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「やったぁーーー☆ これなら十分足りるわね」
 アスカは言った。
 手には大量の性転換薬がある。
 ペットボトルニ本分の薬は、ドロリと濃厚。危険物だ。
 それと同じものが、侘助の手の中にもあった。
 アスカと侘助は薬を持って、ひと夏の花火のような悪戯を。…と、この浄水施設に来たのだった。
 ここは、今年下半期で閉鎖される予定の小さな浄水施設だ。
 危険冒険を掻い潜ってきた二人にとって、小さな浄水施設など忍び込むのは苦ではない。
「どーんと投げちゃいましょうか。天壌の女神の名に懸けて!」
 最後まで生き残るためなら何でも投げる。それが、コミュニティー【天壌の女神】。
 今回は、己が楽しみのため、退屈な人生に刺激が欲しい人たちのため。私たちは投げるのだ。危険物を。
「さあ、さあ、さあ! いっきまーーーーーー……あれ?」
 さっそく薬をと思ったところ、アスカは投げるのをやめた。
 背後で音がしたのだ。
 振り返ると、そこにはセクシーな服を身に纏った美女と美青年が立っていた。二人はとてもよく似ている。
「性転換薬、ですか。大変楽しそうですね」
 そう言って、二人に話しかける。
「だ、だれ?」
 秘密を知られたと慌てたものの、アスカが眉を潜め、慎重に相手の出方を見る。
「ルナティエールと申します。ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)。こちらはパートナーの夕月 綾夜(ゆづき・あや)ですわ。ちょっと、お話が聞こえてしまいまして…」
「邪魔する気なの?」
 アスカは言った。
「いえいえ…そんな」
 ルナティエールは大仰な素振りで否定する。
「先ほどから楽しい話を聞かせて頂きまして…とても興味を持ちましたのよ?」
 こそこそと話し込む二人の話を盗み聞きしたルナティエールは、彼女らをずーーーーっと追ってきたのだった。ここまで。街からの距離を考えると、凄い執念だ。
「人生は短いもの。恋も、夏も楽しむべきではありません? それにはその薬が必要と、わたくしは思いますの。むしろ、必須ですわ」
「被害拡大、大さんせーい♪」
 綾夜も諸手を挙げて賛成した。
「信じていいのか?」
 侘助は伺いつつ言った。
「えぇ、当然ですわよ。楽しい遊びに参加したいだけなんですの。まさに運命です」
「ほら、だって別に誰かが怪我したり死んだりするわけじゃないし?」
 綾夜は言った。
「ふふふ……このわたくしを差し置いて面白いことをやろうなど、百年早いのですよ! はーっはっはっはっ!」
「「え?」」
 不意にルナティエールの被った分厚い猫がドスン!と落っこちたような気がしたぐらい、侘助たちはビックリした。
 そして、ルナティエールは何事がなかったのように猫かぶりした。
「おっと、いけない…まぁ、【純真】で、【純粋】な願いですのよ。わたくしたちを仲間にいかがかしら?」
「二人で楽しんでもねぇ…まあ、いいんじゃない」
 アスカは頷いた。
「師王がいいって言うなら、俺は別にいいぞ?」
 侘助は言った。
 二人は仲間になることをOKした。
「本当ですの? よかったわ。さぁ、楽しみましょうか」
「そうだな」
「では」
 アスカは言って、浄水施設のむき出しになった場所へと向き直る。下を覗けば、大きな水の音と水の匂いがした。
 皆は手に一本ずつペットボトルを持つと、ふたを開けて並んで立つ。

「「「「とんでけでけでけ〜〜〜♪」」」」

 浄水施設に薬をぶちこむ一同。
 ペットボトルはイチゴ飴色の液体をぶちまけながら、この大陸の人間の喉を潤すはずの貯水池へと落ちていった。
 遠くで、どぽんっ☆ と音がする。
 水が一瞬、イチゴ色に染まって、そして四散していった。

(犯人じゃなくても犯行はやる、それが愉快犯の真骨頂!)

 ルナティエールはほくそ笑むのだった。