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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

リアクション

 12.森・蝋人形の叫び―Side Other―

 一方、単独行動組の結果はどのようなものであったのだろうか?
 
 ■
 
「何も起こりゃしねえぜ……」
 「隠れ身」で森の様子を観察していた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、指先でイライラと膝を叩く。
 彼は「森で起こる怪現象」を一目見ようと思ったのだが、何も起きない。
 パートナーを連れてこなかったためであるのだが、そんなことは当然武尊は知る由もない。
「よっしゃあ! こうなったら、町長退治が先だあ!」
 彼は奇声を上げると、よっこらせ、と体を起こす。
 「光学迷彩」を使い、武器やアイテムに「迷彩塗装」を施すと。
「ほんじゃあ、行くぜっ!」
 小型飛空挺に乗って、滑空し始めた。
 上空に出て、森を飛び越えようというのだ。
「まぁ、呪いだか何だかしらねーが、上空まで効果があって堪るかよ!」
 
 ……だが、5000年の歴史は伊達ではない。
「呪い」は律儀にも上空まで届くのだった。

 武尊の小型飛空挺は飛び立った途端に、無数の枝葉によって無理やり方向転換させられる。
 気がついた時には、地面と激突していた。
「何なんだ! 上下の方向感覚も変わっちまうのって、ありかよおおおおおおおっ!」
 と、吠えてみた所で「森のルール」は結局変わらないのであった。
 
 ■
 
 同じ頃、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は森の中を彷徨っていた。
 彼女は果敢にも1人で「迷いの森」に飛び込んだ後、迷ってしまったのだった。
「真っ先に館に行って、ルミーナさんの件が真実かどうか確かめようと思ったのに……」
 犯人のアジトに押し掛ければ、嫌でも証拠があると思ったのだが。
 先見の甘さもある。
「誘拐犯は町長さんでしょう? だったら、森の方が通り道だから誘拐しやすいのかな〜……なんて」
 だが攫われているのは「パラミタ人の娘」だ。
「地球人」の自分は対象外だったのかも? と落胆する。
「だいたいして、私。気が動転したあまり、『ルミーナさんの蝋人形』を見てないのよね」
 町長は「地球人」なんだよね、と考えをつなげてみる。
「う〜ん、だとすると特殊な『スキル』でも持ってるのかな? それとも私もかけられた魔女の業だったりして?」
 益代のことを思い浮かべてみる。
「でも、彼女は改心したんだったっけ?」

 その時、シイナから連絡があった。
「ああ、アリアか?」
 アリアはトレントの情報と、「魔術師」をはじめとする町で収集した情報を耳にする。
 そしてルミーナの画像を見た時。
「嘘でしょう?」
 泣き崩れてしまった。
 やはり噂は本当だったのだ。
 こんなところで、森で迷っている場合なんかじゃない!
 アリアは電話を切ると、その場で木々に向かって怒鳴りつけた。
「ルミーナさんに、何てことをしたの! それに町の人たちも!」
 木々を激しく揺さぶる。
「私達のルミーナさんを、返して! この悪党共!」
 最後の台詞は勢いで出てしまったものだったが。
『ほーお、『悪党共』ですか! お嬢さんには、『ボク』が見えのですかね?』
 おちゃらけてこそいるが狂気をはらんだ声が、森に響き渡った。
 鬼火の光もあって、怖さは倍増だ。
(ひっ! も、もしかしてえ〜、お化けとかあ〜〜〜〜〜〜〜〜!?)
 半泣きで怖々振り返ると、文字通り「木のお化け」が立っていた。
 幹に、2つの小さな赤黒い目。
 ひいっ、とアリアは腰を抜かして尻もちをつく。
 トレントは嫌な笑いで笑う。
『小娘にしては、好い体をしておるのですぅ〜っ!』
 舌なめずりをしたようだ。
『ボクチャン、楽しんじゃうもんねぇ〜! ヒャハハハーッ!』

 ……という訳で、彼女はさんざん嬲り者にされた末に再び森の中へ放り出されてしまった。
『そのうち売り飛ばしてあげるからねぇ〜。逃げても無駄だよ〜ん……て、逃げられる訳がねえか』
 あからさまに下品な笑いがこだます。
 アリアは既に蝋人形化していた。
 衣服は引きはがされ、わずかな布で大事な部分を必死に隠しているといった有様である。
 おまけに前回の人形化同様、意識もきちんとあったりなんかして。
(や、やだ! こんな格好!)
(それに、明日になったら! 変な業者に売り飛ばされちゃう、だなんて!!)
 
 悪いことは続くもので、1時間後――。
 これまた前回同様、レアル・アランダスター(れある・あらんだすたー)と出くわしてしまった。
 彼はいいように森の手前で町長にあしらわれた後、「隠れ身」を使い後をつけて館までは来た。
 が、館の手前で、やはりトレント達と遭遇。
 強襲にあって、ここまで逃げてきたのだった。
「ということは、森を抜けても『結界』か何かが張られてて、見つかっちまうってことかよ!」
 姿を隠したくらいでは、突破出来ない仕掛けがあるらしい。
「くそっ! これじゃ、計画が台無しだぜ!」
 おまけに彼は「迷いの森」から脱出するための対策も打ってない。
 という訳で、アリア同様フラフラと森の中を彷徨っていたのだった。
 そこに、何と!
 美少女の等身大フィギュアが、遊んで下さいとばかりに置かれているではないかっ!
「義を見てせざるは勇なきなり! だぜ。ヒャッハーッ!」
 レアルは「隠れ身」を解き、涎をジュルジュルと袖でぬぐい去る。
(ええー! やだあ! こいつだけは勘弁してよ、もお〜〜〜〜〜っ!)
 蝋人形のアリアは嫌悪に内心身もだえする。
「頂くぜ! 俺様のアリア人形っ!」
 が、アリアに近づいた彼はあからさまに落胆する。
「ちっくしょう! 今回も人形化した後だなんて!! まるで狙ってたと言わんばかりの展開じゃねえか、オラッ!」
 しかしこんなことでくじけないのが、レアルがレアルたるゆえんである。
「仕方ないな、今回もじっくり、ゆっくり観察してやるか……外への道も分からねえしな」
 
 という訳で、暇つぶしにレアルの観賞物となってしまうのであった。
 
 ■
 
 同刻、森には渋い顔で道を突き進む一行の姿もあった。
 アイナ、マッシュ、町長の3名である。
(町長は、悪い誘拐犯だと聞いてたけど……)
 アイナは眉をひそめる。
 彼女自身は経験を積んだプリーストだ。
 その気になれば、いくらでも逃げることが出来たかもしれない。
 けれど逃げなかったのには相応の理由がある。
(どう見ても、この町長が悪人には見えないのよね)
 こいつは違うけど、とマッシュを横目で睨む。
 マッシュは慣れたもので、涼しい顔つきだ。
(今に覚えてなさいよ!)
 隼人、頼んだわよ! アイナは銃型HCに無意識のうちに手を伸ばす。
 
 町長は突然歩調を速めた。
(っ!)
 アイナ達も歩調を速める。
 町長が駆けだせば一緒に駆け、全力疾走をすればやはり追いかけて行く。
 マッシュに追い立てられてのことではなく、総てはアイナの意思による行動だ。
 が、町長は突然立ち止まると、アイナに振り向き。
「このまま迷ってはくれないか?」
 力なくひざまずき、何と! 土下座するではないか。
「頼む、この通りだ!」
「どうして?」
 いたたまれなくなったアイナは、町長に手を差し伸べた。
「なぜ、私を逃がそうとするの?」
 アイナには分かっていた。
 町長は何者かに頼まれて、パラミタ人の娘である自分を攫ってきたのだ。
 察するに……町に年頃の娘はいなくなってしまったから。
「自分の意思ではないから。そうなのね?」
「そ、それは……」
 町長は青ざめて口ごもる。
(何? このオッサン。土壇場でビビらないでよね!)
 チッと、マッシュは舌打ちする。
 町長の背広のポケットから小瓶がのぞいている。
 例の薬かもしれない。
(いっそのこと、あれを奪って、この女にぶちまけちゃおうかな〜?)
 マッシュが物騒な考えを持ち始めた時、突如森が騒ぎ始めた。
『そうですよぉ〜、お優しい町長さん』
 声は森中に響き渡る。
 若いが、狂った声だった。
『ダークヴァルキリー様の精力補充! その偉業には是非ともには娘達の体が必要なのですよ。それともぉ〜、あなたの大切な方がぁ〜、代理になっちゃってもいいのかなぁ〜?』
「だ、だが、このお嬢さんは! 町のことなど何も知らない、ただの観光客の方で……」
『観光客だろうが、何だろうが、パラミタ人の娘に変わりはないんですよ! さ、ノルマはあと1人です。やっておしまいなさい!』

 アイナは町長の手により、蝋人形化されてしまった。
 マッシュは――?
 彼は今、アイナを蝋人形化に追いやったトレント共の手にかかり、枝葉で体の自由を奪われている。
「何? くそお! バカ町長! 俺は仲間なんだよ〜!」
 だが謎の声に操られた町長はためらわなかった。
「すまない、だが君は地球人のようだ。トレント達によって、外には出られるだろう」
『おやりなさい、町長。この男はねぇ〜、小生意気な学生共への見せしめです!』
 マッシュの額にトポトポと小瓶から液体を垂らす。
「何これ? 水!?」
 怒鳴ったまま、体が硬直して行くのをマッシュは感じていた。
「こ、これが……蝋人形化……なのか……」
 自分の体が固まって行く――。
 だが、これほど間近に「人形化」を見れることもないだろう。
「か、固まる……固まって行く……俺の体が……ヒャハハハーッ!」
 恍惚とした笑みと共に、彼は「蝋人形」と化した。
 
 一方のアイナは、完全に固まってはいなかった。
(これは……っ!?)
 マッシュの件を思い返す。
 自分にかけた液体の量は少なかったように思う。
(けれど、単に時間がかかっているってだけみたい)
 その考えは正しく、下半身は徐々にだが既に固まりつつある。
 上半身も動かせないことはないが、その動きは鈍い。
(でも、どうして?)
 その時、町長がわずかにアイナを振り返った――様な気がした。
 次の瞬間、鬼火とは明らかに違う光が町長を包み込む。

(そ、そうだったの! そう言うことなのね!)
 アイナは総ての光景を見据えて、町長に感謝した。
(町長さんは私にこのことを伝えるために、蝋人形化の進行度を遅くしたのだわ!)
 そしてアイナはこのことを、後から自分を助けにくるはずの隼人達に伝えるべく、最後の力を振り絞って腕の角度を変えたのだった。
(隼人……気づいて……)

 銃型HCに記録された経路のデータが、隼人に送られて行く……。