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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 1.はじまりの朝

 ツァンダにある草原の辺境。
 空京から朝夕に1便あるかなしかの定期便を乗り継ぎ、さらに30分ほど歩いた場所にその校舎はある。
 蒼空学園・野原キャンパス――。
 朝日を背に浴び草原の一本道を行くのは、他校から来た「お節介な」勇者達の一群だ。
 彼らはナナ・サイレントノームから受けた依頼を果たすため、同校を目指していた。

「案内役」は、1度訪れたことがあるというエル・ウィンド(える・うぃんど)
「確か、この辺りだったはずなんだけどな……」
 記憶とナナからの添付されてきた地図を基に周囲を見渡す。
「それにしても、いつ見てもド田舎よね、やっぱ」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は溜め息をつき、
「そうですね〜。別荘にはもってこいの場所ですね!」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は悪戯っぽく見渡す。
「しかしこんな環境だから、鹿島 シイナみたいな問題児もいられるんじゃねえの?」
 椎堂 紗月(しどう・さつき)の言に、そうだな、とこれは椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)
「だが今回は、そうのんびりもしていられまい?」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が腕組みをし、
「『リトルブレーメン』とやらの町民達は、話も出来ないようなありさまなのだろう? 誘拐事件の謎を解くことも必要だが、地球人と町民達との誤解を解くことも必要だと思うが」
「ああ、それには俺も頭を悩ませてる」
 紗月は軽く額に手を当てる。
「『地球人』だからって、悪者ばかりじゃない。そのことを、町の人達に分かってもらえたらな、て」
「あら! 簡単なことだわ!」
 得意げに答えたのは、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)だ。
「誠意と仲間があれば、何とかなるってものよ。私達はそのために、町にいるという占い師と接触して『反・地球人敗訴運動』の協力を仰ぐから」
「そうね、ブリジット」
 賛同したのは、契約者の橘 舞(たちばな・まい)
「町にいる益代さんに、私達が来たことを伝えれば……『人形化』なんて馬鹿な真似はやめて、協力してくれるかもしれないし」
「けれど例の占い師は、本当に『益代』であろうか?」
 金 仙姫(きむ・そに)は形の良い眉をひそめる。
「わらわとて、今度こそブリジットの『アホ』な推理が当たらんことを望んでおるぞ! だが、益代とやらは、以前小谷 愛美(こたに・まなみ)とやらを『人形化』した占い師のことであろう? 今回は『蝋人形』じゃ。どうにも勝手が違うようじゃが?」
「どこが『アホ』な推理なのよ! どこがっ!」
 まあまあまあ、となだめに入ったのは赤羽 美央(あかばね・みお)だ。
「私もブリジットさんの案には一理あると思います。けれど金さんのおっしゃることも頷けますよね? そのためにも、その占い師にお会いしてみてはいかがでしょうか?」
 丁寧だが、凛とした彼女の言には信頼出来るものがある。
「そうね、積もる話もあることだし。まずは会って確かめてこようかしら」
「あたしも、及ばずながら力になるわよ。義賊『STAR PALACE』としてね」
 星宮 梓(ほしみや・あずさ)はふと見上げて、片手をかざし目を細める。

 その時遠くの木陰から、絵本から抜け出したような愛らしい守護天使――ナナが元気に手を振っていた。
「みなさまあー、いらっしゃいませっ! 野原キャンパスは、こちらですよおーっ!!」



 校内に通されると、木造の粗末な教室には有志の蒼空学園・本校生達が集まっていた。
 全員が席に着くのを待って、ナナは教壇に立つ。
 高く澄んだ声で現状を説明した後、質疑応答に入った。
 
「つまり要約すると、ルミーナさんは草原の飛行艇発着場で攫われた後、蝋人形にされてしまったらしいということなのですね」
「オルフェウスさんは、町の友人宅へ行った後で行方不明になったと」
町長と常にいたパートナーの愛妻も、近頃見かけない」
「それだけじゃない! 町娘達は町長の館で『蝋人形』にされてしまっているらしい、と。そういうことですね?」
 そうです、とナナは頷いた。
「ですから皆様は、ルミーナさんやオルフェウスさんの情報を捜しに町に行っても構いません。町長の館へ行って問題の根本的解決を図っても構いません」

「だが、町長夫人の情報が少なすぎるな」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は顎先に手を当てて考え込む。
「俺は、どうにもそのことが引っかかる」
「森の情報も少なすぎると思うぞ!」
 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)、はヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)を顧みる。
 彼らの隣で、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は黙々とマイハリセンの手入れを行っている。
 
「他に、ありませんか?」
 ナナは一同を見渡す。
 はい! と手を上のは、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)だった。
「洋品店の件です。ルミーナさんによく似た蝋人形があるという店は、どこにあるのです?」
「ごめんなさい、わたしも知らなくて……」
 ナナは申し訳なさそうにクリスに頭を下げる。
「ただ分校生が見たらしいから、きっと裏道とかの危険な場所ではないと思いますよ。我々よそ者が町で行動出来る範囲には、限りがありますから」
「本当に閉鎖的なのですね」
 クリスは予想以上の困難な状況に思案を巡らせるのであった。
「町の地図を貰えないかな? ナナさん」
 丁重に申し出たのは神和 綺人だ。
「そうすれば、前回みたいに皆で迷うこともないだろう?」
「ああ! そうですね。では、これで」
 ナナは紙を取り出し地図を描く。
「大雑把ですが、主要なものはひと通り描かれてあります。シイナさんならもう少しうまく描けるのですが……」
「シイナさんが?」
 ええ、とナナはとても嬉しそうに頷いた。
「シイナさんは、成績は優秀なんです! 町の地理も、寸分違わず正確に描けますよ。方向音痴は、右に行く場所を左に行ってしまうだけのことなんです」
「へえ。じゃ、俺は鹿島に描いてもらおうかな?」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、初めて会うシイナの評価を少しばかりあげたようだ。
「分かりやすい地図の方が、ルミーナさん探しもはかどることだしな」

 質問がひと通りで払ったところで、ナナはグループを2つに分けた。
 そして1つ目のグループ・【青ひげ町長退治】組は「迷いの森」へ。
 2つ目のグループ・町の【捜索隊】は「リトルブレーメン」へ。
 それぞれの目的地に向かうよう告げて、教室を出て行きかけて。
「そう、そうでした!」
 【捜索隊】に向かって叫んだ。
「町の場所はシイナさんが知っていますので、町まではシイナさんに案内してもらってくださいね。シイナさん? シイナさんは途中で迷ってますから、適当にピックアップして下さい。多分まだ、正門近くでウロウロしているはずですよー」

 一行はあわただしく教室を後にする――。



 誰もいなくなった教室で、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は窓辺で頬杖をついていた。
「あら? あなたは行かなくてよろしいの?」
「ああ、私はいいのよ。先生」
 見回りに来た養護教諭の声に、リカインはのんびりと答える。
「今回はLC冒険記ですもの。私はお茶でも飲んでゆっくりしてるわ」
 そうして彼女は養護教諭の茶のみ相手となるのだった。
 
 その頃。
 たまたま野原キャンパス前を通りかかったバラ実の国頭 武尊(くにがみ・たける)は、道行く一行の話の一部始終を聞いていた。
「怪現象? よく分らんが、要は森を突破出来ればいいんだろ? そんなの、簡単だぜ!」
 ……という訳で、暇つぶしがてらナナの後をついて行くことにした。
「呪いなんか恐れる訳ねーだろ。こまけぇこたぁいいんだよ!!」
「へ、そうさ! こまけぇこたぁいいんだよ! オレ達バラ実生はなあーっ!」
 小声で同意したのは、レアル・アランダスター(れある・あらんだすたー)だ。
 彼もたまたま通りかかったところ、話を聞きつけたのだった。
 武尊の遥か後方で、卑猥な笑いを浮かべて奇声を上げる。
「町長の仲間になって、レッツ誘拐! 女達を嬲り者にしてやるぜ! ヒャッハー!」
 そうしてやはりナナ達の後をつけて森へと向かうのであった。

 一方、【捜索隊】一行の後をつけて行く者達の姿もある。
 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)だ。
 レアル達と違い頭の良い彼は、木や草の陰に隠れつつ町へ向かっていた。
「俺はね、『蝋人形化』そのものに興味があるんだよ。そのためにも、計画は慎重に進ませないとね……」
 両眼に奇妙な光を湛えて、【捜索隊】一行をつかず離れずつけて行く。

 以上のような第3ファクターの存在に気づくこともなく、【捜索隊】、及び【青ひげ町長退治】組は目的地に向けて出発したのだった。