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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 小型飛空挺で空京郊外まで移動したエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は、平原を見つけるとそこに転がるように降り立った。掻き毟る様にして、仮面やパワードスーツを脱ぎ棄てる。
「ジョー!」
 エシクの飛空挺にしがみついていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、地に足をつけるとエシクに駆け寄った。ゆっくりと振り返ったエシクは、不機嫌な山猫を思わせる少女の容貌をしていた。ツインテールの髪と目は鮮やかな水色で、しかしそれ以外は、どこかで見たことのある、多くの者がある人物を連想しそうな姿をしていた。
 彼女を見詰め、ローザマリアは呆然として言った。
「……ジョー、本当にあなたなの?」
 変化を遂げたエシクは、普段の七支刀型光条兵器ではなく十字手裏剣型光条兵器を出してきた。ローザマリアに襲い掛かる。
「――!? ジョー、なんのつもり?」
 ローザマリアはブライトグラディウスを2本抜いてエシクに応戦した。
「くっ……強い!?」
 普段のエシクとは比べ物にならない程の強さ。
「ここで防がないと……! 空京に被害が出るかもしれないわ……!」
 防戦に徹するが、なんとか抑えないと埒があかないのも事実だ。
「どうすれば……!」
 その時、エシクの動きが唐突に止まった。苦しむように頭を抱える。
「何……?」
「やめて……私を、弄ぶな……」
 エシクの口からそんな言葉が漏れる。それと共に、彼女の姿は再び変異していった。その様子を、ローザマリアはただ息を呑んで見守った。やがてエシクは、前髪ぱっつんロングの、真紅の髪を湛えた巨乳の少女に変わった。
「また違う姿に……!? 貴方は、一体……?」
 姿の変化に伴い、エシクの光条兵器もその形を変えていく。星球式槌矛型となったそれで、エシクは再びローザマリアに襲い掛かった。
「ジョー、やめて!」
 エシクの目からは意思というものが感じられなかった。完全に暴走している。そしてやはり、強い。攻撃を防ぐので精一杯だ。
 そして。
「あっ……!」
 ローザマリアは吹っ飛ばされて草の上に倒れる。体勢を立て直す前に、エシクの光条兵器が迫る。
「ローザ!」
 彼女とエシクの間に、間一髪でグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が割り込んだ。聖剣エクスカリバーで攻撃を弾き飛ばし、牽制するように剣を薙ぐ。
「其方、血迷うたか!」
「ありがとう! 助かったわ!」
「ジョー……この姿は……!」
 グロリアーナとローザマリアは、連携を取ってエシクと対峙した。2人になったことで、何とか互角というレベルだ。
「ローザ、光条兵器はそれ同士が共鳴する事があると聞き及ぶ。其方の光条兵器はジョーの太刀筋からは何も伝わっては来なかったかの?」
「……いいえ、何も……」
「恐らく、古の戦いでもジョーは斯様な暴走を見せ、最後は仕えていた主を手に掛けてしまったのやも知れぬな。その都度記憶や人格を書き換えて今日に至る……暴走する危険性を孕んだ、兵器としての使用に耐えないと判断されての」
「主を……?」
「来るぞ!」
 2人は二手に分かれる。ローザマリアがエシクと武器を打ち交わしている間に、グロリアーナは背後からエシクを抑え込んだ。呻く彼女に、ローザマリアは膝をついて語りかける。
「貴方の正体を無理に知ろうとは思わない。貴方は私のパートナー、それ以上の何者でもないわ。私と還りましょう、ジョー」
「…………」
 エシクの姿が三度変化していく。緑の髪と、瞳に――そして彼女は、光の戻った目でローザマリアの名を呼んだ。

「ウィッカー、デパートですか。確か、ここは出発地点だったと思うのですが」
「捜索によると間違いなくここなんじゃ。そりゃあ、ワシも変だたあ思うが」
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は、デパートに向けて飛空挺アルバトロスを走らせていた。しかし、建物の影が大きくなっていくにつれて見えてきたものに、シルヴェスターは驚いて目を凝らした。
 多くの生徒達がこちらにやってくる。そしてその中央には、ファーシーの姿。真剣な顔をしてはいるが、落ち込んでいる様子は無く、それなりに楽しそうだ。
「ん? どういうことじゃ? 確かに、落ち込んでいて大変じゃと……」
「単に出遅れたんだと思います」
「何じゃとおっ!?」
 そんな会話をしている間にも、彼らとの距離は狭まり、やがてファーシーがこちらに気付いた。ガートルードがデジタルビデオカメラをまわし始める。
「あれ? シルヴェスター、買い物?」
「違うわ! ファーシーの様子が変じゃと聞いて、会いに来たんじゃ!」
「何? ファーシー、知り合い?」
 ミニス・ウインドリィ(みにす・ういんどりぃ)が、2人を見比べて質問する。何だか、これまで皆に接してきた彼女の態度と違う気がして、どんな関係かと思ったのだ。
「あ、うん。わたしの舎弟よ。運転してる方ね」
 あっさりと、ファーシーは答える。
「へえー、舎弟ねえ……」
 ミニスは、改めてシルヴェスターとファーシーに目を遣った。
「ガートルードさん、こんにちは!」
「こんにちは。悩みは解決できたみたいですね」
「うん……みんなが話を聞いてくれたから、ずいぶん元気が出たわ」
「……完全に、出遅れましたね」
「じゃあ、脚のことはもう気にしてないんじゃな?」
「…………」
 ファーシーはそう訊かれると、少し俯いた。
「全然気にしないって事は勿論無いけど……皆、いつかなおるって、なおしてくれるって言ってくれたわ。それに、この身体でも出来ることはいっぱいあるって……」
「なるほどのお、いつかなおる、か」
 シルヴェスターはそう聞くと、水を得た魚のように自信満々に言った。これは聞いていないだろうというように。
「ファーシー、ワシの目的は、全ての機晶姫を舎弟にすることじゃ。機晶王に、ワシは成るんじゃ!」
「ふーん……」
「ふーんって……」
 その反応に気勢を削がれつつも、シルヴェスターは続ける。
「今のファーシーの脚には、魂のパワーが足りん。欲望が魂のエネルギーになる。だから、皆の為では無く、自分の目標を探すんじゃ」
「欲望……? 自分の目標……?」
 それは、今日聞いた事とは微妙に違う気がした。いや、同じなんだけど。利己的でいいと言ってくれた皆。それと、似ているんだけれど。
 何となく、パワーアップしているような。
 しかし、鼻を高くしているシルヴェスターの態度が面白くなかった。
 ので。
「あ、それ、もう聞いたわ」
 と、ファーシーは言った。
「なんじゃとお!?」
 目を剥いて驚くシルヴェスター。暫くそのまま固まって……、疲れたように肩を落とした。
「何だかどっと疲れたのお。喉が渇いた……」
 そして、持っていたホレグスリの瓶を一気に飲んだ。ガートルードが小さく声を出す。
「あ……」
「小生意気に拍車が掛かっているみたいじゃな。今日ばかりは喜んでいいのか嘆いていいのか……ん?」
 シルヴェスターの動きが止まる。そして、改造アルバトロスから降りてファーシーに跪く。
「ファーシー様!」
「え?」
「ファーシー様はワシの大事なお人じゃあ! 何でもするんじゃけぇ何なりと言ってつかぁさい! 是非ともワシを舎弟に!!」
「な、何? 気持ち悪いんだけど……」
 そこで、ファーシーは路上に落ちるホレグスリの瓶に気がついた。
(何かこれ、見たことある……あ、そうか! むきプリさんの……そっか、これをわたしに飲ませようとしてたのね……)
 事態を理解した彼女は、偉そうに、楽しそうにシルヴェスターに命令した。
「シルヴェスター、わたしの車椅子に座りなさい。で、その飛空挺の1席を譲りなさい」
「はい、わかった」
 シルヴェスターはガートルードに運転席に乗るように言い、ファーシーを彼女の隣に乗せた。そして自分は、車椅子に座る。4人乗りとはいえ、車椅子は大きすぎて乗り切らない。
「えっと、ガートルードさん……フーリの祠まで行ってくれる? ごめんね」
「いえ、フーリの祠ですね、了解です」
 ホレグスリを飲んだシルヴェスターを面白く思って撮影していたガートルードは、カメラをしまって飛空挺を発進させた。