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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第16章 この思いは偽り無くあなたに誓う

「せっかく来たんですし・・・ナナ、どこか行きたいところはありませんか?」
 モーントナハト・タウンの町並みを見ているナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)に、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が声をかける。
 2人は白い雪に覆われた町を楽しもうと、クリスマスイブのデートしにきたのだ。
 彼女の方はいつものメイド服でなく、暖かいコートを着て私服で町にやってきた。
「(オレの気持ちを伝えるだけじゃなくって、ナナに町の様子を楽しんで欲しいですからね・・・)」
 それにはまずは彼女を楽しませてあげようと、ポケットに入れている小さな箱を落とさないように奥へしまい込む。
「ナナはルースさんとお茶をしてみたいです」
「お茶ですか?」
「はい、そこにカフェがあります。入りませんか?」
 彼女が見つけたバロック様式の教会の近くにあるカフェは洋館のような雰囲気で、2階には大きな窓が並び、高貴なお嬢様が住んでいそうな感じだ。
 門を開けて庭に入ると、店の前にクリスマスツリーとサンタの人形で飾りつけられている。
「分かりました、行きましょう。先に入ってください」
 ルースはドアノブに手をかえてナナをカフェの中へ先に入れてやる。
「どこに座りますか?」
「2階の席がいいです」
「そうですね、暖かい日ならオープンテラスの方がよさそうですけど。今日は少し寒いですからね」
 木造の階段をとんとんと上がり、2階の窓側に座って外の様子を眺める。
「伯爵家の館を再建してカフェにしたようです」
 ここが出来るまでのことが書かれた文章が、額にはめられ壁にかけられているのをナナが見つける。
「へぇー、どおりで普通のカフェとはどこか違った雰囲気があると思いましたよ。それにしてもケーキや紅茶がいっぱいありますね、ナナはどれにしますか?」
 選ばせてあげようとメニューを広げて彼女に見せる。
「この町の名物はチーズケーキみたいですから、紅茶とセットで頼みます」
「じゃあオレはナッツの入ったチョコレートケーキと、コーヒーのセットにしますね」
 しばらく待っていると大理石のテーブルに、ケーキと飲み物が運ばれてきた。
「美味しいですね・・・」
 今までメイドのナナはお茶を運ぶことはあっても、運んでもらうことはなかった。
 その側になれたことに嬉しく思い、カップで手を温めながら優雅なひとときを過ごす。
「チーズケーキにチョコのスポンジや林檎がはさんでありますね」
 フォークでとり小さな口の中へ運ぶ。
「そっちの方、美味しそうですね。こっちのはしつこくない甘みで食べやすいですよ」
「ルースさんのケーキ、ちょっともらってもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ!」
 ナナの方にススッと皿を寄せてやる。
「チョコも美味しいです。それとテラスじゃなくても、ここからの眺め・・・とっても素敵ですね」
 窓から見える教会をナナはうっとりとした表情で眺める。
「このキャンドル、お店の感じと合っていて可愛いです・・・」
 テーブルに置いてある小さなキャンドルをじっと見つめる。
 それはまるで彼に対して自分の気持ちを伝えようとしているような雰囲気だった。
「(ナナ・・・オレから伝えるのを待っているのでしょうか)」
 彼女に答えようと言葉を頭の中で選ぶ。
「オレとゴンドラに乗って、シュヴール橋の下を流れませんか」
 自分の思いを伝えようと決心し、ナナの手を握る。
 その言葉に彼女は黙ってこくりと頷く。
「足元に気をつけてくださいね」
 乗り場に行き愛しい人の手を引いてゴンドラへ乗せる。
 2人を乗せてゆっくりと・・・静かに流れてく。
「(もうすぐ橋だ・・・オレがしゃんとしなければ)」
 ゴンドラがシュヴール橋の傍に近づくと、ルースはナナの身体をぎゅっと抱きしめる。
「ルースさん・・・?」
「オレはナナの傍にずっといます。これからも迷惑かけるかも知れないですが、必ず幸せにして見せます!!・・・・・・これがオレの誓いです。おれと結婚してください。共に人生を歩んで行ってくれませんか」
 橋の下でプロポーズの言葉を言い、彼女へ婚約指輪を差し出す。
「(シュヴール橋の下を通る時、誓いを立てると縁が強まる言い伝えがありますね。ナナは・・・ナナの気持ちはルースさんと同じ。誓われたのなら答えなければ・・・)」
 付き合い始めて1年が経ち、ついに答えを出さなければいけない時がやってきたのだ。
「(受け取ってくれないんでしょうか・・・。エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒトッ)」
 この指輪を受けとうとしないのはなぜなのか。
 もしかしたら断られてしまうかもしれない・・・。
 そう思うと指輪を持つ彼の手が震え出してしまう。
 祈るように心の中でそう呟き続ける。
「誓いましょう。ナナは、ルースさんとこれからも“共に幸せ”であると」
 震える彼の手をそっと握り答えを返す。
「ナナ・・・!本当にオレでいいんですか?―・・・嬉しいです、ナナを絶対に幸せにします」
 目を瞑り唇を突き出すように見上げる彼女に口づけをし、一生愛していくと決めたその者の手に指輪をはめる。
「(この気持ちに嘘はない・・・)」
 口づけをしたままナナは心の中で誓を立てる。
「この後・・・ナナにもう1つプレゼントがあるんです。一緒に来てもらえますか?」
「プレゼントですか?」
「ほんのささやかなものですけどね」
 ゴンドラを降りると彼女の手を引き、予約していたホテルへ連れて行く。
「どうぞナナ」
 部屋のドアを開けてやり、ナナを先に入れる。
「これは・・・・・・っ」
 そこへ入るとテーブルの上にキャンドルとお菓子が用意されている。
「ナナはメイドですから。普段してもらえないことを、今日はオレがやってあげます。さぁ、温かいハーブティーを冷めないうちにどうぞ」
 ポットのハーブティーをトポポとカップに注ぎナナに差し出す。
「嬉しいです。ありがとうございます・・・ルースさん」
 カップに注がれたお茶を飲み、一生を誓った彼に優しく微笑みかけた。