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リアクション
第五章:裏切りの空:怒りの日
「これは……このデータは……」
「どうした奏音?」
そのころ奏音と百合園からの外部協力者葉月 可憐(はづき・かれん)とアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は恐るべきデータを強化人間部隊のサーバーから見つけていた。
「御空、これを見てください!」
そこには……
強化人間部隊教官の鏖殺寺院との通信記録
教官たちは鏖殺寺院と通じていた。
その履歴をさかのぼると、数年前までたどり着く。
強化人間技術の漏洩もこの教官たちによって行われていた物。
さらに設楽カノンの恐るべき秘密も書かれてあった。
設楽カノンは、パートナーが交通事故で偶然死亡し、パートナーロストの影響で人格が崩壊したが、それの引き換えとしてパートナーの力を吸収し、一人でイコンを操縦できるようになったこと。
そしてカノンの取り巻きの強化人間部隊たちはその事件を応用して、意図的にパートナーを殺して造られた強化人間であること。それらの死も、学院には事故死として伝えられていたこと。
また、鏖殺寺院にその情報は漏れており、結果イアンのようなパートナーロストの影響を弱めた強化人間が造られたことなどが記されてあった。
そして、最新の通信ログには……
「XX月XX日、S@MPのライブの際、ミレリア・ファウェイを迎えに出す」
とあった。
「いけません、御空! 至急コリマ校長に連絡を!」
しかし、ときはすでに遅かった。
ミレリアの振動剣とカノンのビームマチェットが交わると、ミレリアはカノンのイーグリットに接触回線を放った。
「アクセプト……洗脳プログラム放流開始……」
『何! なに! あたまが、頭がいたい! 怖いよ! 怖いよ! 涼司君、レオ! 助けて!』
カノンの悲痛な叫びが通信回線に満ちる。
『カノン!』
レオは大型ビームキャノンの出力を絞ってミレリアに狙いをつける。
『カノンに何をする!?』
ビームキャノンが発射される。
だがミレリアは接触回線を切断して離脱する。
「うふ……洗脳完了よん♪」
カノンのイーグリットのビームライフルの砲口がレオに向けられる。
『うふふ……死になさぁい!』
『カノン! 何を!?』
レオが叫ぶがカノンは躊躇なくトリガーを引く。
『直撃じゃ!』
回避する暇すらなく、ビームはレオのコームラント【ズルカルナイン】に命中する。
『装甲値20%ダウン。左腕部破損じゃ!』
イスカが報告をする。
『カノンさん、何をするんだ!』
フレイが叫ぶがカノンはそれを聞いている様子はない。
そして、教官のコームラント5機とイケメン強化人間部隊たちのビームマチェット装備のイーグリット10機とカノンはその瞬間敵と味方を取り替えた。
「止まりなさい。今なら、錯乱していたで済みます」
長距離射程スナイパーライフルの弾丸がミレリアの『歌』の響く会場内で地上から打ち上げられ、教官機の側面をかすめた。
敵味方識別信号を切っていた【ぐーたら】に搭乗するカチェアの発した警告だった。
「あいにくと、我らは正気だ」
教官からの通信。
「くっ……」
歯噛みをするカチェア。
(諸君……強化人間部隊とその教官は鏖殺寺院と密通していた)
コリマ校長から簡単に事情を説明する思念波が届く。
『ふん……『歌』には『歌』よ。いくわよ、KAORI』
『はい』
茉莉が叫ぶとKAORIが歌い始める。そしてレオナルドの仕組んだノイズキャンセラーによってミレリアの歌を相殺する。
少なくともミレリアの歌はこちらには聞こえなくなった。
『S@MP、こっちもそうは持たないわよ!』
『了解! ヴェル、スコア、フルオープン』
『はいはい。まっかせなさぁい!』
アポロンがヴェルにその胎内にあるレクイエムのスコアをオープンするように告げる。
『OK! キーボード、伴奏プログラム展開』
『了解!』
ルカルカとシャナがフレイの言葉に答え事前にプログラミングしておいたヴェルディ作曲、カラヤン指揮によるレクイエム『怒りの日』のオーケストラの演奏を解凍する。
独特の序奏と共に、曲が始まった。
Dies irae,dies irae,……
ゲスト参加のルカルカの音楽の能力はミレリア以上であった。
そのハルモニアはミレリアの歌を打ち破る。
Dies illa,dies illa,……
『こちら【ミッシング】。山葉校長はイコンに乗り込んだ。繰り返す、山葉校長はイコンに乗り込んだ!』
それは花音の光条兵器で民間人を守る防壁を展開していた涼司が民間人の避難を確認して、戦闘態勢をとったことを表していた。
Solvet saeclum in favilla,……
『スモークディスチャージャー準備よし! 煙幕散布開始!』
加夜のイーグリット・アサルト『アクア・スノー』が煙幕を散布する。
煙幕は敵と味方の境界線に線を引き、敵と銃火を交えていた警備隊は一時後退する。
……teste David cum Sibylla.
『一斉射撃! 狙い、煙幕の向こう! 数撃ちゃ当たる!!』
涼司の指令で一斉に銃弾が放たれる。
Dies irae,dies illa,……
「くっ! カノン!!」
そんな中でレオはカノンを守るために煙幕の向こうへと姿を消す。
Solvet saeclum in favilla,……
この一斉攻撃で5機近いシュメッターリングが撃墜された。
……Dies irae,dies illa,……
Solvet saeclum in favilla,……
……teste David cum Sibylla.
『くうっ……ミレリア! 大丈夫か!?』
シュヴァルツ・フリーゲに乗る仮面の人物、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がミレリアに通信をいれる。
『大丈夫よん♪ それより鮮血副隊長、しっかりあたしを守りなさぁい』
『ステルス性があるんだから距離をとったほうがいいんじゃないの?』
王城 綾瀬(おうじょう・あやせ)がそう言う。
『もっともだ……全機後退!』
トライブがそう言うと学院側のイコンのレーダーから寺院のイコンの反応が消えた。
……Dies irae,dies illa,……
Solvet saeclum in favilla,……
Solvet saeclum in favilla,……
……teste David cum Sibylla.
『コームラント、盾になりなさぁい♪』
教官機はレーダーから消えていないのでレーダーによるロックオンで集中攻撃される。
だが、コームラントの限界までいく高機動で煙の向こう側からくる弾幕をことごとく避ける教官たち。
『なっ! 化物か!!!』
煙のこちら側でカノンと剣を交えながらすべてを見ていたレオが驚愕の声を上げる。
Dies irae.
『煙が晴れる! 全機、全速前進!』
ルカルカがキーボードを引きながらサポートをいれる。
その指示に従い全機体が煙の晴れ間から寺院側のイコンに肉薄する。
Dies irae.
『上をとるんだよ! 地上部隊とはさみうちにしなきゃ!』
裁が叫ぶ。
銃撃で寺院側のイコンの間をくぐり抜けながら、敵の上をとる学院側のイコン。
Dies irae.
『ガンガンいくわよ! 全力で盛り上げましょ!』
歌の合間にグリムゲーテが叫ぶ。
『了解!』
Quantus tremor est futurus,……
『ダミアン、あとはS@MPに任せて引くわよ』
茉莉はそう言ってイーグリットを後退させると戦線から離脱した。
……quando iudex est venturus,……
(紫音、戦況を報告しますぇ)
風花が精神感応で紫音に戦況を報告し、ゲイ・ボルク アサルトはそれにしたがって軌道を変える。
『音楽を愚弄する輩は、個人としても許せません。滅びなさい』
アルテッツァそう叫びながら、【メテオライト】のビームキャノンを発射する。
……cuncta stricte discussurus.
トランペットたちが一斉に鳴り響く。
『頭のおかしいアイドルは、テレビでへらへら笑ってりゃいいのよ!』
椿が【ムラクモ】を操りミレリアに斬りつけようとするが、トライブ機の振動剣に防がれる。
『ミレリアちゃんじゃなきゃ引き金は引けるっすよ!』
圧力に負けて地上に降りてきたシュメッターリングにデビットが【イルマ】のアサルトライフルを発射する。
『自己修復装置作動……修理開始……』
彩羽が傷ついた機体を自己修復にかける。
『この、裏切り者がああああああああああああああああ!』
菜織は武士の苛烈さで以て強化人間部隊に剣戟を仕掛けるが彼らの練度は菜織の上を行っていた。
味方の支援射撃で、さすがのミレリアの動きも鈍る。
そこに杏が飛び出した。
『テロリストめ、全アイドルの怒りを思い知れ!!』
射出型ワイヤーでミレリア機を絡めとる。
だが……
「捕縛わさせないわよ……くすくす」
アルコリアが魔道銃でそれを焼き払う。
「へろへろー、ミレリアちゃん元気ー? 暇だったらデートいかない?」
アルコリアのこの言葉にミレリアは演奏を止めて答える。
「おねーさまとならばどこへでも。でも、あたし忙しいからぁ……おねーさま遊びに来てくださいねぇ」
ミレリアはコクピットを開けるとアルコリアに鏖殺寺院の紋章と鏖殺寺院の基地の場所を書いた地図を手渡した。
「ちょっと、ミレリア様!!」
パートナーのリリア・シュレインが慌ててミレリアをイコンに引っ張り戻す。
「この隙は逃がさんでぇ!」
妙子が一瞬動きの止まったミレリア機に大型ビームキャノンを発射する。
だが、シュメッターリングがミレリアをかばいそれを防ぐ。
Tuba mirum spargens sonum,……
『カノン!』
『あはは! 涼司君、契約しようよー!』
涼司がカノンに迫るが、カノンは圧倒的な技量で涼司の攻撃をかわすと、ビームマチェットで涼司の乗るイーグリット・アサルトの首を切りとった。
爆発。
『くっ……撤退する!』
そして涼司は撤退した。
……tuba mirum spargens sonum,……
『樹ちゃん、行くよ……』
『了解!』
樹はスプレーショットの技術を応用して敵に面制圧射撃を行う。
一発一発は弱いがそれは確実に敵にダメージを与えていった。
『アーカディア、ニンジンミサイル発射ですぅ」
ウサギ型のイコンから発射されたミサイルは螺旋を描きながらシュメッターリングを撃墜する。
……per sepulchra regionum,……
『カノン……殺さないようにするから、墜ちて!』
美羽がアサルトライフルを発射するが、カノンはそれを回避する。
『ディーガ、いっけえ!』
エリスのアルマイン・マギウスの亜種イコンがマジックカノンを発射する。
それはシュメッターリングを撃墜して敵の攻撃を回避する。
『ミレリア、そんな行動をしている限り、お前の歌で本当の意味で人々を幸せにする事は絶対に出来ない』
垂がそう叫ぶと、ミレリアは
『あたしの歌は洗脳と搾取のためにあるのよん♪』
と言って笑った。
『各機、戯言は気にするな。側面をつけ』
教導団少尉のルースが戦闘経験を活かしながらS@MPメンバーに指示を出す。
『了解!』
そして側面からの一斉射撃が行われた。
……coget omnes ante thronum.
演奏が終了する。
和希が戦況を確認すると、シュメッターリングの大半は落ちていた。だが、味方も何機か落とされ、シュヴァルツ・フリーゲと裏切り者達はピンピンとしていた。
「さて……そろそろ頃合いかしらねぇ……」
ミレリアはコクピットでつぶやく。
「そう思います、ミレリア様」
『全機撤退。お迎えも済んだし、引くわよぉん♪』
『了解』
『涼司君……』
『カノン様、参りましょう』
『アザゼルぅ……頭がいたいよう』
『大丈夫ですカノン様。基地に辿り着けば良くなります』
『本当ぅ?』
『ええ。ですから参りましょう、カノン様……』
『うう……頭がいたいよう。涼司君……涼司君……』
そんな絵話を聞きながらレオは歯噛みしていた。
そして撤退していく敵部隊を、レオと美羽はひっそりとレーダーの範囲外から追いかけていった。