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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 序の十二 絆と意地とホレグスリと

 ファーシー達がデパートに戻ると、その出入り口には救急車が止まっていた。一般客が騒然としている様子が分かる。
「何……?」
 誰が運ばれていったのか。それを知る前に、救急車はデパートから離れていく。サイレンを、鳴らさずに。
 妙な胸騒ぎを感じつつ中に入ると、彼女達を迎えたのは警備員、アリア、鳳明達だった。どこか表情に影を落としている彼女達に代わり、警備員が言う。
「他の皆様は諸々、パートナーや友人の所へ行かれました。犯人によると、そのバズーカをもう1度撃つことで元に戻るそうです。協力して頂けますか?」

 1階。
「えいっ!」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)が見守る中、ファーシーはユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)にバズーカを撃った。目を閉じてゆらゆらとしていたユリは、ぴたりと止まりゆっくりと目を開ける。そこには、いつものほんわかとした雰囲気のユリがいた。
「ファーシーさん……リリさん、ここは……?」
 あれ? という感じできょろきょろとするユリは、ファーシーを見て言った。
「元気になったようなのですね」
「……うん、いろいろ話したからね」
「大丈夫、きっとうまくいくのですよ。何もかもうまくいくのです」

「朔ッチ……」
 目覚めたブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は、間近で鬼崎 朔(きざき・さく)の顔を見てそう呟いた。
「ごめん、朔ッチ、ボク……」
「いいんだ」
 朔は、カリンと正面から目を合わせて微笑んだ。いつぶりだろうか。こうして、カリンと向き合ったのは。
「今は、いい。カリン……悪かった。ごめん……」
「う……だって、それは……」
「カリン、私にとって、カリンはとても大事な存在なんだ……それは、いつまでも変わらないから」
「……うん……」
「よかったであります! ちゃんと仲直りできたでありますよ!」
 スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が明るく、その場を救うかのように2人を祝福した。人型に戻った月読 ミチル(つきよみ・みちる)は……ただ、彼女達を見つめていた。

 一方――
「……グレッグ……ご苦労だったな……」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、シャルミエラ・ロビンス(しゃるみえら・ろびんす)と共に正面入り口でパラミタ虎を労っていた。御陰 繭螺(みかげ・まゆら)を背中に乗せ、グレッグはここまでやってきたのだ。そこに、ファーシーがバズーカを使う。
「……繭螺……」
「……アーちゃん……」
 目覚めた繭螺は、アシャンテを見て気まずそうに目を伏せた。

 2階。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。この商品はきちんと弁償させていただきますので。フロアの立て直しも……」
「いえ、良いんですよそんな! お客様はお気になさらずに!」
「……?」
 笑顔を浮かべて店員に謝るウェム・レットヘル(うぇむ・れっとへる)を、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は興味無さげに見遣っていた。
「……つまんね。おい、いいって言ってんだから放っといて行くぞ」
「あ、はい。では、本当に申し訳ありませんでした」
 ウェムは笑顔で竜造に付き従って歩いていく。彼の背中に、無自覚の嫌悪を抱きながら。

「2階はこれだけかな……、あれ?」
 バズーカを持ったファーシーの先には――

「ねぇ、お願い。話を聞いて」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は先を行く月崎 羽純(つきざき・はすみ)に一生懸命に話しかけた。
「私は貴方の封印を解いた……そして、私と貴方は契約したの」
「…………」
 羽純は冷たい目を歌菜に一瞬向けただけで、また歩き出した。彼にとって、そんなものは何の説得の材料にもならない。第一、契約関係であろうことは最初の彼女の態度で予測できる。だが。
「契約、か……よくまた、そんなものをする気になったもんだな」
「どういうこと? ねえ、貴方はどんな生活をしていたの?」
「……うるさい」
「……待って! 教えてほしいの。……っ!」
 羽純は歌菜に幻槍モノケロスを突きつけた。彼女の額に、ぴったりと先端を付ける。
「…………」
「いい加減にしろ。さっきから纏わりついて……健気な女を演じて、俺を懐柔するつもりか?」
 そこまで言って、羽純は僅かに目を見開いた。歌菜は武器を突き付けられても、目を瞑らず、後退することも無く、まっすぐに彼を見詰めていた。寸分足りとも怯んでいない。むしろ、怯んだのは――
(何故、逃げない? 攻撃してこない……?)
「封印から目覚めた貴方は以前の記憶を無くしてた。貴方はきっと、記憶を無くす前の羽純くんなんだ。私は貴方の事が知りたい」
 これは、彼の失われた過去を取り戻すこれ以上にない機会。だから、逃さない。彼の為にも、自分の為にも。
 槍を突きつけたまま、羽純は動きを止めていた。退くことも進むことも出来ない。
 表情は変わらず冷たいけれど――何故か、そんな風にも見えた。
「貴方の事が知りたいの。それがどんな事だって」
 はっきりともう1度言うと、羽純はやがて、諦めたように槍を降ろした。
「俺はただの兵器。それ以上でも以下でもない。そうやって生きてきた」
「兵器……?」
 歌菜はその単語に、それ自体に傷ついたような顔をした。
「そう……そんな風に……生きてきたの……」
「兵器として、ただマスターに仕えていた。人として扱われたことなど無い。人とは……皆そうだろう。俺達を道具としか見ていないのではないか?」
「そんな……そんなことない! それは……中にはそういう人も居るかもしれない。でも、殆どの人は、1人のパートナーとしてちゃんと大切に思ってるよ! 私だって!」
「お前は……俺を封印した奴に似ている。そいつとは、戦場で合間見えたこともある。お前は、奴とは関係無いのか?」
「封印……? それで……」
 変わった直後に言われた言葉。『俺を殺すつもりか』という言葉。それには、そういった意味があったのだ。
「私は、その人じゃない。私の名前は遠野歌菜。貴方のパートナーで……大事な人だよ」
「遠野……歌菜……」
 やはり、笑おうとはしない。表情も乏しい。冷たいだけの瞳。だが、ほんの少しだけその冷たさが和らいだ、気がした。
 歌菜は羽純を抱きしめた。強く強く、抱きしめた。
「私、羽純くんを幸せにするよ。だって私は、羽純くんが好きだから。貴方の幸せが私の幸せに繋がるから」
「…………」
 羽純はただ、歌菜に抱かれるままになっていた。振りほどこうとはしない。
 一言だけ、呟く。
「……俺の幸せが、お前の幸せ?」

「……何を話してるのかは分からないけど……何か、良い方向に進んでいるような……これ、元に戻しちゃっていいのかな……」
 歌菜達の様子を遠目で見て、ファーシーはバズーカを撃つのを躊躇した。しかし、そこに陣達が後ろから近付いてきた。
「……戻してやってくれや。大丈夫。元の羽純さんになっても今の記憶はきっと残る。そういう奴ら、いっぱいいるんやろ?」
「うん……」
 ファーシーはバズーカを撃ち――

 羽純は歌菜を抱き返した。優しく。そして強く。
「歌菜、俺が……お前を幸せにする」
「……羽純くん?」
 歌菜は顔を上げる。そこには、面倒くさそうでぶっきらぼうで、そんないつも通りの羽純がいた。
「うん……幸せになろうね」