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君が私で×私が君で

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リアクション

 子幸が大樹を1周して戻ってくると、レジャーシートに置いてあった実は半分以上減っていた。髪をいじられながらも、莫邪の食べる手は止まらない。子幸は快活に笑った。
「はっはっは、そがぁに食べたら腹めぐよーやめんさいー」
「大丈夫であります! まだまだいけるであります! 2人は食べないでありますか?」
「わしらはもう食べて、充分じゃけぇ」
 朱曉と子幸は、最初に採取した時点で果実を単体で食べていた。これで3人共に実を食し直した訳だが――
「まだ元に戻んねえな。本当に、食い直すだけで戻るのか? やっぱり、薬を作る必要があるんじゃねえのか?」
 朱曉は、侘助の言葉を正しく理解していたようだ。
「どうかのぉ。原因が分かれば簡単なんじゃが。さっちゃんはどう思うんじゃ?」
 莫邪は口をもぐもぐさせながら、何でもない事のように言った。
「原因でありますか? 原因というより……、女王が下々の気持ちを理解する為に自然と実をつけるのではないでありますか?」
「…………」
 思わず顔を見合わせる2人。そこに、光条兵器の斬馬刀を担いだ小川麻呂が合流する。
「果実と飯を一緒に食うとは……そんな奴は初めて見た」
 初めて会う彼に対し、莫邪は立ち上がって挨拶する。
「自分は! 草刈子幸と申します!! 何卒宜しくであります! 本来の身体はこっちであります!」
 そう言って子幸を示す。
「ん? 何だお前、教導団か?」
「いえ、明倫館でありますが?」
 莫邪の口調に険を帯びた顔をした小川麻呂だったが、それを聞いて彼は表情を和らげる。
「ふーん……、とことん珍しい奴だな。まあいい。さっき原因が云々と言っていたが……そんなことを考えるより、騒動の根本……根元を断てば、早いんじゃないか」
「根本を断つ……? どういうことだ?」
「考えるのは性に合わんが……それでも考えるのは簡単だろう。事の発端は大樹に生っている果実。それを食った奴らが入れ替わってるなら、その大樹を斬っちまえば少なからず、感染拡大は防げるだろ」
「感染……との。じゃぁ、はぁ入れ替わっとる者達はどうなるんじゃ?」
「時間が経てば治んだろ。そういうもんじゃないのか?」
「しかしのぉ……」
 子幸は賛成しかねるようだ。
「どうせ所有権の無いものなんだ、壊しても問題は無い」
「この実は美味いでありますよ! 根を斬ったら食えなくなるであります!」
「オレだって他人事じゃない。ラムと田村麻呂がおかしなことになってるからな。その上で言ってるんだ」
 小川麻呂は、胸を巡ってボケとツッコミを続けているパートナー達を顎で示した。2人を見て、子幸達は成程と合点する。
「邪魔するヤツは、当然だが斬る。文句は言わせん」
「そうだな、それには賛成だ。この大樹を攻撃すれば、何かが進展することがあっても後退することはないだろう」
 アーミーショットガンを持った林田 樹(はやしだ・いつき)が後からやってきて、大樹を見据えて言った。鼻の下を真っ赤にした林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が、樹の胸の谷間で同意する。
「これ以上、カラクリ娘に好き勝手させる訳にはいかないからね」
「記憶した最弱状態の(ピー)を再現して公開してしまいましょうか。……まあ、ワタシとしましてはこのまんまの方が楽しいんですけど、それじゃ、こたちゃんが可哀相ですからね。何とか致しませんと……」
「こた、わるいみは、かえんほーしゃきれ、めーするお。これ、きのうのわるいみれす。ぱしょこんれしらべた、みのなるきとおなじれす」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)緒方 章(おがた・あきら)が順に言う。教導団員の出現に再び表情を険しくしていた小川麻呂だったが、2人の台詞と口調に毒気を抜かれてコタローを見た。カエルと入れ替わるというのは、傍目から見てもかなりひどい状況である。
(まあ、やっちまえば同じだけどな)
「ここに来るまでにいろいろ考えたのだが……『機晶姫』と言う種族に対してはこの現象が起こらなかったのだから、この実には機晶姫の専用スキルであるSPリチャージを無効化する効果があるのではないか? つまり、『逆SPリチャージ』だ。食べた者同士の関係性でそのリチャージの度合いが違ってしまい、結果的に入れ替わりが起こると推測するのだが……どうだろうか?」
「SPリチャージを持っている者には効かなかったということかい? でも樹ちゃん、それじゃあ機晶姫以外にパートナーを持つ契約者も入れ替わらないんじゃないかな」
「む……そうか?」
 コタローを覗き込んで、樹は渋い顔をする。
「あれこれグダグダ考えていても始まらん、ならば壊すのみ!」
 小川麻呂がリーゼントからメガ粒子砲を放ちつつ斬馬刀で斬りかかり、ラムも光条兵器で、田村麻呂は白の剣を掲げて幹を襲う。
『みぎゃっ』『なんだ?』
「……?」
 一瞬、何かざわついた気がして、一同は顔を見合わせた。しかし極めて小さいその声に、空耳だろうと結論づける。
「……よし、爆破だ」
 付けた傷に、樹と小川麻呂が破壊工作を施した。爆発すると同時に、章が火炎放射器で高熱の炎を噴射した。ジーナが轟雷閃で援護する。
「あー……」
 倒れるにはまだまだだったが、大樹は根元近くから燃え上がった。
『あつい!』『あついぞ』『逃げろ!』『火事だ火事だ』
 名残惜しげに莫邪達が見守る中、大樹の中から、今度は確かに声が聞こえた。複数の、男のダミ声である。
 そう時間が経たないうちに、するりするりと大樹から影が抜け出てきた。ゴーストのように半透明だったその身体はすぐに実体化し、『あつい』『あつい』と言いながら逃げていく。100人近くはいるだろうか。
「ななな、なんじゃ?」
 子幸が皆の思いを代弁する。あまりの光景に、誰もが咄嗟に反応出来なかった。
 出てきて、ちょろちょろとすばしっこい動作で逃げていくのは、体長15センチほどの――
 ちっちゃいおっさんだった。
 眉毛のぶっとい壮年のおっさん達が、10人の足元をすり抜けていく。
『逃げろ』『逃げろ』『森の中へ』『どこか遠くへ』『はやく』『はやく』
 やがて、燃え盛る大樹を残してその場は再び静かになり、頭上から――
 力を失ったように、ホットフルーツがぼとぼとと落ちてきた。

 校長室にて、ダリルは最後にこう言った。
「ちなみに、実には何の有害物質も含有されていなかった。あの樹は今後の為にも研究しつつ残すべきであると提言し、報告の結びとしたい」