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リアクション
洞窟の入り口を前にして、いや、すぐに見つかって立ち止まらされた。外にも見張りがいるなんて、意外に統率されてるなと思いながらに四谷 大助(しや・だいすけ)は頭をかいた。
「いや〜、まいったまいった、だいぶ迷ったよ〜」
相対しているのは3人だから、6つだろうか。全ての目に疑われていた。もう少し様子を見たかったが仕方がない。大助はパートナーのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)をズイと出した。
「お望みの『女』を持ってきた。コイツを渡す代わりに、オレも仲間に加えてくれ」
パラミタつなぎを着た2人が値踏みをするようにグリムゲーテを眺めた。品のない視線が彼女に向けられたが、蒼灯 鴉(そうひ・からす)が背に下がらせて問いた。
「それを、どこで知った」
「どこ……って。見たんだよ、あんたらが『女の子を攫ってるところ』をさ。何か、面白いことやってんだろ?」
「知らねぇな」
「あれ〜 おっかしいな〜 『女の子』を石にしてるところから見てたんだけどな〜 見間違いだったのかな〜」
「………………」
鴉が無言でいる事に大助は手応えを感じていた。やはり、こいつらが『乙女』たちを攫っている、そしてこの洞窟に運び込んでいるのだ。
大助が見たのは芦原 郁乃(あはら・いくの)が石化させられるところだった。
大助と同様に彼女も『乙女』たちの行方を探っていたのだろう、森で出会った2人組のパラ実生に声をかけていた。幾らかの問答をしていたのだろうが、突然、パラ実生たちが液体を彼女に振りまいた。
あっという間に『石と化した』彼女を運び出すパラ実生たちを尾けて出たのがこの洞窟だったのである。
『バイコーン』との関係も、『乙女攫い』の目的は分からないが、一連の事件に関係している事はほぼ間違いない。今は、とにかく信用させる事が必要だ。
「この『女』を差し出すって言ってんだ、悪い話じゃないだろ?」
「その『女』は、おまえのパートナーか?」
「あぁ」
「そうか。純潔か?」
「純潔?…………あぁ確か、まだそうだったよな?」
「そ、そうだけど……まだ、とか言わないでよ……」
「ん? どした? 聞こえねぇぞ。聞かれたんだから、ちゃんと答えろよ。おまえが純潔かどうか聞きたいって言ってんだから」
「うるさいわね! そんなに大きな声で言わないでって言ってんのよ! 恥ずかしいでしょ!」
「あだっ!」
何とも思いっきりに殴られたが、そんな中でも大助は冷静だった。
純潔かどうかを聞いてきたということは、少なくとも彼らには純潔かどうかを判断することはできないということだ。今みたいに直接聞いてから攫うのか? ん、まぁ石にしちゃえば後でどうにでもできるから、とりあえず攫ってるってことか? パラ実生らしいっちゃらしいが……それにしても、コイツ……。
大助は改めて鴉に目を向けた。後ろの面々とは違い、パラミタつなぎではなくヴァンガード強化スーツを着ている。出で立ちからもパラ実生にはとても見えなかった。
キキィィイイイィィイイン。
突然、幾つものタイヤの悲鳴が聞こえてきた。振り向いた大助はとっさに目を閉じた。ショートしたPC画面がたくさん……じゃなくて、バイクの群れが一斉にアホな量のライトで自己主張していたのだ、というか囲まれている?!!
逆光の中から歩み寄ってきた人影は、異様に尖った鼻をしていた。鼻の尖った男である。
「全員起きなぁ! 仕事だよ!!」
パラ実生たちは大いにビクついたが、鴉だけはタメ息を吐いた。
「起きろって……こんな時間から誰が寝てるんだよ」
「お黙り!! 新入りのくせに口答えするんじゃないよ、さっさと働きな!」
「はいはい。で? 何があったんだ?」
「引っ越しだ! 2分で支度しな!!」
「…………鳩を解き放ってからでも良いか?」
「無駄口たたいてないでさっさと働きな」
パラ実生たちは既にチャキチャキ働き始めていた、よく躾られていることで。洞窟からは次々に『石像』が運び出されていた。
「おい、あれ全部攫った『乙女』か?」
「だからどうした。あぁそうか、そこの女も石にするんだったな、さっさとするとしよう」
「い、いいわよっ」
グリムゲーテは自分を鼓舞するように言った。「それで大助を仲間に入れてくれるんでしょ? いいわよ、早くしなさい」
「威勢のいい女だ。いいだろう、すぐにしてやる」
「ちょっ、ちょっと待てよ、ちょっとだけ待てよ…………ぁあ、あれだ、引っ越しには人手がいるだろ? こき使ってから石にした方が良いと思うんだけどな」
「…………」
「ここで石にしても、手間が増えるだけだろ?」
「…………いいだろう。グズグズするな」
大助は安堵の息を飲み込んだ。どうにか2人とも『無事』に潜入できそうだ。
大助がパラ実生たちの中に入ってゆくまでの一部始終を、七刀 切(しちとう・きり)はじっと身を潜めて見ていた。
それこそ鼻の尖った男がバイクから降りる様も、バイクから降りようともしなかったバイモヒカンの男の様も、はたまたサイドカーに乗せられたアリエル・シュネーデル(ありえる・しゅねーでる)、夕条 媛花(せきじょう・ひめか)、瓜生 コウ(うりゅう・こう)の姿すらも見てとれた。
『石像』の運搬作業を手伝う為だろう。バイクに跨っていたパラ実生たちが次々にバイクを降りて洞窟へと向かっていった。
薄れる光りの中に見えたのは『石像』と化した宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)、那須 朱美(なす・あけみ)、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)、ルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)、『福音書』 ガブリエル(ふくいんしょ・がぶりえる)の姿だった。
「ダメだよ! キリキリ」
トランス・ワルツ(とらんす・わるつ)が切の腕を掴んだ。「行っちゃダメ」
「でも、今なら騒ぎに乗じて何人かは……」
「それで捕まったら、他のみんなは助けられない、これから捕まる子も助けられないんだよ」
「……それは……」
「我慢だよ」
強く握られた手は震えていた。瞳の色は真っ直ぐだった。
「いま私たちがするべきなのは、パフェ姉さん(パッフェル)への報告、でしょ?」
「…………そう、だね」
切は携帯を取り出した。『純潔なる乙女』を攫っていた犯人を突き止めて、アジトまで発見した。この事を大好きなぱっふぇる(パッフェル)に伝えたら、どれだけ喜んでもらえるか。考えただけでもワクワクした。
「よし、かけるよ」
はやる気持ちが携帯を耳に押しつけた。そしていざ繋がって、失態した。期待の余りに聞き違えてしまったのだ、彼女の声を。
電話に出たのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だった。
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