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花粉注意報!

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 クマラが顎でエオリアに示した先には、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)率いる蒼空学園の生徒達で構成された百年草調査隊が、ローグの影野 陽太(かげの・ようた)を先頭に、騎士の篠宮 悠(しのみや・ゆう)、守護天使でメイドの小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)、ゆる族のソルジャー天上天下唯我独尊 丸(てんじょうてんがゆいがどくそん・まる)と争っている。
「百年草は全て悠ちゃんのモノですわ!」
 そう言って、強力なくしゃみで生徒達を吹き飛ばす椛と、
「永遠の愛が欲しいんだろう?ワタクシがくれてやるぜ?」
 そう言い放ち、髪触手で手当たり次第に採取に来た生徒達を捕まえ、艶やかな唇で容赦なくキスを浴びせていく全長およそ20メートルの怪物のような丸がタッグを組み、百年草に近づく調査隊の面々と少し激しく、そしてかなり汚い闘いを展開していた。残念な事に、彼女の性別は不明である……ん?
「おわああぁぁっ!? やめろー!!」
 丸の髪触手に捕まった生徒は、花粉症のため飛び出そうなほど充血した目玉から降り注ぐ生温い涙を脳天から浴びせられながら無駄に濃厚なキスをくらい、天津甘栗の殻を剥くかのようなスピードで軽々と空へと投げ捨てられていく。
投げ捨てられ、軽く精神の奥底までダメージを負わされた生徒が、影野の側に着弾する。
 涙とキスでベチャベチャになった生徒。外傷より、心の傷が心配である。
 影野、倒された生徒を見た後、キッと丸を睨む。
「まさか、これ程の戦力をイルミンスールが投入してくるなんて……」
「影野さん、どうします?」
「隊長ぉ!?」
 百年草調査隊の面々が影野に意見を求める。
 余談であるが、特に名乗り出る者のいない中、影野は『カンナ様の良い所』という議題で演説をし、かの調査隊の隊長に就任していた。
 影野は星輝銃を、丸の傍で鼻をかむ悠にむける。
「君、何が目的ですか?」
 悠は、影野をうっとおしそうに見ながら、
「目は痒いわ涙は出るわ鼻水止まらないわで散々でダルい事この上ないからな。百年草が原因なら全部刈り尽くして処分してしまえばいいじゃん」
「そんな自分勝手な目的で、貴重な百年草を……。それだと、環菜会長がイルミンスールの誰かに、キスをすることになるんですよ?」
 小型飛空艇に乗り、退屈そうにその様子を眺めていた環菜が、キスという言葉にぴくりと反応する。
「めんどくせぇ……。じゃあ、あんたがエリザベート側について、カンナからキスしてもらえよ?」
「なっ!?」
 悠の言葉に、影野の頭の中では『忠誠』と『欲望』という二つの文字が闘いを開始する。
「環菜様と、俺がキス……キスキスキススキすき好き好き」
 天を仰ぐ影野、一筋の鼻血がしたたり落ちる。
「影野さん、どうしました?」
「隊長ぉーっ!?」
 調査隊の面々の言葉に、我に返る影野。
「ま、負けません!! そんな誘惑には!! 俺達は、環菜会長に忠誠を誓った身、だからこそ、花粉症にもかかりにくいのです!!」
 と、手をかざす影野。
「隊長、お言葉ですが、それは先程、風森さんからもらった薬の力では?」
 影野の手がゆっくりと下りてくる。
「……ズズズッ」
「鼻血ふけよ」
 二人が会話していると、丸の悲鳴が上がる。
「きゃああぁぁ!?」 中の具が出てしまうわ!! ワタクシ、針や刃物って嫌いなのぉぉっ!!」
「あ?」
 特に慌てず、丸の方を振り向く悠。

 もはや巨大怪獣、或いは超生命体と言える丸に対して、フェルブレイドの闇咲 阿童(やみさき・あどう)と、吸血鬼でモンクのアーク・トライガン(あーく・とらいがん)が、丸の髪触手を巧みにかいくぐり、切断し、弾き、かわし、果敢に攻めていた。
マスクをしているが、どう見ても目が不機嫌さを醸し出している闇咲は、目の前で丸の髪触手を剣で切り払いつつ、前を行くアークに話しかける。
「おい、アーク」
「なんだ?」
「お前のテンションを著しくアゲてるものは、一体何なんだ?もしかして、さっき貰った花粉症の薬のせいか?」
「当然! 俺様がエリザベートちゃんからご褒美のキスが貰えるって事よ……男なら参加しない訳にはいかないゼーっ!!」
 少し透りの悪い声で叫びつつ、丸の髪触手を素手による格闘術を駆使して、弾きとばしていくアーク。
「俺にとってご褒美のキスなんてどうでもいいんだがな。どっちかというと狼や熊と戯れる方が楽しいんだが……」
 いがらっぽい喉を抑えながらも、アークは丸の本体に向け、突撃をやめない。
「俺様は魔法なんざ端から使え無ぇーんだ、よぉっ!!」
 アークの勇敢な突撃に闇咲は、やれやれと、肩をすくめる。
「難攻不落と思われた巨大生命体、丸は今まさに陥落の危機をむかえようとしていた……て、ところか」
 と、ダルそうに解説をする悠を見て、闇咲が呟く。
「俺、やつとは仲良く出来そうだな」
 と、通りすがりにいた椛を軽く手刀で気絶させつつ、アークの背中を追いかけるのであった。