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【学校紹介】鏖殺の空母

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【学校紹介】鏖殺の空母
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10:花音とカノンと涼司と

 
 ――天御柱学院
「あの、山葉先輩」
「どうした、カンナスキー?」
 陽太はもはやカンナスキーと呼ばれることに慣れて、環菜に報告に上がる涼司についていこうとする。
 陽太は敵イコンから取得したデータを足がかりにして、「R&D」で蒼空学園の予算と設備と時間をかけて、イコンの研究(最終目標はイコン開発、当面はイコンの調査と対処法研究)をするためのイコン研究部門を立ち上げたいと考えて、環菜に願い出ようとしたのだが、その提案はすげなく却下された。
 その理由は先に上げた通りすべてを天御柱に集約させたほうが効率が良いからで、環菜は天御柱に出資していることだけが明らかにされた。
 同様の理由で、集められたすべての情報は環菜経由で天御柱学院に集約され、間もなく赴任する新校長のもとで対鏖殺寺院プログラムは動き始めることになる。一方で、優希が収集した情報のうち機密に触れないたぐいのものはTV局などにかなりの値段で買い取られた。
 電子戦機の開発も上奏されたが、すでに開発中という返答であった。
 またイコンの研究結果の機晶姫用パーツへの転用も上奏された。自力での解析は設備がない、運搬できないなどの理由から不可であったが、とりあえず意見が届くことだけは届いたようである。
 また、破壊したイコンの残骸も回収された模様である。中から出てきてきた兵士の死体は中東・アフリカ系の人物が多く、パートナーもほとんどが強化人間であった。
 クリストファー・モーガンとともに脱出した鏖殺寺院の兵士は捕縛されて尋問を受けた。末端の兵士のため知っている情報は少なかったが、東シャンバラに鏖殺寺院の拠点ができつつあるという貴重な情報は得られた。また、その他にも空母から脱出した兵士が数多く捕らえられており、今後の鏖殺寺院への対応の足がかりになると目されている。
 こうして鏖殺寺院の空母は海の藻屑となったが、まだ脅威が取り払われたわけではない。
 鏖殺寺院は第二第三の手段を打ってくるだろうし、北都が得た鏖殺寺院の名簿を利用してこちらからも鏖殺寺院の拠点やスパイを探し出して能動的に動くことも必要である。戦士たちには一時の休息と報酬が与えられたが、本格的に事が始まるのはこれからと言っても良かった。
 
「ごくろうだったな、みんな。おかげでどうにか目的は達成できた。あとは報酬をもらって各自解散だ。だべっててもいいし帰ってもいいし、自由にしてくれ」
 涼司のその言葉で、戦闘に参加したメンバーは思い思いに動き始めた。
 そんな中で美羽は涼司に接触し、設楽カノンについて聞き出そうとしていた。
「ねえ涼司、カノンって子の事故、トラウマなんだよね。でも、よかったら教えてくれないかな?」
「――普通の交通事故だ。でも、俺は目の前にいながらカノンを守れなかった。俺は、カノンを殺してしまったと思っていた。今、カノンは生きてる。でも、俺のことは覚えていない。でも、それでいいのかもしんねえ……事故のことを思い出したって、辛いだけだしな」
「涼司君、大丈夫? 熱ない?」
 リカインがそう言っておでことおでこをくっつけようとする。
 だが、涼司との身長差は10センチ。キスを迫っているようにしか見えなかった。
「ちょ……なにするんだよ」
「ん〜、熱をはかろうかと」
 そう言ってとぼけるリカインだが実は狙ってやっているのじゃなかろうかと思われる。
「んもー、なにやってんのよ。涼司は、自分のことを思い出してくれなくてもいいの?」
 美羽がリカインを押しのけてそう尋ねる。
「ああ――そのほうがカノンにとって幸せかもしれない」
 涼司がそういったとき、花音が涼司の頬を張り飛ばした。衝撃で、眼鏡が取れる。
「涼司さんの馬鹿! 大切な幼なじみだったら、思い出してもらったほうがいいに決まってます。私は涼司さんのパートナーとして言います。自分の幸せを手に入れてください。私はもう幸せですから、涼司さんは自分の幸せを手に入れてください」
 花音はそう言うと涼司にメガネを手渡した。その眼鏡が外れた一瞬、涼司の顔をカノンが見る。
「え? 涼司……君? え? あ? 何? いや……いやだ……頭が、頭がいたい……」
 意識を失い、倒れるカノン。
「カノン!?」
 涼司はカノンに駆け寄り脈を取る。正常だ。胸も上下している。
 誰かが衛生兵を呼んだ。担架に乗せられ、運ばれていくカノン。
「カノン! カノン!」
「離れてください。この子は強化人間。天御柱の機密に関わります」
 天御柱の教官らしき人物がそう告げる。
「巫山戯んな! カノン! カノン!」
 駆け寄ろうとする涼司。だが、天御柱の人間に取り押さえられる。
「なんだってんだ、畜生!」
「ヤマバ、落ち着け。強化人間のことは、天御柱の人間に任せるしかない。落ち着くんだ!」
 千歳も駆け寄ってきて涼司を抑える。
「畜生! 畜生! 畜生! また俺はカノンを殺すのか!? くそったれええええええええええええええええええええええ!!!」
 涼司は狂乱し、床を拳で殴りつける。何度も何度も。
 拳の皮が破れ、血が噴き出る。
「やめてください、涼司さん!」
 花音が止めようとするが涼司は止まらない。
「ヒャッハー! 取り乱してんじゃねえぜメガネ。大切な物は、自分の手で取り戻せ!」
 鮪が涼司を煽る。彼なりの励ましなのかもしれない。だが、その言葉は涼司には届かない。
「涼司くん、やめて、やめて!」
 加夜が後ろから涼司を抱きしめる。
 暖かな感触。温もり。涼司が失ったもの。それが背中から伝わってくる。それが涼司を冷静にした。
「は……ははは……俺は、いったい何をやってるんだ? なあ、加夜教えてくれよ」
「それはっ……」
 加夜に答える言葉はない。あるのは涼司を思う気持ちだけ。
「なんなんだ……なんなんだよ一体。何がどうなってるんだ? だれか、教えてくれよおおおおおおおおおお!」
 涼司の絶叫がこだまする。それが、その場にいた生徒たちが最も強く記憶に残った出来事だった。