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ペンギンパニック@ショッピングモール!

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リアクション

 第六章

 確保から護送、そして安全地帯誘導まで、そのすべてを担うべく結成された命知らずの戦士隊! それが『もふもふぺんぺん』である!
 大事なことなのでもう二回書く、『もふもふぺんぺん』である!

「よし、さっそく行ってみようか☆」
 ペンギンの着ぐるみパジャマ(フードつき)でペンギンになりきったルカルカ・ルー(るかるか・るー)が宣言する。着ぐるみといっても基本はパジャマなので、実際の着ぐるみよりは動きやすいだろう。ちなみに自作品だ。
「仲間に見えるかな、見えなくても警戒心減るといいなあ」
 自身の姿を確認しつつ、ルカルカはいくら不安そうである。本当のペンギンに比べると、ほっそりしているのが弱点といえば弱点だろうか。しかしそのあたりは演技でフォローしたい。
 ここまで、『もふもふぺんぺん』一行は各所ではぐれペンギンを確保してきた。しかしここからは本格的に確保作業に入る必要があるはずだ。彼らが目指したのは大型デパート、しかもその『世界の鮮魚博』会場なのである! したがってルカルカもこの服装に変身したというわけだ。
 ルカルカにつづき、一同は準備を整えエレベーターに乗り込んだ。
「もうすぐサマーバーゲンじゃないか。このままじゃおちおちショッピングにも行けないよな」
 表情を引き締めて、渋井 誠治(しぶい・せいじ)は階下で入手したスーパーマーケットのカートをぐりぐりと押して引いてする。
「ショッピング……?」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)が誠治を見上げている。
「うん、この事件が片付いたらシャロと行きたいな、ショッピングデートに」
 ちらりと視線を流すと、シャーロットは満面の笑顔で頷いた。
「ふふ、若いお二人さんと一緒にいると、私もなんだか甘酸っぱい気持ちになりますね」
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が顎をさすりながら呟く。ちなみに彼も、ルカルカお手製のペンギンパジャマを着ている。やや寸足らずで踝が出ているがそれもご愛敬だ。
「若い、って、ルースだってまだまだ若いじゃん!」
「そうですぅ、そんな老けたことばかり言ってると、ほんとのオジサンになっちゃいますぅ」
「いやぁ、まあ、実際にオジサンだと思うんですけどね。ま、お言葉には感謝しますよ。ところで、セリフには気をつけたほうがいいですよ」
「セリフ?」
 きょとんとする誠治に、
「そう、『この事件が片付いたら』とか」
「この事件が片付いたら、シャロとデートに行きたいな……って話? 本心だよ。それに、今日だって全部終わったらみんなでラーメン食べに行きたいなと思って……あ、これ、死亡フラグじゃないか!」
「誠治……死んじゃうの?」
 どこまでが冗談か不明だが、シャーロットがうるうると瞳を潤ませた。
「わー、縁起でもない! 死なない死なない、ラーメンとデートを終えるまでは死ねない! それに」
「それに?」
「それに、シャロを幸せにするまでは、死ねない……」
 なんて、と言いながら顔が紅潮してくる誠治である。当然シャーロットも真っ赤だ。
「若いお二人さんと一緒にいると、本当に甘酸っぱい気持ちになりますなぁ……」
 熱くなってきたのか片手でパタパタと自身を扇ぎつつ、ルースはそっと二人から離れるのである。
 エレベーターが停止した。
 扉がさっと開き展開されるは『世界の鮮魚博』会場、ほうぼうに冷蔵室があり、氷の敷き詰められた展示台、あるいはいけすなど、様々な方法で新鮮な魚が販売されていた場所だ。ところがこれが、もうパーティ会場さながらなのである! 沢山のペンギンが食べて遊んで、追いかけっこしたりイタズラしたりと大騒ぎ、あんまり騒いでいるので、ペンギンたちはしばらく『もふもふぺんぺん』の到着に気づかなかったくらいだ。
 遅れて合流した橘 カオル(たちばな・かおる)なので、ペンギンとはこれが初邂逅となる。
「こんなでかいペンギン間近でみるの初めてだぜ」
 とひたすら目を丸くしている。大きさも騒ぎ方も、小学校低学年児童のようじゃないか。
 ふとオルは視線を斜め下に流した。カオルの隣には夏侯 淵(かこう・えん)がいる。
 カオルはしばし淵をじーっと見ていたが、おもむろに、
「………プッ」
 吹きだした。
「なんだおまえ! 人の顔見ていきなり笑うとは失礼だぞ!」
「ペンギンと身長かわんねぇぇー!」
「だからそれが失礼って言ってるだろうが!」
 夏侯淵は頭から湯気が上がりそうなほどカンカンだが、まあ実際、身長が低いのでカオルの言も当たってないことはない。身長わずか140、体重に至ってはなんと30、燃えるような赤毛の美少年、それがここにいる夏侯淵なのである!
「ははははは、確かに確かに、ちんちくりんの男の娘だ〜!!」
 カオルと一緒になって、大変大人げない口調でルースまで爆笑している。
「違う〜っ! いくらルース殿とて、その発言聞き捨てならん! そこへ直れい!」
 夏侯淵が真っ赤になって腕を振り上げると、
「この前みたいに簡単には殴らせんぞ! ふぁはははは、大人の力を見せてやるわ!!!」
 てい、とルースは夏侯淵の頭を押さえてしまう。こうなると哀れ夏侯淵、ぐるぐる腕を振り回すのみである。
「どうだ、ちんちくりん。悔しいか!! ふはは、小さい自分を恨むんだな!!」
「小さかったら……高く跳ぶまで!」
「え?」
 勝ち誇るあまり油断していたルースだ。夏侯淵は腕を振りほどき、ルースの膝を踏み胸を蹴って跳躍し、
「ちみっ子いうな!」
 ぐわん、と一発喰らわせた。
「げえっ!」
 ルースはくるくる回ってショッピングカートに背中から乗ってしまい、そのまま、
「うわなんですかこれはーっ!?」
 ついーっ、とペンギンたちが氷を撒いて濡らした床を滑っていくのである。
「さ、仕事仕事」
 カオルは夏侯淵の視線が怖いので、さっと氷の山に手をつっこみ、魚五匹を使ってお手玉ならぬお手魚を開始する。
「さあさペンギンさんたち、オイタはそのへんにして寄っといでー」
「そうだよ、ほら、一緒に遊ぼうよ☆」
 ルカルカは乳母車を押す。ここには重量級の水タンクが積まれており、つないだ水鉄砲からシャワーが出るのだ。
「カオルもルカルカも楽しそうだな! よし、俺もペンギンとガンガン仲良くなるぞ!」
 メイド服の朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、餌籠を提げてそそくさとペンギンの前に出る。
「あっちもこっちもペンギンだぜペンギン! まさしくペンギン日和ってな!」
 ところでメイド服ってなんとなくペンギンっぽい、と思った垂に同調したのかどうか謎だが、
「クア?」
 ペンギンが数頭、ひょこひょこと彼女に近づいて来た。
「お、魚がほしいのかな? それとも、遊びたいのか?」
 垂がしゃがみこんで魚を差し出すが、この会場には必要以上に餌があるので彼らは空腹ではない。興味深げに垂にまとわりついていたが、突然!
「……ってちょっ〜と待った、髪の毛っ、それ髪の毛っ!」
 垂の後ろ髪をくわえたのである。それだけではない。
「と思ったらお前は腰をつつくのはよせ! ……んで、お前は何をしてる、そんな所を揉むな!」
 なんだか彼女はペンギンにモテる体質らしい。ペンギンにとっては親愛の情のあらわれかもしれないが、人間にとっては迷惑千万なスキンシップを受けてたまらない。
「だから揉むな! 顔も突っ込むな! それから……っちょ、スカート捲るな!!」
 なんだかもみくちゃになっている。
 ところがそこに、ドーン!
 ルースを乗せたカートが激突したのだった。ペンギンは慌てて逃げたので無事だが、垂はルースともつれ合ってカートに乗ってしまう。
「なんでさっき左方面に流れていったルースのカートが右側から出てくるんだ!」
「一周してきたんですよ。メイド一羽捕獲! ですね。ところでメイド服ってなんとなくペンギンっぽくないですか?」
「俺と同じようなこと言うな……」
 そんな会話をしてる間にも、ノンストップでカートは走り続けるのだった。
 いつの間にか数十分が経過している。ルカルカが振りまく雨を全身に浴び、清々しい顔で白波 理沙(しらなみ・りさ)は両腕を拡げていた。
「あー、すっかり濡れちゃったけど、どうせペンギンと遊んでいれば濡れるんだもん。どってことないわ」
 服の裾を絞ったら水がとめどもなくあふれていた。だけどむしろ気持ちいい、と晴れやかに、ペンギンの群れに呼びかける。
「ねえみんな? 遊ぶのもいいけど、そろそろお船に帰りたくない?」
 引っ越しの途中だったでしょ? と、理沙は言うのだが、まだペンギンは遊ぶのに夢中らしく、細かな氷をすくってかけてくる。
「あらら、どうしたものかしら」
「理沙ちゃん、こうなったらとことんまで付き合ってあげないとだめかも〜」
 ぺたぺたとやってきたのは、つぶらな瞳のペンギン、やんわり肌のピノ・クリス(ぴの・くりす)なのだ。ペンギンのそのものの姿だが、実際はゆる族なのでちゃんと会話できる。
「うーん、そうみたいね。カルキノスさんの保冷トラックを待たせて悪いけど……」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は、ポートシャングリラから借り受けた保冷トラックをデパート出口に横付けしているのである。きっと首を長くして待っているはずだ。
 ここで理沙は、遊びつつペンギンを移動させる方法を思い付いた。
「なら、遊びながら出口のほうに誘導しようか?」
 濡れた服が肌にぴったりと貼り付き、どことなく色っぽい姿で理沙は笑った。えい、と氷の入った籠を手にして、
「雪合戦ならぬ氷合戦よ〜。ほらほら、こっち!」
 冷たい氷をすくっては投げすくっては投げし、ピノと協力して誘導を開始する。
「おおっ、誘導な、誘導! オレも連れてってくれーっ」
 尻といわず膝と言わず、ペンギンにつんつんつつかれて弱り顔のカオルも、慌てて理沙を追ってきた。ジャグリングが上手く行きすぎて、随分とペンギンに興味を持たれたようだ。カオルは振り返って、
「誠治とシャロはどんな感じだ?」
 と呼びかける。実は今日、ちょくちょく二人を気にして、協力し合えるように仕向けているカオルなのだった。
「あ、うん……」
 誠治は片手を挙げてカオルに答えると、大型カートを引いてきてペンギンに呼びかける。
「カートに乗ってみないか? 楽しいよ」
「はいです。見て下さい、あの人たち、とっても楽しそうですよね?」
 シャーロットが巧みに合わせた。彼女の言う「あの人たち」とは、カートで滑り続けているルースと垂なのは言うまでもない。
 そんなルースと垂のカートを捕まえて、ルカルカが楽しげに歌い出す。
「行こうペンペンたち! この歌に乗って!」
 それは汽車ぽっぽならぬタレポッポの歌、カートを押しながら呼びかけた。
「さあ、まずは階下に向けてしゅっぱーつ!」
 垂がぎょっとして問う。
「出発、っておい、まさか俺たちの乗ってるこのカートも」
「そのまま階段へ押していく気ですか!?」
 ルースも声を上げたが、ルカルカはにっこりと答えた。
「そうだよ♪」
 タレポッポの歌とともに、買い物カートで急な階段へまっしぐら!
 夏侯淵もこれを追い、かくて『もふもふぺんぺん』一行はハメルンの笛吹き男よろしく、ペンギンを引き連れて階段へと吸い込まれていった。