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リアクション
野球場
薔薇の学舎の野球場の一つで、野球部の催しが行われようとしていた。それも、ただの野球ではなくたっていれば勝ちという『パラミタ野球』である。
イリヤ分校のPRがてら、この交流試合に御呼ばれしていた泉 椿(いずみ・つばき)は、気合十分に野球のユニフォームを身にまとってバッドを天高く掲げた。そんな彼女をチアリーダー姿で応援しているのはパートナーのミナ・エロマ(みな・えろま)だ。
「よし! 立っていれば勝ちだぞ」
「L・O・V・E! LOVE! 椿♪ ファイト!」
「おまたせしました泉さん」
そういって、イルミンスール魔法学校野球部『ユグドラーズ』のユニフォームを着たいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)とメカ ダゴーン(めか・だごーん)が現れた。
「イリヤ分校との交流試合、受けてくれてありがとう」
「いあいあいあ。宣伝がてら、とはいえ僕らも相手がいなくては意味がないですから、助かりましたよ」
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」
メカ ダゴーンが効果音ともきめ台詞ともつかない言葉を発しているところを、羽入 勇(はにゅう・いさみ)がぱちりとカメラに収める。野球観戦ついでに、分校宣伝用の写真を撮ってほしいと頼まれたのだ。
「あれ、でも人数……大丈夫?」
「大丈夫なのです!」
いんすます ぽに夫が高らかに装いうと、彼が手で示した先にはエミリー・オルコット(えみりー・おるこっと)とエドガー・オルコット(えどがー・おるこっと)が制服の上から無理やりユニフォームを羽織らせられている。さらに薔薇の学舎の制服姿の志位 大地(しい・だいち)も、ユニフォームを羽織らされている。
「新入生対、先輩という形でやるんです!」
「え、あれ。でも交流試合じゃ」
「こまけぇこたぁいいんだよ」
羽入 勇の突っ込みもむなしく、泉 椿はそうりりしく言い放ち、バッドを新入生に向ける。
「さぁ! 試合開始だぜ! 分校の宣伝のためにも、かっこいい写真頼むぜ!?」
「あ、うん! 任せておいてね!」
そうして3対3で始まった他校での他校野球部による交流試合が開始されていると、それに乗じて設置された屋台が賑わいを増していた。
看板には、歌って踊れる屋台【★食い倒れor行き倒れ★】&「守護と自由の比翼」と書かれていた。
「ハンガリー舞曲第5番」を流しながら華麗な踊りを見せるリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、瞳の色とあわせた深い緑色のフラメンコドレスを纏っていた。そのドレスの豪奢なつくりにも驚かされるが、何よりもそのダンスがみちゆく人の足を止める。
体調2メートルほどの日本狼姿をしたスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)はその横で『「守護と自由の比翼」をよろしく!』と書かれた看板を首に下げていた。彼もまたみちゆく人の視線を集め、その頭を優しく幾度もなでまわされていた。
「な、何故だ」
「手伝ってくれてありがとう。おかげでワタシたちのお店も、大繁盛ですよ〜」
「おかげさまで、ケバブも焼きそばもおっつかないくらいだよ〜」
「む、いや。オレたちも看板に名前を載せてもらって、助かった」
狼に声をかけながら、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は鮮やかな手つきで借り物のケバブロースターからケバブを切り出すとピタに野菜とソースを合わせてはさみ、お客さんに手渡していく。その隣では、オリジナル塩焼きそばを作っている真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)も、手早くぺペロンチーノのように薫り高い焼きそばをプラスティックの容器に入れて、輪ゴムで止めて割り箸をはさむとお客さんに手渡す。
「凄くおいしい!」
「これ、お土産にも買っていこうか?」
「ありがとうございます! まだまだありますので、いってくださいね〜!」
「ロス! ここだよ!」
「ああ、確かにおいしそうな匂いですね」
クマラ・カールッティケーヤとディオロス・アルカウスが腕を組んで(というよりクマラに腕を引っ張られる形で)訪れると、佐々木 弥十郎は満面の笑みで歓迎する。
「いらっしゃい! 来てくれたんだ」
「うん、地球の食べ物だって聞いたから!」
「こっちの、塩焼きそばも食べてみてください。ちょっと本物とは違いますけど、評判なんですよ!」
真名美・西園寺も声をかけてオリジナル塩焼きそばを差し出す。ほぼ同時に佐々木 弥十郎のケバブも二人で受け取ると、口元が思わずほころんでしまうおいしさに、二人は顔を見合わせて喜びを分かち合った。ディオロス・アルカウスは、真名美・西園寺にそのオリジナル塩焼きそばの調理手順を熱心に聞きだしてメモを取る。
「地球のもおいしいけど、パラミタの料理はロスの手料理が一番だよ!」
「どの学校でも、いつでも料理くらいは造りますよ。そうだ、エルシュたちにも買って行きましょう」
脇にいる少年魔女の頭をなでると、すぐにパートナーたちの分も購入し、抱えてきた道を戻る。彼らの和やかな雰囲気に屋台の店主達も癒されて、また次に来るであろうお客さんたちのために気合を入れなおす。その頃には、リアトリス・ウィリアムズのダンスが終わろうとしていた。
「さぁさぁ! よってらっしゃいみてらっしゃい! 歌って踊れる食い倒れ芸人だよ〜」
フラメンコが人目を引き、曲の終局と共に今度は吟遊詩人の歌声が客たちの耳に届く。
「今日も楽しく食い倒れ〜♪ 明日は愉快に行き倒れ〜♪」
小林 翔太(こばやし・しょうた)が軽やかなステップでダンスを繰り広げつつ、その変わったリズムで歌を口ずさむ。そうしていると、佐々木 小次郎(ささき・こじろう)が屋台から出来立てのケバブを貰ってくると、ぽいっと投げ、それを口でキャッチし、手を使わずに見事に口の中に収めていく。
拍手と歓声が沸き起こり、次々とケバブを放られ、次には輪ゴムで止められて割り箸まで添えられた焼きそばを容器ごと投げる。その容器を蹴りで輪ゴムのみを切って天に舞った割り箸がその手の中に収められるまでの間に、焼きそばは彼の口の中に消えていた。そして、プラスティックの容器を右手に、割り箸を左手に受け取ると、ステップを踏みながらゴミ捨て場にきちんと分別して放り投げる。
「分別もきちんとね♪」
おおおおお!!!
さらに大きな拍手と歓声が上がる。お手伝いをしていた林田 コタロー(はやしだ・こたろう)も、舌足らずな口上を述べながらくるくるっと華麗とはいいがたいダンスを披露する。
「くりゃえ!! すぷりぇーしょっとー!! あくはほりょびりょー、なのれす!! でゅらんだるっ、でゅらんだるっ!!」
よく意味がわからない口上だったが、観客達はやんややんやと大喜びの様子だった。
そこへ、佐々木 小次郎のほうに屋台から声とキャベツを投げかけられる。
「小次郎さん! キャベツが少なくなってきたの! お願い!」
「お任せください!」
すばやく居抜くと、目にも見えぬ速さで投げられた5つのキャベツを千切りの山にしてしまう。下にはいつの間にかビニールがしかれており、その四隅を持ち上げて屋台にいる二人のところへと持っていく。
あまりの速さに、一瞬あっけに取られた客たちがようやく拍手喝采する。
「さぁさぁ! よってらっしゃいみてらっしゃい!」
イーグル・ホワイト(いーぐる・ほわいと)がそんな騒ぎの輪の外で、ビラ配りを続ける。
『ドキっ★歌って踊れる屋台!ポロリもあるよ』と書かれたビラにつられて、いまだに沢山の客が集まりそうだった。
「ぽろりだろ!? あのフラメンコのお嬢ちゃんポロリするのかなぁ」
「て、薔薇の学舎で何のポロリを期待してんだよ〜」
「大丈夫だよ! 沢山ポロりするよ!」
意味もわからず、イーグル・ホワイトは満面の笑みでそう言い放ってビラを配り続ける。その背後で、佐々木 小次郎が仕置きの鞭を高々と構えているのに、まだ彼は気がついていなかった。
それを尻目に、野球部の熱戦をぱちりとカメラに収めていた羽入 勇は、少し寂しくなったおなかをさすりながら、小さくため息をついた。
「なんだか、向こうのほうが盛り上がってるね」
「なんの! まだまだああ!!」
盛り上がりはこの6人のほうが確かに凄いのだが、いかんせん地球の野球を見慣れている人々にとってはみかんを投げている彼らの行動が何かのアトラクションにしか見えないらしく、時折爆笑が観客席から聞こえる。
銀髪をたなびかせながら、羽織っただけのユニフォームが泥だらけになりながらエミリー・オルコットは息切れをおこしていた。
「くそぅ。魔法学校なんだからもっと魔法っぽいことすればいいのに」
「ただ制服着てただけなのに……く、薔薇学の制服、すぐ脱いでおけばよかった……」
「新入生達、なかなかやりますね! ですが! この一球、堪えられなければお前たちの負けです!」
いんすます ぽに夫が高らかにみかんを掲げ、放り投げた。
それをエドガー・オルコットは、バッドを勢いよくふりぬき、みかんを叩き潰してしまった。
「ああ! 兄弟!」
「なんてことを!」
「………くっくっく。よくやりましたね! あなた達の勝ちです!」
そう高らかに宣言されて、新入生たちは目を丸くした。負けたと思ってしゃがみこんでいたエミリー・オルコットに手を差し伸べたのは、泉 椿だった。
「いい試合だったよ。ありがとう」
「え、あ、は、はい!」
そういってその手をとると、観客席から大きな歓声が上がる。新入生に花を持たせる形で勝った、誰から見てもそう取れる試合結果だったが、そうすることが時には先輩の役目でもある。そういいたげな彼らの顔に泥を塗るような野次を飛ばすものはいなかった。
拍手喝采の中、6人の戦士達は互いに互いの手をとり誇らしげに手を振っていた。その勇姿を、もちろん写真に収めた羽入 勇は、次は大掛かりな実験が行われるらしいプールへと足を向けていた。
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