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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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【十二の星の華】双拳の誓い(第6回/全6回) 帰結

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    ★    ★    ★
 
「ガイアスさん、これをつかんで……」
 迫る海面に、ジーナ・ユキノシタは必死に空飛ぶ箒をガイアス・ミスファーンの方へさし出した。
「すまぬ」
 むんずとそれをつかんだガイアス・ミスファーンが、もう一方の手でジーナ・ユキノシタの箒の柄をつかんで進路を力任せに変えた。水飛沫があがる。水面を水切りするようにして、ぎりぎりで墜落だけはまぬがれて二つの箒が猛スピードで進んでいった。だが、これでは触手の格好の餌食だ。
 獲物を察知した触手が、ガイアス・ミスファーンたちの行く手に水中から姿を現した。避ける間もない。
 だが、突然のびてきた鎖が触手に絡みつき、力任せに引き寄せた。間一髪、通りすぎたガイアス・ミスファーンたちが態勢を立てなおして高度をとる。
「おっと、逃がすわけないじゃん」
 手繰り寄せた触手を、ボートの上のテュール・グレイプニルがブロードソードで一刀両断にする。
「さて、ここからなら行けるだろう。世話になったな」
 オールをボートの中に投げ捨て、ラルク・クローディスがすっくと立ちあがった。
「道を頼む!」
「任せてなんだもん。みんなも手伝ってー」
 ラルク・クローディスに言われて、秋月葵が海賊島の方向へむけて氷術を放つ。
「これ以上邪魔はさせないです」
「面白い道ですわね」
 ナナ・ノルデンと藍玉美海が、続けざまに氷術を使って海面に氷の道を延ばしていった。途中の触手も氷づけにされて、海賊島へむけての氷の道ができあがる。
「邪魔物はいらないんだよね」
 ズィーベン・ズューデンが、ファイヤーストームで邪魔な触手を薙ぎ払った。
「ついてこれるか、ココ!」
 軽身功で氷の上を走りだしたラルク・クローディスが、大声で上にむかって叫んだ。
「行くよ、みんな!」
 デクステラ・サリクスと合流したシニストラ・ラウルスに行く手を阻まれていたココ・カンパーニュが叫んだ。
 ジャワ・ディンブラが急降下して、氷の道すれすれを海賊島へとむかう。
「抜かせるな!」
 すぐさま、シニストラ・ラウルスが後を追おうとする。
「行かせるか!」
 その前に、緋桜ケイたちが立ち塞がった。
「邪魔だ」
 強行突破しようとするシニストラ・ラウルスに、死角から久世沙幸が則天去私を放ってきた。素早い身のこなしでそれを躱しながらも、シニストラ・ラウルスがいったん後退を余儀なくされる。
 上空から緋桜ケイたちが手下たちを火球で牽制し、下からはナナ・ノルデンたちが迎撃する。
「この程度とはね」
 巧みにディッシュを足先だけでコントロールしながら、アクロバティックな機動でデクステラ・サリクスが、飛び交う火球をくぐり抜けて海面に迫った。
「ここから先は通すものか!」
 氷の道上に立った白砂司とサクラコ・カーディが身構えた。
「邪魔よ」
 デクステラ・サリクスが、遠当てで氷の一部を砕いた。あわてて、白砂司たちが少し下がる。だが、デクステラ・サリクスが彼らに気を取られた隙に、横から迫る者があった。
「忘れたころの一発はきついですよ!」
 クロセル・ラインツァートの放ったドラゴンアーツの拳圧を真横から受けて、デクステラ・サリクスがわざと少し吹っ飛ばされながら力を別の方向へと逸らした。
「それそれそれ」
「ちっ」
 連続攻撃をしかけてくるクロセル・ラインツァートに、デクステラ・サリクスが大きく迂回して海賊島へ戻ろうとする。
「追い込みましたよ。後はよろしく」
 狙い通りだと、クロセル・ラインツァートが右手の揃えた中指と人差し指をヒュンと振って合図した。
「ああ。任せろ、騎士団長!」
 デクステラ・サリクスの進む先に、忽然と鬼崎朔が姿を現す。氷が広がって足場ができたので、しっかりと槍を構えていた。
「お前なんかに構ってる暇は……」
 無視して避けようとしたデクステラ・サリクスのディッシュが、突然凍った海面に落下した。アンドラス・アルス・ゴエティアが奈落の鉄鎖をしかけたのだ。
「逃がさぬのだよ」
 今度はしてやったりと、アンドラス・アルス・ゴエティアがほくそ笑む。
「死に急ぎたいらしいね」
 デクステラ・サリクスが、手に持ったディッシュで、鬼崎朔が繰り出した槍の穂先を叩いて横に逸らした。すっと身体を密着させて、ゼロ距離から鬼崎朔に一撃を入れる。氷術を放とうとしたアンドラス・アルス・ゴエティアが、飛ばされてきた鬼崎朔の体当たりを受けて体勢を崩した。
「少し泳いでいな」
 デクステラ・サリクスが、足下の氷を強く蹴った。深い亀裂が鬼崎朔たちの方へむかって走る。
 あわてて二人が左右に転がって海中に落下するのをまぬがれた。だが、亀裂から、出口を求めていた巨大クラゲの触手が這い出して襲いかかってくる。
 その隙に、デクステラ・サリクスは、ひらりとディッシュに飛び乗った。
 
    ★    ★    ★
 
「おらおらおら! 唸れ! 光条!」(V)
 邪魔な凍りついた触手をブライトフィストで蹴散らしながら、ラルク・クローディスは先陣を切って進んでいった。もう少しで海賊島というところで、低空に侵入したジャワ・ディンブラが後方から切り開かれた道に入ってくる。
「来たか」
 ほっと安堵したのも束の間、ラルク・クローディスの前方の氷が砕けた。その下から、巨大クラゲが姿を現す。
「俺の道をふさぐな!」
 渾身の一撃を、ラルク・クローディスは巨大クラゲにむかって放った。
 半透明のドーム状の部分が、光条兵器のクリティカルな一撃を受けて奇妙にひしゃげた後に、その衝撃を吸収しきれずに粉々になって吹き飛んだ。その破片を火炎流で蒸発させながら、ジャワ・ディンブラがラルク・クローディスの頭上を通りすぎる。
「待ってよ!」
 その後を、茅野菫たちがおいていかれないようについて行った。
「とりついた!」
 ココ・カンパーニュは、ジャワ・ディンブラの背中から飛び降りて海賊島の海岸の岩場に降り立った。後を追ってきた者たちも、次々に海岸に辿り着く。ひとまずの役目を終えたジャワ・ディンブラは、反転して戦っている者たちの掩護にむかった。まだまだ脱出のために敵を排除しておかなければならない。
「トライブ・ロックスターの情報にあった入り口は、むこうの方ですわ」
 千石朱鷺が、地形とマップデータを照らし合わせて、侵入ポイントの方を指した。
「ちょっと待って、なんかおかしいじゃん」
 茅野菫が、先を急ごうとする一同に注意をうながした。
「確かに」
 ウォーデン・オーディルーロキが、低く唸り声をあげる二匹の狼を見て言った。
「石が殺気を?」
 高月芳樹が、殺気を感じた場所に遠当てを撃ち込んでみた。
 凸凹した石畳だと思っていた場所が突然盛りあがって動きだす。
「敵です」
 ペコ・フラワリーがさっと進み出て、フランベルジュで石を一刀の下に切り捨てた。石に見えていたのは巨大なガザミだ。
 最初の一匹を皮切りに、海岸のあちこちで巨大な蟹が甲羅を持ちあげてハサミを振りかざす。
「刀真……、あれ、知ってる。美味しい……」
「食べたことあるの……」
 漆髪月夜の言葉に、『空中庭園』ソラを始めとする他の者たちが、えっという顔で振り返る。陰でうんうんとうなずいていたのは、ソア・ウェンボリスと雪国ベアと樹月刀真と小鳥遊美羽と高月芳樹とアメリア・ストークスだけであった。
「じゃあ、ここは僕たちに任せてもらおう。ココたちは先にいってくれ」
 高月芳樹が、翼の剣を構えて言った。横にマリル・システルースがならび、二人で巨大ガザミを切り伏せていく。
「こちらも派手にいきますよ」
 菅野葉月が、周囲からふいに現れた巨大ガザミを遠当てでひっくり返して言った。
「ええ。敵を引きつけようねっ!」
 腹を見せた巨大ガザミにトミーガンを撃ち込みながらミーナ・コーミアが答える。
「本当にこれを食べたのじゃろうか?」
 左から来る巨大ガザミを冷凍にし、右から来る巨大ガザミを焼きガニにして、伯道上人著『金烏玉兎集』が小首をかしげた。
「カニさん、ちょっとかわいそうかも……」
 朝野未羅がつぶやく。
「食材に生存権はないわよ!」
 ファイヤーストームで焼きガニを量産しながら、日堂真宵が言った。
「ちょっと香ばしい匂いが……」
 好物の魚介類の香りに、菅野葉月がゴクンと生唾を呑み込んで言った。
「未羅ちゃん、早く」
 ココ・カンパーニュたちと一緒に別の入り口にむかう朝野未沙が、朝野未羅を呼んだ。
「はい、お姉ちゃん」
 朝野未羅が小走りで走りだしていく。高月芳樹が、それを目で見送った。
「敵は全部倒したでしょうか」
 周囲を注意深く見回しながら、マリル・システルースが言った。
「退路はいくつも確保しておかないとだめよ。とりあえずは、ここは押さえられたみたいだけれど」
 アメリア・ストークスが、周囲から殺気が消えていることを確認した。
 だが、安全になったと思ったのも束の間、どこからか飛んできた銃弾が、アメリア・ストークスのそばにあった巨大ガザミの甲羅を粉砕した。
 如月夜空が、遠距離からスナイパーライフルで威嚇攻撃をしてきたのだった。
「まずい。よし、突入するぜ。ついてくる者は一緒に来い」
 高月芳樹が叫んだ。ここにいては、狙撃手のいい的だ。
 前方の岩壁に、出入り口らしい亀裂が見えていた。巨大ガザミたちが守っていたところから見て、ここが表玄関なのだろう。
 高月芳樹たちと菅野葉月たちはその中へと飛び込んでいった。