミルザムにすっと近づいていく。
「こうして今護衛についてるけど……別に貴女に特別思い入れがあったワケじゃないのよ。ただ最初に動いたのが貴女で、対抗馬が気に入らないってだけ。だから、これからあなたのことを知りたいの」
「嬉しいですわ」
 ミルザムが笑顔を浮かべる。明子は軽く周りを見回すと、小さな声で言った。
「私のパートナーには、自分のことをまだ兵器だとか使い捨ての飼い犬だとか思ってる子がいるの。貴女のシャンバラ王国は、そんな私のパートナーたちに何をくれるの?」
「難しい質問ですわね」
 ミルザムは明子の問いに真摯に向き合い、ゆっくりと言葉を紡いでゆく。
「価値や居場所を与える……そう言うことは簡単ですが、価値や居場所というのは一方的に与えるものではないような気がします。ただ、誰かが苦しんでいたら自然に誰かから手が差しのべられる、そんな国を私は作りたいと思っています。……こんな曖昧な答えでは駄目でしょうか」
「ううん、ありがとう。うん、そっか」
 明子は満足してミルザムとの話を切り上げる。入れ替わるようにして緋桜 ケイ(ひおう・けい)がミルザムに話しかけた。
「ちょっと話したいことがある」
 今日のミルザムは休む暇もない。しかし、彼女は嫌な顔一つ見せなかった。
「ゲイルスリッターの狙いは明らかにあんただ。クイーン・ヴァンガード襲撃事件も、あんたの護衛を減らすためだと考えれば合点がいく。あんたを狙う人物がリフルを操っているんだろう」
「でしょうね」
 ケイのパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)もミルザムに言う。
「リフルの洗脳は、仮面や大鎌といった道具に頼らなければならぬ不完全なものであった。恐らく、長時間洗脳状態を維持することはできぬのであろう。ゲイルスリッターとして戦い、逃走を繰り返す度、黒幕の元へ戻って調整を受けていた可能は高い。ゆえに、黒幕との繋がりを絶つことで、リフルが元に戻ることもありうる」
「そして、その黒幕というのが」
 ミルザムがケイの顔を見つめる。
「思い当たるのは一人しかいない。そう、ティセラだ」
 ケイもメイコと同じ推測をしていた。
「やはり……」
「だが、今回の襲撃には何か違和感がある。既に正体がばれ、こんなに警戒もされている中では、襲撃を行ったところで、その成果はたかがしれているだろう。そもそも、これまで闇討ちをしていたゲイルスリッターが突然堂々と姿を現したのも妙な話だ」
「リフルさんは囮かもしれないと?」
「ああ。ティセラが最も欲しているのはあんたの命じゃない」
「……女王器!」
 ケイの考えていることを理解し、ミルザムの顔色が変わる。
「その通り。朱雀鉞青龍鱗が危ない」
「黒幕を探し出すため、わらわとケイは探知系のスキルを総動員させておるが――」
「それだけじゃ万全とはいえない。女王器のありかを教えてもらおう」
 ミルザムは一瞬戸惑いの表情を浮かべる。しかし、きっぱりと言った。
「女王器の保管場所を易々とお教えすることはできません。それに、保管場所を警備したら、ここに女王器があると言っているようなものではありませんか」
「しかし――」
 ケイは言いかけて、突如背後を振り返る。襲撃を警戒していた他の生徒たちも一斉に反応した。
「おや、随分大人数でのお出迎えだね」
 列の後ろから女の声が聞こえてくる。
「誰だ! 近づくと撃つぞ!」
「別にいいよ」
 フラムベルクの威嚇にも、女は止まる様子がない。フラムベルクは予定通り弾幕援護を行った。
「みんな、避けて!」
 それに合わせて明子がファイアストームを放つ。当然のように二人の技をくぐりぬけてきた女に、今度はサーシャがブラインドナイブズで襲いかかる。しかし、女はこれも難なく光条兵器で受け止めた。
「そんなにピリピリした空気出してちゃ、隠れてても意味ないって」
「ここは通さないよ!」
 女の影がどんどん接近してくるのを見て、明子チーム最後の砦、九條 静佳(くじょう・しずか)がその前に出る。静佳は後の先のスキルを使いながら、紋章の盾を構えた。
「ボクと真っ向勝負する気? いい度胸してるね」
 女が光条兵器を振るう。静佳は盾でこれを受け止めた。
(く……っ! 軽く払っただけなのに)
 光条兵器と盾とが接触した瞬間、静佳はまるで二階から地面に叩きつけられたかのような衝撃を感じる。やがて体中を痺れが襲い、脚に力が入らなくなった静佳は、意思に反してその場に崩れ落ちた。
「通るよー」
 女は静佳を跨いでさらに進む。
「まずい……予想以上に押されてる。予定変更だ。ハティ、ヒルデ姉さん、二人で怪我人の手当に! キミはミルザムの守りに専念してくれ!」
「分かりました」
「了解よ」
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)の指示で、ハティ・ライト(はてぃ・らいと)ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が怪我人の元に急ぐ。
「ごめんなさい、頼むわ!」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)はミルザムを連れてその場を離れた。
「うおお!」
 誠治自身は弾幕援護を使う。
「こりゃまた随分と強そうなのが現れやがったな……だが、ミルザムの逃げる時間さえ稼げりゃ俺たちの任務は成功だぜ!」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)はシャープシューターで狙いを定め、弾幕の上から二丁の拳銃でスプレーショットとクロスファイアを重ねた。女は無数の弾丸と炎に包まれる。武尊のパートナーシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は、探知スキルを駆使して女の位置把握に努めた。
「む……鬱陶しいなあ。しょうがない。それっ」
 女が弧を描くように光条兵器を振り回す。弾丸と炎は一瞬にして振り払われた。
 女の全身がはっきりと見えるようになる。緑色の髪をしたポニーテールの若い女。手には剣の形をした光条兵器が握られていた。
「そこよ!」
 女の出現場所を予想していたシーリルは、即座に毒虫の群れを放つ。毒虫の群れは確かに女に攻撃を加えた。しかし、女は涼しい顔をしている。
「効いてない……」
 シーリルにはその理由が分からなかった。
「残念。狙いはよかったと思うけどね。ボクに『』は相性がよくない。これ、テストに出るかもよ」
 女のふざけた発言に、シーリルは体を震わせる。
「ティセラじゃ……ない?」
 全く見覚えのない女が襲撃してきたという事実に、メイコ・雷動(めいこ・らいどう)は頭が真っ白になって動けずにいた。今回の件にティセラは関係がないのか? だとすれば一体この女は? 様々な疑問が一気にわき上がる。
「あんたがリフルを操っているのか?」
 そのうちでも最も重要なことを、ケイが代わりに尋ねてくれた。
「ん、そうだけど?」
 女は悪びれもなく即答する。
(この人がリフルちゃんを……!)
 神代 明日香(かみしろ・あすか)も、リフルを洗脳しているのはティセラだと思っていた。しかし、すぐに頭を切り換えて今どうすべきかを考える。彼女がまず気になったのは、女の光条兵器だった。
(あの光条兵器……剣の形をしていますが、先ほど振り回したときにはもっと長く、そして曲がっているように見えました。……気のせいでしょうか)
「そうか……あんたがリフルを!」
 ケイが女に飛びかかる。
「おっと」
 対応して女は光条兵器を振るった。それは鞭状に変形して伸び、ケイの腕に巻き付く。
「何!?」
 これにはケイも驚く。
蛇腹剣!?」 
 明日香も思わず声を上げた。
「へぇ、地球人はこれのことそう呼んでるんだ。ボク、この武器気に入ってるんだ、ぽいっと」
「ぐあっ」
 女がケイを投げ捨てる。
「ケイ!」
 カナタは慌ててケイの元に駆け寄った。
「なんてことを……許しません!」
 明日香は女に攻撃をしかけると見せかけて、光術を放つ。
「モヒカンスパーク!」
 瞬時にそれを悟った武尊も、光るモヒカンと光術の合わせ技、『モヒカンスパーク』をお見舞いした。
「うわ」
 相手が虚を突かれたのを確認して、明日香はすかさずその身を蝕む妄執の体勢に入る。
「この反応は……その身を蝕む妄執かな? なかなか高度な技を使うね。でも、やらせないよ。目が見えなくてもキミたちの場所くらい分かるからね」
 女は鞭モードの蛇腹剣で武尊をなぎ払うと、そのままの勢いで窓を叩き割る。そして窓枠を絡め取った蛇腹剣を剣状に戻して手を離し、反動を利用して明日香の腹部に膝蹴りをめり込ませた。
「うっ……」
 明日香はうめき声を上げ床に突っ伏する。
「こういう使い方もある。いやあ、実にいい武器だよ」
 ぐるりと回って派手に窓を割った蛇腹剣が、完全な剣状になって女の手に戻ってくる。
「さ、後は残りを片付けてっと」
 そのとき、遅れてヒーローがやってきた。
「ようやく追いついたぞぉぉぉ!」
 そう、武尊を追っていた神代 正義(かみしろ・まさよし)だ。だが、さすがの正義も状況を見て異変に気がつく。
「む? 一体これはどうなっているんだ?」
「よう……やっぱ今回も来たな……君にも分かるよう簡単に言ってやると……こいつが悪の親玉だ……」
 武尊は息も絶え絶えになりながら正義にそう伝える。
「なんだと!? お前が女番長だったのか! くらえっ!」
 正義は女にソニックブレードを放つ。が、体ごと簡単にはじき飛ばされてしまった。
「ぐ……つ、強い……」
 正義も廊下に倒れる。
 自分がやられたらここを突破されてしまう。明日香は残り少ない体力を振り絞って立ち上がった。
「まだ立てるの? もうやめときなって。よくやったよ。キミたち十分強い」
 女が感心したように言う。
「冗談じゃありません……」
「じゃあ没収縲怐v
 アルティマ・トゥーレを放とうとする明日香から、女は高周波ブレードを蛇腹剣で奪った。だが、明日香にはまだ則天去私がある。
「はああああっ!」
 明日香の最後の力を乗せた拳――それは女の顔面寸前で止まった。今度こそ限界を迎え、明日香も力尽きる。
「……まさかここまでやるとはね。正直ちょっとびっくりしたよ。敬意を表して、これは返しておこう」
 女は高周波ブレードを明日香の脇に置く。
「さてと、それじゃ行くとしますか。思ったより時間食っちゃったなー」

「咄嗟に飛び込んでしまいましたが、ここでしたか。もう少しマシなところに逃げられていれば……」
 菅野 葉月(すがの・はづき)が後悔の言葉を口にする。
 ここは放送室。葉月とパートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、アリアとミルザムの二人を連れて、この部屋に駆け込んでいた。
「あの状況じゃ仕方ないよ。それより、これから何ができるかを考えよう」
 ミーナが葉月を励ます。
「その子の言うとおりよ。こうなったら、あの女が入ってきた瞬間に総攻撃をかけましょう」
 アリアがそう提案した。
「総攻撃ですか。確かにそれしかありませんね。安全な場所までミルザム様を送り届けたかったのですが、今からではもう間に合いません」
「開き直って攻勢に出れば、あいつも面食らうかもしれないしね!」
 葉月とミーナはアリアの考えを受け入れ、三人は扉の前で待機する。廊下からは激しい物音が定期的に聞こえてくる。あの女が一つ一つ部屋の扉を破壊しているのだろう。
 やがて女の足音が放送室の前で止まる。三人は息をのんでそのときを待った。
「ここはどうかなっと」
 まるで豆腐か何かのように、すっぱりと扉が切り裂かれる。その向こうから、女が顔を現せた。
「みーっけ」
 瞬間、アリアの轟雷閃、葉月の火術、ミーナの氷術が女を襲った。もくもくと上がる煙。が、その中から飛び出した蛇腹剣が、三人をまとめて吹き飛ばした。
「そりゃ警戒してるもん」
 女は部屋の中に入り込むと、蛇腹剣でミルザムの首を絞めて宙吊りにした。
「さ、女王器の場所教えて」
「ぐ……言うもん……ですか……!」
「ふーん。曲がりなりにも女王候補、それなりに根性はあるんだ?」
 女はさらにきつくミルザムの首を締め上げる。
「ああっ!」
 ミルザムの悲鳴に、葉月とミーナが意識を取り戻した。
「よくもワタシの葉月に怪我させたわね!」
 ミーナがトミーガンを女に向けて構える。すると、女が言った。
「動かないで。動いたら殺すよ、この子」
「ミルザム様を殺す? どうせはったりでしょ。だって、ミルザム様を殺しちゃったら、朱雀鉞と青龍鱗のありかは分からないままよ」
「そうだね。確かにちょっと面倒になる。でも、ボクは自力で見つける自信もあるよ」
 視線を戦わせるミーナと女。たまらず葉月が口を挟んだ。
「ミーナ、動いちゃ駄目です」
「葉月」
「お願いですから!」 
「……分かった」
 葉月のただならぬ様子に、ミーナは渋々承諾する。葉月は感じていた。この女なら、本当にミルザムを殺しかねないと。
「あなたの言うとおりにしますから」
「女王器の場所を教えてくれるの?」
「それは……」
「じゃあ黙ってて、ボクはこの子に用があるんだから」
 葉月は女を刺激しないよう慎重に言葉を選んだが、これ以上しゃべるのは逆効果のようだ。
「……う……ぁ……」
 ミルザムはもう意識を失う寸前だ。自分は女王器のありかを知らない。かといって、この女を倒せるだけの力があろうはずもない。なんとか時間だけでも稼ぐ方法はないものか。葉月がそう思ったとき、女の表情が変わった。
「えー、もう電池切れ!? 使えない子だなあ。ちょっと洗脳を強くしたくらいでさ。しょうがない、アレは回収しなきゃいけないし」
 女はつまらなそうな顔をして独り言を言う。
「命拾いしたね、女王候補さん。せっかくいいところだけど、今日はもう帰るよ。まあまたそのうち会うだろうから、そのときはもっと女王器を集めておいてくれると嬉しいな。……って聞こえてないか」
 女はミルザムを離すと、放送室から出ていく。葉月とミーナは大慌てでミルザムに駆け寄った。

 ミルザムが意識を取り戻したとき、目の前にあったのは緋山 政敏(ひやま・まさとし)の顔だった。
「よう、気がついたかシリウス。生贄の遺跡以来だな。ま、あの頃とは随分と立場が違っちまったが」
 政敏は努めて明るく言う。
「私は……あの女に襲われて……そうです、私を守ろうとしてくださったみなさんは!」
「安心しな、俺のパートナーがヒールをかけてる。他に動けるやつらにも手伝ってもらってるぜ」
 政敏が廊下を指さす。回復しつつある生徒たちを見て、ミルザムは胸をなで下ろした。しかし、すぐに一人の人物のことを思い出す。
「リフルさんは?」
「今貴重な生映像を見せよう。元々、俺たちはそのために来たようなもんだ。カチェア、リーン!」
 政敏がパートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)を呼び寄せる。
「リフルの様子を見られるようにしてくれ」
「オッケー。じゃあカチェア、あとはよろしく」
 リーンがカメラをカチェアに手渡した。
「分かったわ。えーと、そこのあなた、ちょっと来て」
 それを受け取ったカチェアは、武尊を手招きする。
「なんだ?」
「あなたのHCをちょっと使わせて。このビデオカメラをつなげるだけでいいから」
「ああ」
 カチェアは、武尊がこの前遺跡で『拾った』武ヶ原 隆のHCにカメラを接続する。カメラの写す映像が、拡大して壁に投影された。
「リフルさんたちはっと……いた」
 カチェアがカメラを動かすと、リフルとそれを囲む生徒たちが映し出される。その前で、政敏が言った。
「シリウス、確かにリフルは襲撃犯だ。決定というわけじゃないが、今起こっているテロとも関わりがあるかもしれん。ただ、根はいい奴でね。まあ、そういうのは友人が多い点からも分かると思うけどな」
 先ほどの女がリフルを洗脳していたということを、この時点でミルザムはまだ知らなかった。つまり、リフルが本当に洗脳されているのかどうかは分かっていない。しかし、自分の身も顧みずに必死でリフルを説得しようとする生徒たちの姿を見て、ミルザムは自然とマイクのスイッチを入れ、叫んでいた。
「みなさんお願いです! リフルさんを助けてあげてください!」