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リアクション
第2章 エリザベートの危機、再び
「ふむ、味で満足させろとは一言も言われてませんし……エリザベート校長には、作る過程や食事風景を楽しんでいただきましょうッ!」
そう発想を転換させたのは、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だ。
彼は、用意した五右衛門風呂のような鍋に食べられそうなものをどんどん放り込むと、エリザベートにもその中に入り、『出汁の人』になるようお願いした。なんかさっきもこんな光景を見た気がする。
「湯加減はちょうどいいはずです。さあ、特等席からの観戦ですよ。必ずや満足していただけることでしょう!」
しかし、エリザベートはこれを拒んだ。
「そんな中に入るの、嫌ですぅ」
「そこをなんとか! 出汁は重要なんです!」
「嫌なものは嫌ですぅ!」
そこで動いたのが、鳥羽 寛太(とば・かんた)だ。
「では、どうぞこちらにお入り下さい。ただの綺麗なお湯ですよ」
寛太は、湯を沸かした大きな鍋を指さした。
「これは最近日本の学会で発表された画期的な出汁の取り方でして……魔力の高い人ほど最高のスープに仕上がるという……」
さすがはクロセルのファン、発想が全く同じである。
「ホントですかぁ? 怪しいですねぇ」
「校長を満足させるような料理を作るには、校長自身の絶大な魔力が必要なのです」
エリザベートは、寛太におだてられてまんざらでもない顔をした。
「皆さんの料理ができあがるまで退屈でしょう。お風呂に入っているとでも思って、リラックスしてください」
「それもいいかもしれませんねぇ」
「服が濡れては大変です。ささ、どうぞこちらにお着替え下さい」
寛太は、エリザベートにスクール水着を渡した。エリザベートは魔法を使い、一瞬でこれに着替える。残念、何も見えない!
「えりざべーとちゃん発見!」
エリザベートが湯に足をつけたとき、彼女に向かって水神 クタアト(すいじん・くたあと)が突然走ってきた。
「口を塞いじゃえば、呪文の詠唱も出来ないよね。じっくり可愛がってあげるよ。うふふふふふ……」
クタアトはエリザベートに猿ぐつわを噛ませる。
「ふー、はひふふへふぅー! (むー、なにするですぅー!)」
暴れるエリザベートに、クタアトは登山用ザイルを取り出した。これでエリザベートを縛り上げようという考えだ。しかし、このような蛮行、百合園の白い撲殺天使が許さない。
「いけませんわ」
今度はフィリッパが、野球のバットでクアタトの後頭部を送りバントした。
「はうっ」
いい感じに脳が揺れたクアタトは、顔面から寛太の鍋に飛び込んだ。
自らの手でクアタトに制裁を加えようとするエリザベートを、フィリッパはなんとか宥めた。エリザベートは再び魔法で水着を脱ぐ。その瞬間、どこかのモヒカンがものすごい勢いでエリザベートの水着に飛びついた。
「ちくしょう! エリザベートのテイクアウトに失敗した今、命に代えてもこの使用済みスクール水着だけは持って帰るぜ!」
彼はエリザベートのパンツも欲しかった。しかし、魔法によって一瞬で着替えられてしまう以上、水着とパンツが同時に脱ぎ捨てられていることはない。究極の二択をかけられた彼は、敢えて水着を選んだ。
モヒカンは、風のように去った。
エリザベートとフィリッパもその場を後にし、残ったのはクロセル、寛太、そしてクタアト。
「く、もう少しだったのに! 校長をじっくり観察したかった……」
寛太はがっくりうなだれている。
「仕方ないですね、この際この方で妥協しましょう」
クロセルは頭を切り換え、クタアトを自分の鍋に放り込んだ。
「く、悔しい……でも煮込まれちゃう!」
Sであると同時にMでもあるクタアトは、これはこれで幸せそうだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は、直接的にではなく、大佐のように料理を通してエリザベートに一泡吹かせようと考えていた。
「私を実験台にしようとするなんて、いい度胸ですね……ちょっとした仕返しをしないと気がすみませんよ?」
レイナは、そばを食べて裏人格が表面へと出てきていた。レイナはエリザベートの使
った薬をくすねて料理に混ぜるつもりだったのだが、薬は残っていなかった。そこで、余ったそばで代用することにした。
レイナが作るのはタコス。その名も『ロリータコス&ショタコス』だ。レイナはそばを細かくしたものに加え、ロリータコスのトルティーヤ・マサには桃色、ショタコスのものには薄緑色の着色料を混入する。
「はあ……はあ……レイナ様、お任せ下さい!」
サラダを食べたリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)は、レイナを押し倒したい衝動を必死に抑えつつ、この作業に力を貸した。生地の焼き具合や挟む具に注意を払い、エリザベートに怪しまれないようにする。
こうして、色鮮やかな2種類のタコスができあがった。
咲夜 由宇(さくや・ゆう)は、エリザベートに敵意をもっていたわけではない。
「そばおいしかったです! 数日ぶりにたべたご飯だったので、元気いっぱいです! もう、このままのテンションで料理とかしちゃいますです!」
由宇は久しぶりに空腹が満たされ、ご機嫌だった。よかったね、フォンくん、仲間がいたよ!
由宇はハイなテンションそのままに、砂糖、ジャガイモ、にんじん、たまねぎ、カレー粉、ハバネロペッパー、きのこ、卵、山菜などなど、食材を手当たり次第沸騰した鍋に投入する。全てが溶けたら小麦粉を入れて生地にし、できたのは……カレークレープだ。
さすがカレーだ! こんくらいの食材祭り、なんともないぜ!
クレープを皿に盛りつけたとき、由宇は少々見た目に物足りなさを感じた。そして少しの好奇心も後押しして、手近にあったいやらシーザーサラダを添えたのだ。
一番たちが悪いのは、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)だ。
なんと彼女は、エリザベートの料理を食べずにやり過ごし、エリザベートに教育的指導を兼ねた仕返しをしようというのだ。……なんだか彼女は至極まともで、たちが悪いのはエリザベートのような気がしてきたが、きっと気のせいである。
「生徒で人体実験なんて、止めさせないと」
フレデリカは、ブラックコートで気配を消しながら、おばカレーライスのルーをこっそり自分の鍋に戻して温め直した。そして、ライスの上にルーをかけると、カツをのせておばカツカレーライスに仕立て上げたのである。
果たして、どうなることやら。
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