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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

リアクション

「あれ〜? つんでれミイラ男さんがいませんね〜、どこでしょ〜?」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は準備の進む披露宴会場できょろきょろしていた。包帯ぐるぐる巻きの怪しい男がいたらすぐに分かる筈なのだが。
 昨日、地下に行った生徒達も準備を手伝ったりその辺を歩いていたりで既に結構な人の入りである。何せ約90……あ、もういいですかそうですか。
 人の間を歩いているうちに、明日香は向かいから来た男とすれ違いざまにぶつかった。
「あ、わり……」「あ、ごめんなさい〜」
「「ん?」」
 2人は同時に相手の顔を確認し……。
「あー! つんでれミイラ……男じゃない!」
「何か文句あるのかこのむちゃくちゃ娘」
 銅鍋より銀鍋の方が良いとか環菜の生写真を渡すとか挙句の果てには自分に痴漢の罪を着せようとしたりとか、可愛い顔をしているくせに手段を選ばない油断ならない少女。それがラスの中での明日香への印象だった。
 まあ、今日は特にやましい所はないから変なこともされないだろう。そう思ったのだが……。
「お見舞いの品として『環菜の生写真』と『ルミーナのフィギュア』を持ってきたんですけど、もう要らないですかね〜」
(まだ生写真を引っ張るか……!? しかも、なぜ『ルミーナのフィギュア』!?」
「……頼むから持って帰ってくれ……」
「せっかく持ってきたんだし、受け取ってください〜」
 明日香はそう言って、無理矢理にラスのポケットにその2つを突っ込む。
「ところでつんでれ男さん、ピノちゃんはどこですか〜?」
「は?」
 あまりにも予想外のことを言われ、ラスは目を丸くした。
「噂で聞きましたよ〜。妹的パートナーのピノちゃんにはやさしいらしいじゃないですか〜。どんな子か興味がありますぅ〜」
「な、突然何言って……」
 こいつに引き合わせたらどんな変な影響が出るかと、ラスは慌てる。幸い、ピノは前を歩いていて自分が遅れていることには気付いていないらしい――いや、振り向いた。ケイラと響子に声を掛けて一緒に戻ってくる。
「おにいちゃん、どうしたの? お友達?」
「あれ、神代さんも来たんだ。こんにちはー」
「こんにちはです〜。ていうかあれですね〜? もしかしてピノちゃんですか〜?」
 ピノは明日香ににっこりと人見知りのかけらもない笑顔を向け、言った。
「はじめまして! ピノ・リージュンです。よろしくお願いしますね!」
「…………」
 明日香はその素直さに驚いてラスとピノを見比べる。そして、ある1つの可能性に思い至った。
「……何だよ」
「神代明日香です〜。つん……ラスさんの知り合いですよ〜。ところで、ピノちゃんはアリスですか〜?」
「ううん、違うよ? あたしは剣の花嫁だよ!」
「え、そうなの? 僕もてっきりアリスかと……え、剣の花嫁?」
 ケイラもラスとピノを見比べる。
「何の裏もないふつーの剣の花嫁、だ」
「そっかー、てっきりつんでれの上にろりこんなのかと思ったんですけど〜。じゃあ違うのかな〜」
「ろり……!? お前、なに変な言葉吹き込もうとしてんだ!」
 ラスを無視して、明日香はピノと目線を合わせる。
「ラスさんって実はつんでれでね……」
「お、おいこら!」
「わーい、ラスおっひさしぶりー! そしてマナカ☆アタック・改!」「!?」
 いきなり全速力全体重で体当りされて、ラスは盛大に3メートルほど吹っ飛んだ。そのまま春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)と共に通行人に思い切りぶつかる。
「あいてー……! おい真菜華! 俺はまだ完治してねー……!」
「え? だからだよ?」
 当然のように言われ、思わず二の句が継げなくなる。
「マナちゃん、まだお仕置きしたりないんだよねぇー」
 真菜華は続けて、腕で首を締めつけた。包帯をぎゅむーっと締めるつもりだったが無いのであれば仕方ない。
「ミイラじゃなくて残念だにゃー」
「ね〜」
 真菜華と明日香が同意しあう。
「し、しぬ……」
「あなた達、今、誰にぶつかったかわかってるんでしょうね……」
 その時、ぶつかられた相手が耐えかねたように怒りの声を出した。
「げっ、環菜!」
「この忙しいのに何をわいわいとコントをやってるのかしら? 暇ならきりきりと手伝いなさい!」
「ねえねえラス、今落ちたやつ何? 写真?」
「あら、これはわたくしの……?」
「い、いやこれは! 俺のじゃなくてだな……!」
「おにいちゃんのだよ?」
 あっさりと言うピノ。
「ば、馬鹿!」
「へーーーー、隠れルミーナファンだったのね……。覚えておくわ」
「私のファンは即刻止めなさい。これは命令よ」
「……だから、違うっつってるだろーが!」
「ざま〜みろ、だね」
 そこで、プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)が話に参加してきた。テーブルの上にはソーニョ・ゾニャンド(そーにょ・ぞにゃんど)が乗っている。何気に一部始終を見ていた彼女は、冷めた表情で言う。
「ファーシーさんを鍋にしようとするから、そういう目に遭うんですよー。あの後にもひどい目に遭ったようですけど、因果応報です」
「お前らなあ……」
「ラスさんのとった行動もわかるけど……一生懸命考えての上だったんだろうけど、それでも許せません。だから、ざま〜みろです」
 ニッ、と笑う。
「…………」
「プレナさん……」
 ファーシーがうるうるという擬音が乗りそうな声を出す。ソーニョが苦笑して言った。
「僕も解るけど、やっぱり許せませんね。まああえてざま〜みろ話には参加しませんけど」
「してるじゃねーか……」
「それはそうと、ルミーナ、そろそろ控え室に行った方が良いわ」
 全くもってどうでもいいという態度で、さっさと話を切り替える環菜。ルミーナは時間を確認すると、ファーシーに言った。
「では、行きましょうかファーシーさん」
「うん。行こう、ルミーナ」
「なんで修理は最終日なのかにゃー……カラダないと、ウエディングドレス着れないのにー」
 離れていくルミーナを見て、首絞めの体勢のままに真菜華が呟く。
「って、5000年前にはそんな風習あるわけないか!」

 礼拝堂の中に参列者が入り、閑散とした前広場。その会場の周囲に、壮太はトラッパーでピアノ線を張り巡らせていった。
 ファーシーが結婚式を望むなら、それを適えてやりたい。
 生きることは惰性じゃなく、義務だ。生まれたばかりの赤ん坊だって、生きるために泣いている。生まれたからには、生き続けなくちゃならない。
 彼女の望みを適えることで、これから先に生きる糧になればいい。
 そう思う。
「うーむ、未だにネクタイとか慣れねぇな」
 突然、そんな声が聞こえてきたので顔を上げると、礼拝堂の裏ではスーツを着たラルクがネクタイを締めている最中だった。
「うわっ、マジびっくりした……」
「ん? 何やってんだ? ピアノ線?」
「一応、な。モンスターや蛮族とか、どんな邪魔者が入るか分かんねーし」
「……そういえば他にも、やけにぴりぴりしてる連中もいたな。そんなに警戒しなくても大丈夫だとは思うけど、まあ、暴れそうな奴がいたら、俺が外につまみ出してやるぜ。せっかくの結婚式、幸せな雰囲気のまま終わらせないとな!」
「それにしても、スーツなんて珍しいわね」
 左手に戻ってきたフリーダが言うと、ラルクは笑った。
「ファーシーにとって大事な日に、いつもの格好ってわけにもいかねえだろ? それに、これからはスーツにも慣れていかねえとな」
「ああ、転校したんだっけ?」
「まだ、人数は少ねえけどな。1日は、本当にそのまま廃校になっちまうかと思ったぜ」

 そして、式の時間が迫る。
 控え室にはルミーナと、銅板を磨く風森 望(かぜもり・のぞみ)の姿があった。一磨きごとに込められた心を受け止めるように、ファーシーも声を発していない。ドアがノックされ、一拍の後に入ってきたのはエメとアレクスだった。アレクスは、抱えていた紙袋の中から青いリボンを出して望に渡す。
「サムシングフォーの『青い物』にゃう。これなら、銅板にも付けられるにゃう」
「わ、可愛い! つけてつけて!」
 途端に弾んだ声で言うファーシー。望は、鎖をうまく利用してリボンをつけた。
「ねえ、似合う似合う?」
「もちろんです。素敵ですよ、ファーシー様」
 望が微笑むと、ファーシーもはにかむようにふふ、と笑う。
「これもあげるにゃう」
 紙袋を受け取って中を見ると、白い手袋と青いガーターベルト、そして、昨日ルヴィの家で見つけた装飾品が入っていた。エメがサムシングフォーの意味を説明すると、ファーシーは嬉しそうにした。
「そうなんだ……じゃあ明日、身体に戻れた時に着けてみるね。ありがとう」
 そこに神野 永太(じんの・えいた)燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が入ってきた。2人は手に『ハートの機晶石ペンダント』を持っていた。
「それは……?」
 不思議そうに聞くファーシーに、永太は言う。
「地球では、結婚する人同士で指輪を交換するんですけど……、その代わりというか、この結婚式の記念というか、形として残るものを、ということで……」
「わたくしは良く分からないのですが、何か大切なことらしいので……ルヴィ様と1つずつ、どうぞ」
「交換? へー……わたしも良く分かんないな」
「このペンダントを持っていれば、ファーシーさんの想いはルヴィさんへ、いつかきっと届きますよ」
「わたしの……想い……?」
「はい。えっと……銅板に巻きましょうか?」
「鎖に、しっかりと取り付けますね。ストラップのようになりますけど……」
 望はそして、ペンダントを鎖につける。
「あ、あの……よろしいですか?」
 入口から顔を覗かせたのは、クエスティーナだった。ルミーナに近付き、ナデシコのブーケを差し出す。続いて入ってきたエースも、ブーケに仕立てたアレンジメントを持っていた。
「これは……感謝を伝えるブーケですね」
「あ、やっぱり今もそうなんだ。クマラとメシエが言ってたけど……」
 エースの言葉に、ルミーナはきょとんとした顔をした。クエスティーナが言う。
「地球では……ブーケを受け取った女性が、次に……幸せな結婚をすると……言われています……式場から出たら、皆に向かって、投げて下さいませ……。ナデシコの花言葉は……『純愛』です」
「ブーケトス……幸せを分ける……素敵な風習ですわね」
 ルミーナは花を見つめ、その意味を味わうように目を閉じる。
「ルミーナさんに……お願い、したいのです」
「……わかりました。わたくしで良ければ、喜んで」
 目を開けたルミーナが、柔らかく笑う。
「こっちではいくつか投げるそうだから、俺からも」
「ありがとうございます」
 そこで、優斗が控え室を訪れた。
「そろそろ時間ですから、よろしくお願いします」

 本堂に向かう6人の後に続き、ルミーナ達も控え室から出る。別れ際、望は彼女達を振り返り、真っ直ぐに立った。
「ファーシー様、今、あなたは幸せですか?」
 数秒の間を置いて――――ファーシーは答える。
「……うん、幸せだよ」