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第四章 生徒時々戦士


 エリザベート・ワルプルギス達イルミンスール魔法学校の一行は、途中で合流したあんこやエヴァルトらと、己のスタミナを無尽蔵であると信じたが、ちょっぴり足りなくて息があがってたルイ、くしゃみで飛んでいったいちるを追いかけるギルベルトと元親を巻き込んで、今やちょっとした軍隊のノリで最後の山道を行軍していた。
 行列の先頭をきって歩くエリザベートは、妙にご機嫌である。
隣をぴったりと寄り添うように歩く明日香が不思議そうに聞く。
「ねぇ、エリザベートちゃん。どうしてそんなに余裕なのぉ? 環菜さんから、随分遅れているんだよぉ」
「ふっふっふ、アスカ。戦闘とは一手先を読むものなのですぅ」
 後ろを歩いていたエヴァルトが首を傾げる。
「どっかで聞いたな……そのセリフ」
 やがてエリザベート達の登る坂の前に、青空が見えてくる。
 その坂を上り、それからすぐ少し下れば、百年草が咲く高原である。
「みんな、今から見る光景にビックリするですぅ」
 坂の上に駆け足で上ったエリザベートが叫ぶ。
「見るがいいですぅ! 環菜の部隊は全滅ですぅ!!」
 坂の上に上がってきた生徒達が、驚嘆の声をあげる。
「うおおぉぉ!?」
「校長、やりすぎっスよ……」
「ちょ……これってヤバくない?」
「エリザベートちゃん、これで勝利できるねぇ」
 と、喜んでいるのは明日香くらいである。
 生徒達の妙な反応に、疑問を感じたエリザベートが恐る恐る振り向く。
 そこには、百年草の花畑の中で、ツァンダウルフやパラミタベアの輪に囲まれつつ、応戦する生徒達がいた。

「こっちに来るなあぁっ!!」
 狼にむけ、ファイアストームの構えをとるクマラ。
「クマラ! 炎はダメです、火事になります! 氷術で応戦しますよ?」
 メシエの提案にクマラはすぐさま、構えを変える。
「チィ、何か武器はないのか?」
 エースがエオリアに言うも、
「残念ですが、何も。今回はピクニック気分のつもりでしたから」
「……マズイぜ? みんな花粉症で、本来の力が出せないんだからな」
 エースはあちこちで獣達を追い払おうと奮戦する生徒達を見て、唇を噛む。
 今、獣達に本気で来られたら、防ぐ術はないだろう。
 エースが、後方にいる風森と毒島に叫ぶ。
「おい! まだかよ!! こっちはもう一触即発なんだぜ?」
 毒島がエースに叫び返す。
「やっておる。もう少しだけ堪えるのだ、エース! ……望、大変な事になったな?」
 毒島は目の前の風森を見つめつつ、手元の鉢の中で素早く薬を調合していく。
「ごめんなさい……、まさか、こんな事になるなんて」
「起きてしまったことはいいのだよ。問題は彼らを如何に起こして戦える状態まで、もっていくかなのだ」
 風森と毒島の前には、環菜をはじめとして数多くの生徒達が眠っている。
 コトリと、調合された薬の鉢から手を離す
「さて、この液体を一口ずつ飲ませるのだ、暫くすれば自ずと目を覚ますであろう」
 鉢を受け取り、静かに頷いた風森が走っていく。
 獣達と対峙するエースが叫ぶ。
「駄目だ、もうやるしかないぜ!?」
 そう叫んだ矢先、一匹の熊が生徒に襲いかかる。
 メシエとクマラがすぐさま術の体勢に入るも、
 ブォンッと音がしたかと思うと、炎が巻き起こり、驚いた熊が後退する。
「爆炎波!? 誰だ?」
 ジャリ、ジャリ、とひどく重量感のある足音が近づいてくる。
 皆が振り向くと、そこには異様なデザインの防毒マスクを装着した赤羽 美央(あかばね・みお)が、片手にライトブレード、もう片方の手には百年草を抱えて、立っている。
 美央の背後に、赤いオーラに似たものが見え、思わず目をこするエース。
「赤羽……美央?」
 生徒の問い掛けに、振り向く美央だが、
「コー、ホー……」
 と、妙な呼吸音だけを残し、再び獣達にライトブレードを構える。
 そして、飛びかかってきた狼数匹を、轟雷閃で一蹴する。
 美央を取り囲むような陣形にシフトしていく獣達。
「獣達は標的を美央に移しつつある? なんで?」
 その光景に、ビーストマスターとして狼たちを説得しようとしていた玲也が呟く。
「確かに。あれほど炎を嫌うのに、妙ですわ」
 頭に大きなたんこぶをつくったいちるが言う。
「百年草を持っているから? とか?」
「まさか! 獣達が花に興味を持つわけなんてないよ!」
 と、言った玲也が美央の戦いぶりを見つめる。
 一瞬、ヒナに氷漬けにされた出雲の口が「た・す・け・て」と動いた気がした。