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ペンギンパニック@ショッピングモール!

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 第八章

 その赤ペンギンを探す男がここにもいた。
「邪魔するぜ」
 リーン・リリィーシアが陣取る監視カメラ室に、乗り込んできたのはジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)だ。筋骨隆々、胸板も分厚い居丈夫であるとともに、ジェイコブは礼儀を心得ている男でもある。リーンに断ってモニター前に陣取った。
「ここを見つけ出すのに手間取っちまってな」
 途上、何度もトウゾクカモメと邂逅したため、戦いに多くの時間を割かれてしまった。しかしジェイコブは慌てず、画面をじっと見つめている。
「あの、ちょっと前もゴライオンという人が来て、赤ペンギンをモニターで探していたけど……」
「わかってる。白黒カメラだってんだろ? なに、俺が知りたいのは『色』じゃないのさ」
「ジェイコブさん、それはどういう意味なのですか?」
 彼のパートナー、リーズ・マックイーン(りーず・まっくいーん)が問うた。
「すまねぇ、先走っちまったな。考えたんだが、赤ペンギンってのが本当にいるとすりゃ、他のペンギンから仲間はずれにされていたり、特別扱いを受けている可能性が高いと思わねぇか?」
「なるほど、冴えてますね」
 褒められるのは悪い気はしないものの、ジェイコブは多少、ばつが悪そうに付け加える。
「だがな、大抵の鳥ってのは実は、目は白黒画面らしいんだな、これが」
「あら? でも……」
「そう、推理の方向としちゃ間違ってねえと思いたい」
 ここでリーンが提案する。
「ねえ、この子なんてどう? あと、この子とか」
 それはいずれも、群れからはぐれたか、一羽でぽつんといるペンギンだった。
 リーズは首肯する。
「可能性はあると思います」
「ああ、提案ありがとよ。調べてみよう」
 ジェイコブは豪傑風の頼もしい笑みを見せて、リーズに出立を促した。
 彼の立ち去り際に、リーンが問うた。
「良かったら教えてもらっていい? どうして赤ペンギンを探しているの?」
「え……う……その、何だ……好奇心だ」
 急に早口でそれだけ言うと、ジェイコブは監視カメラ室から出て行くのである。
(「まさか、リーズも聞いてるのに言えねぇよなあ……」)
 監視室の階段を駆け下りながら、ジェイコブは苦笑いしていた。
 リーズが赤ペンギンに興味を示していたから、たったそれだけの理由で探すことを決めた……なんて気恥ずかしくて言えたものではなかった。彼女とは恋人でもなんでもないというのに――少なくとも、今のところは。

 その頃、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)も探検隊風に調査を開始していた。
 店という店に出入りし、丹念にマッピングしながらなので時間がかかっている。
「まさにショッピングモールは現代のジャングル、未知の生物が紛れ込んでいてもおかしくないよな!」
 などといいつつ、足跡などから手がかりを追い求めているものの、どうもこれといった成果がない。
「よく考えたら色が違うだけで、足跡が違う、ってわけにはいかないかー。ていうか、ペンギンのもだけど、カモメ人の足跡もやたらとあるし……」
 進みながら『赤いペンギンを見かけた方は、以下の番号まで情報をお寄せ下さい』と書き、自分の携帯電話番号を記したポスターを貼って回っているのだがこれまで通報はなかった。
「これ、実在しない番号じゃなかったんですね、失礼しました。あと、終了後はポスターの回収をお忘れなく、ですよ」
 という電話が一見あったきりである。(ちなみにルミーナからだった)
「赤いペンギンなんているのかなあ……」
「赤いペンギンなんているのかしら……」
 レイディスの言葉が、偶然近くにいたヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)の言葉とハーモニーを奏でる。すなわち、ヴェルチェも同じく赤ペンギンを探しているというわけだ。
「あら、レイディスちゃんも赤ペンギン探索のクチ?」
 といって赤毛のヴェルチェは、炎のような長い髪をかきあげる。
「う……うん、そうだけど?」
 ふふーん、と悩ましげな目つきをして、ヴェルチェは実にわざとらしい口調で、
「ところで暑くない? この辺空調壊れてると思うわ〜」
 などと告げ、ついーっ、と胸元を広げてみたりする。
(「わ、わっ……!?」)
 艶な女性には弱いレイディスだ。いきなりのセクシーアピールにじりじりと後じさってしまった。ところがヴェルチェは逃がさない。
「ねぇ、レイディスちゃん、ここで会ったのも何かの縁だし……私としたくない? ペンギン探し♪」
 いつの間にやらレイディスはにしなだれかかっている。甘い香りが少年の鼻をくすぐった。
「それでね、捕まえたら好事家に売るの。分け前はレイディスちゃんがなんと一割! 私はたったの90%ぽっちでいいわ♪」
 冷静に考えるとものすごいことを言っているわけだが、のぼせてしまってレイディスは『うん』としか言えなくなっていた。
(「ふっふっふ、色気と美貌は『女』の武器。目的のためにはいくらでも使うわよ♪」)
 とはいえ残念なことが一つあった。
 スタイル抜群、美しさも女優並、色っぽい演技をさせれば抜群のヴェルチェだが、本当は男性だ。
「じゃ、さっそく試してみたいことがあるの。どこかその辺の店でお酒入手してきてくれない? 普通のペンギンに酒を飲ませたら色が変らないか実験してみたいの」
 そんなことをやっている彼(レイディス)と彼(ヴェルチェ)の背後約数十メートルのところを、赤い色のペンギンがパタパタと走りゆくのだった。二人は気づかない。
 ただし気づいたところで同じだったかもしれない。
 角を曲がったところで、ペンギンの色は黒に戻っていたのだから。