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KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション公開中!

KICK THE CAN2! ~In Summer~
KICK THE CAN2! ~In Summer~ KICK THE CAN2! ~In Summer~

リアクション


・これで全エリア中もっとも危険度が低いってどうかしてるよね


東エリア。
「と、いうわけでそろそろ攻め込もうと思うんだけど、持ち込み武器、二人は何を持ってきたの?」
 一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)はパートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)キリエ・クリスタリア(きりえ・くりすたりあ)に問いかける。
「はーい、あたしうな重持ってきたー! もぐもぐもぐ……」
「キリエいきなり何言ってんの、それは武器じゃないでしょ……ってここで喰うな!」
 間髪入れずにどつくリズリット。
「あ、ほんとはこれ。ただのバット」
「私はラケット持ってきたわ。みかんも隠し持ってきたから、玉代わりに打てるよ」
「あたしもみかん打つー!」
「いや、あんたは小石でも打ってなさい、みかん壊れるから」
 多分ラケットでも壊れる。みかんにそこまでの耐久性はないだろう。
 尋ねた月実はといえば、タワーシールドである。盾ならば顔を隠すことも出来る。
「二人とも、ものすごいスポーツでもするつもりね。でも、これは戦いよ。戦争なのよ」
 色んな意味で参加者は本気を出し過ぎなので、彼女の言うことはあながち間違いではない。
「だからもっと気を引き締めてもぐもぐもぐもぐ……カロメ美味しいもぐもぐ」
「真面目にとか言ってる本人が何食べてんの!! ああ、もう!」
 緊張感ゼロの面々である。
 とはいえ、一応ちゃんと作戦は立てているようだ。
「だけど、缶がたくさんあって困るわね。本物の場所が分かればいいんだけど。他の人が攻めようとしている場所を見つければ分かるかしらね」
 やたらとダミー缶が多いため、それをどうにかしたいと月実は考えているようだ。
 だが、彼女には他にも気になっていることがあった。
「そういえば、アンバーさんいないかしら。私、アンアンさんにあったら言わなきゃいけないことがあるのよ」
「相変わらず飢えてるわね。というより、口に出さなくてもアンアンさんはすでに友達でいるみたいなんだけど」
 リズリットが呟くが、どうやら月実としてはちゃんと言わなきゃ気が済まないらしい。
「『月実殿、ほっぺたに食べかけがついておるよ』
 『あらほんと?』
 『うむ、わしが頂こう』
 『きゃっ、こなところで照れるじゃない。そんな舐め回すように……』」
 以上、月実の妄想である。
「何の想像してるんだか……」
 リズリットはもはや呆れて物も言えないという感じである。
「じゃから、わらわはアンアンではないと言っておろうに」
 突然彼女達の背後から一人の少女が現れる。黄色ともオレンジとも取れる髪色のその人こそ、月実の言うアンアンことアンバー・ドライである。
 なお、彼女や他に登場する宝石や鉱物っぽい名前(Ex.ジャスパー、ヘリオドール、ルチル)の方々について知りたければ、『五機精の目覚め』を参照されたし。
「あ、アンアンさん、いつの間に!?」
「あら、アンアンさん久しぶり」
 アンバーに指摘されても相変わらず呼び方を直す気配がない二人。月実はわずかに狼狽し、リズリットはわりと落ち着いてる。
「なにやら知ってる後ろ姿を見つけたものでのう。ご指名頂いたことじゃしな。あの憐れなモヒカンとは違って、一人でも名前を出してくれれば問題なく来れるのじゃ」
 基本的に、彼女達はあまり動きすぎてはいけないという制約があるので(パワーバランス的にも)積極的に登場出来ないのである。
「まあ、他の皆も来ておるがのう。それはそれで、攻めるというのなら協力するぞ?」
 アンバーの力を使えば缶を倒すのは容易そうだが、本人はあくまでサポートだけするつもりのようである。
「うん、じゃあよろしくお願いするわアンアンさん」


 同じ頃、月実達が隠れている近くの飲食店の中では。
「腹が減っては戦は出来ないにゃー。おねーさん、ここからここまで全部ね〜♪」
「ちょっと、そんな食べたらかえって動けなくなっちゃうよ」
 缶蹴りの最中ではあるが、秋月 葵(あきづき・あおい)イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)は一足早いランチタイムに入っていた。
 居住区域、しかも夏休みなので昼でもこのエリアにいる人は多い。そのため、早い時間から店が開いていたりする。
 念のため、ルールを確認しながら思考を巡らす。
「今回は見つかってもタッチされなければいいんだ〜。缶を踏まれて名前を呼ばれたらダメってあるけど、姿をちゃんと見た人じゃなきゃいけないみたいだし、何とかなるかな?」
 「タッチさえすればおっけー」と事前にエミカは言っていたが、その時は缶蹴りの大前提ルールは暗黙の了解だろうなどと彼女は考えていたようで、今日まで説明がなかった。
 そのため、最初は見つかっても大丈夫だと葵は考えていた。
「あとは武器による直接攻撃禁止ってあるけど、これは缶だけに対してなのか、それとも全体なのかな? 普通に考えたら人に武器で攻撃しちゃ不味いだろうから、全体だと思うけど……」
 こちらは後者というよりは、「人に対して」の制約だ。致死レベルでも魔法なら、審判の魔女ノインが反唱で軽減出来るが、物理攻撃だと彼女にも厳しいものがある。
「今回はイングリットに策があるにゃ!」
 イングリットが作戦を葵に伝える。
「すっごく疲れそうな策だね……特に私が……」
 その策とは、氷術で氷のソリを作って、それに乗って缶に突撃するというものだった。
 だが、まだ彼女達は知らない。
 缶が高い位置にあるため、このままではその策が台無しになってしまうということを。

            * * *

(これといった策はないが、逃げるよりも突っ込む方が意表を突けるか……)
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は建物の陰から、外の様子を窺っていた。
 攻め込むにしても、単独で行くのは難しい。他の攻撃側と連携できればいいのだが……そう考えている時、背後から忍び寄る気配を察知する。
 ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)だ。
「しまった!」
 即、しびれ粉を撒き、彼の動きを鈍らせる。続いて先の先でヴェッセルの動きを読み先手を取る。
 その隙に走り出す。ここはひとまず逃げを優先するしかない。
 これは彼の想定外の効果を生み出すこととなった。すなわち、他の攻撃陣に紛れて缶を狙うつもりの彼自身が、真っ先に突っ込んでいくことになったのである。
 本人に自覚はないが、囮となったのだ。

「さあて、やるとするかのう!」
 その時、月実達と一緒にいたアンバーが行動を起こす。
 彼女が東エリアの磁場を操り、ダミーの空き缶を一掃する。地上の金属缶ならその影響で倒れるし、アキラが容易したハリボテ缶は動かない。
 本物の缶は術が施されているとはいえ、金属だ。この力で倒れない以上、地表に接した場所には本物はない。
「さあ、わらわはここじゃ! 追って来るがいい」
 それだけ大規模なことをすれば、当然守備に察知される。むしろそれが狙いだ。
「かの者の術式を察知した。本物はおそらく――あそこじゃ。さあ、行くのじゃ!」
 アンバーが月実達に教えた場所は学生寮の屋上だった。
 無論、彼女もその近くまで行き守りを引きつけるつもりである。
「あとは任せるぞ!」
 建物まで接近したところで、リズリットとキリエが外側から屋上に向かってみかんを打つ。
 彼女達もまた囮だ。
 そしてその騒ぎに気付いたのは何も守りの人だけではない。
「マティエ、行こう」
 光学迷彩で機を窺っていた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)の二人だ。
 学生寮の建物の近くに隠れ、設置していたぬいぐるみをサイコキネシスで操る。缶を探しながら、一度通って仕掛けていたのだ。
 が、そのぬいぐるみに向かって屋上から銃弾が飛んでくる。どうやら守りは上にいるらしい。
「……これ、結構きついなぁ」
 なかなか超能力を専門でやっている人のように上手くはいかないが、それでも守備がいることは特定出来た。
 迷彩で姿を消したまま正面から入り、中庭に出る。自分が上まで行くのは難しいと判断し、ここからは撹乱に入る。
「りゅーき、また歌うんですか?」
「……すごく下手だけど勘弁してなー」
 一度SP回復のために、驚くの歌を歌う。あとは中にあるオブジェや草むらから音が出るように、サイコキネシスでものを投げつけてやればいい。
 その間に、建物の中には月実が入っていった。そのまま屋上まで上がればいいのだが、
「何よ、これ!?」
 一歩踏み出せばトラップに阻まれる。ワイヤーが張り巡らされ、盾で強行突破しようものならそれが切れていろんなものが飛んでくる。
 ダミーの缶までもがこんなところに用意されていた。
 そして、目の前にはトラップの餌食になった者がいた。
「くそ、ここまで念を入れているとは……」
 エヴァルトである。
 この建物の中に入ったのはいいが、三階に辿り着いた時に、床に敷き詰められた接着剤に足を取られて動けなくなってしまったらしい。
 タッチされたわけではないが、実質捕まったも同然である。
 そして月実はそんな彼の姿を見て、別ルートを探すことにし、引き返す。助けようにもどうしようもない状態だ。
 月実がそういう状況にあるとき、パートナー達は、
「やっぱりお腹すいたからサボっていい? もぐもぐもぐ……」
 みかんを放っていたキリエが残ったうな重を食べようとしていた。
「って食べてないで、ちゃんと仕事する!」
 それを取り上げるリズリット。
「やだ、取り上げないで。それいはあたしの人生の七割が詰まってるの!」
 どうやら、もはや月実のサポートは出来てないようであった。

(後ろが騒がしくなってきましたね)
 一方、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)とタイマンで勝負をしていた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)も、缶の近くでの異変を感じていた。
(不味いですね。せめてラルク様だけでもここで止めておかなければ)
 ライフルを構える翡翠。
(兄さん、別ルートから何人かに回り込まれてるで!)
 缶の近くにいる浅葱 琥珀(あさぎ・こはく)から精神感応で連絡を受ける。
(ええ、ですからなんとしてもここで止めますよ!)
 先刻何者かが磁場を操ったらしく、突然ダミー缶が倒れてしまったが、彼に取ってはさしたる問題ではない。
 倒れていようと、そこに缶があれば狙い撃って弾き飛ばしてやればいい。
 と、思った瞬間、ラルクが自分の前にダミー缶を放り投げ、ヒロイックアサルト・剛鬼を使用。高めた攻撃力で缶を破裂させる。中には砂が詰まっている、それを利用して煙幕代わりにしたのだ。
 神速で一気に切り抜けよう駆け出す。
(その程度!)
 彼の速度と缶の位置を全て計算に入れた上で、ライフルの弾丸を放つ。
「――!!」
 跳弾を利用して、徹底的にラルクに防御体勢や回避行動を取らせようとする。建物や地面も視野に入れ、さらに援護として琥珀にもスナイパーライフルで支援してもらう。
 放たれるのはゴム弾のため、当たっても大怪我にはならない。さらに、跳弾なので直接攻撃扱いにもならない。
 だが、足止めとしてはそれで充分だった。
 缶に向かう者達が捕まるまで耐え凌げばいい。缶の守りは堅いため、一人ではどうあっても突破出来ないからだ。
 しかし、彼にとっても予期せぬ出来事が缶のある場所で起ころうとしていた。

            * * *

(なんとか気付かれずにここまで辿り着けたぜ)
 鈴木 周(すずき・しゅう)は学生寮に隣接する建物の屋上にいた。学生寮より一階分高いその場所にある、貯水タンクの陰から学生寮の守備側を観察している。
 ちょうど目線の先には攻撃側を探っている水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)がいた。
 目の前に女性がいる。彼女は水着姿ではない、さらにすぐ近くに水がある。
(これなら……いける!)
 周がやることは決まっていた。
 しかし、もし光学迷彩を使っている人が缶を踏んでいた場合、迂闊に飛び出すとアウトになりかねない。
(……ッ!)
 一旦タンクの後ろまで下がる。銃弾が飛んできたからだ。
 どうやら見つかっていたようである。

「緋雨、下もそうじゃが、上にも気を配った方がよいぞ」
 緋雨が気付いたのは、天津 麻羅(あまつ・まら)の一言があったからである。彼女はこれといってゲームに興味を持っているわけではなく、むしろこんなものに参加した緋雨に興味を示して着いてきていたようで、ずっと彼女の近くで見物していた。
 緋雨の方から頼めば手伝いはするのだろうが、基本的には眺めているだけである。とはいえ、多少のお節介は焼くようだ。
「あの裏ね」
 緋雨の位置からは周の顔は見えないが、誰かがいるのは見て取れた。そのため、発砲して近付けさせまいとする。
 だが、そこで予期せぬ出来事が起こる。
「――!!]
 貯水タンクが破裂した。そして、中に詰まっていた水が一気に緋雨に押し寄せる。
 ザバッ、と彼女は頭から水を浴びる。流されはしないが、ずぶ濡れだ。
「よっしゃ、上手くいったぜ!」
 そして周が水の勢いに紛れて飛んでくる。缶ではなく、緋雨の方に。
 彼の狙いは、「濡れ透け」である。
 心理的な点で言えば、特に女性相手ならそれで下着が透けるため、恥じらいがある相手にならかなり効果的だ。
 が、周の頭にそんな計算はない。彼は缶を蹴るよりも女の子と仲良くなることを優先する男なのだから。そのシチュエーションを作り出すためには利用できるものは利用する。
 それが、水だっただけのこと。
「なぜ、こっちに!?」
 自分から捕まりに来てるとしか思えない周に戸惑う。
 その時、流れ込む水が凍りついていった。
 流れに身を任せていた周は、水の中であったため、そのまま閉じ込められる。と、いうよりは一緒に固まった。
 その氷の上から、勢いよく突っ込んでくる物体があった。
 イングリットの乗る氷のソリである。水は上から下へ勢いよく流れていたため、それが凍った今、道が出来たというわけだ。
 サイコキネシスで葵が加速の後押しをするまでもなく、坂を滑っていく。
「……身体が!?」
 緋雨が異変に気付く。水を浴びた影響で、氷術の煽りを食らって動けなくなっていたのだ。これではタッチしには行けない。
 だが、一気に攻め込もうとした者は他にもいた。

(あっちもか!?)
 光学迷彩で屋上に潜伏していた亮司が、その姿を見た。
 マンションの屋上から両手を顔の前に構えて飛んでくる褌一丁の巨漢の姿を。
(くそ、仕方ねえ!)
 咄嗟に缶を踏みっぱなしにさせておいたジュバル・シックルズ(じゅばる・しっくるず)を掴み、巨漢――ルイ・フリード(るい・ふりーど)に投げつける。
 だが、龍の波動を放ったルイに跳ね返され、亮司の方へ戻ってくる。それをキャッチボール要領で受け止め、また投げる。
「我はボールじゃねえ!!!」
 それでもジュバルは止まらない。
 そうしている間に缶を踏もうとする。
 しかし、
「く……!」
 目の前に光精の指輪の人工精霊が現れ、妨害される。一瞬の躊躇が命取りとなった。

 カーン、と音を立て、缶が蹴られる。
 蹴ったのは葵だ。
 守備が回りに気を取られている間に近付き、なんとか蹴り飛ばしたのである。
 だが、
「止まらないにゃー!」
「え、ちょ、待って!!」
 イングリットのソリは缶に向かっていた。蹴った直後に激突し、二人揃って学生寮の下へ真っ逆さまである。
 間髪入れずに、今度はルイが屋上に受身を取りながら着地した。だが、缶はもうない。
「おっと、他の方に蹴られたようですね」
 それを確認し、去ろうとするが亮司にタッチされる。
「やられたぜ……」
 蹴られた以上、このエリアに留まる理由はない。移動中の攻撃陣を狩りながら別のエリアを目指す。
 なお、この缶が倒れたのは、西エリアとほぼ同時だった。
「あ、お返ししときますよ」
 ルイが手渡したのはジュバルだった。
「捕まってしまいましたが、少しお腹が減りました」
 褌の中から腹ごしらえ用にしていたらしきバナナを取り出すルイ。地図やケータイもその中にしまっているらしいが、どういう仕組みなのか。
「よろしかったらどうぞ。もう一本ありますよ」
「……いや、いいっす」