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空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

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空京薬禍灼身図(【DD】番外編)

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●11.聞き込み・3/捜査開始3日目の昼

 シャンバラ大荒野。
 そこをホームグラウンドにしているだけあって、国頭武尊と猫井又吉はその場所をすぐに見つけた。
 「パラミタハイグリフォン」が生息している山岳地域のふもとの、原住民のとある村。
 武尊の「S級四天王」の名前はなかなか絶大だったらしく、彼が名前を出すと、すぐに奥に通してもらった。
 村の外れに、ポツンと置かれている納屋があった。
 近づくと、血の匂いが鼻をついた。
 ――覚悟を決めてから、中に入った。
 渡されている梁から何本ものロープで支えられながら、喉を裂かれたグリフォンが逆さに吊されて、ポタポタと血を垂らしていた。
「……!」
 思わず口元を押さえる唯斗に、「グロいなんて言っちゃいかんぜ?」と武尊は言った。
「俺達が食っている肉なんてのは、多かれ少なかれこんな感じで処理されてるんだ。肉食ってのは“何かの命”を食う事なんだぜ?」
「……俺はドラッグまみれの肉なんて食った事はないし、今後食いたいとも思わん」
 気を取り直して、聞き込みを始めた。
 長老らしき村人に写真を見せた。「古座余助」と「幌向将佐」の写真だ。現役暴力団の情報ならば、警察のイントラ内にあったのだ。
「どっちかが、最近この村に来られませんでしたか?」
「こっちの方なら2、3週間に一回来る。固めたグリフォンの血の受け取りと、カネと凝固剤を置きに」
 長老はそう言って古座余助の写真を示した。そして、
「そして、色々な段取りを整えに、2か月程前に来たのはこっちだ」
と、幌向将佐の写真も示す。
「段取りとは? 詳しく教えてくれませんか」
「『今後、村にグリフォンの死体を届けに来る者が出てくるようになるだろう』と言ってな。そいつらにどれだけのカネを渡せばいいかという事と、受け取ったグリフォンの死体をどう処置するかを教えた。
 グリフォンを吊し、抜いた血をもらっている凝固剤で固め、こっち(と言って古座余助の写真を指す)の男に渡すようにな」
「……間違いないですね?」
「間違いない。
 ――かつて“漢の中の漢”と呼ばれ、畏れられ、親しまれたヤツが数年ぶりに顔を出し、そしてわし達を失望させた。若い衆は喜んでいたがな、『カネが入る。俺達はこれで豊かになる』、と」
 長老は深い溜息をついた。
「わし達とて、別段このグリフォンを崇めるほどには素朴ではない。
 が、古来より『神獣』とされて来た生き物を狩って、カネに替えるような時代がくるとはな――『地球』のやり方というのは、何でもかんでも“カネ”を物差しとして物事を判断するのだな。それが今のこの男(と言って幌向将佐の写真を指す)のやり方なんだろうが……かつてに比べて、何じゃろうな、精彩がなかった」
「どう違ってたんです?」
「にじみ出る“気”というかの……全身の“勢い”みたいなものが、鈍っておった。
 『義を見てせざるは優なきなり』『ワルは堅気に手を出すべからず』『目指すは“道”を極める“極道”』などと吼えていたのが、何年かぶりに顔を見せれば『カネ』『カネ』『カネ』……
 たかだか数年でも、年月とは人を変えるものなのだな」
「……このグリフォンの血抜きが、どういう意味の仕事なのかは聞いてます?」
「いいや。ただ、あまりまともな仕事、という感じはしないな」
「我々は警察の者──その、悪い事をした人たちを追いかけている仕事をしてるんですが」
「いらん気を使わんでも『警察』や『犯罪』の意味なら分かるぞ?」
「失礼しました──その、このグリフォンの血抜きは、とある犯罪の大元となっています。我々余所者が、直接あなた方に何かを指示する筋合いではないでしょうが、こちらはもう、お止め下さい。
 お願いします──お願いする事しかできませんが」