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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 フーリの祠・祀られているもの

 フーリの祠に到着した一行は、その内部を観て驚いていた。
「これは……すごいですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、四方に重なるように並んでいる封印されたパラミタ人を見て目を丸くしている。赤羽 美央(あかばね・みお)も、呆然と言う。
「こんなに沢山のパラミタ人が封印されているなんて、一体、いつから……」
「それは一概には言えないぞ! 古くは5000年、新しくは数ヶ月と幅広いからな!」
「へえー、でも、こんな所に安置してたら、地球人も来ないんじゃない? 来る途中に魔物がいるし」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が言う。
「そうでもないぞ! そこのばかも来たし、既に契約者となった者も来る。まあ、欲に塗れた者が来ないように、ひっそりと存在しているのは事実だがな!」
「ばかって誰だよばかって……」
「おまえだ!」
 そう――祠の管理をしている番人、金色の鱗を持ったトカゲ(約4メートル)のゆる族・フーリは言った。

『フーリの祠』。此処は、各地で封印されたパラミタ人を集め、護り、祀っている祠。フーリ自身に封印の能力もある。しかし――

「何で仲良くしてるのよ、ユーリアン! 私達はこいつに殺されたのよ!」
 シェルティがヒステリック気味の声で言う。
「こいつと会えば、あの時の……やられた時の事を思い出して、完全に元に戻ると思ったのに……」
「少なくとも、おまえは殺されてはいないぞ! 封印されただけだ! パートナーに関しては……先祖の代わりに謝罪する! すまなかったな!」
「先祖……?」
「そうだ! おまえは古王国時代からここにいた剣の花嫁だからな! その頃の番人は、挑戦者をことごとく倒していたと聞いている!」
「挑戦者って何ですか〜?」
「この体色だからな! 知識の無い者が富を求めてよく挑戦に来たのだそうだ! 新たな契約に値しないそいつらを、片っ端から追い返したり倒してしまったりしていたそうだ!」
「え……富、手に入らないの……?」
 シェルティは初めて聞いた、という顔をした。
「私達は、そんなくだらないことで命を落としたの……?」
「だから、封印されただけだと言ってる!」
「……貧乏だったのか? わざわざこんな所に来るなんて……」
「違うわ」
 彼女は、ラスの問いに不貞腐れたように答えた。
「私は、造られてからずっと貴族の家で暮らしてたから……お金に困ってたことなんて、無い。だけど、ある日行き倒れてた冒険者を主が拾ってきて……そいつがユーリアンだったの。光り物と冒険が好きな人だったわ。……ねえ、思い出さない? というか、あなたはどうしてここに来たのよ。富が目的じゃなかったの? どうせ富だったんでしょ」
「…………」
「こいつは、来たとき死にかけだったぞ!」
「あっ……また余計な事を……!」
「ただの地球人が、空京は安全だと思って買いたての飛空挺で森に入っていたそうだ! で、魔物に襲われて逃げに逃げてここに来た! 弱っちすぎて契約後は街まで送ってやったくらいだ! ばかだろ?」
「……やめてくれ、また恥ずかしい事を……」
 がっくりとその場に崩折れるラスにシェルティは驚いたように言う。
「そんなに弱いの……? ユーリアン、昔は結構強かったじゃない」
「……俺はそいつの生まれ変わりじゃない。さっきのは……嘘だ」
「嘘……?」
 彼女は、信じられないというように首を振った。顔を歪めて。
「生まれ変わりに決まってるわ! がめつそうな所とかひょろひょろしてる所とかそっくりだもの!」
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
 祠に妙な沈黙が生まれる。
「……なあ、シェルティ」
「……何?」
 立ち上がって真剣な顔で向き合うラスに名を呼ばれ、シェルティは少し嬉しそうに言った。
「こんな事を言うのは自分勝手だとも、嘘でお前を翻弄したのも悪いとは思ってる。けど、あえて言う……ピノを返してくれ」
 彼女の顔から笑みが消える。
「……嫌よ。それに、あの子はもう……居ないわ。消えたの」
「嘘だよ!」
 そこで真菜華が、彼女に叫んだ。
「ラスのばかやろーがどう思ってたってピノちゃんはピノちゃんだし、それにあの子はすっごーいいい子なんだから! ラスが辛いことになることなんて望んでるわけないじゃん! あんたなんかピノちゃんじゃないよ! マナカの可愛いピノちゃんを帰してよ!」
「うるさいわね! 知らないわよ!」
「シェルティ」
「いや! 絶対に戻りたくないわ!」
「お前、本当に俺が生まれ変わりだと思ってるのか? 本当に、ピノとしての記憶は無いのか?」
「……無いわよ、そんな……」
「今回の事件……、前人格が出てくるということは、その人格は、契約者が変わったら死ぬ事の無いままこの身体の中で眠りについていたという事になる。そんな残酷な事って無いだろ? 魂を捕らえて、何処にも行けないようにするなんて……。それじゃあ、まるで……この身体が墓場みたいじゃないか。ずっとこの中に居たなら、少しは観てたんじゃないのか? 記憶に、残ってるんじゃないのか?」
「…………それは……」
「……ピノ!」
 ラスはそこで、思い切り叫んだ。
「聞こえてるんだろ!? お前は妹の代替品なんかじゃない。俺にとって大切な存在で……。大切過ぎる、命の恩人で……。見てりゃ分かるだろ? どれだけ大切か……。あの時、お前と契約しなかったら俺は死んでた。あの時から、お前を……護ろうと思ってた。妹の時と同じ過ちを繰り返したくなかったから、少し過保護だったかもしれねーけど……迷惑なら、止めるから。止めるように努力するから……だから、戻ってきてくれ」
「……ラス……」
「ピノ!?」
「……違うわよ。でも……そこまで言われたら、私、戻るしかないじゃない。それでも留まるほど、私だって鬼じゃないわ。ピノも……泣いてるわよ」
「…………」
 ラスは罪悪感と感謝が混じったような気持ちでシェルティに言った。
「本当……悪いな。俺の勝手で……」
「……あなたが悪いんじゃないわ……あ、そうそう、あの飛空挺とこの新しい服、変なカード出したら買えちゃったんだけど……この時代のお金って不思議なのね」
「は……?」
 小型飛空挺オイレは、学校の購買なんかでは売っていない結構なレア物だ。空京で普通に金出して買ったとなれば……
「……じゃあね、そう、きっと、中で見てるわ、あなたのこと……」
 硬直しているラスにそう言って目を閉じると、やがて、シェルティの背が縮みだす。長くウェーブの掛かった髪は短く、豊満だった身体は子供らしく。
 そして、すっかりピノの姿に戻った時――
「お兄ちゃん!」
 ピノは、だぼだぼになった大人用の服を身に纏ったまま、ラスに抱きついてきた。
「良いんだよね! あたし、ピノとして暮らして、良いんだよね?」
「……当たり前だろ……というか、その服! ぶかぶかすぎるだろいろいろと! 縛れ! ちょっと小さく……」
「過保護止めるって、言わなかった?」
「それとこれとは別だ!」
「…………」
「マナカちゃん!」
「ピノちゃんーっ! 良かったよおっ!」
「ありがとねマナカちゃん! あたし、ちゃんと聞こえてたよ、嬉しかったよ!」
「ラス! ピノちゃん!」
 そこに、小型飛空挺アルバトロスに乗ったガートルードとシルヴェスター、ファーシーがやってきた。後から、なんだかいっぱい生徒達が走ってくる。その中には、リネンとベスティエ、しっかりとした印象を持つユーベルもいた。
「ファーシーちゃん!」
「ピノちゃん! あれ? 普通……あれ? 戻ったの?」
「うん! お兄ちゃんがあっつーい言葉で戻してくれたんだよ!」
「ぴ、ピノ! そういう事は……!」
「へー……」
 ファーシーはラスの方を見ると、また「へーー……」とにやにやした。嬉しそうだ。
「な、なんだよ……」
「ねえラス、わたし、キマクに行く事にしたわ。利己的に、わがままに自分勝手に生きることにしたの。文句は言わせないわよ」
「は? キマク……? いや、良ーんじゃねーのか、それで」
 さらりと言われ、ファーシーは目を点にした。
「え……? だって……」
「俺は、わがままな方がお前らしくて良いって言ったんだよ。否定なんかしてないだろ」
「え……」
 ファーシーは飛空挺の中でびっくりしすぎて固まった。
「えーーーー!? 何よそれ、解りにくいのよ!!! この馬鹿!!!」