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リアクション
「ちょっ、待ちなさぁい!!」
チェスナー・ローズを追いて飛び出したは如月 玲奈(きさらぎ・れいな)。
パートナーのレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は携帯電話を耳に当てながらに部屋を飛び出して追いた。
場所はイルミンスール魔法学校、局地はベルバトス ノーム(べるばとす・のーむ)教諭の研究室。
青龍鱗の力を持ってしても解けなかった全身の水晶化。今も眠れるユイード・リントワーグに襲いかかったのは、パートナーのチェスナーであった。
突然に、何かのスイッチが入ったように。
「… 鈴の音か?」
廊下の先でチェスナーとすれ違った姫神 司(ひめがみ・つかさ)はグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)と視線を交わした。直後に、
「ごめんっ! 道、ごめんっ!」
2人の横を玲奈が駆け抜けて行き、直後にレーヴェが過ぎていった。
「ん……?」
「………… さぁ? 何事でしょうか」
視線を交わす度に、疑問符ばかりが増すようだった。2人が体の向きを教諭の部屋へと向け戻した時、その室内では葉月 ショウ(はづき・しょう)が上体を起こした所であった。
「っったく、何だってんだ…」
「大丈夫? ショウ…」
葉月 アクア(はづき・あくあ)がショウの腕に寄り支え添いた。
「あぁ、大丈夫だ。それより、ユイードは無事か?」
「うん。ほら、あの通り」
水晶と化した姿のまま、どこにも破損も無く立ち固まっていた。無事と言う事は適当か否か、迷って、ショウは口にしないことにした。
吹雪 小夜(ふぶき・さよ)は、パートナーであるショウに控えめに添うと、倒れた襟を立てて直した。
「彼女…… 追わなくて良いの?」
「迷っても仕方がないからな、玲奈たちに任せよう。それより… 教諭」
白衣らしくない白衣の裾を叩きながらのノーム教諭に、問いた。
「チェスナーが暴れてた時、彼女の『瞳が赤かった』事に気付かれましたか?」
「ふぅむんんん………… そうだったかなぁ?」
「微かに『鈴の音』も聞こえました。似たような事が以前にも…… ありましたよね」
「…………」
「わたくしにも、覚えがある」
入り来た司も、真っ直ぐに視線を教諭に刺した。
「確か… 洗脳魔術、だったか?」
「くっくっくっ、よく覚えてたねぇ。優秀な証だ」
「それでは、やはり、鏖殺寺院の−−−」
「あぁ。予め洗脳してから送り込んでくる、なんてのは以前にもあった事だしねぇ」
フラッドボルグ、鏖殺寺院のメンバーであり、かつて青龍鱗の封印を解くために洗脳した人魚を操り、ヴァジュアラ湾を大混乱に陥れた張本人である。
「しかし、そうなると、十二星華と鏖殺寺院が繋がっているという事になりませんか?」
グレッグは、誰に、というのではなく、室内の誰もに問いていた。
「可能性はあるだろうねぇ。偶然にしてはタイミングが良すぎるし、何より彼は動き出すまでは慎重を期すタイプだからねぇ」
「何をのんきに言っているのですか! 彼女がフラッドボルグに操られている事を如月さん達にも伝えなければ…」
「待ってください」
部屋を駆け出そうとした菅野 葉月(すがの・はづき)を、司が止めた。
「教諭、フラッドボルグの洗脳魔術を解くには、術の対象者と同姓の者が鈴にキスをする必要がある、で間違いないか?」
「そうだねぇ、それでしか解けないからねぇ」
「だそうだ」
「分かりました、伝えます」
パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)と共に菅野が駆け出てゆく。その背を見送ったマーク・モルガン(まーく・もるがん)は、視線を戻しては、一人、雫した。
「… なぜ彼らは、この娘を狙うのです…」
「マーク…?」
解けない水晶化。パートナーを洗脳しての襲撃。一般学生であるはずのユイードを狙う十二星華と鏖殺寺院。
「わたくし達の知らない何かがあるのよ」
「姉さん…」
ジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)は、広げた毛布の端をマークに差し出した。
「そこにこそ、きっと彼女を狙う理由があるはずです」
襲撃に備える、というよりは傷が付くのを防ぐために。水晶化が解けた時の事を考えれば、僅かなヒビも、まして欠片だってこぼしちゃいけない。
ユイードの体に、毛布を巻いていった。
「ノーム教諭、ユイードさんの保護の為に、毛布をクッションにしたのですが」
「ん…… ? んん」
「火に弱くなってしまう気がするんです。防火手段は、どのようにしたら良いでしょうか」
「くくくくっ、それよりもさぁ、そこまでしたのなら、ねぇ」
不気味な笑みが、溢れてゆく。緊張感に包まれていた室内に、いっぱいの不安を振りまかれたのだった。
「ジャック、ありましたか?」
「まぁ、待てって。なかなか良いのが見つからねぇんだ」
レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)からの連絡で『チェスナー追跡の応援要請』を受けたレーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)とジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)は、縄を確保しようと、演武準備室に来ていた。
「あった! 見つけた、これにするぜ!」
「では、急ぎましょう」
確保した縄を、腕にかけて輪を作りながら駆けていると、廊下の角でジャックは裏椿 理王(うらつばき・りおう)と出会い頭にぶつかった。
十二星華について調べていた。
情報が少ない少ないと言うが、そもそも個人で持っている情報が集まる場がない事が、情報不足という現状を生み出したのではないか。
十二星華の一人、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の襲撃を受けたばかりのイルミンスールなら生の声が聞けると思い、調査をしていたのだった。
理王が集めた声の中で最も興味深かったのは、現クイーン・ヴァンガード隊員であるテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が十二星華に覚醒した時の話である。
シャンバラ宮殿にてティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と対峙したテティスは、ティセラの星剣に触発されて目覚めた。更に興味深い事には、覚醒前のテティスの光条兵器にティセラが特別な感覚を覚えた、と漏らしていたという事実である。
「これが本当なら、星剣は星剣を、それも覚醒前の星剣でさえも感知できるという事にーーー」
そう思った矢先であった。出会い頭にジャックとぶつかってしまったのである。
調査結果の全てが詰まったノートパソコンが、宙を舞っていた。
「あぁっ!!」
「っっっつっっ!」
理王のパートナーである桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)が飛びつくより先に、インフィニティーは自分の体ほどもあるノートパソコンを文字通り体で受け止めた。
「フィー、大丈夫か?」
「ジャック! 気をつけなきゃ危ないでしょ!」
「おぉぅ、スマン」
「あのっ、すみませんでした、すみませんでした」
何度も頭を下げる屍鬼乃に、インフィニティーはノートパソコンを抱え返した。
「ありがとう」
ノートパソコンは理王が受け取ったが、受け取るなり舐めるように機体のチェックを始めた。
インフィニティーは、ノーム教諭の部屋で起きた出来事と、チェスナーを追っているという事実を屍鬼乃に伝えると、連絡先を交換してから駆け出していった。
2人の背が見えなくなるまで見送ってから、
「理王… 人と会っている時は画面から離れなよ」
ため息と一緒に言いながら。首を回そうとした瞬間、意識が遠のいてゆくのを感じた。
「り… お…… う………」
薄れる意識の中、横たわっている理王の姿が視界に入り、そして、途絶えた。
横たわる2体を前に、男はノートパソコンを拾い上げた。
「………… 『裏切りの華』に関しての情報も… ふっ、この程度か」
画面を見つめる男は、笑みながらに、そう呟いた。
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