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リアクション
その様子を真言は微笑ましい眼差しで見つめ、上手くリードしていた。
「真言さん、ダンスお上手なんですね」
「わしの亡くなった妻が、ダンスが好きでな。わしに無理矢理ダンスを覚えさせたのだよ」
「真珠ちゃんのおばあさまなんですね…あの、真珠ちゃん、銀細工が得意なんですよ。真珠ちゃんの作る銀細工、とっても綺麗で可愛いいですっ。刹那ちゃんがデザインしたかわった星型の形も、綺麗に作ったですよ♪」
「そうであったか。みなを喜ばすことがあの子にもできるのだな…」
「…真言さん、真珠ちゃんの事は好きですか? 真珠ちゃん、きっと真言さんと仲良くなりたいって思っていると思うですけど、ギクシャクしてお互い何も話せない空気がとっても寂しいです…」
ファイリアの言葉に、真言は困った顔をする。
「わしもあの子と普通に話せるようになりたい…しかし、わしがあの子を冷たく扱ったため、あの子は一度は心に闇を抱えてしまった。今はみんなの力で立ち直ってくれたが、どう、話してやればいいのか、本人を目の前にすると緊張してしまう」
「…そうだったのですね。大丈夫です! きっと上手くいきますよ!」
ファイリアは満面の笑みを真言に向けた。
盲目の筑奏者、高 漸麗(がお・じえんり)は天 黒龍(てぃえん・へいろん)に手を引いてもらい、パーティ会場にやってきた。
「いくら真珠が悩んでいるからとは言え…今回は舞踏会も行われる立食パーティだと聞いたぞ。お前が来た所で邪魔になるだけでは無いのか」
「ふふ、賑やかなお祭りは好きだけど確かに人が多い所じゃ迷子になっちゃいそうだし、…だからこそ、真珠ちゃんのためにできる事もあるんじゃないかなって思って。ごめんね。黒龍くん」
「お前がそこまで真珠のことを思っているんじゃ、しょうがない」
「ありがとう」
「お、真珠がいたぞ」
その瞬間、人混みに紛れわざと黒龍は高漸麗に足をかける。
「流石にいきなりは痛いよ黒龍くん…」
「あとは頑張れ」
黒龍はそのまま、その場を離れ、真言のもとへと赴く。
地面に座り込んでいる漸麗に真珠が気がつき、駆け寄ってくる。
「漸麗さん、どうしたんですか? 大丈夫?」
「真珠ちゃん…いてて、ちょっとこけちゃって…」
「黒龍さんとは一緒じゃないのですか?」
真珠は焦った様子で漸麗の服の汚れを払ってやり、立たせてやる。
「黒龍くんとはぐれちゃったから一緒に探してほしいんだ、いいかな?」
「勿論です」
真珠は漸麗の手をとり、支えてやる。
「僕は転校しちゃったけど、真珠ちゃんは元気でやっていた?」
「ええ。漸麗さんと会えなくて寂しかったです。だからこうやって会えたの、凄く嬉しい」
「僕もだよ」
一方、黒龍はファイリアとダンスを終えた真言に話しかけていた。
「初めまして、真言さん。こうしてお会いするのは初めてですね、以前蒼空学園に在籍していた天といいます」
「はじめまして。なかなか立派な青年だね…瞳がいい」
「ありがとうございます。その折には真珠さんや赫夜さんにはお世話になりました。少々、気になることがあって、こうやってお話をさせていただいております。多少踏み込んだことになってしまいますが、真珠さんのことです」
「真珠の…」
「真珠さんは指輪に操られ、心をなくしかけていました。それでも、真珠さんはケセアレのもとから離れ、一生懸命、自立しようとしています」
「…」
「…一度できた溝は確かに容易くは埋まらないでしょう。互いに近付きたいという意思が生まれたとしても余程のきっかけでも無ければ、長い時間によって生まれた壁は崩れないものです。…私が言うまででも無いとは思いますが」
そばに居た六本木 優希もこの時ばかりはカメラを止めて、真言に語りかけた。
「私も噂話で聞いたのですが最近入部した天文学部で真珠さんが「空気を読まないキャラ」に挑戦しかけて止められたり、自然体でいる事がよく分かっていない様子で迷っているみたいなんです」
「やれやれ、君達のお節介にはほとほと呆れた」
真言は苦笑する。
「みなにそれほどまで思ってもらっている真珠は幸せものだ。あの子の良さを気がついてやれず、当主として失格の烙印を押したわしはおろかであったと思い知らされるばかりじゃ」
「…今からでも、間に合いますよ。噂をすれば、あちらに真珠さんが」
黒龍が指を指す方向に、真珠と漸麗の姿があった。
「真珠…」
「お、お爺さま…お、お久しぶりです。真珠です」
「真珠か…元気にしていたか?」
「は、はい」
「…」
その後、二人は目線を上手く合わせられず、会話も続かずにしん、としてしまった。ギクシャクしている空気はそのあたりの人間全てに伝わった。
「そうだわ、あちらで野点をしている方がいるみたいだから、みなさんで行ってみませんか?」
優希がさりげなくエスコートする。
「いいな。なかなか風情がある」
「僕もお茶の香りを楽しみたいね。真言さん、真珠ちゃん、ご一緒にいかがでしょう?」
「ええ、お、お爺さまも一緒に」
「そうだな」
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は野点の席を設けていた。特技『調理』を使用し、お菓子は手作りの栗羊羹と芋羊羹を出し、茶釜でお茶を点てている。
「みなさん、ようこそ」
涼介は十徳羽織で茶人風の和装をまとい、真珠たちを迎え入れる。
お茶とお菓子を真珠や真言は楽しむ。
「いいお味だ」
「僕にもこの香りのよさはわかるよ」
黒龍や漸麗が口々に褒める。涼介は軽く頭を下げると、話を始めた。
「人間の付き合い方って『はりねずみのジレンマ』とに似てますね。最初はお互いの距離感が分らなくて、お互いを傷つけて。でもその経験を活かす事で一番いい距離を見つける事が出来る」
「…」
真珠と真言はその話を黙って聞いている。
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