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KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション公開中!

KICK THE CAN2! ~In Summer~
KICK THE CAN2! ~In Summer~ KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション


・変態と言う名の紳士と言う名のただの変態の変熊


 南エリア。
「缶の位置は校舎の屋上みたいだけど、どうやっていこうかしら?」
 アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)は南エリアの缶を蹴ろうとしていた。場所はトレジャーセンスで掴んだものの、南エリアで守りに気付かれることなく本校舎屋上を狙える所と言えば強化人間管理棟くらいのものだ。
 とはいえ、そこの屋上に上ることは出来そうにない。おそらく海京で一番警備が厳重で、しかもこの缶蹴りの間でさえ近付くことが許されていないのである。
 アルメリアの近くに人影が見える。攻撃、守備どちらかは分からない。自分に、というわけではないか何か危険な気を発している人物だったからだ。
「あら、エミカちゃんに未沙ちゃんじゃない」
 偶然出くわしたのは、エミカと彼女に強引に引っ張られてきた未沙に二人である。どうやら危なっかしい気配というのはエミカの気配だったようだ。
「やほー。ちょっと聞きたいんだけどさー、如月 正悟君を見なかった?」
 ふと疑問に思う。エミカが自分を捕まえようとしない以上、彼女は同じ陣営のはず。参加者リストでも、正悟は攻撃側だ。追う理由がない。
「見かけてないわね。どうしたの?」
 エミカから事情を聞く。
 そして自分とエミカの胸を見比べる。二人とも水着なので、身体のラインははっきりと分かるが、
「そう、そんなことが……同じ女として許せないわ!」
 エミカに共感するアルメリア。
「ワタシも手伝うわ。まだ捕まってなければ、きっと缶を蹴りに来るはずよ」
 アルメリアを加え、一行は缶を蹴りに……それ以上に(胸のない)女を敵に回した一人の青年を懲らしめに行動に出る。

            * * *

 イコンデッキ前。
 そこに、唐突に二つの影が現れた。
「ヘイ! ヘイ! ヘイ! どこからでもかかってきなさい!」
「ヘイ! ヘイ! ヘイ! どこからでもかかってこんかーっ!」
 正確にはデッキの東側、学院の校舎の南側であるが、そこで変熊 仮面(へんくま・かめん)巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)である。
 なお、両者とも全裸だ。イオマンテに至っては、見た目は熊そのものなので服が必要なのかという疑問は残るが。
 当然、二人の姿は何よりも目立っている。
 そして彼らの視線は一つのものを捉えている――イコンだ。
「どうした! どうした! 俺様の新型イコン『イオマンテ』に恐れをなしたか!?」
 校舎屋上のイーグリットを挑発する変熊。
 なお、彼はその機体のパイロットが女性であることは知らない。
「おら、そんなとこに突っ立ってないではよこっちかんかい! それとも何か、ビビって動けんのか!?」
 イオマンテも変熊に合わせ、挑発する。
「それにしても、学院の生徒が少ないな。これでは俺様の雄姿を見せつけられないではないか」
 缶蹴り中は参加者以外は外出は自粛するように通達されていることを、彼は知らない。
 校舎の方を見る。イーグリットが浮遊し、彼らの方へと飛んできた。
「イコンがなんぼのもんじゃ!」
 さすがに海京の上なので音速で来るわけではないが、イオマンテと向かい合うまでは一瞬だった。
 なお、この間にコックピット内では次のようなやり取りが行われていた。

「なんですの、あれは!?」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は驚愕していた。突然現れて、いきなり自分達を挑発し出したからだ。
「……ん、オリガ、どうしたの?」
 待機している間に眠りに落ちていたエカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)が目を覚ます。
(あれも缶蹴り参加者? だとしたら陽動……しかし、あの様子は……)
 熟考する。この「演習」がわざわざ今の時期に行われていること、そして自分がイコンを持ち出してまで参加した理由から、一つの仮説を導き出した。
「あれはきっと……まったく新しいタイプの強化人間と、遺伝子操作を施された対イコン用生物兵器ですわ」
「多分違うんじゃないかしら」
「いいえ、そうですわ。何も身に纏ってないということは、まさかあの熊と『同化』しますの?」
 思考が深みに嵌っているが、それも仕方のないことだろう。
 もし彼女が熊ではなく、例えばクトゥルフ神話に出てくる旧支配者の姿をした種族(正体はゆる族だったりするわけだが)を見たりしたらどう考えたことだろうか。
 と、いうよりも目の前の熊も実はゆる族だったりするのだが。
「これも試練、ならば戦うしかありませんわ!」
 
 という流れで、今十八メートルの熊と十メートルの人造天使が対峙しているわけである。
「ほら、さっさとこんか……ぐおおッ!!」
 パワーでは圧倒的にイーグリットの方が上だ。
 イオマンテは身体こそ大きいが、あくまでもゆる族であり、それ以上でもそれ以下でもない。
 レベル七十五くらいあれば図体に見合った力は出せるかもしれないが、如何せんレベル二十である。
「イオマンテ、こうなったら合体だ!」
 この時、パイロットに戦慄が走ったことだろう。本当に彼らは『合体』するのか――
「さあ、とくと見るがいい!!」
 イオマンテの肩の上で腕を組み、仁王立ちをする変熊。
 ……それだけだった。
 なお、頭部センサーが見上げたちょうどそこに、変熊の股間があり接近したカメラには――
「うおおおおお!!!」
 イオマンテがイーグリットの体当たりで吹き飛ばされ、太平洋に沈んでいった。
 そして肩に乗っていた変熊は投げ出され、掴まれた。股間を押さえたままの状態で。どうやらイオマンテが殴られた時、その衝撃が乗っていた彼にまで伝わったらしい。あるいは風を受けたせいか。
「お、俺様のイコンコントローラーがっ……! もうイオマンテは俺様の制御が……ってああああああ!!!」
 掴まれた彼はイオマンテが飛んでいった方、即ち太平洋に勢いよく投げ捨てられた。
(せめて……セリフは最後まで言わせてくれ!)
 ドボン、という音を立て変熊もまた、沈んでいった。

 しかし、思いもよらぬ存在は彼らだけに留まらなかった。
「今度は、なんですの!?」
 またもや全長十八メートルの、今度はロボットが飛行してきた。シュペール・ドラージュ(しゅぺーる・どらーじゅ)である。
 彼は機晶姫ではあるのだが、こう見るとイコンと大差ないように見えてきてしまう。
 加速ブースターでスピードは出ているものの、音速をに到達するイコンには敵わない。そして着地し、ファイティングポーズを決めてイーグリットを見据えている。
「まさか、今度は敵の新型……?」
 そんなわけはない。
 六連ミサイルポッドからミサイルがイーグリットに向かって放たれた。
「――ッ!」
 が、あくまで機晶姫の武装に過ぎないのでイコンの装甲には傷一つつかない。今度は遠当てが繰り出されるものの、これもまた効果ゼロだ。
 イーグリットがビームサーベルを抜き、目の前のドラージュを斬りつける。イコン同士の戦いを想定した武器のため、食らったら一たまりもない。
 そのままドラージュは仰向けに倒れ伏す。
 
 このイコンが缶から離れているわずかな時間に、攻撃側が一気に缶へと攻め込んいった。

            * * *

「あれ、師匠はどこに行ったんスかね?」
 アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)がエリア内を見渡すものの、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の姿が見えない。
 缶の防衛をするに当たり、指示を仰ごうとしたのだがいないものは仕方がなないと、地上での索敵に当たる。
 上空にはサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)がおり、空中から索敵……をしているようで、その実ほとんどただ眺めているだけのようだ。
 地上には彼女の放った狼や、オリヴィエ博士改造ゴーレムが待機している。あくまでも守備が直接タッチしなければならないので、狼やゴーレムにはそういった意味での当たり判定は存在しない。
 そのため、アレックスが隠れ身で気配を消して攻撃側の人を捕まえに歩き回っている。といっても、その範囲は缶のある天御柱学院の周囲が主だった範囲ではあるが。
(あれは……)
 イコンデッキ近くからの発せられる気配を察知し、そこへ向かう。

「そろそろ頃合か……」
 もうじき隠れてから三十分近く立つ。智宏達はそろそろ攻めに転じようとしていた。
 元々は凛、アリサといたわけだが、少し前に二人の人物が加わった。
「守りは私が引きつけるわ。任せて」
 彩羽と彩華だ。
(彩羽、誰か来るですぅ)
(分かったわ。始めるわよ)
 殺気看破で近付く守備を察知し、精神感応で示し合わせる彩華。相手は隠れ身を使っていたため、かなり近くまで接近していた。
「行こう!」
 智宏が持ってきていた小麦粉を投げ、サンダーブラストを放つ。それが小麦粉の袋に当たり、空気中に舞う。
「う、ごほ、ごほ!!」
 小麦粉を吸ったらしく、接近していた守りのアレックスがむせる。
 その隙に駆けていく一行。
(これ終わったら、プール決定だな)

            * * *

(ようやく動いたか)
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はイコンデッキから飛び出してくる姿を確認した。人影は分散する。
 彼女は近くにあるワイヤーを断ち切った。
 トラップが発動し、しびれ粉爆弾が人影近くで炸裂する。
(逃がさんよ)
 別の罠が仕込まれている場所へ誘導しようと、毒虫の群れを放つ。が、そうするまでもなく思い通りの場所へ移動してくれているようだ。
 そして予想通り、引っ掛かり――そうになったところを避けられた。サイコキネシスで止めたようである。
 地面に仕掛けたものはレビテートを使われているため、機能してないようだ。
(だが、まだ甘い!)
 上空から彼女のパートナーのプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)が奈落の鉄鎖で地面に落とし、氷術を放つ。
 足下を凍らされ、その少女――彩羽は動けなくなる。
 さらに、大佐が念を入れてもう一つトラップを発動させる。トリモチ付きの網が彼女に向かって飛んでいく。
「もう逃げられんよ」
 大佐がタッチしに近付く。いくら罠で動けなくしても、触れなければ捕まえたことにはならない。
「こんなもの、想定の範囲内よ」
 彼女の姿が消える。ミラージュによって作り出された幻影だったのだ。
「何!?」
 実は、彼女は氷術をフォースフィールドで防いでいた。そのため自由に動けたのである。
「罠は守りの人だけが使うものじゃないわよ」
 サイコキネシスで近くにあった金属板を動かし、壁を作る。ここに資材があることを知っていたために、あえて誘いこんだのだ。その上でヒプノシスで眠らせようとしてきた。
 大佐の視界が一瞬ぼやけそうになるが、何とか意識を持っていかれずに済んだ。不寝番のおかげでそう簡単に眠らされない。
「仕方ないわね……!」
 逃げようとする彩羽に対し、大佐はバーストダッシュを使う。すぐに彼女の姿が分身するが、
「二度は通用しない!」
 影のある方を追う。幻影は実体ではないため、影は出来ないのだ。
 機動力は大佐の方が上、一度は姿を見失うが、機能しているトラップのおかげで、別ルートから回り込むことに成功する。
「終わりだ」
 彼女に向かっていき、そのままタッチする。
「きゃーーー!!!」
 勢いに任せて大佐がタッチしたのは、彩羽の大きな胸だった。それはわざとか事故か。
「――――!!!」
 本能に身を任せたサイコキネシスが炸裂し、大佐が吹き飛ばされる。
 結果的に、相打ちとなってしまった。

 一方、別ルートへと駆け出した彩華や他の面々はまだ無事だった。
 だが、
「くそ、これは厳しいな」
 校舎の近くまで来ていたが、智宏はそれ以上動けなかった。
 狼に囲まれていたためである。
(缶蹴りに動物も使ってくるとは……)
 動物ならまだいい。深夜にアンデッドであるグールに抱きつかれたり、複数のレイスに取り囲まれたり、さらには名状しがたき獣にタックルされた者も過去にいるのだ。それに比べればかわいいものである。
 背後からはアレックス、周囲は狼、さらに正面からは大型騎狼、そしてそれらを操るライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる)がいる。
(とはいえ、これで守りを引きつけることが出来た。あとは任せたぞ)
 なお余談だが、小麦粉は食べられるものである。それが身体に被っている状態で、動物に近寄られたらどうなるだろうか、想像に難くはないだろう。

            * * *

「なかなか見つかりませんね……」
 その一方で、なかなか隠れている守りを見つけられていない榛原 勇(はいばら・ゆう)は、少ししょぼくれていた。こころなしか、涙目である。
 が、誰かの足音が聞こえた瞬間、ぴっと顔を上げる。
「ユウ、あそこだ!」
 フエン・ワトア(ふえん・わとあ)の声で、それを見る。スニーカーだ。
 ただの靴が音を立てて歩いている。光学迷彩が足までかかりそこなっているのか?
 先の先でフエンが接近する、その靴を挟むようにして、勇も近付き氷術で凍らせようとする。が、しかし、
「何……?」
「誰もいませんよ?」
 そう、ただの、なんの変哲もないスニーカーでしかなかった。
「やられたな」
 誰かがサイコキネシスで操っていたのだろう。ただ、そう遠くからは操れないので、近くにいるのだと分かる。
 直後、二人は悲鳴を聞いた。
「悲鳴っ?」
「ついに犠牲者が出たか」
 さらに、イコンデッキの方には巨大な熊が突然現れる。そして、缶を守っているイコンが出撃していった。
「な、な、何が起こってるんです!?」
 勇の理解が及ばないことが次々と起こっていく。
「ユウ、憶えておけ。これが本当の『缶蹴り』だ。奴らは缶を蹴るためには手段を選ばない、狡猾なハンターなのさ……」
「フエンさん、なんかもう缶蹴り関係なくなってる気がしますよ!」
 熊が消えたと思ったらイコンとは違う巨大ロボが現れたり、もう南エリアは無茶苦茶である。
 この混乱に乗じて、攻撃側は一気に勝負に出始める。

(まんまと引っ掛かってくれたね)
 スニーカーをサイコキネシスで操っていた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、天御柱学院の本校舎の前まで来ていた。
 イコンも離れ、あとは蹴るだけだが、問題がある。
(あの氷を誰かが壊してくれればいいんだけどな〜)
 氷のドームのようなものがあり、それを壊さなければいけない。
 救いといえば、缶の守りをしている者が今、ほとんど出払ってることくらいだった。残っているのは三名。屋上までなんとか上った彼女は、注意深く観察している。
 ヘリポート機能も兼ねているらしく、かなりの広さだ。隠れる場所は何ヶ所かあるが、誰にも気付かれずに缶、もとい氷塊に接近するのは難しい。
 しかも、アシッドミストのせいで霧がかってもいる。人影に見えているものは実は違うかもしれないし、実は氷のドームこそが囮かもしれない。
 そしてそれを証明するかのような出来事が起こる。
「きっともう皆さん、ここまで辿り着いていることでしょう」
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が芝居がかった物言いをする。
「缶なら皆さんの見える場所に御座いますよ。もちろん、『見えれば』の話ですが」
 彼の言うとおりであり、実は氷のドーム内じゃないところにも缶はある。
 が、そちらはダミー缶だ。
 彼が奈落の鉄鎖で圧縮し、極限まで薄っぺらくしているのだが、それはただのアルミ缶だから出来たこと。
 本物の、審判の魔力補正が掛かった缶には細工を施すことが出来ない。
 とはいえ、彼の言葉が真実かどうかを知る術もないのも事実である。

 その時、突然屋上が闇に包まれた。
 次いで、いきなりフラッシュが――光術である。
「なんや!?」
 思わぬ不意打ちに、日下部 社(くさかべ・やしろ)が声を上げた。
 しかし、攻撃はそれで終わらなかった。
 ファイアストームが放たれ、氷が溶けゆき、霧が晴れる。同時に、呪術師の仮面を被った人物が現れた。
「にゃはは、魔法ならいくらやっても反則にはならないぜー!」
 朝霧 栞(あさぎり・しおり)だ。
 イコンが飛び去った直後にここまでやって来て、待機していたのである。
「缶は蹴らさんで!」
 社がガードラインと実力行使で栞を捕まえに行こうとする。しかし、彼よりも行動が早かったのは、溶けるまでは氷のドームを作っていた水神 クタアト(すいじん・くたあと)だ。
「可愛い子、見つけた!」
 彼女は男女関係なく身長百五十以下、俗に言うロリショタ、むしろぺドまで含むという壮絶な趣味の持ち主であるため、栞の容姿は見事にはまっていたのである。結果を先に言ってしまえば、栞は何とか彼女には捕まらずに済む。
 この時、ちょうど缶が無防備な状態となってしまった。
「ほう、上ですか」
 狐樹廊がふと上を見上げると、ワイバーンと朝霧 垂(あさぎり・しづり)の姿があった。
 彼女の姿が複数に見えるのは、ミラージュのせいだ。
「しかし、近付けますかな?」
 アボミネーションを放つ狐樹廊。だが、垂は怯まない。
「行かせないですぅ!」
 続いて望月 寺美(もちづき・てらみ)が身体を張って止めようとする。手では上空に向かってなぜか最後尾カードを掲げているが、そんなもので止まるなら苦労はしない。
「少し眠ってな!」
 ヒプノシスで寺美を眠らせる。
「寺美!」
 すぐに缶を死守しに戻ろうとする社。垂もまた、栞と同じように顔を仮面で隠しているので踏んで名前を叫ぶわけにはいかないが、缶を蹴られる前にタッチすれば勝算はある。
 が、そんな彼の前に大量の紙吹雪……ならぬプリペイドカード吹雪が振る。
 サイコキネシスで操られているため、思うように振りほどけない。
(夜果さん、ナイス!)
 その間に終夏が缶を蹴りに行く。
 紙吹雪の主は、彼女のパートナー、雨宿 夜果(あまやど・やはて)だ。今が機とみて、作戦を実行したのだ。

 カーン!!

 無防備になった缶を蹴ったのは、垂だ。ワイバーンにぶら下がったまま、勢いに任せて蹴っていく。終夏の方は、一歩遅かった。
 とはいえ、南エリアも攻略したことに変わりはない。
「どうせなら自分で蹴りたかったけど、仕方ないかな」
「嬢ちゃん、ぼんやりしてる場合じゃないぜ。捕まったら元も子もないからな」
 すぐに屋上から離れる。
 上空の垂も、そのままワイバーンで飛んで離れていく。

「く、負けてしもうたか……」
 社が肩を落す。
「まだ、他のエリアがあるですぅ」
 そう、まだ終わったわけではない。すぐに移動しようとする。
「ん、なんや……まさか、このカードは!?」
 カード吹雪のプリペイドカードに紛れ、どういうわけか違うカードが混じっていた。パラミタではとあるトレーディングカードゲームが流行っているのだが、彼もそのプレーヤー、通称デュエリストである。
「これは、三大神の進化系でも幻とされる――『シリアス・マスター★ハギ』やないか! 『ブルーアイズ・ホワイトぞうさん』もあるし、あと一つで三大神が全部揃う!」
 三大神の残りが何であるかは各々の想像にお任せする。少なくとも『シキージョ・アッオイ』でも『葵乃上式部』の派生系でもないことは確かだ。

            * * *

「このエリアの缶、蹴られたみたいだな」
「そうみたいだね」
 缶のある屋上まで駆けていた時禰 凜(ときね・りん)とアリサだったが、蹴られたとなれば屋上に用はない。
「だが、まだ缶はある。ほんの少し前には西も倒れたみたいだ。急がねば守りを堅められるぞ」
 二人は即座に移動を開始する。
 とはいえ、缶があった場所が場所なため、守備を全部突破して南エリアを脱するのは困難だ。

 そして、もう一人、彩華はというと、
(彩羽はどうしたのですぅ〜?)
 缶を蹴りに行ったものの、妹の悲鳴を感じ取ったのを最後に指示が来ていないので、どうすべきか躊躇っていた。
 とはいえ、神速と軽身功があるので、今まさに彼女は屋上へ辿り着いて缶が飛んでいくのを見たわけなのだが……
「おや、たった今ここの缶はもう倒れてしまいましたよ」
 狐樹廊の言葉で勝ったのだと知るものの、それはこのエリアに限った話である。
 それを聞いて一瞬ぽかんとする彩華。その隙をついてタッチされてしまい、捕まってしまう。
 どうやら蹴ったらそこで終わりだと思っていたらしい。実際、缶を蹴った後に油断して捕まる人は前回多かったので、連続参加者は注意していたのだが、そういう情報を得ろという方が難しいだろう。