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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・再会


 第二ブロック、第四層。
 リヴァルトは、そこにいた。
 彼の前に立ちはだかるのは、二体の機甲化兵。量産型ではなく、ツァンダにいたような――改良型だった。
「邪魔だ」
 そのうちの一体に対し、轟雷閃を食らわせるリヴァルト。横からもう一体が切りかかってくる。
 剣を切り返し、装甲の継ぎ目に突き立てる。そこから電撃を流し込み、ショートさせる。
 沈黙した二体に背を向け、彼は歩いていく。
 だが、完全に破壊し切れなかったその二体は、彼の背に向かって刃を振り下ろそうとしていた。
「リヴァルト!」
 ウィングが、そのうちの一体に轟雷閃を浴びせる。もう一体に対しては、サンダーブラストだ。
 彼はヒロイックアサルト――リミットブレイクで力を高め、一気に蹴りをつけようとしたのである。
 リヴァルトは辛うじて無傷だった。
 他に動いている機甲化兵は、もういない。
「どうして、ここに!?」
「すいません、後をつけてました。内海付近で姿を見たものでして。何かあったのですか?」
「……言うほどの事ではありませんよ」
 リヴァルトは、説明したがらなかった。
 そこへ、新たな人影が現れた。
「リヴァルト……」
 尋人だった。PASD本隊よりも先に、彼はここまで来ていたのである。雛型がいるルートを避けて。
「ご無事で何よりです」
 尋人のパートナー、霧神が口を開く。
「どうして、ここが?」
「君のパートナーのエミカさんですよ。彼女が、ここに来るだろうと予想したようです。今頃、PASDの面々を連れて向かってると思いますよ」
 彼の言葉通り、第二ブロックの最下層に向かっている者達が、一同に会した。

「リヴァルト――このバカッ!!」
 再会早々、エミカはリヴァルトを張り倒した。
「まったく、あんたはそうやって勝手に……先生もいなくなって、あんたもいなくなったら、あたし一人になるじゃない」
 その声は震えていた。
「少しは……家族の事、考えてよ」
 リヴァルトを見上げるエミカの目は、うるんでいた。
「エミカ……さん」
 ばつの悪そうな顔で、エミカを見遣るリヴァルト。
「怪我は、ございませんか?」
 医療班の夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が、彼に問う。戦闘をしていたようだが、外傷はないようだ。
「リヴァルト」
 刀真が彼に声を掛ける。
「祖父と姉を殺した人。その事実と、師として、共に過ごしてきた時に得た感情を全て受け入れてから考えろ。無理に否定しようとすれば判断を誤るぞ」
「それに、何があってもリヴァルトさんはリヴァルトさん、でしょう」
 未憂もまた、リヴァルトを落ち着かせようと口を開く。
「どういう、こと?」
 エミカが疑問を浮かべた。
「先生が、ジェネシス・ワーズワースだったんです。そして、私――俺の家族を殺した」
 最後の方で素の口調になる。
「ウソだー、先生が、そんな――」
 エミカがイルミンスールの遺跡に行った顔ぶれを見る。
「本当だよ。司城さん自身が、そう言ってた」
 がエミカに告げる。
「もう一つ、エミカさんには嘘をついてました。先生は遺跡の中で爆発に巻き込まれて……」
 行方不明になったと、リヴァルトが説明した。
「ですが、私は死んだとは思っていません。生きて、ここに来る。そうでなければ、困るんです」
 そして、中央制御室の扉を見据える。
 リヴァルト合流を受け、未憂がPASDの情報管理部に待機しているパートナーに一報を入れた。
『リヴァルトさん、無事発見しました。私達はもう少し調査を続けます』

            * * *

「ここは、制御室……ですか?」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が、第二ブロック第四層のその部屋を調べる。広い空間に、モニターや多くの機材が並んでいる様は、この施設全体を管理するためにあるようだった。
 それらを慎重に操作していく。
「映りました。これが、この施設の全体図のようですが……」
 その形状は、建物というよりは、船のようであった。第一ブロックから第三ブロックまでは地図が出ているが、第四、第五ブロックは表示されていない。
 地図を切り替えると、その二つが表示された。古代シャンバラ語で両者の説明がなされているため、博識をもって解読を図る。
「『アーク』と『旧研究所』ですか」
 さらに、別の装置をいじる。すると、体温を感知しているのか、熱源反応があった。そこに人がいる、という事なのだろう。
「ふむ、大部分はここに集中しておるの。しかし、このブロックの一番上の空間はなんじゃろうか?」
 名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が指摘する。第二ブロックの最上層だけ、何の説明もない。
「外部に漏れてはいけないものがある、という事ですかね」
 重要な何かが隠されている可能性は大きい。
 その他にも、調べ物をしている者がいる。
「刀真、ジェネシス・ワーズワースに関わるデータはないみたい」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だ。事前にユビキタスでPASDの情報を手に入れ、ここで五千年前のデータと見比べ、手掛かりを探そうというのだ。
「施設そのものに、造った者のデータがないのはおかしい……意図的に消していったのか?」
 他の遺跡ほどの資料が見つかっておらず、この制御室にも貴重なデータは残っていない。ということは、ここは研究所などではなく――
「にーちゃん、誰かくる!」
 トーマ・サイオン(とーま・さいおん)が超感覚でいち早く察知し、真人を見遣る。
「これは……部屋の前に、突然反応が!?」
 全員が警戒する。
 そして、その者達が入ってきた。
「あれ、もうみんな来てたのか!?」
 最初に顔を見せたのは、だった。
「なんだ、リヴァルトとももう一緒だったのか。なら、話が早いぜ」
 彼に続いてレミ、そしてノインが姿を現す。
「やっぱり、ノインだったのか? でも、その姿は?」
 刀真が口を開いた。
 ノインが、彼の疑問に答える。ちょうど周が聞いた時と同じように。
 自分はかつての「守護者」のバックアップだと。
 続いてモーリオン、エメの順番で中に入り、最後に――司城が足を踏み入れる。
「先生……」
 リヴァルトは戸惑っていた。いざ彼に会うと、頭の中が混乱しているようだ。
「あなたが本当に、ジェネシス・ワーズワースなのですか?」
 彩蓮が司城と目を合わせる。
「そうだよ」
 静かに答える。
「じゃあ、ツァンダで傀儡師に隊員を殺させたのも……?」
「それは違うよ。傀儡師の雇い主は、ボクじゃない」
 彩蓮が驚愕した。彼女は、ワーズワースが自分の遺産を狙う者を、傀儡師に依頼して消してもらおうとしていると考えていたのである。
 すると、今度はリヴァルトが自身の疑問をぶつけた。
「本当に、俺の家族を殺したのか」
「そうだよ。ボクが――殺したようなものだ」
「どういう、事ですか?」
 リリエが尋ねる。
「キミの姉、ヘイゼルは、ボクの目の前で殺された。キミの家族を皆殺しにした人にね」
「じゃあ、姉と祖父を殺したというのは、自分のせいで死なせてしまったってこと……ですか?」
 司城はゆっくりと頷いた。
「ボクがキミの家に駆けつけた時には、もうキミの両親は殺されていた」
 リヴァルトの目が見開く。
「そしてボクは、その犯人をこの手で葬った。だけど……違った」
「その人ってまさか――」
 その時、中央制御室の一部が歪んだ。
 何者かがテレポートしてくる。
「さて、ついに来たね。全ての黒幕が」
 そこに現れたのは、一人の老人だった。髪は白く、皺も深い。だが、その瞳は生気で満ちている。
「久しぶりだな、司城」
 老人が口を開いた。

「十一年ぶり、ですね――アントウォールト・ノーツ博士」
 
 その場の者達が、驚愕する。
 それは、リヴァルトの祖父であり、十一年前に死んだはずの人物だった。
「そんなはずは……十一年前と、変わってない」
 リヴァルトが困惑している。
 衝撃の事実が告げられる。
「もっと早く気付くべきだった。クラウスの死体が偽者だった事に。そしてボクが殺したのは、自分のかつての友だった」
 まるで話が飲み込めない。
「彼は自分の息子の意思を奪い、自分に偽装させて操った。そして、一家を皆殺しにしようと企んだんだ。その時、ボクも呼び寄せて、一緒に殺そうとした」
「どうして、そんな事を?」
 祖父の姿を見据えたまま、リヴァルトが口を開く。
「ワーズワースの記憶、それを手に入れるためだ。私が完全になるために」
「完全?」
「ワーズワースは、ある時期から『記憶』と『知識』を別々に受け継がせる事にした。そして、時がきたら再び統合しようと。それが、私達だ」
 リヴァルトの家系は『知識』を受け継ぎ、司城の血筋は記憶を受け継いできた、ということだ。
「ボク――私達はパラミタ出現の予兆を感じ取っていたんだよ。本来なら記憶を持っている方に知識を渡すはずだった。だけど、博士はそれを拒んだ」
 そして、あろう事か殺してでも奪い取ろうとしたのだ。
「じゃあ、どうして自分の息子や孫を……?」
 リリエが再び問う。
「家族など、足枷に過ぎん。パラミタにも入れんのだ。知識の探求の邪魔でしかない」
 本来なら、リヴァルトもそこで殺すはずだったという。それを、間一髪のところで司城とリヴァルトの姉、ヘイゼルが救ったのだ。
 だが、ヘイゼルは死んだ。しかも、それを薄暗い部屋にいたリヴァルトは、姉を刺した人間の顔を見れなかった。
 姉が倒れる音に続き、もう一つ人の倒れる音がした。それが、祖父の倒れるものであり、背中を向けて去ろうとする人を、姉をも殺した犯人だと思い込んだのだ。
『君にはまだやるべき事がある』
 そう言い残して去ったのは、司城である。
「しかし、リヴァルトは生き残った。そしてお前の元で育った。契約者となってな。だから私はお前達を利用する事にした」
 そして、今に至るという事らしい。
「ノーツ一家の誰も、『知識』を持っていなかった。だが、それが失われる事はない。探していたのだろう? お前もまた、そのためにリヴァルトを利用したつもりかもしれないが……それでも私の上で踊っていたに過ぎない」
 リヴァルトとエミカが契約したと知った時から、彼の計画は動いていたのだ。
「終わりにしよう」
 ノーツ博士が言葉を発すると、紅眼の女性が現れた。
「アール、魔力炉まで転送だ」
「はい、マスター」
 二人は制御室から姿を消した。
「魔力炉、さっきの最上層か!?」
 にゃん丸が気付き、すぐに制御室の外へと駆け出そうとする。
「行かせないよ」
 糸が制御室を覆う。今度は傀儡師が現れたのだ。
「……貴様!」
 九条 風天(くじょう・ふうてん)が憎悪をむき出しにし、睨みつける。
「これで三度目だね。まあ、依頼主からはそこの男女以外全員殺していいって許可が出ているんだ。悪いけど、今回は最初から全力でいくよ」
 傀儡師が糸を張り巡らせる。
「システムが稼動した。このままだと、先程の白いのがシステムの全てを掌握する。だが、その前なら、指定座標まで送る事が出来るだろう」
 ノインが言う。
「お願いします、ノイン」
 ノインが転送準備を開始する。
「余計な事、しないでくれるかな?」
 傀儡師がそれを阻止しようとする。しかし、その糸を風天が斬る。
「ボクが食い止めます。皆さんは、上へ!」
「俺もだ。ここは全力で阻止する」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)もまた、この場に留まる事を選んだ。
「万一、座標とずれても、こちらからオペレートします。無線はありますよね?」
 真人達は、戦いながらも、上へ行く者達を導くつもりなようだ。
 そうこうしているうちに、ノインの転送術式によって、残るとした者以外は魔力炉のある最上層へと送られた。
「あーあ、行っちゃった」
 傀儡師は残念そうな表情を浮かべる。
「まあ、どちらにせよ、あの二人以外にも、『灰色』がいる以上はもう詰みだっていうのにね」
 すぐに嘲笑へと変わった。
「五分」
 傀儡師が、告げる。
「全力を出した時の、この身体の限界時間だよ。五分以内に倒すか、僕の攻撃を耐えれば君達の勝ちってわけさ」
「なぜ、そんな事をわざわざ教える?」
「その方が、やる気になってくれるでしょ」
 ギリっと歯を強く噛む風天。相手の言葉が真実か偽りかは分からない。
「風天」
 傍らから白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)が諭す。
「分かっているだろうが、自分を見失うなよ?」
「ええ、分かってます」
 傀儡師をじっと見据える。

「さあ、決着をつけようじゃないか」