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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村

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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村

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第3章 信念なき者の襲撃

「さてと、夕食の準備でもしようかな」
 旅人のために弥十郎は釜でご飯を炊き始める。
「炊いてる間に呉汁を作っておかなきゃ」
 煮干しの頭と腹の部分を取り、腹のあたりからペリッと半分に割る。
「ご飯だけ先に出来ても、少し冷めちゃうからね。口当たりがいいように、アクもとらないと」
 水を入れたカップに10分間つけた煮干を、鍋に入れて火にかけてアクとりしながら煮てこす。
「あまり潰しすぎないのがコツなんだよ。歯ごたえがなくなっちゃうと、美味しくないからね」
 洗って塩を加え、水に一晩つけてある買った大豆を水切りし、すり鉢ですりつぶす。
「油揚げともどした干し椎茸を細切りにして、小ネギは小口切りだね」
 トントンと手馴れた手つきで、包丁を使い切っていく。
「さっきの煮干の出汁とすり潰した大豆、それと千切りにしてやつを鍋に入れて、15分くらいゆっくり待つんだよね。そろそろ川魚を焼こうかな」
 大豆が柔らかくなる間、新鮮な川魚の鮎を串に刺し、軽く塩をつけて炭火で焼く。
「お玉と菜箸を使って溶き入れて・・・味の濃さも丁度いいかな」
 15分くらい経ち、味噌を鍋に溶き入れ、お玉で汁をすくい小皿に注ぎ味見をする。
「ネギはこれくらいかな?」
 器に盛りつまんだ小ネギを器の中に散らす。
「ご飯もちょうど炊けたみたいだし、魚もいい感じに焼けたね。あっ、漬けておいたナスと胡瓜を切らなきゃ」
 糠からナスと胡瓜を取り出し、水で糠を洗い流して切り、皿に盛りつける。
「お待ちどうさま」
 借りてきた丸いテーブルに料理を乗せたお盆を置く。
「あんた料理美味いんだなぁ」
「そうですか?」
 お世辞の言葉ではなく、素直な感想をもらい褒められた弥十郎は照れ笑いする。
「まだおかわりありますよ」
「呉汁が欲しいだ」
「はい〜、今よそいますから待っててくださいね」
 器を受け取ると嬉しそうに鍋があるところへ行く。
「よし、完全に離れたぜ」
 まだ襲撃のチャンスを待っていた鍬次郎がニヤリと笑う。
「もう壊していいのね」
 ブラックコートを纏い、隠れ身で旅人の背後へ忍び寄る。
 リターニングダガーの柄を握り首元を狙う。
「(あ、来る・・・)」
 白狐の耳を動かし超感覚で察知した弥十郎の足音を聞く。
「持って来ましたよ、どうぞ」
 その数秒後、タイミング悪く戻ってきてしまったのだ。
「そ、そこで何やってるだよ!」
「やべぇ見つかった!ハツネ、離れろっ」
「―・・・うん、殺してからね」
「(ごめんなさいっ)」
 殺害を止めようとする彼に向かって、掴んだ砂を投げつける。
「うぁあっ!」
「何かあったんか弥十郎さん!」
 彼の叫び声を聞きいた陣が宿泊施設へ走る。
「余計なのが来やがる。葛葉、ひきつけておけ」
「わっ分かりました」
 鍬次郎に従い葛葉は宿から出て、陣をひきつける。
「待てぇえ、こいつーっ!」
「あわわっ!」
 捕まったらどんな目に遭うのか考えただけで恐ろしく、必死に逃げ回る。
「逃げられたか。とりあえず、真奈を宿の方に行かせておいてよかったな」
 小尾田 真奈(おびた・まな)を弥十郎がいるところへ行かせ、逃げる葛葉を彼1人で追いかけてきたのだ。
「(まだいたんですか!?どっ、どうしましょうっ)」
 後で鍬次郎に怒られてしまうのではと、葛葉は物陰で身を潜めながらブルブルと震える。
「壊すの・・・」
「へっ、死にな」
 宿の方では弥十郎の視界を塞ぎ、ハツネと鍬次郎は冷酷な表情で旅人へ顔を向け、手にしている刃で獲物の背をドンッと突く。
「させません」
 ハウンドドックのトリガーを引き、2人の得物を撃つ。
「ちぃっ!」
 鍬次郎たちの手元が狂い旅人の腹と肩を刺し、致命傷にはならなかった。
「そこから離れてください」
 真奈は銃口を向け、旅人から離れなければ撃つというように言い威圧する。
「葛葉、もたもたしてんな!」
「すみませんっ」
 陣から逃げてきた彼女は煙幕ファンデーションを投げつけ、鍬次郎と共に宿から逃げる。
「大丈夫ですか?」
「うん、後で目薬をさして砂を流すよ。それよりも、旅人さんは?無事なのかい!?」
「酷い傷を負わされてしまっています。致死量の出血量ではないですから、ご主人様の術で治ります」
「そうか・・・よかったよ」
「あ、あいつらっ、よくもこんなことを!」
 宿へ戻って来た陣は旅人の傍へ駆け寄り、命のうねりの術で刃で傷つけられたところを癒す。
「ふぅ・・・なんとか塞げたか。まだ気を失っているみたいやね、寝かしておこうか」
 ふかふかの藁の上へ運び寝かせる。
「あの人たち・・・また襲撃に来るのかな」
 目薬で砂を流した弥十郎が、どう対処したらいいか考え込む。
「そうかもしれんな、しつこそうやし。なんならオレたちが旅人さんと村の中で一緒にいようか?」
「うーん・・・目の前でまた村人さんが鬼になっちゃったら、やっぱり鬼なんだと思われるかもしれないからね・・・」
「あぁそっか。んなことになったら、また説得しなきゃいけなくなるんやね」
「おっさんも一緒にいるから、なんとか頑張るよ」
「そんじゃ弥十郎さんに頼むか」
 弥十郎の元に旅人を置いて行き、陣と真奈は村の中へ戻る。



「さっきはあいつらが旅人から遠く離れる隙がなくて失敗しちまったな・・・。だったら村人を殺っちまおうぜ!」
 鍬次郎は村に住んでいる若い女の背後へそっと忍び寄り、背から心臓にかけて刃を刺す。
 ベシャッと地面が鮮血で染まる。
「ひ、人が死んでるっ」
「誰の仕業だぁあ!?」
 その亡骸を見た他の村人が、ぎゃぁあーっと悲鳴を上げる。
「はっ、今日は久々に楽しめそうだな!さあ、殺戮の始まりだぜ!!」
 逃げ回る人々の頭部を貫いたり、何人も殺してしまう。
「猟師だとかじゃねぇ、役に立たねぇ女とガキは殺していいが、それ以外は残しておくんだったな」
「全部殺さないの?」
「鬼になるやつがいなくなっちまって、他のやつらが探索しやすくなるって言われたからな」
 不思議そうに首を傾げるハツネに、鎌鼬に全員は殺さないように言われたことを説明してやる。
「うん・・・分かった」
 ハツネは俯き、物足りなさそうに頷く。
「―・・・むっ、村人が死んでます!いったい誰がこんなことを・・・」
「他の生徒に気づかれたようだな。逃げるぞ」
 陽太に他の生徒たちを呼ばれたら厄介だと、鍬次郎たちは林の中へ逃げ込む。
「あわわっ」
「どうしたんだ陽太くん!」
「村人たちが誰かに、こ・・・殺されてしまったんです」
「さっき旅人さんを襲ったやつらの仕業やねっ」
 陣は悔しそうな顔をし、ダンッと地面を踏み鳴らす。
「どうしようエース。こんなこともしも・・・」
 ぐすっぐすっとクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が今にも泣きそうに瞳に涙を溜める。
「泣くなクマラ。少しでも不の感情がオメガさんに影響しないようにしないとは言っても、これは予想外だったな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はどう対処したらいいか考え込む。
「とりあえず今出来ることは、あまり鬼と争わないように、生徒たちに伝えなきゃな」
 闇世界に悪い影響を与えないよう、まずは陣に声をかけようと走り寄る。
「あの、ちょっといいかな?」
「ん、オレ?」
「うん、あのさ・・・闇世界に変わって鬼を倒しても死なないのは分かるけど、でもやっぱり殺される感覚は鬼なっても同じだと思うんだよね」
「つまり鬼と戦うなっつーこと?」
「それがよくない影響を与えて広がってしまうかもしれないんだ。そんな方法、探索する皆も大変になると思うけど。出来るだけそうしてもらえるといいな」
「あぁ、そうやね。もし狙われても逃げられる程度にしておくか」
「分かってくれてよかったよ。じゃあ他の人にも伝えなきゃいけないからじゃあね」
 片手をふりふりと振り、鬼を倒したりしないように伝えようと、エースは他の生徒を探しに行く。



「最近、空に何かおかしなのが飛んでいるところを見なかったかな?」
 真は鎌鼬に関する情報を集めようと村人に聞く。
「さぁーどうだったっかー。おめぇさんは知ってるだ?」
「あっちの方になんかちっこいのが飛んでいくのを見たようなー。見てないようなー」
「そういや突然、突風みたいなもんが吹いたっけか」
「どの方角に吹いたか覚えてる!?」
「えっと向こうの方だったなぁ」
「ありがとう!」
 集会場の近くの民家へ飛んでいったと聞き、遠野 歌菜(とおの・かな)に知らせに行く。
「もうオメガちゃんの探索を始めてる頃よね?私たちは鎌鼬を捕まえて、目的を調べなきゃ!」
「外見とかは分からなかったけど、この辺りにいるのはたしかみたいだよ」
「分かりました!闇世界に変わったら誘い出してみますね」
 ユニコーンの頭を撫で、にこっと真に微笑みかける。



「普通の日常の日記ね。今のところ闇世界に飲まれる予兆っぽいことはないみたいね」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は村の人の日記を見せてもらい、ここの人たちは本当に何が起こっているか知らないんだと確信した。
「元凶はやっぱりオメガちゃんの悪夢の影響ね・・・。彼女を傷つけるだけじゃなくて、平和に暮らしている人たちを巻き込むなんて許せない!早く見つけてあげなきゃ、この村は全て闇世界化しちゃうかもしれないわ」
 このままでは朝になっても闇世界から元の村に戻らなくなってしまうと思い、探索をしている生徒たちに知らせようと走る。
「もう日が沈んでしまいそう・・・。早く知らせなきゃいけないのに、皆どこに行ったのかしら」
 誰かいないか辺りを見回しながら林の方へ走っていく。
 その頃、ヴァーナーは日が沈むのを見て探索を始める。
「闇世界になる時間ですか?」
「そうですね。高台にいる鬼を対処してくれる人がいるそうなので、ヨウエンは空から探します」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は空から探そうと、ヴァーナーから離れる。
「むーっ、ボク1人になっちゃいました」
「ルカルカたちと一緒に探そう。1人だと危ないからね」
 不安そうな顔をする少女にルカルカ・ルー(るかるか・るー)が声をかける。
「ありがとうですっ」
「昼間に村の中を見て回ったけど、それらしい痕跡は見つからなかったわね」
「日が沈んだぞ」
 夏侯 淵(かこう・えん)は沈んでいく夕日を睨み、鬼に襲撃されないよう周りを警戒するように言う。
「夜になったわ・・・。な、何!?建物の周りが泥濘になっちゃった!」
 辺りが真っ暗になったとたん、ぐづぐづと地面が溶けるように、どろどろの泥濘と化していく。
「空のお月様が見えないですっ」
 びっくりした目でヴァーナーは明りのない真っ暗な空を見上げる。
「見えないっていうより、この世界にはないみたいよ。明りという明りがないに等しいのよ、闇世界は・・・。(まるでオメガちゃんの心を映しだしてるみたいにね)」
 そんなことを思いながらルカルカは悲しげな表情で空を見つめる。
「オメガ殿!今参る故、気をしっかり持つのだぞ!」
 姿の見えないオメガに呼びかけ、淵はルカルカたちと彼女の行く先の手がかりを探し始める。
「村の様子が変わりましたね・・・。塀だったところが崖になっていますし」
 地獄の天使の翼で飛びながら、遙遠が周囲を見回す。
「ダークビジョンならライトは不要ですからね。とはいってもこの景色、オメガさんの心の現れなんでしょうか・・・」
 館から出られない不自由さが、この闇世界に現れたのだろうかと呟いた。



「急に真っ暗になったわね。明りがまったくないわ」
 目を凝らしアリアは薄暗い道を進む。
「あれが鬼!?でも元は村人・・・ここで戦っては、オメガちゃんの心によくないわ」
 戦いを避けようと細い路地へ逃げ込む。
「高台の傍とかは危ないのよね。―・・・んぐぅ!?」
 そこへ入った瞬間、待ち構えていた鬼に背後からさるぐつわをされ、民家の中へ引きずられていく。
 彼女は口を塞がれたまま放り込まれ、両足を折られてしまう。
「んっ、ぐぅうぅううーー!!」
「コウスレバニゲラレナイ。ウデモオッテヤロウカ」
 少女の細い腕を掴み、間接をゴキンッとへし折る。
「んんんっ、ぐぅううっ。んぅうーっ!」
 アリアは焼けつくような激痛に身を捩る。
「クウマエニ、モットイジメテヤロウ」
「んぅう!!?んーっんぅう、んぅーっ!(何するの!!?いやぁあっやめて、きゃぁあっ!)」
 服を毟り取られ羞恥のあまり、動けなくなってしまう。
「オモチャニシテヤレ、ギャッギャッギャッ」
「(う、うそでしょ!?やめて、いや、いやあああああああ!)」
 鬼どもに陵辱され身も心もズタボロにされる。
「アキタナ。モウクッチマオウ」
「オレハウデ」
「ジャア、オレハアシダ」
「(や、め・・・・・・もう・・・・・・やめ、て・・・・・・。ぁあっ、わ、私の腕と足が!痛い、痛いっきゃぁああーっ!!)」
 さらに折られた腕と足に噛みつかれて、ブチブチィイッと引き千切られる。
「ハラモウマソウダ」
「(そんな・・・。何も出来ずに、こんなところで死ぬなんて・・・・・・)」
 涙を流しながら腹まで喰い散らかされてしまう。
「アトデマタクッテヤロウ」
 空腹を満たした鬼たちはアリアを残して民家を出て行く。
「(せめて・・・・・・情報だけでも・・・・・・。オメガちゃんの心の闇が広がってしまう・・・これ以上、誰も犠牲にならないで・・・)」
 指を使い吐き出した血で床をなぞり、ダイイングメッセージを残し、パタンッと腕を床へ下ろし絶命する。