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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

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魂の欠片の行方3~銅板娘の5日間~

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 洞窟の奥は、いびつな円形の広場だった。これまでと変わらない岩肌。特に加工された形跡のない自然のままの――否。
 中央部に、銛のように3本の突起を持った光る岩が置かれている。その土台だけが少しばかり盛り上がっていた。
 ルカが、その岩をポラロイドカメラで撮影した。出てきた写真にも、光はきっちりと写っている。
「ルミーナ、ファーシーの代わりにとっておいてね」
 そう言って、写真を渡す。
「この突起の中央に、ルヴィさんの銅板が下がっていたんです。封印と言い伝えられていますが、何の抵抗も無く僕は取ることが出来ました。だからこそ、迷信であったと思ってしまったのですが……あるいは、抑えられているのは別の何かなのか……」
 その時、中央の岩が一際強く蒼く光った。
『あの時の若者か……』
 蒼い光は、やがて2本足の生物の姿を形作った。広場を埋め尽くすほどに広がった半透明のそれは、一つ目の巨人だった。
『ルヴィはどうした。一緒ではないのか?』
「銅板のことですか? 持っていますが、あなたは……?」
『居ないな……そうか、もう往ったのか……』
「あなたは誰……? 何を知っているの? わたしはファーシー、ルヴィさまの……恋人よ」
 ファーシーが言うと、巨人はもう1枚の銅板を見て瞬きをした。
『……そうか、おまえがファーシーか……ルヴィと同じで、銅板に宿ったのか? おまえことはよく、ルヴィが話してくれたものだ』
 姿を縮小させていく巨人は、再び岩におさまった。辺りが薄暗闇に包まれる。
『あいつは俺の目の前で、死んだ……』
「…………!」
「わわっ、ファーシー!」
 真菜華の上で、銅板が跳ねた。これまで決して自己意思で動けなかった銅板が。
「落ち着くんじゃ!」
 シルヴェスターがそれを掴んだ。若干熱を帯びた銅板が、少しずつ冷えていく。
「分かってる……もう、大丈夫……」
『気をつけろよ。そんな脆弱な依代、すぐにぽーんといっちまうぜ。俺ももう、終わりだ。ルヴィが消えた以上、ここに留まる理由もない』
「巨人さん、ルヴィさまの死んだ時の事を教えて。知っていることを全部」
 ファーシーは、一言一句に確かな意思を乗せて言う。
『……連中の狙いは俺だった。ルヴィ達は、俺を守る為にアストレアに来たんだ。……モンスターがどうしてって思うか? それは、俺にも解らない。俺はお世辞にも、良い奴だとはいえなかったからな。街の奴らを、道具のようにしか考えていなかった』
「道具……?」
『俺は、ここで鍛冶職人をしていた。主に飛空挺や鎧を作っていた。この巨体だからな、効率も良くて、街は繁盛したんだ』
「だから、鏖殺寺院に狙われたの?」
 後の脅威と取られたということだろうか。
『いや、ルヴィの話だと、向こうで造っていた巨大機晶姫と俺に、何か関係があったらしいな。戦争を切り抜けた後に驚かせてやるから、とそれ以上の事を話してはくれなかった。第一、アストレアを襲ったのは、この近くの土地の管理を任されていた王国所属の領主だ』
「王国の……!?」
 一同は顔を見合わせる。
「それは……ファーシーさんの故郷を襲ったのも、鏖殺寺院ではなく古王国だったということですか?」
「そんな……違うわ! 絶対に違う! だって王国は、モンスターを召喚したりはしないでしょう? あの時、製造所は……!」
 ルミーナの疑問を、ファーシーは激しく否定する。
『おまえの街も戦禍に遭ったのか、知らなかったな……だが、それは間違いなく鏖殺寺院だろうな。アストレアと領主との戦争は拮抗していた。他の土地まで攻める余裕があったとは思えないな。ずっと応援が来なかった所を見ると、あちらは単独での行動だったのだろう。だからこそ、ルヴィは勝機があると考えていたんだ』
 王国相手なら、まず勝ち目はない。だが、一領主との戦争なら――
『ここの戦争に巨大機晶姫が絡んでいることを鏖殺寺院が知っても、おかしくはない。むしろ、あらゆる戦争の理由を掻き集めていた奴らが知らない方がおかしい』
「つまり……巨大機晶姫とあなた、領主との三つ巴の戦争に、鏖殺寺院が介入してきたというわけですか」
『そういうことになるな』
 ソルダの言葉を肯定すると、巨人は言った。
『そうだ、ファーシー……俺はずっと不思議に思っていたことがあったんだ。ルヴィは、何か持病……体に悪い所でも抱えていたのか?』
「……? 特に、無いと思うけど……?」
『敵はルヴィ達に一斉攻撃を仕掛けてきた。50人近くはいたな。魔法と銃弾の弾幕で、逃げるしか生き残る術はなかった。その時間は充分にあった。だが、あの瞬間……ルヴィは蹲ったんだ。攻撃が届く前で、それまで普通に動いていたのに、まさに突然のことだった』
「…………!」
 ――ファーシーが討たれた直後だろう。パートナーの死を受けて、体に異変が起きた直後。
『俺は離れたところにいて、慌てて駆け寄ったが間に合わなかった。攻撃を受けてルヴィは致命傷を負った。俺もすぐにやられたが……あいつは死ぬまでずっと、ファーシーの安否を気にしていた。帰らなければいけない、と言っていた。そして……事切れた時にその銅板が光ったんだ』
「光った後の事は……知っているの?」
『いや……そこの若者が来るまでの記憶は無い。おまえがこの空間に足を踏み入れられたと同時に、俺とルヴィは目覚めたんだ』
「しかし、銅板からは何も感じられませんでしたが……」
『今は気配が微塵もないが、あの時は間違いなく居た。おまえが鈍感だっただけだ』
 巨人はにべもない。
『俺の話せることはこれだけだ……じゃあな……』
「あ、ちょっと!」
 ソルダが納得のいかない顔で岩に駆け寄る。
「まだ聞きたいことが……いえ、ありませんね……ありますか?」
 彼の言葉に反応する者は誰もいない。
「…………」
「でも、なんであの巨人まで封印されていたのかしら」
「仲が良かったから、なんだろうな。それとも上司には、2人一緒に光ったように見えたのかもしれない。恐らく、この岩の下には遺体が埋葬されているのだろう。銅板を岩に掛けたのは、その意味を知っていたからか……」
 ヴェルチェの疑問に、静麻が考えながら言う。ずっと沈黙していたファーシーが、ぼそりと呟く。
「やっぱり、わたしが殺したのね……」
 ラスが言っていたのとは少しだけ違う。だけど、それが何の慰めになるのか。直接的ではなくとも、ほぼ直接的であることに変わりは無い。
 ガートルードに背中を押され、シルヴェスターはファーシーに近付いた。
「ファーシー……」
「……ううん、分かってる。死を前にしても、わたしのせいで逃げ遅れても、1番にわたしを心配してくれた気持ちが嬉しい。わたしに生きていてほしいって、壊れてほしくないって思ってくれたことを大切にしたい。大丈夫。まだ……わたしの中のルヴィさまは笑ってるよ」
 それはきっと、仲間がいっぱい出来たから。危険を承知で、ここまで守ってくれたみんな。生を死を、心の在り様を教えてくれたみんな。
 その気持ちがあるから。
 その笑顔があるから。
 ルヴィさまは笑ってくれている。みんながいなかったら、出会わなかったら、わたしは憎しみと絶望でどろどろになっていたかもしれない。

 どれだけ感謝しても、しきれないくらいに。

「決めた。死んでも、生きてやる。今決めた」
 ――ルヴィの死を受け入れるという意味。
 ――自分を受け入れるという意味。
 それが今、明確に、解った気がした。
「ファーシー……今、今技術者達が、体を作ってる。きっと成功する。未沙ちゃん達も手伝って頑張ってるから、安心して」
 ルカルカに続いて、真菜華がいつも通りの明るさで言う。
「そうだよー、結婚式もするんだにゃー」
 結婚という言葉を聞いて、ルカがファーシーに話しかけた。
「ルヴィさんの銅版も貴女の体に使うというか、体内に納めたらどうかしら? もう、離れる事はなくなるし、貴女といつも共に在るわ。結婚って、生涯を共に生きる事ですもの」
「だな。なあ……ソルダ。無事に結婚式が終わったら、お前の持ってる銅板をファーシーの新しい体の一部に組み込んでやってくれないか?」
 ヘルはソルダに言った。ルヴィの銅板にも魂があれば別々の体を与えるのがベストなのだろうが、そんなうまい話は望めそうにもない。せめて、気持ちのこもった物だけでも一緒にしてやれたら、とヘルは思った。そうする事で、自分の体も大事にしてくれるだろう。
「この銅板を……ですか?」
 ヘルに言われ、ソルダは驚いたように見返してきてから、微笑んだ。
「もちろんです。僕から頼みたいくらいですよ」
「ケリはついたようじゃの。そろそろ戻るとするかのう! ファーシー!」
 洞窟内に声を響き渡らせるシルヴェスター。それに負けないように、ファーシーも声を張り上げた。
「そうね。帰りも蝙蝠はよろしくね!」
「…………」
((((((((((そうだった……))))))))))
 多くの者がげんなりする中で、ヴェルチェが気軽な感じでひとりごちた。
「結局、金目のものはなかったわねー、まあ、いいか♪」