波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

リアクション公開中!

魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

リアクション

 ルミーナ達、特に銅板であるファーシーは絶対に守らなければならない。翔は庇護者のスキルで彼女達に攻撃が当たらないようにして、武器の聖化を施したグレートソードで、更に破邪の刃を使ってゴーレムを崩していく。
「邪魔をしないで!」
 アリアが、妖刀村雨丸でへどろんを斬り付ける。断面は凍りついて、再結合が出来ぬままにへどろんはおたおたした。そこを全員で通り抜ける。その際に、レンが氷術で全体を固めた。そして、轟雷閃を纏ったメティスが鉄甲で叩き割る。砕けたへどろんの中から、レンとメティスは持ち運べるだけの塊を確保する
「まだ足りないな。その『鉄の処女』に入れられるか?」
「はい。突き刺せば安定するかと」
 内部の棘にできるだけ刺すと、2人は集団に追いついた。
「あれ? その塊、どうするの?」
「……利用したいことがあってな」
 気が付いて問いかけてきたファーシーに、レンはそれだけ言った。嘘ではない。実際、利用する為に運んでいるのだ。

 走っている途中で、美央のトレジャーセンスが再び反応した。
「この部屋に何かあるようです」
「よし、調べてみるか。……セルは入口の護衛をしてくれ」
 イーオンとフィーネが中に入る。あいにく扉は壊れていたので、護衛の必要があった。ジョセフも彼等に続いた。モンスターから逃げていて皮紙の解読が進んでいなかったりする。
 造りかけと思われる機晶姫のパーツが、モンスターに荒らされて散乱している。中には、ひしゃげたりしているものもあった。皮紙の類も、破れたり油で床に貼り付いていたりと、読めそうなものは少なかった。とりあえずフィーネに片っ端から写真を撮ってもらい、イーオンは読める皮紙を探すことにする。研究者魂が疼くというものだ。しかし、無事そうな皮紙をめくって文字を確かめること少し。
 シャッターの音が聞こえなくなった。
「……?」
 振り向くと、フィーネは壁に寄りかかってカメラをいじくりまわしていた。
「イーオン。そろそろ喉が渇いたな」「まだほとんど調べてないだろう……」
 その頃、外では陽子が迫ってくるゴーレムを左手で殴りつけていた。
「ファーシーさんには手はださせませんよ」
 光条兵器のナックル「緋想」と特技の武術の相乗効果で、ゴーレムの頭が赤い光を迸らせながら吹っ飛ぶ。間髪入れずに腹部にも一撃を叩き込むと、土のモンスターはあっけなく崩れ去った。続いて、へどろんに氷術をかける。臭いが抑えられるかと思ったが、そこらにいる他のへどろんのせいで大した効果は体感できなかった。
「よ〜し、やっちゃうよ〜!」
 凍ったへどろんを、怪力の籠手をつけた透乃が則天去私で連続攻撃する。へどろと油で構成されているへどろんはしゃくっという音を立ててばらばらになっていく。
「ファーシーちゃん、これが死ぬっていうことだよ。ここまで粉になったら直せないでしょ? 元に戻らない、ていうこと」
 残骸を足で踏んづけて粉にしつつ言う透乃に、他の面々はびっくりした。何をいきなりシリアスな発言を! と。透乃には、ファーシーの目の前でモンスターを殺すことで、『死』というものを実感させたいという気持ちがあった。2日前、『死』について口火を切ったのは自分だ。楽しい気分でここまで来たところに水を差すようではあるが、やはり実際に見た上で説明した方がその重みもわかるだろう。
「…………」
 ファーシーはすぐには言葉を返さず、他のメンバーもつい固唾をのんでしまう。
「……そんなの、もう分かってるわ。透乃ちゃん」
(……あら?)
 ルミーナがそこで気が付く。ファーシーが相手を「さん」付けで呼ばなかったのはルミーナ以外では2人目だ。
「わたしだってこの2日間、ただ遊んでたわけじゃないのよ。蝙蝠の死体だってたくさん見たし、お墓だって見たんだから、今更そんなことで沈まないわよ」
 対抗心丸出しでファーシーは言う。
「これでも、いっぱいいっぱい色んなこと考えて、『死』についてはそれなりに受け入れてるつもりよ。それに、透乃ちゃんがどうしてそんな事を言うかだってお見通しなんだから! 普通なら言い難いことをちゃんと教えてくれてありがとう。ふ、どうよ。他に言いたいことがあったらどうぞ? 聞いてあげるわ。そしてまたお礼を言ってあげるわ」
 目を瞬かせてファーシーの言葉を聞いていた透乃は、やがて笑った。
「今は無いよ! でも、また何かあったらぼっこぼこにしちゃうからねー! ……え、いや違うよ? ココロ的な意味でだよ?」
「ぼっこぼこ」に反応した皆の怖い視線を受けて慌てて言い繕う。
「えへへ、嬉しいな……」
 そのやりとりの間に、新たなエンカウント相手が迫っていた。
「ルミーナさん、危ない!」
 迫るへどろんから、アリアがルミーナを庇った。途端に、身体が嫌な感触に襲われる。上から被さったへどろんが、正にアリアを取り込もうとしていた。
「アリアさん!」
 ファーシーが叫ぶ。アリアが中にいる以上、氷術は使えない。
「やっ……ぁああん! ……は、はな……し……きゃっ!? そこは……っ」
 油まみれになった制服が気持ち悪い。ヴァンガード強化スーツのおかげで上半身は守れたが、もがくうちにスカートがめくれ、下着があらわになる。
「み、見ちゃダメ!」
 透乃や陽子、朔とスカサハが男性諸氏を回れ右させる。いや、倒そうよ……
「……っ」
 途端、顔を真っ赤にしたアリアの目が、鋭く光った。
「このぉ! 好きにはさせないわ!」
 何となく違う意味を想像してしまうがそれはともかく、アリアはダメージ覚悟で自分ごと雷術を放った。
「きゃあ!」
 へどろんがしびれ、びくびくと痙攣している隙に何とか抜け出す。そこを、スカサハが氷術で凍らせて朔が高周波ブレードで切り刻む。
「指があったら10本共ばきばきに折ってるところよ! ゼリーっぽくて良かったわね」
 セルウィーと陽子が近付いてアリアにヒールをかけ、スカサハが極端に温度を下げた火術で服を乾かそうとする。
「あ、ちょっと待って! 油だから、万が一ってことが……」
 慌てて止めるアリア。
「うーん、じゃあ、どうするであります?」
「…………うー、拭えるだけ拭うしかないわね……」
「騒がしいな、大丈夫か? 機晶姫についての記述が……ん?」
「見ちゃダメーーーーーーー!」
「情報は巨大機晶姫の所に行ってから聞こう。ここはやはり危険だ。いろんな意味で」
 未だ振り向くことを許されないアーキスが提案し、一行は巨大機晶姫の元に向かった。

「こいつはすごいな……」
 巨大機晶姫を下から見上げ、エヴァルトが感嘆の声を上げる。
「うーん。ボクの合体パーツにはできそうにないかなー。本来のパーツ、合体してもせいぜい3メートルくらいにしかならないし。……自分をコアとして組み込むことができるなら、大きさは問題にならないけど」
 ロートラウトの脳裏に、超巨大ロボを動かすために巨大ロボを使って操縦、とかいうシーンが浮かぶ。……それ、どこのドリル満載ロボ……?
「頭部が未完なんて、きっと随分悩んだんだろうなぁ。ロボの象徴の一つだしな。しかも黒が基調って、すげー好きだわ。よし、修理や起動が可能か、確かめるぞ!」
 白地に青い縁取り、真ん中に赤くVのマークという表紙に差し替えた機晶技術マニュアルを持って足場の1つに走り寄る。構造を把握した暁には、先端テクノロジーのスキルで地球の技術とのハイブリッド化も試みてみたかった。
「土地の文化を考えると、起動条件が『2つの銅板』だったりしてな。もしそうならこれは……めおとロボと呼ぶべきか……? となると、本来の頭部の形はその夫婦の顔が半分ずつ……って、これ以上はまずいまずい、いろんな意味で」
「なんか変なこと言ってるよー」
 それを見ながら、ロートラウトが首を傾げる。
「起動ねえー。機晶石は入ってるのかな? 作りかけだし、まだなんじゃないかなー」
「どうやって動かすのだろうな。我輩達機晶姫は、機晶石を収めることで稼動するためのエネルギーを得るのだろうが、そこに、我輩のような可動応対にある機晶姫が収まった場合、どうなるのであろうか。その機晶姫の意志でこれを動かせるのであろうか?」
 興奮を隠そうと努めてはいるが隠しきれていない明。まあ要するに、機晶姫がパイロットになれるかということである。
「そうだね。操縦席があるなら、構造を調べながら動かせるかも。構造にボクと類似点があるかどうか、調べてみたいんだよねー」
 似ていたら、合体も出来るかもしれない。
「いえ、それは……無理ですよ?」
 陽太が言う。いくら大きくても機晶姫は機晶姫。動力は新しい機晶石以外にはあり得ない。動いている機晶姫と交流をした上でパイロット気分を味わうことならできるだろうが。
「環菜、調べて……乗ってみても良ゐか?」
「どうぞ。情報は多いにこしたことはないわ」
「では早速!」
 明とロートラウトが巨大機晶姫に向かっていく。明は、足場と自身のアームを使って存外上手く登っていった。
「だから、無理ですってーーーーーーー!」
「まあ良いじゃないの。これで動いたら面白いわ」
「ぜっっったいに無理です。会長……会長が自ら現場に来るなんて珍しいなー、と思っていたんですが、もしかして……巨大ロボが好きだったり……?」
「そんなわけないでしょう」
 サングラスの下からでも、環菜の目が細まるのが分かる。
「で、ですよね。じゃあ、学園のお仕事がある中、どうしてわざわざ来られたんですか?」
 どうも、今回の件に多少入れ込んでいるように感じているのだが。
「……どうしてかしらね。ただ、最後まで……いえ何でもないわ。それより、早くその本の内容とこれを照らし合わせてみて。人が乗っていてもそれくらいは出来るでしょう。……なんだか勝手に分解しようとしているみたいだし。壊れる前に止めて頂戴」
「は、はい!」
 ガガがつま先部分を触って外そうとしているのを、陽太は慌てて止めに行く。そこで、調査組が到着した。