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【臨海学校! 夏合宿!!2020】漕ぎ出せ海の運動会!

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【臨海学校! 夏合宿!!2020】漕ぎ出せ海の運動会!
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〜素潜りこそ真の海の覇者!
      海中玉いれ!!〜





 救護班のテントで目を覚ましたエース・ラグランツは、目の前でぼんやりと自分を開放してくれている誰かの手をぎゅっと握った。

「美しいお嬢さん……死の世界から天使に出逢って救われた虜囚の気持ちです。ありがとう」
「はっはっは。この私が天使ですか。あんまりストレートなお世辞だと照れてしまいますなぁ」

 丁度休憩に訪れていたルイ・フリードの手をぎゅっと握り締めていたエース・ラグランツは、そのテカテカとした肉体美を見て、さらに倒れていった。それをみてヴァーナー・ヴォネガットは声を上げてその頬を優しく叩く。

「ああ! 大丈夫ですか? しっかりしてくださいです」
「あーあ。これじゃ競技どころじゃねぇな」
「ごめんなさい……あの壺うまくいくと思ったんですけど……」
「うまくいかなかったのは、エースがストローではなく鼻で思いっきり吸い込んだからだ」

 珍しくメシエ・ヒューヴェリアルがフォローをすると、泣き出しそうだったソア・ウェンボリスが涙をぬぐった。雪国 ベアは再度ため息をついて、倒れるほどではないが同じく真っ青な顔をしている五月葉 終夏を遠巻きに眺めていた。

「辞退するなら、今のうちだぞ?」
「や、やだよ!」

 五月葉 終夏はきっぱりといった。ニコラ・フラメルは驚いたように目を丸くする。長く続かなかったとはいえ、わずかにも競技より早く日時計を眼にすることができた彼女は、より一層日時計に近づきたいという熱意が沸き起こっていた。

「あんなきれいな……うん。海の芸術を目に焼き付けないで、あきらめることなんて出来ないよ」
「……わかった。そんなに言うなら、手伝おう」
「フラメル!」
「ただし、無理はするな」

 眼鏡の奥にある眼差しが、とても真剣なのを見つけて五月葉 終夏は力強く頷いた。そこへ、ラルク・クローディスが訪れた。

「お、やっと見つけたぜ。お前らはチーム決めは決まってるか?」
「いいや。まだだが……」
「6人一組って決まったんだ。俺が余っちまってな、もしここが5人なら入れてもらえないか?」

 一同は顔を見合わせ、盛大に頷き返した。



「合宿ってすっごく楽しいね!」

 TとYの文字が入った赤いビキニをまとう霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、パレオつきの白ビキニを着た緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)と腕を組みながら集合場所の海岸で海を眺めていた。
 釣りの様子は人魚達の魔法で泡のテレビで見ることができた。自分たちの競技も同じように中継されるというのを聞いて、霧雨 透乃は一層気合を入れていた。

「ああ! 日時計ってのも楽しみだし、晩御飯も楽しみだね!」
「うん。透乃ちゃんがたのしそうで、私もうれしいな」

 控えめにそう呟くと、霧雨 透乃も満面の笑みを浮かべた。

「うーん……結構遠そうだね……。おぼれないといいな」

 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)はフリルたっぷりのワンピース水着に少し恥じらいを感じながらスノウ・ブラック(すのう・ぶらっく)の隣で日時計があるという目印の旗を眺める。

「そのときは、私が氷雨を抱っこしていくから大丈夫」
「アハハ、ありがとうね」

 にこやかに返答をしている鏡 氷雨に、スノウ・ブラックはその答えに少し不満だったのか唇を尖らせる。だが今ははしゃぐパートナーを眺めるのに集中していた。そこへ、テント設営の手伝いを終えた赤羽 美央が声を上げた。

「ええ!? 困るわよ。もう人数に登録しちゃったのに」
「だってー。泳ぎたくないもん」

 エルム・チノミシルは舌を突き出してぷいっと顔を背けた。ため息をついていると、運転手をつとめていたダッティーが通りかかる。

「人数が足りねぇなら、俺が手伝うぜ?」
「本当ですか?」
「ああ。俺も素潜りは得意だからなぁ」

 一つ目のゆる族、ダッティーは自慢げにそう言い放つ。エルム・チノミシルはちょっとだけむくれるが、赤羽 美央は抱き上げて彼を抱き上げると、「じゃ、エルムはここで応援しててくださいね」と声をかけた。すると、少しご機嫌を良くなったのか「しょうがないなぁ」と呟いた。




 潜るために用意したソア・ウェンボリスの魔法は、今度も薄い氷の壺を作り出した。今度は間違って吸い込まないように細心の注意を払いながら、練習を繰り返す。

「っても、空気を抱えたままじゃ沈みずらいだろうから、先行する俺たちがしっかりしないとな」

 ラルク・クローディスはカナヅチが2人いるときいても全く気に留めることなく作戦を組み立てていった。ニコラ・フラメルも各チームに配られた軽石を3つの網袋に分けて入れると、エース・ラグランツ、ソア・ウェンボリス、五月葉 終夏に渡した。

「なんで俺たちなんだ?」
「空気の入った氷を持っている君たちのほうが、海面に上がりやすいだろう。その勢いを利用して、軽石を籠の中に入れてもらう」
「ご主人たちを俺たちが泳いで連れて行って、日時計の下で手を離す。空気を吸いながら、軽石を籠に入れてもらうって算段だ。難しいことじゃないが……」
「妨害があったとき、か」

 メシエ・ヒューヴェリアルが口を挟む。彼自身は参加しないことに決定しているが、どうやら応援をしてくれるつもりらしい。本人は決して認めないが。

「ああ。ま、その辺の妨害も何も相手チームからとは言われてねぇしな」

 雪国 ベアが水中銃を手の中でくるくるさせながら呟いた。とりあえず、とラルク・クローディスが拳を突き出した。

「とにかく、楽しもうぜ」

 その言葉に、一同はその拳に同じく拳をつき合わせた。


 選手一同がうきのそばに小船で移動し終わったとき、影野 陽太はマイクを握り締めた。



「それじゃ、海中玉入れ開始です! これは人魚達の日時計の中心に設置されたいくつかの籠……それぞれ得点が定められたところに投げ入れる競技です。1チームごとに競技を行います。制限時間が来ましたら、水中でもわかるように人魚達が合図してくれます。それではー……すたーーーと!!」



 影野 陽太の合図で、まず霧雨 透乃たちチームが海の中に潜っていく。

 赤い軽石を握っている鏡 氷雨はスノウ・ブラックと手をつなぎながら勢いよく潜っていく。その両手には、緋柱 陽子手製の、重力負荷をつけた氷塊が握られている。かなり深くまで潜ったところで、大きな海草の塊が見えた。それが日時計だと悟ると、さらにその下へともぐりこむ。そこから上を見上げると、日の光が差し込んできているのが目に見えた。大きな籠に色とりどりの花のような鮮やかな海草が巻きついており、差し込む光が時を示しているらしいことがわかった。だが、見方がわからない二人には、その時計が今何時を示しているのかはわからなかった。すぐに氷塊の中に閉じ込めてある軽石を取り出そうと、武器で氷塊を叩き始める。

 すると、鏡 氷雨の足をなにかが絡めとった。すぐさま異変に気がついたスノウ・ブラックはその何かを切りつける。それが海草なのだと悟ると、日時計を改めて見上げた。揺らめいているように見えているだけで、彼らは『生きているのだ』と理解できた。
 籠に近づこうとすれば、彼らが襲い掛かってくる仕組みらしい。

(困ったな……これじゃ入れられない)

 スノウ・ブラックが顔をしかめていると、鏡 氷雨がその腕を掴んできた。先ほどの海草からの攻撃で驚いたため、空気が足りなくなっているようだった。
 そこへ平泳ぎでたどり着いたのは、同じチームの霧雨 透乃だった。彼女は切り取ってきたらしい海草を鏡 氷雨の口の中に押し込める。すると、少し楽になったらしく、スノウ・ブラックに微笑みかけた。

(ありがとう、透乃さん)
(いいよ、がんばろ)

 そうジェスチャーで伝え合うと、3人は海底を蹴り上げ、武器を構えて日時計に向かっていった。ドルフィンキックをうまく使いこなす霧雨 透乃がいち早く籠のところまでたどり着くと、高得点のところに纏めて放り上げる。


 緋柱 陽子は氷塊の中に軽石はいれずに、胸元に挟んで潜っていった。赤羽 美央は苦しげだったが、スキルのおかげかまだまだもちそうだった。彼女は網の袋の中に軽石を入れて霧雨 透乃たちの後を追って海草たちに立ち向かっていった。籠の中に軽石を放り上げていくと、途中で見つけた貝をいくつかその網の中に入れ、赤羽 美央は海上に戻った。
 既に先行していたメンバーの顔を見て、一人足りないのに気がついた。先ほどピンチヒッターを引き受けてくれたダッティーだった。

「あれ? あのダッティーさんは?」
「私たちより後だったのは覚えてるんだけど……氷雨、私見にいってくるわ」
「あ、スーちゃん!」

 スノウ・ブラックはすぐさま潜って探しに行くと、日時計の途中、引っかかっているのをみつけた。その海草から開放してやると、すぐさまダッティーをつれて海上へと戻っていった。

「スーちゃん!」
「ただいま、途中でひっかかってたわ。救護班に見せないと……」
「スーちゃんは怪我してない?」

 心配そうに見つめてくる鏡 氷雨の言葉に、スノウ・ブラックは小さく頷いた。丁度よく、制限時間終了となった。最後の救出劇に、それを見ていた参加者達は拍手を送っていた。

 そして、続いて青い軽石を持ったソア・ウェンボリスのチームが飛び込んでいった。
 
 2人ずつ相手に捕まって氷の壺を持って勢いよく潜っていく。真っ先に海底にたどり着いたのは雪国 ベアだ。氷の壺は海底に近いと長く持たないということを、先ほどのことで知っているソア・ウェンボリスは雪国 ベアに投げてもらう形で日時計目指して登っていく。なるべく高得点の籠に、軽石をいっぺんに入れていこうとするが、そうも簡単にかせてくれない。
 海草たちは一斉に彼女に襲い掛かろうとしていたが、それを妨害してくれたのは雪国 ベアの水中銃と、壺からの呼吸に慣れたらしいエース・ラグランツだった。動きこそ不器用な感じだったが、氷の壺にしがみつきながら高周波ブレードで海草たちをなぎ払う。
 エース・ラグランツは目でソア・ウェンボリスに合図すると、彼女はすぐに理解してエース・ラグランツの腰につけた軽石を引き受ける。軽石を高得点のところに投げあげていく。
 最後に訪れた五月葉 終夏とニコラ・フラメルは見事なコンビネーションで籠に軽石を投げ上げていった。色とりどりの海草も、こうして襲い掛かってきては確かに愛でることはできなさそうだ。五月葉 終夏がそんなことを考えていると壺の中の空気が切れ、エース・ラグランツと五月葉 終夏はすぐにぐったりとしてしまった。
 ソア・ウェンボリスや雪国 ベア、ニコラ・フラメルらは自力で何とか海面を目指すことに集中して、差し込んでくる眩しいばかりの日差しを目指して足を動かしていった。

 ぐったりとした二人を軽々と抱えて海面を目指すのは、ラルク・クローディスだった。

「ぷっはあ! おい、皆無事か!?」

 海面に最後に顔を出したにもかかわらず、まだ呼吸に余裕があるラルク・クローディスの呼びかけに、意識のあるメンバーは何とか手を上げることで返事とした。
 先のチームのようなチームワークよりも、危なっかしさが目立ったためか彼らには一層の拍手が送られた。

 ぐったりとしてしまった二人は、すぐに救護班のところへと連れて行かれる。その後も競技は続いていたのだが、「それよりも疲れを取ることのほうが先決だ」と運営委員の緋桜 ケイから声をかけられたのだ。如月 日奈々は沸かしたお湯で身体の温まるお茶を用意し、クロス・クロノスは温めたお湯で二人の身体を拭いていた。ヴァーナー・ヴォネガットは、海岸に戻ってきた海中玉入れのメンバーに飲み物を振舞っていた。

「競技お疲れ様でした! 飲み物をどうぞ!」
「ありがとう」
「こんなに暑いのに、あんなに深く潜ると体が冷えちゃうんだね……」
「氷雨、ほら。温かい飲み物だからゆっくり飲むんだよ」

 頷いた鏡 氷雨は、スノウ・ブラックから受け取ったカップに口を近づけ、ゆっくりと口の中に流し込んでいく。暖かなレモンの香りが、身体の芯から温めてくれる。

「こんなに暑い日なのに、不思議だなぁ」
「こういうときこそ、身体を冷やしすぎちゃいけないんですよ。ね、透乃ちゃん」
「うん。うちは氷術使ってたから、余計冷えてるかも」


「さて! 先ほどの結果が出ました! うわあ……これはすっごく惜しい結果です!! 三位、緑チーム! 二位、青チーム! 優勝! 赤チームです! 青チームは、わずか一点差で負けてしまいました……」


 その結果を聞いて、ビーチじゅうから拍手が送られた。それが参加者全員はもちろん、何より赤チームと青チームに対する賞賛であった。

「残念だったわね」
「でも、すっごく楽しかったです!」

 赤羽 美央の言葉に、ソア・ウェンボリスはにっこりと笑って握手を求めるために手を差し出した。互いにいい試合をしたと、選手達は握手をして回っていた。






「あっと、ここで釣り競技も終了となります。
 集計は、非常に申し訳ありませんが、パートナーの方の分を合わせての集計にさせていただきました。

 集計結果は………総合で一番高いポイントをたたき出したのは、姫宮 和希さん、小鳥遊 美羽さんです!!
 実はさきほどのくらげは、隠しキャラ的な位置でして、釣り上げた人に最大得点を差し上げることになっていたのですが、
 お二人で釣り上げたという事でお二人をトップにいたしました!

 総合2位は、宇都宮 祥子さんです! 残念ながら、数には残りませんでしたが釣り上げた数と、質はかなり高いです。
 同点三位が曖浜 瑠樹さん、アンドリュー・カーさん、霧島 春美さん、レロシャン・カプティアティさんです。

 そして雨月 晴人さん、あの凶暴な鮫はかなりポイントが高かったのですが、残念ながら他の魚が低かったです。
 ですが、芦原 郁乃さん、赤城 長門さんと3人で特別賞が送られることになりました!
 一風代わったものが釣り上げられたからですね。
 
 そして……最も数多く釣り上げた方は、
 ロザリンド・セリナさん、秋月 葵さん、アルフ・フラディオスさんです!
 コンスタントに釣り上げた速度は、恐らく並んでトップですね!」



 参加者達の名前が読み上げられると、彼らに対する賞賛の拍手も送られていた。