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「手を繋いで登下校したいです」



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「ど、どうしよう……私……」
 村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)は、思わずそう呟いた。彼女は今、比較的雪も霜も少なく、地面が目に付く蒼空学園傍の荒野に立っている。蛇々は隣で、周囲に目をこらしているパートナーを一瞥した。蒼空学園とその通学路から大分離れた一角であるこの辺りには、確かに未だ雪が残る他の場所とは異なり日当たりが良い。そのせいか既に、フキノトウやツクシが顔を出している。出してはいるのだ。
 だが――……
 言葉を見失いながら、黒い瞳に諦観の色を宿した彼女は、溜息を漏らさずにはいられなかった。金色のツインテールを風にさらわれながら周囲を見渡しているリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)の姿を疲れたように、静かに見守ることしかできない。
「みつからないね、でもきっと、見つかると思うんだもん」
 愛らしい緑色の瞳で、一人頷いたリュナは、目を伏せピンク色の花びらを回想する。彼女が蛇々をいささか強引に連れて、探している花は、ローダンセという春に咲く花だ。本来であれば、4月や5月に多く目にする花で、寒さに少し弱いのが特徴である。しかし、耐寒対策さえ施してあれば、三月でも目にすることが可能な花だ。
 ――だから、きっと見つかるよ!
 一人内心でしっかりと見つけることを決意して、リュナは再び目を開けた。
「……だけど、こんなに奧まで来ちゃった」
 少々ツリ目の蛇々の険しい声に、リュナが振り返る。彼女は可愛らしい甘えを含んだ性格を声に滲ませながら、金色の髪を揺らし朗らかに笑った。
「蛇々おねえちゃんなら、きっと出来るよ……!」
「な、なにが?」
 思わず蛇々が、訊き返す。
 二人のいる場所は日当たりが良い代わりに、遠目に蒼空学園の学舎を捉える事が、出来るか・出来ないかといった、来訪するまでが本当に険しい一角なのである。

 ――だから二人は未だ、伝承の樹を目にすることは出来ない。