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パラミタイルカがやってきた!

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パラミタイルカがやってきた!

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第二章 VSゲドー密漁団 1

 イルカたちが、突如不安に暴れだしたのは、そのときだった。

「な、何が起こったんですの?」

 不思議なイルカたちの行動に、ラズィーヤが不安の声を上げる。直後に、指導員が大きく声を出した。

「皆さん、すぐにボートに戻ってください! ゲドー密漁団があらわれました!」
「ゲ、ゲドー密漁団!?」

 皆がざわめく中、水しぶきを上げて数台の小型ボートがみんなへと近づいてくる。

「おぅおぅ! 痛い目見たくなかったら、おとなしくするのよ!」

 先頭の船の上で、威勢のいい声を上げたのは小柄な少女だった。
 しかし、彼女こそがそのカリスマでこの海一帯を荒らしているゲドー・ナチュラルその人である。

「ほら、てめぇら! 水着女どもに見とれてんじゃないわよ! さっさとやって、さっさとずらかるわよ!」
「アイアイサー!」

 ゲドーの指揮の下、二人乗りのボートが5台。加えて、サメたちが進路を変え、パラミタイルカの群れを囲うようにして周回しはじめる。

「あぁ! イルカちゃんが捕まってしまいますわ!」
 ラズィーヤが声を上げた。指導員をはじめとして他の人たちも、歯噛みしながら密漁団の行動をなすすべなく見守っていく。
 と、そのとき。

「ひょっほーい!」

 ツアー船の後方から、けたたましい水飛沫が迫ってきていた。
 その発生源は……水上を全力疾走する老人!?

「どれ、海の強し者に”ちゃれんじ”じゃぁ!! ひょーっほっほっほっ!!」

 楽しそうに叫んだのは、水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)だった。
 邪堂は大きく跳んだかと思うと、その拳を海面にたたきつける。
 爆音とともにあがる水柱に、鮫が驚いて進路をあける。
 その隙間を縫って、数匹のイルカが逃げ出すことができた。

「なんなの、あの爺は!」
「わかりません! 水上疾走爺としか……」
「そんなの見たらわかるわよ! えぇい、邪魔するものはやっつけなさい! ゲドー密漁団の恐ろしさ、見せ付けてやるのよ!」
「アイアイサー! おら、お前ら! まずそうだが、あのエサを食って来い!」

 団員の指示に、鮫が大口を開けて飛び掛る。

「甘い!」

 飛び出してきた鮫の鼻っ面に向けて邪堂は踵落しを喰らわせ、海中へと沈めた。

「所詮はサメじゃのぅ。おぼれている人間相手ならともかく、今この現状は地上を這うものと空を飛ぶものの戦いに等しい位置関係じゃぞい。攻撃パターンが見え見えだわい」
「なら、これでどうかしら?」

 ゲドーの声。
 振り向けば、そこでは団員が小型機関銃で邪堂を狙っていた。

「そうはさせません」

 と、そのとき、別方向から現れた人影が、一艘の船へと拳を振り下ろした。
 団員はとっさにスピードを上げて回避するが、そのせいで機関銃の弾は何もない海面へと放たれる。
 団員の攻撃を邪魔した人物、それは邪堂と同じく海面を歩くルイ・フリード(るい・ふりーど)だった。

「ルイ!」

 見慣れた顔に、紗月と美央が安堵の声をあげる。
 二人の無事な様子を見て、ルイも力強く笑い返した。

「よかった。紗月さんも美央さんも無事でしたか」

 一方、ゲドーの船では、ゲドーが操舵役の団員をポカポカとはたいていた

「ちょっと、ちょっと、なんなのよ! 水面疾走野郎がまた一人増えちゃったわよ!?」
「今度のは、水面疾走爺ではなく水面疾走親父ですけどね」
「冷静に分析しなくてもいいわよ! そんなことよりさっさとやらないと……」
「ゲドー密漁団、そこまでだ!」

 ルイが現れた方向。そこには、多数の小型船や小型飛空挺からなる討伐隊の姿があった。

「あぁ……やっぱり厄介なことになっちゃった……」
「皆さん、大丈夫ですか!?」

 討伐隊の先頭で松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が呼びかけた。
 一見してツアー客に被害がないのがわかると、岩造は同乗するフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)へと呼びかける。

「よし。龍雷連隊、これより皆と協力し、ゲドー密漁団の討伐をかいしする。イルカを何としてでも守るんだ」
「わかりました!」
「まずは、厄介なサメをしとめるぞ!」

 岩造が海へと向かって轟雷閃を放つ。
 水中で雷撃を食らえば海の中にいる鮫も簡単に倒せる……はずだった。
 しかし、予想とは裏腹に電撃は海面を走って霧散していき、劇的な効果をあげられない。

「あらあら、どうやら海上での戦闘になれてないようね。この広い大海原を前にしたら、ちょっとやそっとの電撃なんて、スポンジの上に水を一滴たらすようなものよ!」
「それでは、直接当てればよろしいのでございましょうか?」
「へ?」

 フェイトのトラッパー。マグロをえさにした罠だ。
 引っかかってしまった一匹のサメが、エサにむしゃぶりつこうと顔を水面にのぞかせる。

「今だ!」

 その気を逃さず、岩造が再び轟雷閃を放った。
 サメが一瞬ひるみ、海中深くへと沈んでいく。

「ちょっと、あんたたち! そんなのに引っかかってんじゃないわよ! 勝手な行動はせずに、指示に従いなさい! ……って、サメに伝えなさい!」

「アイアイサー!」
「……ゲドー様。第3班がパラミタイルカを2匹捕らえたようですが、いかがいたしますか?」

 そう。ゲドー団の前線部隊が討伐隊と遣り合っている間に、ほかの部隊は少ないながらもイルカの捕獲に成功していた。

「ったく、こんなにイルカがいるのに2匹だけなんて、どういうことよ!」
「でも、0匹よりはマシかと……」
「それもそうね。よし、第3班! あんたたちは先に逃げて……」
「サンダーブラスト!」

 直後、雷鳴がとどろき、電撃の柱が第3班の船の機関部を破壊した。
 撃ったのは、箒に乗って浮かんでいる。白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)だ。

「やれやれ、何時の世もこういう輩はいるものか」

 力なく首を振るセレナに向けて、団員は機関銃を乱射するが、計算して太陽を背にするセレナの身にはなかなか当てることができない。

「無駄な努力、ご苦労だな。下から上を狙った所でそうそう当たらんよ」
「くそっ」

 団員の一人が悪態をついた刹那、その横に一つの影が降り立った。と同時に、機関銃を構えていた団員がその場で崩れ落ちる。

「悪鬼外道、誅滅すべし」

 刀を鞘に納めながら、九条 風天(くじょう・ふうてん)が呟いた。
 すぐに残りの団員が武器をナイフに持ち替え、攻撃を繰り出したが、風天は受太刀によって華麗に捌いていく。

「覚悟」

 一瞬、銀色の光が待った。
 直後、残りの団員もその場に倒れ付す。
 風天はボートにとらわれていたイルカたちを解放すると、すぐさまセレナの箒へと飛び移って、ゲドーのボートへと近づいていく。

「ちょっ、ちょっとあんたたち、私を守りなさい! なにボケーっとしてるのよ!」

 返事の変わりに聞こえてきたのは、鋭い射撃音だった。

「そうだった! 急遽雇っていた傭兵がいたじゃない!」

       *

「さて、高額報酬のためにがんばってやるか!」

 戦闘場所から離れたところで、国頭 武尊(くにがみ・たける)は狙撃中を構えていた。

「又吉、もう少し右に寄るんだ」
「ラジャーだぜ!」

 パートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)が武尊の指示を受けて小型飛空挺を操作する。

「よし!」

 武尊が銃の引き金を絞る。射出された弾丸は、討伐隊の飛行手段を次々と破損させていった。
 光学迷彩を駆使する武尊たちの飛空挺は、遠目では見つけることができない。
 しかも現場から距離をとっているために探知系スキル対策もできていた。

「風向きが変わってきたな。又吉、また右に移動だ」

 風向き、風力を計算し、武尊が再び銃の照準を合わせる。発射。

「見つけたわよ、狙撃者!」

 そのとき、武尊たちの背後でヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が高らかに叫んだ。狙撃時に発せられる殺気を看破したのだ。

「なっ! 別働隊がいやがったのか!?」
「別働隊では、ありません。わたしたちは、えっと、あくまで義賊、といいますか」

 リネン・エルフト(りねん・えるふと)のつたない説明に、途中でヘイリーが割り込んだ。

「私はシャーウッドの森空賊団団長のヘイリーよ! 空賊として、空の利を奪われるのは癪でね。悪いけど邪魔させてもらうわ!」

 言うが早いか、ヘイリーの光術が武尊たちの目を奪う。
 続けざまに魔獣の群れが放たれ、コントロールを失った武尊たちの飛空挺が、海へと着水した。

「ちっ、しょうがねぇ。水上戦闘に持ち込んでやったんだ。そこからは各自がんばってくれよ、ゲドーさんよ」

 言って、リネンたちの船へと銃を構える。

「諦めては、くれないようね」
「高額報酬が俺を呼んでるもんでね」