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はじめてのひと

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●往復書簡

リース・バーロット(りーす・ばーろっと)殿

 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)です。
 今日は、携帯電話の機種変更に付き合ってくれて有り難うございます。
 付き合いでリースまで機種変させてしまったようで申し訳ありません。
 気の利いたことを言うのは苦手なのですが……リースの買った色(ブルーシルバー……だったでしょうか?)、リースの瞳の色と同じで、とても似合っていると思いました。

 それはそうとして、今日はせっかく新携帯からの『はじめて』のメールなので、思い切って、初対面時の思い出について書きます。
 呆れずに読んでもらえれば幸甚です。

 リースに契約をもちかけられたときの感想は、『なんで自分みたいな(何の取り柄も無さそうな)人間に、こんなかわいい人が熱心に声をかけてくるんだろう?』というものでした。
 ご存じでしょうが今まで、『かわいい』という部分を口に出して喋った事はありませんでした。
 ……気恥ずかしかったのです。

 むしろ、今思い出しても顔から火が出るのはその後です。
 その時は誤魔化すために、『おっぱいが大きい人が声をかけてくるから、何か裏があるんじゃないか?』などと言ってリースを軽く傷つけてしまいました。許して下さい。
 ――もし深く傷ついていたら、重ねてお詫びしたく思います。

 以上、不躾もいいところの乱文、失礼しました。

 あと、もう一言だけ。
 これからもよろしくお願いします。」



 二十分後、返事が来た。


「戦部 小次郎様

 丁寧なメール、ありがとうございました。
 貴方のパートナー、リース・バーロットです。

 胸に言及してしまった云々のことは気に病むことはありません。最初は驚いたけれど気にはしていませんから。
 それよりも、改めて『かわいい』と書いて下さったこと、本当に嬉しく思います。
 ………照れました。

 素直に言葉が出てこず、思わず変なことを口走ってしまう小次郎さんのこと、私は好ましく思っています。逆に、初対面の相手にもスラスラとお世辞が出るような人であれば、お仕えしたいと思うことはなかったでしょう。

 小次郎さんが打ち明けて下さったのですから、私も、初対面のとき隠していたことを打ち明けたいと思います。

 あのとき私は、『声をかけたのは、貴方にはきっと才能があると思ったからです』と申し上げました。ですがごめんなさい。これは嘘です。いえ、『才能なんてない』と思っていたわけでもありませんよ……もっと別の、強い理由があっただけなのです。

 本当は、『小次郎さんが他の人と契約してしまうのが嫌だったから』です。

 一目惚れ、という言葉を軽々しく使いたくはないのですけれど、それに近いものがあったと思います。でも、いきなり『好きです』なんて申し上げたら気味悪がられてしまうかもしれない、そう危惧したがゆえの方便でした。ご寛恕くださいまし。
 あのとき私は、貴方を他のパートナー……特に女性、に奪われるのが嫌だと思ったのです。こんな感情は生まれて初めての経験でした。浅はかな女と笑って下さって結構です。それでも私は、貴方を失いたくなかったのです。

 私は小次郎さんをお慕いしております。あのときからずっと、変わらずお慕いしています。

 ですから最後に、マスターとそのパートナーとしてではなく、小次郎さんに恋する一人の女性として忠言させてください。
 このところ、小次郎さんは少しずつ腹黒い行動が増えてきていませんか?
 確かに、貴方は本当に才能豊かな人でした。私の言葉は事実となったのです。機転に優れ武勇高く、その将器と才覚は、教団長に勝るとも劣らないのではないかと思えるほどです。
 ですがその反面、目的のために手段を選ばないところが散見されるようになりました。
 心配です。貴方がこのまま、悪を厭わぬ覇道に突き進んでしまうのではないかと。

 もちろん、どのようになっても私が貴方に捧げる心は変わりません。
 貴方が地獄に堕ちるのであれば、私も喜んで従いましょう。業火に焼かれましょう。
 貴方が他の女性に心を寄せるのであれば、あるいは、政略のため身分高き女性を選ぶのであれば、不平一つ洩らさず日陰に甘んじましょう。
 けれど忘れないで下さい。私が好きになったのは、初対面の頃の、不器用だけど真っ直ぐだった貴方なのです。
 忘れないで下さい……。」