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リアクション
■
一方で森へ入る前に、自分達の準備ではなく「お節介を焼こう!」と動く生徒達もいる。
椎堂 紗月(しどう・さつき)と椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)もその一員で、2人は今にも森に分け入ろうとする【町民討伐隊】の面々を見るや。
「ちょっと、待ったああああああああああーっ!」
力の限りに叫んで足を止めることに成功した。
「何してんだ! 危ねえじゃねえかっ!」
「な、何って……ち、ちちちちち地球人には関係ない!」
紗月を一目見た町民達は、一様に表情を硬くして無視し始める。
行軍を止めたのはアヤメだった。
彼らの目の前に躍り出て。
「俺ではどうだ?」
両手を広げて立ちはだかる。
「同じパラミタ人だぞ? 俺の頼みでも森へ入って行くというのか?」
「そ、それは……」
町民達は口ごもる。
そこへ駆けつけてきたのはイルマ・レスト(いるま・れすと)だった。
千歳からの連絡に従い、ヴァンガードエンブレムは既にはずしている。
「私も、同じパラミタ人として意見しますわ!」
アヤメの傍に立って、一行の足を止める。
「何も策も力もない者が行っても、町長はおろか、この森の餌食となってしまうことでしょう。ここは私達にまかせてはいただけないでしょうか? 私の契約者も……地球人ですが、皆様方のことをそれは案じておられることですし」
「おおおお、おまえ達は騙されておるんじゃ!」
町民達もかたくなだ。
相手がパラミタ人とあっては、実力行使に出ることはない。
だが、頷くこともない。
「地球人がわしらに何をしてくれたんじゃ!」
及び腰で町民達は威嚇する。
「空京とかいう妙な都市を作って」
「ゆる族どもを追い払って」
「わしらはゆる族のようには行かないぞ!」
「そんな横暴な奴らを信用しろ! というのか!」
「おまけによそ者は、皆で町をいい様に潰しにかかる」
「地球人は鬼じゃ、鬼畜じゃ!」
「信用なんぞ出来ん! 帰れ! 帰れ!」
挙句の果てには紗月を槍の柄で突き飛ばす。
目測誤って、錆びた切っ先が滑らかな頬をかすめた。
輪郭に沿って鮮血が一筋流れ落ちる。
「黙っていれば、おまえら!」
アヤメはカッとなって、飛びかかろうとしたが。
「やめろ! アヤメ、手出しはするんじゃない」
紗月は血を拭って、立ち上がる。
「確かあんた達の言う通り、悪い奴もいると思う。けど、多くの人はパートナーとの絆があるから契約してんだ! 契約後は助け合うし支えあう。それがパートナーだろ?」
紗月の台詞は本心からの言葉なだけはあり、凄味がある。
町民達がひるんだところで、真摯な表情のまま語りかけた。
「だから、頼みがある。今俺達の仲間が町長の館に向かってると思う。その中には地球人もいる……けど、あんた達にはその人達に協力して欲しいんだ」
「何だと!」
「最後まで聞いてやれよ!」
アヤメは紗月の盾となりながら、懇願する。
「俺は俺の意思で、この、椎堂 紗月と契約したんだ。『地球人はパートナー契約と称してパラミタ人を攫って行く人攫い』だというなら、俺は契約なんてしてないし紗月を殺していた。この町の人間は地球人を毛嫌いするが、それは地球人に限ったことじゃないだろう?」
「アヤメさんのおっしゃる通りですわ」
イルマも毅然として畳み掛ける。
「それに、あなた達が大勢屋敷に押し掛けたとして……第一そんなことをしたら! 町長をいたずらに刺激しすぎてしまうだけですわ。誘拐された娘達だって、どんな危害が及ぶことやら」
「わしらは、その『娘さん達』の家族だよ。こんななりして心配するのも当たり前じゃろうが!」
リーダーらしい男が呟く。
ですから、とイルマは出来る限り丁寧な口調で説得する。
「私達が行くのです」
え? と振り向いたのは紗月達だ。
イルマは涼しい顔で続ける。
「パートナー契約をしている者達は、通常のパラミタ人とは違って遥かに高い戦闘能力を持ちます。私達を信じて、お役に立たせては頂けませんでしょうか? 私は……協力して下さいとは申しません。森の抜け方さえ教えて頂けましたら、それで結構ですわ」
「俺も、そこの別嬪さんの意見に同感だな」
レン・オズワルド(れん・おずわるど)はサングラスを指で押し上げながら、イルマの傍に立った。
そして「地球人」の彼はイルマの論をさらに展開させる。
「という訳でだ。地球人として『信頼』を得るためにも、おまえ達から『依頼』を引き受けることに……ぬおっ!」
地球人の彼は、町民達に殴り倒されてしまった。
「地球人のくせに、善人面で格好つけてんじゃねえぞっ!」
「『依頼』だと? 誰がおまえらに金なんぞくれてやるものかっ! この、アホんだらあっ!」
という訳で、【町民討伐隊】は彼らを乗り越えて森の中へと突き進んでしまったのだった。
けれど4人の行動に感銘を受けた者もさすがにいたようで。
「ありがとう……」
傷ついた紗月の脇を通り過ぎる時、若者はぼそっと呟いた。
紗月が気づいて振り向いたとき、彼の細い背はすでに森の中へと消えて行った。
バサバサバサッと音がする。
「森の道が変わったんだな」
レンは口角の鮮血を袖でぬぐい去って、立ち上がる。
「さて、行くか?」
少年少女達は見上げた。
「そう驚くことでもあるまい」
レンは淡々として告げる。
「『依頼』を受けて、『依頼』を果たす。それが俺の役目だ。殴られる痛みも、口に広がる血の味にも慣れている」
おまえ達はどうする? レンは一同を見回す。
その時町からあらゆる手を尽くして迅速に移動した千歳が、イルマの元へ駆け込む。
「私は行くぞ! イルマ。このまま一般町民達を、むざむざと森や町長の餌食にしてなるものか!」
「あなた方はどうなさいます?」
イルマが尋ねる。
紗月は唇を噛んで黙っていた。
彼が動かない以上、アヤメもまた動くことはない。
「では行こうか、お嬢さん方」
レンの先導で、彼らは森の中へと侵入した。
その後を、スイッと「隠れ身」と「ブラックコート」で身を隠した唯乃が入っていく。
「私も行くけど。あなた達はそれでいいの?」
けれど解答はない。
唯乃は嘆息して、森の中へと消えた。
「どうするんだ? 紗月」
アヤメは紗月を見下ろした。
「少なくとも、あの男はおまえを信用したみたいだったけどな」
「…………」
その時、紗月の携帯電話に着信が鳴った。
液晶表示は『鬼崎 朔』となっている。
「ああ、朔?」
紗月は無理に平静を装った。
「え? ああ、大丈夫……心配ないって! え? ああ、『魔術師』? いないなあ……うん、吉報を待ってろって!」
じゃ、と言って切る。
「吉報か、たった1人だったけどさ……」
そうだったな、とアヤメを見上げた顔は、いつもの紗月に戻っていた。
「1人でも、十分だよな! 俺はそいつのために森に入ってやるぜ。行くぞ、アヤメ!」
■
そして、1時間――。
マッシュに拘束されたアイナが、町長と共に森の中へ消えて行くのだった。
彼らが消えた後、森では無数の長い影が奇妙な具合に蠢動していた。
トレント――かつての森の主は、両目を赤く光らせ呪詛の詩を歌いつつ一行を監視する……。
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