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リアクション
第19章 届かない気づかない超アタック
「(イブにどうして僕を誘ったんでしょうか・・・。別に他のところへ行く予定がなかったから来てあげましたけど)」
皆川 陽(みなかわ・よう)は恋人たちが過ごすような日に、どうして呼んだのか訝しげにテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)をじっと見据える。
テディに景色がキレイな観光地があるから遊びに行こうと誘われたのだ。
しかし陽は生まれてからずっとモテた記憶がない。
というよりまったくモテない人生をリアルタイムで更新し続けている。
もうリアルなんてゴミゲーだという言葉が出そうな勢いだ。
独りで寂しくもそもそとケーキを食べるよりはいいかと、せっかくだし行ってみようかと彼についてきてやった。
「(“自分モテモテでイケテルんだ〜”って感じの美少年ヅラしてるくせにっ。24日に女子じゃなくて男の僕を誘うってどういうことですか。実は・・・全然モテないんでしょうか?)」
こうなったら観光しつくしてやると雪景色を眺める。
「(そんなに見つめられると照れるな。もしかして僕のことそんなに好きなのか?なぁんてな)」
じっと睨むように見つめる陽に対して、テディの方は頭の中で勝手な妄想をし始める。
24日は特に放っておいたら他の誰かに誘われて過ごされるかと思い、陽を観光へ誘ったのだ。
そんな現場を目撃してしまった日にはショックで気絶し、半年以上は寝込んでしまいそうな勢いだ。
むしろ人の持つ7大罪の1つ嫉妬に狂って、相手を八つ裂きにしてしまうかもしれない・・・。
「冬だから当たり前だけどさ、今日は特に寒いよな?なぁ♪」
「そうですか・・・?」
一緒に暖まろうと抱きついてくるテディに対して眉間に皺を寄せる。
しかもその抱きついてきたのが女子でなく男子という時点で不機嫌指数がアップする。
「(うわっ、何か雰囲気がヤバくなってきたぞ)あっ、見ろよ陽!あの大聖堂、凄くないかっ」
ご機嫌斜めになってきた彼の機嫌を直そうと、双塔を指差して見上げる。
「このガイドブックによると、人工建築なんだってさ」
「へぇ〜人工なんですか、凄いですねー」
「でさ、ピラミッドもそうだろ?それよりも高いんだ!」
「あのエジプトのピラミッドよりもですかっ」
「金属を使わないで何百年もかけて作ったらしいな」
話にくいついてきた陽の様子を見てニヤリと笑い、傍でガイドブックを見るフリをしてべったりとくっつく。
「日本にも高層の建物はありますけど。鉄やコンクリートを使ってないとこも考えると、なんだか芸術的作品にも見えますね」
まるで枝のように突き出し、その尖塔にまで1本ずつ微細な装飾を施してある。
「他にも城主が亡くなって使われなくなった城を観光用にしたところとか、伯爵が使っていた家をカフェにしたところもあるんだって!」
「ここから見えるでしょうか?」
「えーっとな・・・ほらあそこ。雪が積もってて白1色だけど、本当は壁がクリーム色っぽい黄色で、窓枠と屋根の辺りは灰色に近い白なんだ」
「門の柱の上に何かありますね、あれがそうなんですか」
カフェの概観を見ようとオペラグラスを夢中で覗き込む。
「そこのチーズケーキが美味いらしいな」
「へぇ〜・・・食べてみたいですね。ガイドブックを見るとこの町はさっきの大聖堂やカフェ、教会とかもあるようですから町中の様子が気になりますね」
「それ以外にもショッピングモールがあるな。じゃあ・・・今度、僕と一緒に行かないか!?」
「んー・・・考えておきます」
「雪の町もいいけどさ、陽と雪解けの町を散歩するのもいいよなぁ〜」
一緒に行くかどうかも分からない曖昧な返事を、行くものだと思い込んで妄想の世界へダイブする。
「なんかあの橋の下を通る間に、誓いを立てるとその相手と縁で結ばれるかもしれないっていう言い伝えがあるんでしたっけ?」
「はっ、そうだっ!(僕の嫁に誓いの言葉を立てそびれるところだった)」
陽の声にテディは慌てて目を閉じて、彼に誓の言葉を立てる。
「(僕は陽に騎士としての永遠の忠誠と共に、この愛を捧げると誓う・・・。どんな時も絶対、陽の傍にいて離れない。離れたくないっ!!超、超〜ウルトラスーパー誓うっ!!!)」
普段から強くそう想っているテディは、改めて彼に誓い縁を強くしたいと願う。
「(えーっと。静かにしてるのが好きな自分と、なんかとにかくいちいち騒々しいパートナーとでは、性格とかが今イチ合わないんですけど。こうして一緒に過ごすことも多い相手だし、なによりパートナーだし、せめてもう少し仲良くなって友達にでもなれたらいいな・・・。僕がもうちょっと騒がしく・・・うーん・・・、どっちかというとテディが少し大人しくなってくれたら仲良くなりやすいのかな)」
一方、陽の方は眉を潜めて考え込むように念じる。
「なぁ。陽は何を誓ったんだ?」
「うーん・・・今は言わないでおきます」
「えぇえー!?何でっ、気になるじゃないか!」
「もう少しこうやって一緒に出かけて遊んで・・・それから教えます」
「じゃあこれからもいっぱい誘っちゃうからな♪」
「(本当に気づくか分かりませんけどね)」
自分の言葉にハイテンションになるテディをちらりと見てため息をついた。