波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【怪盗VS探偵】昼に瞬く2つの月

リアクション公開中!

【怪盗VS探偵】昼に瞬く2つの月

リアクション


ー頂戴いたします!ー



 がっしゃーん!
 変熊仮面の部屋の窓が割れ誰かが乗りこんできた!
 ヒューマイノイド3匹を連れて現れたのはガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)だった。
「はっ! この間追いかけただけじゃ飽き足らず、とうとうこの部屋にまで乗り込んできたのかー!」
 眠ろうとしていた変熊仮面は人物を確認すると飛び起きた。
「前回、捕まえられなかったのはもう良いのです。今は汚物になど興味ありませんから」
「汚物……だと……!?」
「師匠……言われてるにゃー」
 いつの間にか誰かを引っかけようとして失敗したにゃんくま仮面が部屋の中に入って来ており、さらに、ガラスの割れる音を聞きつけた探偵達が部屋の中になだれ込んできた。
「怪盗の仲間ですね! ここで捕まえさせて頂きます!」
 火焔は走り出した!
 しかし、にゃんくまが火焔の服から出ていた紐をふんづけていたので……服が一気に脱げた!
「なんですかーーーーーーーーー!?」
「やる気満々じゃにゃいか。やらにゃいか!」
「いやいやいや! 遠慮させて下さい!」
 黒地に赤の模様のトランクス一丁になってしまった、火焔はパンツを押さえた。
「サイコキネ――」
 北都がサイコキネシスを掛けようとしたのを察したガートルードはヒューマノイドだけを残すと、とっとと撤退してしまった。
「何しにきたんだろう?」
 スキルを使用していた北都はそう呟いた。
 一段落かと思いきや、今度はその割れたガラスから煙幕ファンデーションが数個投げ込まれ、部屋の中が煙に包まれてしまった。
「今度こそ怪盗パープルバタフライか!?」
 エヴァルトが叫ぶと、何やら声が聞こえてきた。
「もらったーーーーっ!」
 そう叫ぶと、その誰かは窓から飛び出した。


 少し前、突入したばかりの窓の外では、小型飛空挺で待機している荀 灌(じゅん・かん)がいた。
「……変熊さんのマスクを奪ったら……もしかして、二代目襲名……? 裸にマスクのお姉ちゃん……?」
 それを想像しただけで、涙が零れたようだ。
「取ってきたよー! 行こう!」
「う、うん……」
 何かを手にして、戻ってきた芦原 郁乃(あはら・いくの)を乗せると、空へと舞い上がった。
「ふんふ〜ん♪ これで盗みは成功!」
「あの……お姉ちゃん……」
「あれ!?」
 灌が声をかけたのにも気づかず、郁乃は手にしていた仮面を見つめた。
「これ……ちがーう!」
「残念だったね」
「うわーん! 今度こそーーーーー!」
(よかった……お姉ちゃんが裸マントにマスクにならなくて)
 灌はかなりうきうきしながら、郁乃はがっくりと肩を落としながら、帰っていったのだった。


 郁乃達がいなくなって、すぐの部屋はまだ煙幕が発動しており、一体何がどうなっているのか、分からない状況だが、盗んだ相手がいなくなったのを確認してから、弥十郎が口を開いた。
「ワタシの作戦が成功して、ホンモノは盗まれてないよ」
 弥十郎の言葉に火焔はほっと胸をなでおろした。


「仮面雄狩る(おすかる)参上!」
 そんな場面で、なんと部屋の扉をぶち破り、薔薇を投げつけながら現れた者がいた。
 扉が開いた事で、風が通り、煙幕が晴れた。
 そこにいたのは……まさに男装の麗人といった雰囲気の衣装を身に纏い、下につくすれすれのマントを羽織っている。
 その手には剪定鋏。
 顔にはマスクを付けている。
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。
 その仮面により、別人格が発動しているようだ。
「確かに刈り取ったはずなのに……また元に戻ったと聞きました……今度こそ、その醜いナニを頂きます! 宦官になれば良い!」
「くっ! 宦官になどならん!」
「ふふ……今日はこんなに沢山の男性がいるんですから仲間が沢山できますよ? 寂しくなくて良かったですね」
 鋏をしょきしょきと動かしながら、ゆっくりと変熊仮面の元へと近付く。
 ここにいる変熊仮面とにゃんくま仮面以外の男性は自分のナニを抑えた。
 想像したくないが、想像してしまったようだ。
「ふふふ……大人しくやられて下さいね」
「ちょっと待ったー! 俺が変の……じゃない、偽変熊仮面だ!」
 全裸にマント、マスク、そしてニャンルーを連れていきなり部屋に入ってきた謎の人物。
(自分で偽って言ってるじゃん!)
 探偵達は心の中でツッコミを入れた。
「俺のマスクはここにある! 欲しければ……って、おや?」
 やっと何やら事情が違う事に気が付いたようだ。
「……嫌な予感が当たった……」
 その正体に気が付いた月夜が呟いた。
 そう……刀真だったのだ。
「黒いちんちん王……刈らせて頂きます!」
 以前にも見た事のあるナニだったようで、ナニを見たリカインは標的を変熊から刀真にうつしたようだ。
 刀真に迫ろうとするリカイン!
 その鋏に気づき、逃げようとする刀真!
 そこへ一発の銃声が響いた。
「……正気に返れ」
 ゴム弾が当たると、刀真は後に倒れ、気絶した。
「刀真は私が連れて帰る……だから、刈るのだけはやめてあげて……」
 撃ったのは月夜だったのだ。
 月夜のその言葉を聞き、一瞬何かを考えたようだが、動きを止める事はしない。
「貴様の標的は俺様だろう! 俺様が目立たないとは何事かーーーー! 今回の主役は俺様だーーーー!」
 どうやら、主役を張れるならナニの1つや2つ惜しくはないようだ。
 さすが変熊仮面。
 変熊仮面はリカインの側へと駆け寄ると、その服を一気に剥いだ。
 マスクやマントは外れていないので……女性版変熊仮面が出来あがり、ようやく動きを止めた。
 もろに見てしまった火焔達ノーマルの男性から鼻血が吹きだした。
「ふっ……女性だとばれてしまったようだな……では、今日のところは退くとしよう! また会おう! 諸君! はーっはっはっはっは!」
 薔薇を投げつけると、その女性版変熊仮面の姿のまま、外へと飛び出して行った。


 皆がナニの心配をしなくてすむようになったとホッと一息ついたところで、ひゃんくま仮面の付けているマスクがかたかたと動いているのを発見。
「どうしてマスクが……?」
 リオンがそう口に出すと、いつの間に部屋に入ってきていたのか、部屋の隅でルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)がサイコキネシスを使っているのを見つけた。
 みんなの視線がルーツの側にいる師王 アスカ(しおう・あすか)蒼灯 鴉(そうひ・からす)に注がれた。
 アスカは男装していて、一応性別は隠している。
「誰ですか!?」
 火焔がそう叫ぶと、ようやく、自分達が注目されているのに気が付いたようだ。
「誰だですって〜? そうね〜、ある時は美しき薔薇学の生徒、またある時は出張芸術家……しかしてその実体は〜! 怪盗トリオ♪ イノセント・ローズ(無邪気な薔薇)ここに参上〜! 貴方の芸術品と交換させていただきます♪」
「ええー!? いつ怪盗トリオにっ!」
 アスカの口上にルーツがツッコミを入れた。
「怪盗だね! 変身!」
 葵がそう叫ぶと光が体を包み込む。
「華麗に登場! シャンバラ美少年探偵アオイ!!」
 いつもの魔法少女のノリだ。
 ……結局、衣装が変わるわけではないのだが、その口上により、気持ちが変わるようだ。
「で……探偵君は〜名前何だったっけぇ? えっと〜サルガスブリ火焔君〜?」
「違います!」
 火焔が全力で否定をした。
「そうだぞ、違うぞ、アスカ。確か名前は……、そう! ダダスベリ火焔だ」
「それも違いますから!」
 ルーツにもツッコミを入れる火焔。
「ったく、探偵の名前は……カゲウスイ火焔だ」
「カゲウスイ……」
 火焔は鴉の言葉にショックを受けた。
「とにかく! にゃんくまちゃんの仮面はもらっていくわね〜♪」
 アスカの合図と同時にルーツがまたサイコキネシスを発動させ、にゃんくま仮面のマスクははぎとられてしまった。
 なのに、影薄い発言で立ち直れずにいる火焔。
「ほら! 探偵なんだから、しっかりしないと!」
「かげうすい……かげうすい……」
 地面にのの字を書き始めてしまって使い物にならない。
「手に入れたから〜もう帰るね〜♪ ちゃお〜」
 アスカが言うと、鴉が光術を発動させ、めくらましをし、その隙に窓の外に待機させておいた、ペガサスで3人は見事に逃げ切った。


「仮面がー! 師匠のをよこすにゃー!」
 視力が復活すると、にゃんくま仮面はいそいで、テーブルの上にある変熊仮面のマスクを手にしようとする。
(これで違和感なく師匠とボクの関係が逆転し、なおかつ主役をゲット出来るにゃ〜)
 マスクに手を伸ばした瞬間、誰かの手と当たった、
 透明で見えないが確かにそこには手がある。
「誰だにゃー!」
「わっ! ばれた!」
 その声で光学迷彩が解けてしまい、現れたのは青太と男装した円が現れた。
 そう、最初に飛び込んできたガートルードは2人を中に入れる為の囮をやっていたのだ。
 どうして良いかわからず、おどおどする青太に蒼也が近付き、肩に手をぽんと置いた。
「なあ、こんな怪盗なんてやめないか? いつまでも姉さんと一緒にいるわけにはいかないだろう? 好きな人ができたときに、今の自分の行動を胸を張って話せるのか?」
「うん……それはわかってるんだけど……でも、蝶子お姉ちゃんを放っておいたら……被害がもっと大きくなりそうで……」
 その答えを聞き、誰もが心の中で納得してしまった。
「仕方ない……これでとりあえず、帰っとけ。手ぶらで帰るのもなんだろう?」
 そう言うと、蒼也はそっと紙で出来た手作りの仮面をそっと青太の手に乗せた。
「えっと……ありがとう……」
 そう言うと、青太と円は他の皆が捕まえに来ないうちに寮からずらかったのだった。


 この騒動にまったく気が付いていなかったのは……部屋の入り口付近で刀真の倒れている隣でニャンルーをもふもふしている月夜だったという。


 この一部始終を寮内と変熊仮面の部屋に設置された隠しカメラはじっと見守っていた。