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リアクション
●友であれ部下であれ / 俺の想いは変わっていない! / 精一杯の愛を込めて
話すのが苦手でも、あるいは、ちょっと口にするには照れくさいような言葉でも、メールという手段は、伝えることを可能にしてくれる。
(「もうすぐ一年か……」)
そう思うと感慨深い。
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がメールを宛てるのは、十二星華のリーダーティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)だ。自室のベッドに腰掛けて、何度も推敲し、頭を悩ませ、そして秀麗な文章を綴れ織る。
タイムカプセル機能を用いて、12月10日に届くように設定しておいた。昨年のこの日は、十二の星の華のボイスドラマが発表された日なのである。
「ティセラ様へ
ティセラ様がシャンバラへお戻りになり一年が経ち、節目かと思うと自然と手が動きました。
私が貴女に忠誠を誓ったのは、ヴァイシャリーの舞踏会でその想いや考えをお話になった時、
それまでの行為の陰に痛切な、国を守りきれず戦死した口惜しさ、大切な人に裏切られた深い憎しみと悲しさといった想いが見えた気がしたからです。
そして『友であれ部下であれこの方には決して裏切らず支え続ける者が必要なのでは』と。
結局、洗脳改竄された時のお話だったので的外れもいいとこなんですけどね。
それでも私は貴女を支え続けたいと想います。
シャンバラを想う貴女を。
一方的でしたけど、言の葉には乗せないけど伝えたいと思いメールしました。
宇都宮祥子より」
ここで一旦、深呼吸して、さらに一文を付け足した。
「追伸・先日、空京で美味しいケーキと紅茶の喫茶店を見つけました。
もしよろしければ今度一緒に如何ですか?」
……送信。
しばし落ち着いて机に腰掛けるも、やがて「ぁー」と小さな声とともにベッドに倒れ伏し、枕に顔を押しつたまま、右に左に転がって煩悶する祥子なのである。
「何やってんの? 論文も書かずにベッドでごろごろもんどりうって」
そのときドアが開き、紅茶とクッキーを載せた盆を手に、那須 朱美(なす・あけみ)が姿を見せた。ぼそぼそと小声の祥子に耳を寄せて、
「メール送ったけど恥ずかしくなったって? それで悶絶してんの? あっきれた。正直な想いなら恥ずかしが……ることもあるか。飾らない素の姿だもんね」
苦笑いして盆を置くと、朱美は祥子の両脇に腕を回しベッドから立たせた。猫の子のようにおとなしく、祥子は朱美に身を任す。その背をさすりながら朱美は言うのである。
「気を取り直して紅茶でも飲みなさい。アクリト学長に提出する論文でしょ? がんばって仕上げなさいよ」
とりあえず12月10日のことは今は忘れよう、と祥子は思った。
少なくとも、論文を仕上げるまでは……。
*******************
携帯を新しくしたしメールしてみるか、と『cinema』のディスプレイを起動すると、なぜだか武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の脳裏には、赤い髪をした女性の横顔が浮かんだのである。あの日――
「妾が泣いて逃げていくとでも思ったかえ?」
と言って、彼女は寂しげに微笑んだ。
「妾は決めたぞ。良い女になってお主を振り向かせてみる、と。恋は女子を強くするのじゃよ? 牙竜殿」
とも告げた。
まさかと牙竜は思う。
(「本当に、彼女に好意を寄せられてた……?」)
だがすぐに、考え過ぎか、と思い直すのだった。
(「……自惚れもいいところだなこりゃ」)
あんな美しい女性が、あんなに一途に、好意を寄せてくれるはずはない……首を振って赤い髪をした女性の容貌を振り落とし、牙竜は本来書きたかった相手、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)へのメールを作成していた。
「Sub:携帯新しくしたぜ!
よう。セイニィ!
ティセラとパッフェルと仲良くしてるか?
最近だとフリューネとも仲良くなったみたいだな。始めて二人があったときは、まだ険悪な雰囲気だったけど……今の二人のやり取りを聞いて、人は変わっていくと実感したよ。
挨拶はこのくらいにして、用件だけ。
『愛してる。俺の想いは変わっていない!』
それだけを言いたかった
じゃぁな!」
心を込めたメール、受け取ったセイニィはどんな反応を示すだろう……?
「さてと……さっさと東西問題を解決するか。まずは葦原での足固めだ」
送信されたのを確認すると携帯電話を折り畳み、牙竜は葦原明倫館の校門を肩で風を切りくぐるのだった。
*******************
待ち望んでいた『Agastia』の新機種が発売された。予約して発売当日に入手したラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、瑕一つ無いそのボディを惚れ惚れと眺めて思う。
(「やっぱり始めてのメールは恋人におくらねぇとな!!」)
さっそく、タイムカプセルメッセージという機能を使ってみるとしよう。せっかくだから恋人の誕生日、12月22日にセットして送ってみたい。
ラルクの恋人……住所録からピックアップするだけで嬉しくなるその人の名は、砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)。
「砕音へ
何かメールを残すって言うのもすっげー恥ずかしいな。
本当は直接言えればいいんだが色々とあるだろうから、
一応言えなかった時用にタイムカプセルメッセージとして残すぜ!
ってか、これ俺も見てたらきっと今頃逃げてるな!
逃げるなよ! 俺!!
ま、いっか。とりあえず誕生日おめでとうな!
今のお前は元気なんかな? それともまだ医学部にいるんかな?
医学部に居てもきっと魔導空間で読まれちまうだろうけどな。
まぁ、一ヶ月ちょいでそこまでがらりとは変わんないだろうが……
どうなんだろうな?
色々と問題は山積みだとは思うが二人でひとつひとつ片付けていこうぜ。
時間は一杯あるんだしよ!
それに、俺はお前を一生かけて愛するって誓ったんだからな!
文じゃあ伝わりにくいとは思うが精一杯の愛を込めて送るぜ!
愛してるぜ! 砕音。お前の病気、一生かけても俺が治してやるからな!
以上! ラルクより」
読み直してみると気恥ずかしくなる。
「うぐぐ……なんてぇか……これ、本当に砕音と一緒に読むことになったとしたら公開処刑だよな……」
だが恥ずかしがっていては伝えたいものも伝わらない。ガッ、と送信アイコンを押した。男らしく!
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