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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ

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蒼空とプールと夏のお嬢さん。あと、カメ
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リアクション

 SCENE 14

「友人のイチャイチャしてるところを観察するのも、なんだか気恥ずかしいものだねぇ」
 皐月&七日を隠し撮りしたのち、ぱたぱたと手で自分を扇ぎつつ誠一はプールサイドに腰を下ろした。
 絶妙に物陰になっている場所だ。四方を植え込みや樹木で覆われ、外からは見えない。
 ――ここなら、脱いでも問題ないだろう。
 誠一はチャックを上げてヨットパーカーを脱ぐ。その下の素肌は汗で濡れていた。
 だが汗よりも目立つのは、彼の上背についた無数の傷痕だ。中でも目立つのは、左胸から左肩に至る刀傷の痕だろう。すでに埋まっている傷ではあるが、その深さが生々しい。
(「こういう場所で傷跡だらけはまずいからな……」)
 ふと視線を落とす彼の目は、今日一日おちゃらけていたときとは明らかに違う。荒野を征く狼のように殺伐とした、されども孤独な目の色だった。
「せ〜ちゃん、缶コーヒー飲む〜?」
 そのとき背後からオフィーリアの声がしたので、慌てて誠一は上着を羽織ろうとした。
 でもその手は、オフィーリアに止められていた。
「いいんだよ、せ〜ちゃん、知ってるから。な〜さんとあやりん、日比タンとなのちゃんもしばらく来ないと思うよ。また着たら暑いでしょ?」
 どうしても隠したい、っていうんなら……とオフィーリアは言った。
「そこの小さいプールに入ったら? 水中なら誰にも見えないよ」
「そうだね……そうするよ、リア」
 小さな水音を立て、誠一は水に身を沈めた。それでも彼女の目をまともに見られないのか、背は反対側に向けている。
「ところで、罰ゲームね」
「罰ゲーム?」
 妙なことをオフィーリアが言うものだから、瞬時、誠一は振り向いてしまった。そして知ったのだ。
「気づいてた? ここ、カップルプールなんだよ〜♪ 美少女の水着姿を拝みやがれ〜」
 水飛沫上げてがオフィーリアが飛び込んだ! そして抱き合うように体を押しつけてくる。
「うわ、リア! 僕はそういうのは……」
「なにが『家計苦しくて水着の出費は痛かった』だ〜!」
「あ、覚えてたのか?」
「当たり前なのだ〜! 女の子の水着は素直に褒めるものなのだよ〜!」
 だからしばらくは、今だけは、とオフィーリアは言う。
罰としてカップルプールの刑なのだ〜!
 叫ぶなり彼の脇を、こちょこちょとくすぐるのである。
「や、やめろリア、く、くすぐった……あははははは」

「誰かの笑い声が聞こえるような……」
 某はふと顔を上げたが、その顔に両手をあてて、綾耶は自分の方を向かせた。
「い、今はそんなことよりも……、わ、私……私に……」
 ものすごく恥ずかしいのだが、今日の綾耶は普段とは違う。
 最初にオフィーリアに『ちょっと大胆に、しかし恥らいながら迫って悩殺する事をお勧めするだよ』などとそそのかされたせいだろうか?
 それとも、夏の日差しのせいだろうか?
「私だけに……注目して下さい」
 と言って某の目を覗き込むのだ。
(「か……可愛いっ!」)
 某は心が疼くような感覚を味わっていた。綾耶の大きな瞳、薄く紅の差した飴色が、自分だけを見てくれている。
 まさかこんなことになるとは思わなかった。カップルドリンクを飲むために見つけた小さなスポットが、なんとカップル用プールだったとは、しかも、
「あ〜……べ、別のやつ探してみるか? さすがに狭いしさ……」
 などと言ったのに綾耶が、
「私は……入っても良い、ですよ?」
 こくりと頷いてくれたとは!
 二人は不慣れな恋人同士だ。水につかって肌をあわせて、見つめ合ってこれから、どうしたものかわからない。黙って向かい合っていたが、やがておずおずと、
「……その……えーと」
 某は口を開いた。
「……好きだぜ、綾耶」
 愛してるというのは大袈裟すぎる気がするし、だからといって気持ちを伝えないわけにはいかないと思った。
 その言葉だけで、綾耶には十分。
「……私も、です」
 彼女は瞳を閉じて、彼のキスを待った。