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【2020授業風景】カオスクッキング

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【2020授業風景】カオスクッキング

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序章 選べる3タイプ


「私の料理が食べられないとは言わせませんよぉ?」
 不敵な笑みを浮かべるエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)を前に、生徒たちはなかなか差し出された料理へと手を伸ばせずにいた。お前食べろよ、何言ってんだお前が食べろよ、などと声が聞こえてくる。そんな中、最初に歩み出た勇気ある者は日下部 社(くさかべ・やしろ)だった。
「おっと! ちびっこ校長の無茶振りがまた来おったでぇ〜! きっと、校長はアウとろろーそばを食べたんやな」
 社は、軽いノリで一人しゃべり始める。
「な〜んてな! それやったら毎食食わなアカンことになってまうな。いっつも無茶ぶりばっかりやし」
 エリザベートは、冷ややかな目で社を見た。
「おっと……校長の愛くるしい視線がグサグサくるんで、早いとこ食べま〜す。どれにしよ……これ、食べるといやらしくなる言うてたな」
 社は、いやらシーザーサラダを手に取ると、
「おいしそうやんけ(ネタ的な意味で)、食ったるわ!」
 一気にかきこんだ。
「よっしゃ、完食や。お次は自分で料理する番やな!  ん、食べたらなんか暑くなってきたな……」
 社は二つほどシャツのボタンをはずす。
「食べ終わったら、さっさと料理にとりかかりなさぁい」
 エリザベートは社をキックで調理場に追いやると、次なる生贄を指名した。
「そこのあなた、どれを選ぶですかぁ?」
 指をさされた日堂 真宵(にちどう・まよい)は、神経質そうな声で答えた。
「嫌よ、そんないかがわしいものを食べるだなんて」
「なら、審査員を希望ですかぁ?」
「それもお断り。どうせ、生徒連中が作ってくる料理も無茶苦茶でとんでもないものに違いないわ。だって、このわたくしだったら、悪意をもって問題料理をばらまくから!」
「我が儘な人ですねぇ。何しにここに来たですか」
 エリザベートの問いには、真宵の代わりにパートナーであるアーサー・レイス(あーさー・れいす)が答えた。
「我輩のカレーを認めさせ、イルミンスールにカレー学科を導入させるのデース」
 大のカレーマニア、最早カレーの化身と言っても過言ではないアーサーは、勿論カレーを作ろうと張り切っている。食べる料理も当然カレーにするつもりだ。
「そういうわけで、料理は食べるのも作るのもパートナーに任せるわ。でも……あれには興味があるの」
 真宵は、机の上に転がった空き瓶に目をやって言った。
「あなたが料理に混ぜたという薬、分けてくださらないかしら? そうしたら、わたくしがもっと有効な使い方を教えてあげるわ」
「それは興味深いですねぇ。考えてやらないでもないですぅ。これでも食べながら、ゆっくり話しましょう〜」
 エリザベートは、真宵にアウとろろーそばを差し出した。
「あら、これはご丁寧に」
 真宵は慣れた手つきで割り箸を割ると、手近にあったワサビを入れて、そばをすすった。
「これはなかなかコシがあって……はっ!? つ、つい日本人の習慣で、普通に食べてしまったじゃないの!」
 気がついたときにはもう遅い。段々と真宵の目が座ってくる。
 そのとき、食パンをくわえた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、勢いよく扉を開け放って家庭科室に入ってきた。
「遅刻、遅刻ゥ!」
 エリザベートの説明を聞いていなかった美羽は、何も知らない。真宵がそばを食べているのを見ると、羨ましそうに言った。
「あー、いいなあ! 朝ごはん、まともに食べられなかったんだよね。私にもちょうだい!」
「ありがたく食べるですぅ」
 美羽は、エリザベートに出されたそばをおいしそうに食べ始める。その隣で、できあがった真宵がエリザベートに話しかけた。
「さっきの薬の話だが……蒼学の食堂で出される料理に混入するのよ。そうすりゃ、蒼学はただの変質者とならず者と馬鹿の集まりに落ちぶれる。なーんも恐くねえ。蒼学食堂でやたらと見かけるあの{SNL9999002#使命より女を選ぶスイーツ}も消えれば、すっきりするっても――そげぶっ!!」
 真宵は、話の途中でおかしな悲鳴を上げて倒れた。その背後で、美羽が高く掲げた足をそっと下ろす。腹ごしらえを完了させた美羽は、アンディ・フグも真っ青のかかと落としを真宵に食らわせたのだ。今日も超ミニスカの美羽だが、ヒヨコ柄のエプロンを着用しているので見える心配はない。
「おめーは俺を怒らせた。我が蒼空学園にそのようなことはさせん。……さあ者ども、何をモタモタしている。この小鳥遊 美羽をうならせる料理、さっさともってこい!」
 審査員希望の美羽は、教室奥の机を陣取ってどっしりと構える。アーサーはおばカレーライスを食べると、ダウンしている真宵を引きずって調理場へと向かった。
「そうですよぅ。授業終了までに料理を作れなかった生徒はぁ、どうなるか分かりますよねぇ?」
 エリザベートも生徒たちを急かす。数名の者が料理を食べたことで、 他の生徒たちも覚悟を決めた。このまま調理実習が始まるかと思ったとき、一人の問題児が現れた。
「ヒャッハァ〜! エリザベートの手料理だと!? 誰にもやらねーぞ! 全て俺が喰う!」
 南 鮪(みなみ・まぐろ)。この男のヤバさを知る生徒は少なくない。生徒たちはさりげなく鮪が前列に出ないようブロックしていたのだが、ついに猛獣が解き放たれてしまった。鮪はとてつもない勢いで料理を胃袋に流し込み始めた。
「他の生徒の分がなくなるですぅ!食べるのはもういいからぁ、さっさと料理を作りなさぁい!」
 エリザベートは、慌てて鮪にサンダーブラストを放つ。
「うおお、愛が痛いぜ! 分かった、料理をすりゃいいんだな? ようし、材料はエリザベート、おまえだ! おまえの上に果物とケーキを盛り合わせて、デザートを作ってやろう!」
 鮪は食べるのを止めると、エリザベートをビシっと指さしてそう言った。
「デザートですかぁ!?」
 子供にとって大層魅力的な単語に、エリザベートが興味を示す。
「ああ、甘々な生クリームもたっぷり使ってやるぜ! 服が汚れちまうから、水着に着替えな。ちょうど最近学校指定の水着が決まっただろう。水着キャンペーン様々だぜヒャッハー!」
 鮪の言っていることは明らかにおかしいが、彼は元からいやらしくてアウトローで馬鹿なため、これが料理のせいかは分からない。
「女体生クリームスイーツ! ロマンですわ! いちごとチェリーは必須です!」
 ミナ・エロマ(みな・えろま)も、鮪に激しく賛同した。この少女もサラダを食べているものの、普段から色(と食)の道に飽くなき探求心をもつアリスだ。こんなやつらばかりである。
「水着ですかぁ……?」
 幼いエリザベートには、鮪やミナの意図するところが分からない。危険と判断したセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、愛用の野球のバットで、エリザベートに迫る鮪の脛を殴った。
「ぐおおおお! おまえ、外角低め(アウトロー)を狙い打ちしやがって!」
 鮪はうまいことを言った気になりながら、脛を押さえて家庭科室の外へと消えていった。それを見て、ミナもそそくさと生徒たちの中に姿を隠した。
「できることなら使いたくなかったんだけどね」
「見事な流し打ちでしたわ、セシリアさん」
 バットを撫でるセシリアに、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が拍手を送る。
「波乱続きの調理実習になりそうだから、今後も色々と事態収集に動こう」
 セシリアの活躍によって、エリザベートはひとまずその貞操を守られたのである。