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リアクション
■
朔と入れ違いに入ってきたのは【百合園女学院推理研究会蒼空支部】の面々だった。
舞、ブリジット、仙姫の3名は部屋に入った瞬間に、
「私は『浦深益代』ではないですよ」
占い師から間違いを指摘される。
というよりも、女は顔をさらしているのだから、明らかに違うと思われ……。
「いいえ! あなたは益代だわ!」
ブリジットは考えを改めないのであった。
曰く。
「顔なんて! いくらでも整形すれば治るじゃない? 体質だって、根性でいくらでも治るわ!」
「は? 根性?」
「一度犯罪に手を染めた人間は、再犯率が高いって聞いたけど……」
ブリジットはフウッと息を吐く。
「本当に残念だわ。宿にいる評判の占い師、あなたが犯人ね、浦深益代」
ビシっと占い師を指差す。
彼女は呆れて黙っていたのだが、舞は別の意味に捉えたようで。
「さっすが、ブリジットね! 整形も体質の変化だって、ものともしない名推理!」
占い師に近寄り、手を取って真剣に懇願し始めた。
「益代さん、でも私はあなたが同じ過ちを進んで繰り返しているようには思えないわ。誰かに脅されているの? 騙されているのかしら?」
「騙されてなんかないわ、舞。趣味と実益を兼ねて、今度はあの『青ひげ町長』とやらに加担しているのよ」
「え? 町長さん?」
「そう。蒼空学園を退学した益代は、マネキンフェチの町長に雇われ、昔とった杵柄よろしく、攫った人をマネキンに変えていたのよ。ルミーナさんもオルフェウスも、いわばその犠牲者その1、その2ってところかしら?」
「そ、そんな!」
舞はガシッと占い師の肩を掴むと、力任せに揺さぶる。
「目を覚ましてください! 益代さん。あなたはそんな心の弱い方ではないはずですよ? 今すぐ考えを改めて、ルミーナさんや他の人たちを元に戻すんです!」
「舞、考えを改めるのはわらわ達の方だと思うのじゃが?」
えーと、とこめかみを指で押さえて、仙姫が間に立った。
「浦深益代とやらは確かにに人を人形には変えていたが、蝋人形ではなかったであろう? それに『よく当たると評判の占い師』など、珍しくもあるまい」
「はあまあ、仙姫。言われてみればそんな気も」
「まあ舞も、そろそろブリジットのアホさを正当に評価すべきかと思うぞ?」
「誰が、アホなのよ! 誰が!」
「まあ少なくとも、その女が『浦深益代』であることは『間違い』みたいだよ?」
低い声で3名は振り返った。
マッシュがドアに背を預けて立っている。
「あなたは?」
「俺? マッシュ・ザ・ペトリファイアー」
一同に緊張が走る。
「……て、益代の片腕がこんなところで何してんのよ!」
「だから、その片腕が『本人じゃない』って太鼓判押してるんだよ。文句ないよね?」
3名は顔を見合わせる。
「ついでに町長の仲間っていうのも、間違いみたいだよ?」
「どうしてそう言い切れるの?」
と、これは舞。
「宿屋の女将から聞いたんだよ。この女は宿屋に来て以来1度も表に出たことがないんだってさ。足見てみなよ」
占い師の衣装をたくしあげ、両足を見せる。
女は素足だった。
「靴は女将に預けてあるんだって。これでどうやって移動出来るの? 仮に移動出来たとしても、足は始終泥だらけで傷だらけのはずでしょ?」
3人は再び顔を見合わせた。
マッシュが嘘をついているようには見えなかったので。
「俺だって、『益代さんかな?』と思って訪ねたんだ。ガッカリしているのはお互い様だよ」
あーあ、と呟いて彼は出ていった。
頃居合を見計らって、占い師が尋ねてくる。
「それでいかがなさいますか? 私の占いを受けて行かれるのでしょうか?」
占い師の結果は「酒屋・公園・酒場を訪ねると、蝋人形化を解く情報があるかもしれない」というものだった。
舞達はシイナ達に結果を伝えて、目的地へ向かった。
「でも、益代さんじゃなくて良かった」
舞はホッとして胸を抑える。
「彼女は、本当はいい人だもの!」
■
舞達が裏口から出て行くのを見計らって、マッシュは占い師を尋ねた。
「なんで、俺が助けに入ることが分かったの?」
マッシュは先程の女の「助けられて当然」といった態度が気に食わなかった。
女は平静に答える。
「私は『腕の良い占い師』にございます。自分の未来を当てることなど、簡単なこと。益代さんのような2流とは違います」
(益代も腕は確かだったと思うけど?)
だがマッシュは女の口調に違和感を覚えて、そのことは黙っていた。
(この女……一体、何者だよ?)
マッシュは舞に述べたように、益代を捜しに来た訳ではない。
「人間を固める事、固まった人間を見る事に快楽を覚える」という自分の性癖を満たす為、犯人を捜し出し手を貸す目的で参加していたのだった。
「……という訳で、俺は蝋人形化事件の襲撃犯が次に攫うターゲットの女性が知りたい」
「かしこまりました、マッシュ・ザ・ペトリファイアー様」
女は白い指先で、そうっと水晶玉に触れる。
顔見知りの女の像が見えた……様な気がした。
「『アイナ』、『町の外』……と出ております」
「アイナ……確か風祭 隼人のパートナーだったかな?」
「その女を誘って、町の外へ連れ出せば犯人と接触出来るそうでございますよ」
「分かった、代金はここへ置いていくよ!」
マッシュはアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)に接触すべく、部屋を飛び出していく。
■
誰もいなくなった占い部屋で、女は静かに立ち上がる。
壁の行燈の火を吹き消すと、その姿は音もなく闇に溶けて行った――。
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