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【学校紹介】鏖殺の空母

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【学校紹介】鏖殺の空母
【学校紹介】鏖殺の空母 【学校紹介】鏖殺の空母

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9:終戦


 もはや空母として機能しなくなった空母に存在意義はない。
 チャーリー小隊が生身の天御柱学院生徒を数名掌に乗せてイコンデッキを目指す。
 残った敵イコンを鹵獲するためである。
 また、水中に没したシュメッターリングも鹵獲する。イコンは水中用兵器ではないが、少々の間ならば水中に潜ることも可能である。
 水中用イコンも開発されているとの噂だが、真偽は定かではない。
 とにかく、これで2機のシュヴァルツ・フリーゲと6機のシュメッターリングを鹵獲した。
 鹵獲したイコンは御神楽環菜の意向により人、物、金、技術、すべてを天御柱学院に集中させて効率的に対鏖殺寺院戦略を練るという方向で動いており、自分の学校へ持ち帰りたいという一部生徒の意見は受け入れられずすべて天御柱学院に収められることになった。
 生徒たちは炎上する空母から必死になって脱出する。
「幸いステルス飛空艇までの通路は一本道になるように隔壁を操作している。水が入ってくる心配もない。急いで脱出するんだ」
 クレアがそう言って先導していく。
 と、鏖殺寺院のクルーが飛び出す。
「くっ、<ファイアストーム>!」
 終夏が術を発動させようとするが
「まってくれ、降伏する!」
 その言葉に発動を止める。
「捕虜は必要ない。鏖殺寺院は皆殺しだ……」
 朔がそういうが涼司が止める。
「待て。そこまでする必要はないだろ」
「鏖殺寺院はすべて殺す。邪魔をするなら味方でも容赦しない……」
 朔はそう答え武器を振りかざす。
「さすがにそれは許されんよ。戦闘中ならばともかく、我々は鏖殺寺院と違うのだ。エイミー」
「アイサー」
 クレアの命令を受けてエイミーが朔に当身をする。
「脱出したいならかってに脱出してください。当方は脱出後にイコンと艦艇を持って漂流者を救助します」
 小次郎がそう言うと鏖殺寺院のクルーは同行してもいいかと聞いてくる。
「好きにするが良いでしょう」
 小次郎はそう答えて通路をかけ出した。

 一方、甲板では――
「天御柱のイコン、救助を求める」
 垂が無線でイコン部隊に連絡を入れる。
「了解。殿、味方を救助しますよ」
「わかった」
 佐那はそう言って甲板にいる生徒をイコンの掌に乗せると落とさぬようにゆっくりと速度を上げる。
「こちら戦場の六本木 優希です。現在制圧した空母がが炎上し沈没しかけています。我々は今、降伏してくる鏖殺寺院の兵士と共に脱出をはかろうとしています。小鳥遊 美羽さん、今の気分はどうですか?」
「もーさいあく。なんでこんな目に合わなきゃならないのよ」
「はい、ありがとうございます。さて、鏖殺寺院の人にもお話を聞いてみましょう。どうですか? 降伏すると多分尋問とかされると思いますけど?」
「それでも死ぬよりはましだ。尋問はされても拷問はないだろ。おまえらは「人道的」なんだから」
「さー、どうでしょうねえ。鏖殺寺院は一応テロ集団ですから普通の戦争の捕虜と同等に扱われるかわかりませんよ?」
「それでも死ぬよりはましだ。これだけだ」
「はい、ありがとうございます」
 優希はそうやってどんどん生の声を拾っていった。これは高く売れる。優希はそう確信していた。
「えっと、ここの部屋にもいたなぁ……」
 リアトリスはそう言うとロッカーを開けて閉じ込めていた兵士を解放していく。
「水没死されても寝覚めが悪いからね。脱出したほうがいいよ」
「俺達は……負けたのか?」
 鏖殺寺院の兵士がそう訪ねる。
「そうだよ。艦橋に発令所、イコンデッキその他主要なところはすべて制圧した。捕虜になれば名誉ある待遇を約束するよ?」
「……わかった。捕虜になろう」
「よかった。ここで殺し合いをやりたくもないしね」
 リアトリスはそう言って微笑んだ。
「こっちの道は隔壁が封鎖されている。行くならこっちだ」
 北都は銃型HCに保管した艦内構造図と閉鎖した隔壁の状況を照らし合わせながらクレアと共に道案内をする。
「おい、北都、この兵士まだ息があるぞ」
「なら、<ヒール>をかけてやってくれ。見殺しにするのも問題だ」
「了解。よっこらせ……っと」
 昶は鏖殺寺院の兵士を治療し、息を吹き帰らせると、降伏するように説得して脱出させる。

「ヒャッハー! どっちにいけばいいんだ?」
 鮪は艦内で迷子になっていた。
「こっちだ」
 アルツールがそんな鮪を見つけて誘導する。
「アルツール、どうやら隔壁はいろいろなところで封鎖されている。道なりに進むしかなさそうだ」
「そうですか、シグルズ様。では、脱出しますか。行きますよ、鮪さん」
「ヒャッハー。了解だぜ」
 アルツールの言葉に鮪は素直に頷くと一緒に脱出への道のりを歩き始めた。
 
「メイベルさん、ステルス飛空艇はまだですか?」
 シャーロットがマスターにそう尋ねる。
「もう少しです。あと一階層登れば辿り着きます。とにかく、水に追いつかれないように急いで」
「はい」
 ダメージコントロールルームが爆発し、海水が機関室方面から入り込んできていた。
 メイベルたち機関室組は海水から逃げながら階段を登っていく。正直息が切れそうだった。だが、立ち止まっては水に掴まってしまう。倒れこみそうになる体を支えながら彼女たちは必死に走っていった。
「メイベルちゃん、いっそのことそこらへんの個室からライフジャケット借りて窓から飛び込んじゃわない?」
 セシリアがそういうが、メイベルはあと少しだからと彼女を励ます。
「わかったー。とにかく脱出しないとね」

「クコさん、どうやら脱出しないとまずいようです」
「そうね、霜月。ん……奥から足音がする。味方だよ、きっと」
「そうですか。では彼らと合流しましょう」
 そうして霜月とクコは涼司たちと合流して脱出を行うことになった。

「こっちに救命ボートがあるぞ! 鏖殺寺院の兵士も載せろ。敵も来方も関係ない。呉越同舟だ」
 恭司がそう言って救命ボートをクレーンで下ろす。
 そして甲板制圧組と鏖殺寺院の兵士とが乗り込んで船を下ろす。
「漂流者を拾いなさい。可能な限り助けるんです!」
 リカインが叫ぶ。
 この時点で海に飛び込んだものも多数いたので、スペースに余剰がある船は漂流している人間を掬い上げていく。
「お嬢、あっちに人がいやすぜ!」
 ヴィゼントがそう言うとリカインはボートを漕いでいる鏖殺寺院の兵士に命じて救助に向かわせる。
「リカイン、シルフィスティは空を飛んでるよ。そうすれば一人でも多く人を載せられるでしょう?」
「そうね。助かるわ」
「おや、あなた怪我をしていますね。治療をして差し上げましょう」
 狐樹廊はそう言うと鏖殺寺院兵に<ヒール>をかける。
「すまない。助かった」
「いえいえ、旅は道連れ世は情けと申します。また、情けは人のためならずとも申しますしね」
 狐樹廊は笑ってそう言った。
 
 ミューレリアは兵士の個室のパソコンを分解して取り出したHDDを詰めたカバンを背負いながら空飛ぶ箒で脱出する。
「あっちにも一人でも多く乗れたほうがいいだろうかんな」
 ミューレリアはそう言うと無線の中を流れる罵声や悲鳴を聞きながら肩をすくめた。

「いそげ、ボートをおろせ。ゴムボートも膨らませろ。とにかく一人でも多く脱出しろ!」
 軍人モードの悠は男性口調になって味方や鏖殺寺院兵を指揮する。
 とにかく一人でも多く脱出させる。そのために。
「ボートが足りなかったら飛び込め! あとで回収してくれるはずだ!」
 悠はそう言って鏖殺寺院のクルーたちを飛び込ませる。

 やがて空母が傾き始めた。船の低い階層は海水が入ってきている。
 傾く船に必死にしがみつきながら脱出を続ける鏖殺寺院のクルーたち。そしてそれを支援するシャンバラの生徒たち。
 多くのものが脱出し終わり、涼司達もステルス飛空艇に乗り込んで空母を離れた頃、空母は爆発、炎上しながら沈没した。
 無線で点呼が取られるが、脱出に失敗した生徒たちはいないようだった。