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リアクション
学生による有志の飲食店は数あれど、その中で目を惹くのは明智 珠輝(あけち・たまき)が部長を務める愛!部の 『LOVE CAFE』だろう。
新歓ということで、ほとんどの生徒は勿論制服で参加しているのに対し、部員たちのほとんどはタキシード姿。
お手伝い要員には若干ラフな格好やドレス姿も見受けられるが、遠目からの立ち振る舞いは紳士淑女と薔薇学に相応しいのかもしれない。
しかし、それだけに留まらないのが薔薇学。このカフェもまた、普通のカフェでなかった。
「なんなんだこれは!!」
珠輝が勧誘活動するというので、心配しながらも様子を見に来たリア・ヴェリー(りあ・べりー)は注文を済ませてくつろいでいた。
意外にもしっかりした内装で、部員ではない藤咲 ハニー(ふじさき・はにー)までお淑やかに手伝っていたりと安心していたのにやはり珠輝は珠輝だった。
「ふふ、売り物を並べているだけでは仕方ないでしょう? 各席に見本誌をご用意したんです」
「見本誌を置いてあることじゃなくて、僕はこんなものを売っていることについて聞いているんだ!」
バンッと叩きつけたリアの手元には、愛!部の部員達による写真集とブロマイドの見本があるのだが、愛をテーマにしてもおかしい。
内容のほとんどはセミヌードに近く、芸術的な美しさを追い求めたのはわかるが耐性のない人では卒倒しかねない物ばかりだ。
「えぇー? ダメですか? 私、厭らしさと美しさの間を目指してセクシーにですね……」
「しなくていいっ!!」
珠輝が運んできたミルクティーとオススメのムースを左手でひったくると、リアはその勢いに任せて彼を殴りつける。
しかし、珠輝はひらりとかわしてリアの背後にまわり、椅子に座るよう促した。
「さあさあ、そちらのムースは人気商品ですからね、ゆっくり味わってください」
にっこりと笑う珠輝に一発お見舞いしてやりたいのは山々だが、ムースが温くなってしまうのも困る。
リアは渋々と席に着き、珠輝は一礼して去っていった。
(まったく……他の部員を無理矢理言いくるめたんじゃないだろうな)
その見本誌は客席によって中身が異なるらしく、テーブルを整えていた清泉 北都(いずみ・ほくと)はふと見本誌をパラパラと捲る。
メニューと一緒に運び、皿と一緒に下げるそれは投げ出された状態で置いてあったのでつい手が伸びたのだろう。
(あ、ソーマも載ってるのかぁ。そりゃそうだよね、部員なんだから)
運良くと言うべきか、北都が手にしたのは部活の日常風景を撮ったもので、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)のイメージは守られた。
もし手にしたのが素肌にシャツを羽織っていたり、シーツで身を覆って悩ましい表情なんてしていればどうなったことか。
しかし、お高いイメージ払拭のために生やしていた超感覚のタレ犬耳をピコンと一瞬浮き上がらせ、テーブルの物を下げるとキッチンに戻った。
「ねぇ、写真集ってまだ在庫あったかなぁ? 今出てるので全部?」
裏方の作業を一身に引き受けている神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、材料のストックが置いてある場所を見る。
「自分は赤いテープで止めてある箱が販売物だと聞いてます。まだたくさんあると思いますよ?」
「そっか。ならさ、僕たちが買っても大丈夫だよねぇ」
レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)への陣中見舞いをっていた翡翠も、彼が載っているなら記念に買うべきかと思案しているとソーマがやってきた。
「絶対ダメだ! それより、メシ。食い物ばっか見てるとなんかお腹空いてきた」
「食い物って、ソーマは吸血鬼じゃないか」
あんなもの、見られたらたまったものじゃない。そう訴えるソーマは無理矢理話をはぐらかして北都にのし掛かるように甘える。
確かに昼時も近いし、お腹が空くのもわかるけれど、なんとなく人前で吸血されるには抵抗がある。
「ほら、ここじゃお客様に見えちゃうよ。食べるんならちゃんと休憩時間に……」
「べっつにやらしぃことするワケじゃねぇし? 他のヤツだってクッキーとかつまみ食いしてんじゃん」
そう言われると強く言い返せない。北都は仕方無くタイを緩めた。
「しょうがないなぁ……少しだけだよ」
言ってみるもんだとソーマは口角を上げ、遠慮無くとばかりに北都の首筋へ顔を埋める。
(吸血鬼がパートナーにいると大変なんですね)
近くでやりとりを聞いていた翡翠は、あまりそちらを見るのも失礼かと思い、売れ筋のハート型ラズベリームースの具合はどうかと冷蔵庫を開ける。
けれど、遠くにいてそのやりとりを聞いてない人はどうだろうか。
「……男同士だよな?」
「うん、男同士だねっ」
榊 花梨(さかき・かりん)のメイド姿での客引きに誘われて、軽くなにか食べようかと店内に入ったエミリーとエドガー。
ヴィクトリアン調の清楚なメイド服だったから、怪しげな店じゃないと思っていたのに。
「すっごいねぇ、薔薇は男しかいないからかな? 色白つり目とオスわんこがちゅーしてる」
「ちゅーしてる、っと……凄いとこだな」
メモを取り終わってしげしげと2人を眺めていると、北都の方が注目されていることに気付いた。
(参ったなぁ、母乳を与える母親のような気分だよ。恥ずかしいなぁ……でも何か周りの空気がちょっとヘン、だよねぇ?)
「ちょっと! 2人ともこんなところで何やってるのよ!」
お冷やとメニューを取りに来た花梨に怒られて、食事はお終いと北都はソーマを引きはがす。
「え、何ってソーマがお腹空いたって言うから……」
「吸血鬼にとっては食事かもしれないけど、今日は新入生だっているのよ? 端から見れば首筋へキスしてるようにしか見えないわよ!」
「キ……っ!?」
言われて、ようやく妙な視線で見られていたことがわかった。
別に吸血鬼の食事風景が珍しかったわけじゃない、勘違いされていたんだ。
ホールに出る前に身だしなみを確認する鏡には、血を吸われたせいか歯の跡を中心にうっすらと赤くなってしまっている。
慌ててタイを締め直して隠そうとする北都を見て、ソーマは笑いながらホールへ姿を消した。
(もうっ! 写真集買って帰って、みんなの前でからかいながら見てやるからね!)
どんな写真が載ってるか知らないまま闘志を燃やす北都は、ホールが落ち着くまで翡翠の手伝いをすることにした。
イケメンを堪能しながらバイト代も稼げると、まさに一石二鳥とばかりに張り切っているハニーは丁寧に接客する。
背中の大きく開いた赤いロングドレスは、セクシーさを醸し出しながらも普段の豪快な性格を隠し、猫かぶりな性格はさらに客を騙すことだろう。
「いらっしゃいませ、お席にご案内致します」
「ああ、大丈夫。俺はここの部員なんだ。ちょっと様子見に寄っただけだから」
部活の掛け持ちをしていたレイスは、愛!部の出店をパートナーに任せ『ご奉仕流 護身術』へと顔を出していた。
そのため、彼はタキシードではなく和服を着ているのでほんの少し店の空気と合わないかもしれない。
「なら、なおのことお休みになって下さい。一仕事終えてお疲れでしょう?」
優雅な笑みにつられ、少しだけ……と席に座るレイスとテキパキとオーダーをとるハニーは、落ち着いた喫茶店の一場面のようだ。
(……ハニーさん、ほんっとにイケメンとお金が好きだよね)
いくつめかのケーキを食べながら、リアは珠輝の等身大抱き枕を踏みつける。
そして、どうやって諸悪の根源を討ち滅ぼすかと考え込むのだった。
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