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ミッドナイトシャンバラ2

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ミッドナイトシャンバラ2

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ドレミ〜♪、ドレミ〜♪ っと。電話関係の出演者とは連絡ついた?」
 本番にむかって声を整えながら、シャレード・ムーンは控え室に入っていった。
「はい、だいたいは……。あっ、もしもし……」
 インカムをつけたミルディア・ディスティンが答えつつ、途中から繋がった電話に会話を切り替えた。
『あー。けほんけほん。わたしはおうさつ寺院の方から来たものだ。仮にナレディとなのっておこう。
現在、空京のどこかに爆弾がしかけられている。爆発すれば何の罪もない人たちがたくさんぎせいになるぞ。
おおっと受話器はまだ切らないほうがいいな。なぜなら君、シャレード・ムーンには、みんなを救うチャンスがあるからだ。
いいかよくきけ?
銅鑼にあっても鐘にはない
味噌にあっても醤油にはない
空にはあっても地面にはない
ソファーにあってもベッドにはない
どれでもいいけど、なんでもいいわけではない
それはいったいなーんだ?
この謎を解くか、もしくはシャレード君のこどもの頃の恥ずかしいエピソードをラジオでシャンバラじゅうに流すのだ。がんばりたまえ。ではごきげんよう』
「なんなんだもん、今の。どうしたら……」
 一方的にしゃべって切った不審電話に呆然としながら、ミルディア・ディスティンがシャレード・ムーンに助けを求めた。
「あわてない、あわてない。対応マニュアルにあったでしょ。こういった悪戯電話は結構あるのよ。ちゃんとマニュアル化されているから、それに従いましょ。すぐに空京警察に連絡。通話記録を提供して犯人を特定して。交換から回されてきた電話なら、非通知は撥ねているので電話番号はもろ分かりだから。直接電話がかかってきたものだとしたら、こちらからかけない限りは電話番号は知りようがないはずだから、犯人は簡単に特定できるはずよ。だいたい、脅迫すれば要求が通ると思っているテロリストには、無駄だということをマスコミとして思い知らせてあげなさい」
 さっくりと、シャレード・ムーンがミルディア・ディスティンに指示する。
「まあ、大変ですぅ。避けて通れぬ戦いですか。よろしければ、私たちが出むいて撲殺してきましょうかぁ?」(V)
 そばで話を聞いたメイベル・ポーターが、ちょっと怖い微笑みを浮かべて訊ねた。
「そういう悪い子は、きっと撲殺天使さんたちが成敗してくれるよね」
 自分たちがそうであることは隠して、セシリア・ライトが言う。
「私たちが今関わることじゃないから。本当にテロでも起きたら、そのときは報道として動くかもしれないけどもね」
「そうですか。ちょっと残念ですね」
 シャレード・ムーンの言葉に、本当に残念そうにフィリッパ・アヴェーヌが言った。
「さあ、そろそろ、時間よ。ゲストの方は連絡ついている?」
「あっ、はい。なんとか起きてもらってるんだもん」
「よろしい。じゃあ、みんな配置について」
 満足そうにミルディア・ディスティンの返事を聞くと、シャレード・ムーンはスタジオへとむかった。
 
 

リスナーたち

 
 
 夜も深まり、放送時間が近づいてくる。
 教導団団員寮の自室で、ベッドに寝ながらイヤホンでラジオを聞いていた曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は、足許から何かがもこもこと移動してくるのに気づいた。
「な〜う〜」
 布団からぷはっと顔を出した灰色猫の納羽(なう)が、一声鳴いて頭を頬にこすりつけてくる。
「んっ、お前も一緒に聞きたいのかなぁ」
 曖浜瑠樹は、そう言って愛猫の喉を人差し指で撫でた。
 二段ベッドの下のベッドでは、マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が三毛猫のミーシャと共にすやすやと眠っている。ラジオの方は、レコーダーで録音しているようだ。
 
    ★    ★    ★
 
 同じシャンバラ教導団でも、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は何かと戦っていた。何か……多分、自分自身の不運と。
「絶対に邪魔が入る。とにかく、まずは録音ボタンを……。話はそれからだよね」
 ルカルカ・ルーは、ラジオのRecボタンに指をかけた。
 ジリリリリリリリリ!!
 突然、目覚まし時計が鳴りだした。
「うわおぅ!?」
 まずい、こんな深夜に騒音をたてたら寮長に独房送りにされてしまう……。
 ほとんど、本能的な行動で、ルカルカ・ルーは天のいかづちを発動させてしまっていた。時間を間違ってセットしていた目覚まし時計が爆音と共に木っ端微塵に吹っ飛ぶ。
「あわあわあわ、今の音の方が大きい……」
「なんだ、今の物音は!」
 案の定、誰かが異変に気づいて走ってくる。
 ぴんぽーん。
 部屋のチャイムがあわただしく鳴らされた。
「ルカルカ・ルー、すぐに出てきなさい。命令です」
「な、なんでもないです。なんでも……」
 あわててルカルカ・ルーは弁明を始めた。
 録音ボタンはまだ押されていない……。
 
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「目指せ常連!」
 百合園女学院の寮では、まだ起きていた秋月 葵(あきづき・あおい)が、ラジオを聞きながら次の投稿ハガキを書いていた。
 
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「くそう、解け、解きやがれ」
 布団とロープで簀巻きにされたアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が、殺虫剤をかけられた芋虫のようにじたばたとしながら叫んだ。
「あー、聞こえない、聞こえなーい」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が両手で耳を押さえながら言った。
 前回リカイン・フェルマータの名を騙って投稿をしたアストライト・グロリアフルは、簀巻きで動けなくして衆人環視の状態にある。もしまた何かやっていたら、即座にみんなで踏みつぶす算段だ。
「ふっ、自分のように電話参加にすれば、いらぬ疑いもかけられないものを」
 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が、詰めが甘い奴だと言いたげにアストライト・グロリアフルを見下ろした。
「甘いな。まだ手はある……」
 だが、絶体絶命ながら、アストライト・グロリアフルは懲りずに悪巧みを巡らせていたのであった。
 
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「やれやれ、贈り物はちゃんとどいたかな」
 おっぱい党の活動を終えて家へとむかう車の中で、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)はラジオのスイッチを入れた。
 
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「読まれるかなあ、読まれるよね。わくわく、わくわく」
 イルミンスール魔法学校にある寮の自室で、天心 芹菜(てんしん・せりな)は机に頬杖ついてラジオを見つめていた。
 すぐそばでは、床に座ったルビー・ジュエル(るびー・じゅえる)が、膝の上に剣を横において瞑想している。
 
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「もう、ナレディったら、何を考えているんだもん」
 箒に乗った名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)は、上空からナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)の姿を捜していた。
 「見てなさい。今にすっごく面白いことがラジオで起きるんだから」と言って携帯片手に飛び出していったナレディ・リンデンバウムが、何をしでかすのか気が気ではない。目を離した隙に何をしでかすやら。とにかく警察沙汰だけは勘弁してほしかった。いつも関係者に謝って回るのは名無しの小夜子の仕事だ。
「ナレディ! 出てくるんだもん!!」
 名無しの小夜子は、ラジオを聞きつつ、夜の闇の中に叫んだ。